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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.97 光に滲む陰り

日本軍は一つの話題にざわついていた。そのざわつきは雷雲よりも暗く黒い空気を吐き出している。日本軍にとっての窮地にもかかわらず内部分裂が起きかねないほどの険悪さだった。


「...なぜ私たちを通す前に全体へ通達したのですか」


「君たちを通して何の意味がある。軍としての方針を拒否でもするつもりか」


「全体の士気にかかわる話です。情報統制は必要では」


振動ら将校は和日月に問う。全体に通達されたのは憂希の捜索結果と今後の方針だ。特に情報を改変することなく、事実をそのまま通達した。


「だからこそだ。神崎上等兵が行方不明となり一週間。その間、戦場周辺を中心に捜索隊を派遣して調査したが、発見できていない。痕跡から誰かに融解されたというのが濃厚だが中国軍の残党かも定かではない。中国軍に対する最前線付近なこともあり、これ以上の捜索は困難と判断している。今後の作戦にも影響が出ることも踏まえ、現状を全体に共有することのどこに問題がある」


「わざわざ...死亡と判断とまで書く必要がありますか」


振動らは上層部の決定をそのまま全体に通達したことに遺憾の意を示している。軍としての前提であり、事実とは異なることを前置きにしたとしても到底すんなり呑み込めるものではない。ましてや日本軍にとっても憂希の功績は大きく、その能力含め認められてきている存在だった。何より、その最前線でこれからも戦闘していくことを前提としている同世代のグレード1には無視できるものではない。少なからずいい影響は何もない。


「神崎上等兵の力量はこの半年足らずで皆、認識しているはずだ。その彼が、一週間音信不通。別段、捜索隊を完全に解体するわけではない。しかし、本部も壊滅し、軍事力も他勢力と比較にならぬほど弱体化した今、そこにいつまでも注力してはいられんということくらい理解できるだろう」


「人の上に立つ人間であれば、部下がどう感じるかくらい容易に理解できるはずでは」


「この戦争に勝ち、目的を達成するためであれば私は鬼にでも怪異にでもなろう。人の心を捨て、人の未来が手に入るのなら喜んで差し出そう」


「それを部下にも強いるのですか。民間人出身者にも同じ道をたどり、その先の地獄にも耐えろと」


「君たちには伝えているはずだ。我々が目指す方針へ至るために必要な条件は全て例外なく、何よりも優先すると。この国が生き残り、再び平和を取り戻すためには勝利以外ないと。君たち含め、日本軍はそれを皆、理解したうえで任務に就いていると私は判断している」


「...」


それを強いられている民間人出身者はどうなんだ。そう和日月に聞いたところで返ってくる答えは決まっていたため、振動は言葉を口にできなかった。この戦争を起点に人生を一変させられた人間たちが今更、人権や将来性を考慮して日本軍の戦争から切り離されることなどない。


「現場の統率は君たちの任務だ。反乱や暴動が勃発した場合は迅速に対処するように。我々は軍人だ。国を護るために、民を護るために戦う武士だ。戦に出向く以上、祖国に顔向ける時は勝利の凱旋しか許されん。誇りと命を懸けて、天寿を自らの戦果に捧げる。その先にある平和に比べれば少ない代償だ。例の計画が立案され決行された時点で、我々は腹を決めたのだ。今更それを覆すことなど不可能。ここまでの道のりで犠牲となった者に地獄で呪われるだろう。ならば、今の地獄を歩み通すほかないだろう」


「...承知しました」


所詮、もうすでに展開されてしまった情報である。そもそも、日本軍の方針が変えられないことを振動らも理解していた。こういった進言で変わっていれば、ここまで極端な軍にはなっていない。そう半分諦めてはいながら、和日月に面会を求めたのだ。


