第11話「揺れる未来」
『異動先が大阪じゃなくなるかもしれない』
そのメッセージを見た瞬間、陽菜は思わず体を起こした。
どういうこと?
会社で正式に発表されたはずだ。
慌てて返信する。
『どういう意味ですか?』
既読がつく。
しかし返信はすぐに来なかった。
数分後。
ようやくスマホが震える。
『明日話す』
短い一文。
それだけだった。
翌日。
陽菜はほとんど眠れないまま会社へ向かった。
蓮の言葉が頭から離れない。
大阪じゃなくなる。
その代わりに問題がある。
一体何が起きているのだろう。
出社すると社内が妙に騒がしかった。
「聞いた?」
「まだ内緒らしいよ」
そんな会話が聞こえる。
陽菜の不安はさらに大きくなる。
昼休み。
蓮からメッセージが届いた。
『屋上来れる?』
胸が高鳴る。
陽菜は急いで向かった。
屋上には蓮がいた。
少し疲れた表情。
でも陽菜を見ると優しく笑った。
「ごめん。心配させた」
「何があったんですか?」
蓮は少し迷うように視線を落とす。
そして言った。
「実は異動の話が変わるかもしれない」
陽菜は息を呑む。
「大阪じゃないんですか?」
「うん」
「じゃあどこですか?」
蓮は苦笑した。
「まだ決まってない」
それは予想外の答えだった。
「どういうことですか?」
「新しいプロジェクトが立ち上がるらしい」
蓮は続ける。
「その責任者候補に名前が挙がってる」
陽菜は言葉を失う。
責任者。
それは昇進以上の大仕事だ。
でも。
「それって良い話じゃないですか」
そう言った陽菜に、蓮は首を横に振る。
「そうとも言えない」
蓮は少しだけ声を落とした。
「成功したら大きい」
「でも失敗したら終わる」
空気が重くなる。
陽菜も事情を理解した。
会社にとって重要な案件。
責任も大きい。
「だから迷ってる」
蓮は空を見上げた。
「受けるべきか」
「断るべきか」
その横顔が苦しそうだった。
陽菜は胸が痛くなる。
何か言いたい。
支えたい。
でも簡単な言葉は見つからない。
その時。
屋上の扉が開いた。
二人とも振り返る。
そこに立っていたのは――
真奈だった。
「やっぱりここにいた」
真奈は少し慌てた様子だった。
「蓮くん」
「部長が探してる」
蓮の表情が変わる。
「今?」
「うん」
真奈は真剣な顔で頷く。
「あとね」
真奈は続けた。
「その件、多分もう決まってる」
「え?」
蓮が眉をひそめる。
真奈はゆっくり言った。
「責任者候補じゃない」
数秒の沈黙。
そして。
「責任者に決定したって話」
蓮も陽菜も固まった。
突然の決定。
逃げ場のない現実。
そしてその日の夕方。
部長室から出てきた蓮の顔は、
今まで見たことがないほど険しくて――。




