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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.93 最適の一撃

米軍は日米共同作戦にて勝利したことにより、ロシア極東連邦管区の一部を占領し、そこに対ロシア軍用前線基地を構えていた。極度の緊張状態となっている最前線拠点なこともあり、米軍の兵力のおよそ三割がそこに投入され、対ロシアへの厳戒態勢が敷かれている。


「あたしは後方護りね。おっけおっけ~。しっぽりやってりゃいいでしょ」


「お酒臭いっ。もう飲んでるじゃないですかっ。いや、何かあったらすぐに前線に来てくれないと困りますよ。僕が前線ってだけで神酒さんも作戦部隊ですからね」


「そもそもあんたにダメージが通るほうがありえないでしょ?どう考えても護りより攻め向きなんだからさ。あたしは軍単位で行動するのは向いてないの」


「僕が敵の出方を確認して、グレード1の能力者が出てきたら神酒さんが瞬殺するって作戦ですよねっ?」


「男が細かいこと言わんでよ。君の適応は攻防一体、無敵の能力さっ。じゃあ頑張ってね~」


「あ、ちょっと。....前回、神酒さんは大活躍だったって言ってたし。...僕の活躍の機会だって考えよう」


そのロシア極東連邦管区に構えた前線基地に小龍と神酒をはじめとしたロシア侵攻部隊が集合していた。小龍の能力である適応を最大限に活かし、基本的な物理攻撃による迎撃の一切を無効化しながらほぼ単独で破壊することも可能だろう。敵の能力次第では小龍を止めることすら難しい。そしてロシア軍のグレード1はほとんどが割れている。


「僕も日本の仁野さんみたいにすごい機動力があればもっと戦えるのに」


小龍の唯一の弱点ともいえるのは機動力や対応力だろう。能力があくまで対象の適応であり、自分への効果または耐性を無くすものだ。相手との距離に適応し、無理やり瞬間移動じみたことをやることはできるが、それは瞬発力とは言えない。複雑な思考がいらない代わりに能力の付与を自分にしかできない状態では軍のような団体行動を前提とする作戦では活かしきれない部分が多い。だからこそ、前線にほぼ単独で侵攻することで、敵の攻撃を小龍に集中し、能力をフルに活用する作戦はかなり有効だろう。


「作戦内容もう一回確認しとこう」


極端に軍の消耗を嫌う米軍にとって小龍という手段はかなり重宝していることだろう。本格的な侵攻作戦に乗り切るというこの状況も米軍においては珍しい。



一方、消耗しているロシアと言えど、米軍の動向は掴んでおり、それを迎え撃つための手段を講じている。能力者含めてロシア軍に所属している軍人はすべて生粋の軍人出身者だ。戦争において全体的なレベルで言えば他国の軍よりも秀でている。よって態勢が崩れたときの対応もまた迅速だ。単純な軍事力だけで言えば米軍に並ぶ規模。能力者が主体となっているこの状況でも攻め落とすのは簡単ではない。


「ニコ...あなたはまだ実戦投入できるほどその体に慣れていないのではありませんか」


「能力には支障ないし、実戦で試さなきゃわかんないこともあるでしょ?もう、なんだか心配性になった?ネスメヤナらしくないなあ」


「.....。グレード1の能力者であり、我が軍の兵力を底上げしているあなたには簡単に死なれては困るのです。本来、あなたは後方に徹し、遠隔操作で兵装を操作するのが正攻法でしょう」


「それは全身が生身だったからだよ。AZの実戦投入で得たデータはめっちゃすごいんだよ?この腕と足を利用しない手はない!機械的に扱わなくてもギミックが使えるっ」


「...自らを兵器に置き換えるということですか」


「そうだよっ。皆そうでしょ?」


ロシア軍も米軍同様かそれ以上に兵力の消耗を回避するべく、人員を投入せずに軍隊規模の兵器を扱えるニコを実戦投入する方向で作戦が組まれていた。実際、AZを含めた各兵装を一人で扱えるともなれば、単純な戦争でニコに勝てる軍隊など存在しない。しかし、それに対してネスメヤナは自分の心にずっとささくれのように引っ掛かり続けている何かを無視できずにいた。


「銃の部品や砲弾と一緒。目的のために手段として扱われるのが使命であり、本望。そんな感じで皆生きてるんだからさ。戦わない兵士なんて何の意味もないでしょ?」


「...そうですね」


ロシアの特殊部隊。その中でも国の諜報機関としてはるか昔から根付いている裏側を牛耳る軍隊。その中で幼いころから軍を機能させるための部品として育てられた二人にとって、生きる目的は軍の作戦を遂行し、使命を果たすために尽きる。そこに何かが介在する余地はなく、国が引いた引き金にただただ従うのみである。