「最初からわかってはいたが、どうにも...」


「申し訳ありません。私が神崎上等兵の回収を優先していれば」


「お前の判断は正しい。敵の能力もわからねえうえに、対策もねえ状況で最前線に兵士一人を回収しに行くってのは無謀だろうよ。撤退以外なかった」


「...この軍は勝利に対してあまりに盲目です」


「うちの旦那は修羅だ。今揃ってるグレード1を見ればわかる。旦那の言葉通り、あの計画を決行した時点でもうこっち側の人間じゃねえ。だがな、俺は誰かがそう判断しなけりゃ、今頃この国は中国やロシアの属国にでも成り下がってた。米軍の重い腰が上がる前に捻り潰されていただろうよ。そこだけは同じ立ち位置にいなきゃならねえ。自分の罪悪感だけでものさしを振り回しちゃあ軍人じゃねえからな」


「...はい。...犠牲の上にしか正義は成り立たないのは....どうしても揺るがないものだということは、肝に銘じているつもりです」


社会に秘匿された戦争にそもそも表社会のような価値観は備わっていない。ただ、振動らはそれでも運命を捻じ曲げて巻き込んだ憂希たちに対し、精一杯の何かを施したかった。それが自らの罪滅ぼしのような自己満足の延長だとしても、憂希たちを蔑ろにしてはいけない。修羅になりきれない男にはまだ、人の血が流れている。それ故に痛むのだろう。その痛みこそ平和の象徴であることを日本軍は忘れかけている。



憂希が一週間も自分の巣を訪ねないことに輪廻は不安を感じていた。最近は毎日ではなくなっていたが、それでも数日間隔があくことなんてなかった。仁野やラプラスが代わりに顔を出してくれてはいたが、それでも不安は消えない。輪廻にとって親代わりのような、兄のような存在である憂希が姿を消している状況は、かつて自分が独りになった経験がフラッシュバックする。


「....うぅ」


一応、輪廻にも連絡用端末は支給されているが、輪廻はまだその使い方を理解していない。そこに届いている全体通達に記載されている文字も読めるものは少ない。


「ゆーき...」


憂希が持ち込んだ様々なぬいぐるみなどを自分の周りに置き、自分の体温を反映して温もりを再現しながらうずくまる。母親に包まれているような感覚がひと時だけ不安を和らげてくれる。


「輪廻ちゃん、今いる?」


「...ん、みたま」


憂希の次に輪廻の部屋に訪れている頻度が高いのは美珠だった。衛生兵として輪廻の定期観察を買って出たこともあり、健康状態や精神状態を確認するついでに輪廻とコミュニケーションを取ることも目的としている。憂希以外ともしっかり関わることで人間性をより育てるためである。


「...元気ないね。大丈夫?」


「...んん」


「そうだよね...。輪廻ちゃん、神崎君はね...しばらく帰ってこれないかもしれないんだ」


「っ...」


輪廻のその顔は本当に絶望した表情をしていた。かつて母親が姿を消したときもそうだったのだろう。言葉も鳴き声も出ないほどの衝撃がそのまま表情にまで浮き上がってきていた。今にも泣きだしそうな表情のまま静かに固まっている。その静けさこそ輪廻が人間らしくなっている証と言えるだろう。


「輪廻ちゃん、大丈夫だよ。神崎君は必ず帰ってくる」


何の確証もない中で美珠はそう言い切る。言い聞かせるように静かに伝える。輪廻の表情を見て、美珠は自分の奥にある心情が鏡写しで目の前に現れているように感じた。そんな輪廻を抱き込みながら自分も一緒になだめるように優しく伝える。その声色は陽だまりのような優しさを感じさせる。


