第4話 「聞きたくない相談
金曜日。
陽菜は朝から落ち着かなかった。
蓮との約束の日。
それだけで胸が苦しくなる。
楽しみなはずなのに。
聞きたくない話が待っている気もしていた。
『相談したいのは、好きな人のことなんだ』
あのメッセージが頭から離れない。
仕事中も何度も思い出してしまう。
期待してはいけない。
そう言い聞かせても、心は言うことを聞いてくれなかった。
定時後。
二人は駅前のカフェに入った。
窓際の席に向かい合って座る。
会社では普通に話せるのに。
今日は緊張してうまく目を合わせられない。
「急に誘ってごめんね」
蓮が申し訳なさそうに笑う。
「いえ、大丈夫です」
陽菜はそう答えた。
本当は全然大丈夫じゃない。
胸が苦しくて仕方なかった。
飲み物が運ばれてきた後。
蓮は少し黙り込んだ。
何かを考えているようだった。
やがて意を決したように口を開く。
「実はさ」
陽菜の心臓が大きく鳴る。
「好きな人がいるんだ」
その言葉に胸が締め付けられた。
やっぱり。
そうだったんだ。
分かっていたはずなのに。
想像していた以上に苦しかった。
「そうなんですね」
精一杯笑顔を作る。
蓮は気付いていない。
陽菜が傷付いていることに。
「ずっと前から好きで」
蓮は少し照れたように笑う。
「でもなかなか言えなくて」
その表情を見ているだけで苦しくなる。
本当に好きなんだ。
その人のことを。
「陽菜さんならどうする?」
突然そう聞かれた。
「え?」
「好きな人がいたら、告白する?」
陽菜は視線を落とした。
本当は聞きたくなかった。
でも逃げたくもなかった。
「私なら……」
少し考えてから答える。
「後悔したくないので、伝えると思います」
蓮は驚いたように目を見開いた。
そして優しく笑う。
「そっか」
店を出る頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
駅までの道を二人で歩く。
沈黙が続く。
けれど不思議と嫌ではなかった。
ふと。
蓮が立ち止まる。
「陽菜さん」
呼ばれて振り返る。
街灯の明かりが蓮の横顔を照らしていた。
「実は――」
陽菜の心臓が跳ねる。
蓮は何かを言いかけた。
だけど。
「いや、やっぱり今度にする」
そう言って苦笑した。
陽菜も無理に笑った。
「気になります」
「ごめん」
蓮は頭をかいた。
「もう少しだけ勇気が出たら話す」
帰宅後。
陽菜はベッドに倒れ込んだ。
蓮には好きな人がいる。
その事実だけが頭の中を回る。
もう諦めた方がいいのかもしれない。
そう思うのに。
好きな気持ちは消えてくれなかった。
その頃。
蓮は自宅でスマホを見つめていた。
通知画面には真奈の名前。
『どうだった?』
蓮はため息をつく。
そして短く返信した。
『言えなかった』
すぐに返事が返ってくる。
『また?』
『また』
『陽菜ちゃん、絶対気付いてないよ』
そのメッセージを見て蓮は苦笑した。
「気付くわけないだろ……」
小さく呟く。
そしてスマホを握りしめた。
自分が好きなのは――
陽菜なのだから。