「うぅ...う。ゆーきはまた...たたかいしてるの?」


「うん。神崎君は...戦ってくれてる。いつも...頑張ってくれてる」


「...でも。.....たたかってるのに、ゆーきがわかんない。いつも...わかるのに。ぐすっ...わからないの」


輪廻は野生で発達した感知能力をさらに能力で引き上げることで周囲の状況や環境変化を感じ取ることができる。憂希の能力が完全に環境を左右し、広範囲に影響を及ぼすことで自然災害に敏感な野生の第六感がその存在を認識させていた。明確な位置や憂希の状況までは判断できないが、存在だけは感知できていた。そのサーチに今は一切引っかからない。複雑な思考ができるようになってきた輪廻はその事実にあらゆる可能性を思考し、望んでいない答えが嫌になるほど頭に浮かんだ。まるで子供が見た悪夢のように脳裏に焼き付いて離れない。


「大丈夫。...神崎君は帰ってくるよ。大丈夫...大丈夫...」


「うぅ....うぐぅ...ぐす....」


二人はただただ、抱きしめ合って溢れ出す不安をお互いに共有し、慰め合う。その姿を惨めだとか弱さだとか卑下するものはいないだろう。美珠も本当に憂希が無事なのかなんてわからない。ただ、そう信じることしかできない今、自分よりもよりどころが少ない輪廻の不安を取り除いてあげることだけしかできない。


「...」


美珠は今ほど、自分の能力が心に抱える痛みも取り除くことができたならと思うことはないだろう。怪我をする前には人を救えず、傷ついた心は癒せない自分の能力がますます嫌になった。



憂希の精神は限界を迎えていた。影などできるはずのない部屋に影を見るようになり、聞こえないはずの声が部屋に鳴り響いているようにすら感じる。ずっと監視されている感覚が部屋に何かがいるように錯覚させ、遮ることのできない光がじりじりと憂希を削っている。光を無理やり遮るようにうずくまって寝ているせいで、体のあちこちが軋んでいる。


「.....」


声すらもう出ない。出す気力もない。自分が何時間寝れているのかすらわからない。憂希はどのくらいここに閉じ込められているのか全くわからなくなっていた。それでも憂希は欠かさずにずっと行っていることがある。初日に決めた能力の訓練だ。訓練に集中するには十分すぎるほどの時間があった。初日から一度も教団からの接触はない。外に出力する訓練じゃなかったこともあり、この訓練の障害になるものは強い光と自分の消耗だけだった。


「......」


極限状態で体力も気力も削り切られているが、それでも憂希は能力を行使した。こんな極限状態でも扱えるようになる。その意志だけでこの過酷な環境を逆手にとって訓練し続けるその精神力は並大抵ではない。幻覚や幻聴といった症状も出ているのにそれを自分で誤魔化し続けている。自分自身への強い洗脳のような精神力。


『神崎 憂希さん。おめでとうございます。神の光によりあなたの中に悪が巣くっていないことが証明されました。この美しき光の部屋から出ることに神のお許しをいただきました』


「っ...。...ほん...とうに」


いきなり部屋に鳴り響いた合成音声に憂希は困惑する。激しい幻聴なのではないかと疑ったが、いつものようなボソボソと何を言っているのかわからない幻聴とは違い、今ははっきり聞こえた。


『我々の教祖様があなたとの面会を希望されております。今からそちらにご案内いたします』


「...っ!?」


急に真っ白いいかれた部屋から薄暗い部屋に移動させられた。部屋に出口がなかったのは能力により空間転移させられていたからだったようだ。つまり、神の力などと宣っているが実際に教団には能力者がいることは確実となった。


「っ...みえ...な」


いきなり強い光を失った憂希は周囲の暗さに目が対応できず、視界が真っ暗になったような状態のまま回復しない。


「...君が新しい入信者か。ようこそ、光信聖教へ。あなたを歓迎しますよ」


「っ...」


一人の男の声がする。ゆったりと落ち着いた深い声。いかれた教団のトップとは思えないほど理知的に感じさせる。しかし、それは極限状態から解放された感覚と消耗しきった状態がギャップを生み、現状を楽観的かつポジティブに感じさせているだけということもある。だが、音しか情報がないこの部屋において、憂希は引き込まれるような力がそこにあるように感じた。



ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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