「米軍も本腰入れてきてるみたいだし、グレード1が休んでる暇なんてどんどん無くなってくるでしょ。そうなってからじゃ、実戦に慣れさせるなんてもっと無理だし」


物心ついたころには引き金を引いていたニコは持ち前の純粋さや明るさが不気味に見えるほど生粋の兵士だ。そこに矜持などない。


「ネスメヤナも本部警戒任務でしょ?なんか中国が日本に仕掛けたとか言ってたから本部も何があるかわかんないよね」


「...そうですね。あくまで民間人は標的とせず、戦争も能力者も公にしないという暗黙の了解が、前線付近のみでの戦闘に集中する制約となっていますが、テロ行為などにも発展すればそうも言っていられなくなるでしょうし。その制約を破った国が現れた以上、寝首を搔かれるリスクはかなり上がったと見るのが自然ですね」


「まあ、こっちからしたらやりやすいけどね。...あ、もう少しで集合時間だからまたね、ネスメヤナ」


「ええ」


まるで遊びに出かけるように去っていくニコの背中を見つめながら、変わらぬ表情の奥に潜む感情がネスメヤナのその視線ににじみ出ていた。それを感じ取れる人間はここにはいない。


「...ニコに水を差さないようにしなければ。...しかし」


自分の中に湧き出てくる感情をネスメヤナは知らない。任務を問題なく遂行し、部隊の戦果とする。それ以下でも以上でもない自分たちに何を感じているのかわからない。それでも最近は、ニコの純粋さを見るたびに、自分に生まれる痛みに悩まされる。痛みに慣れているはずの自分がその痛みを知らないあまりに悶えていることに対する違和感と同時に、なぜかそれを蔑ろにできない自分への疑問がずっと張り付いて消えない。


「...私は何がしたいのでしょうか」


誰も答えを持たない問いが空を切って静かに消えていく。その余韻がもたらす寂しさがネスメヤナに何かを訴えているようだった。



米軍基地、ロシア軍基地共に戦闘態勢を整え、軍の配置が完了したのは、中国軍の日本本部襲撃が沈静化し、本部の移転が完了しようとしている頃だった。日本が態勢を整え、反撃に動くまでの間に、米軍とロシア軍の全面戦争が勃発したのだ。最初に動きを見せたのは米軍である。小龍を主体とした侵攻部隊を編成し、後方に神酒を中心に前線基地の防衛を行う。神酒の能力による援護も視野に入れた十分な攻撃力を持った編成と言えるだろう。この混乱と混戦を極める世界情勢において、一度も本格的な全面戦争に関係していない欧州軍の立ち回りが後々、大きく響いてくることになる。



米軍は神酒の能力で小龍の前線部隊を一気にロシア軍が軍を展開する陣地まで空間転移させ、進軍中の消耗を減らす。空間転移直後に開戦となる予備動作なしの襲撃作戦。


「じゃあ飛ばしちゃうよ~?準備いい~?あははははっ」


「神酒さんべろべろじゃないですか。転移先はちゃんと正確ですよね」


「あったりまえじゃ~ん。あたしは能力操作に関して天才的なんだよって。あははっ。じゃあいくよ~!それ!」


腕を薙ぎ払うように振り、小龍を含めた侵攻部隊を空間転移させる。瞬きした瞬間に自分の視界に映る景色は一変し、立っていた場所も変わる。神酒の空間転移は瞬間移動の能力とは異なり、対象は空間単位でしか選択できず、指定した空間を指定の場所まで一瞬で移動させるために、間に存在する空間を物体に干渉しない範囲で削り、まるで物体の実が移動しているように錯覚させているに過ぎない。指定した範囲とその外で何かが存在していれば空間の断裂に巻き込まれてしまう。そういう意味ではそれを感覚的に制御できている神酒は天才と言えるのだ。


「っ!?なんで!?うあああああ!?僕だけ!?」


弘法の筆にも誤りと言うべきか、対象が小龍だからこその油断か。または本当に酒による酩酊が原因か。なんにせよ、小龍だけが作戦の転送箇所からかなりずれたロシア軍基地の上空に空間転移されていた。他の前線部隊も同じ上空に空間転移されていないのが不幸中の幸いと言えるだろう。


「もう!神酒さん!えっとええっと、衝撃は耐性があるしっ、高所は訓練で平気になったしっ。大丈夫大丈夫大丈夫っ」


上空と言っても落下時間は数十秒ほどであり、身構えている余裕などない。小龍は自分に備わっている適応に該当するかどうかを必死で考え、なんとか自分を落ち着かせる。


「もうっ、これで攻撃開始すればいいでしょ!このままロシア軍基地を破壊しますっ」


ただ、米軍としてはこれ以上の無い作戦だ。小龍は自らこういう奇策を提案できるほど実戦経験も無ければ、肝が据わっているわけでもないが、それが備われば自分の能力をフルに活かした敵を蹂躙する作戦を遂行する強力な兵士となることだろう。それこそ、実戦経験を積めば積むほど、その能力は強化されるに等しい。危険因子に匹敵するほどの能力者となる。


『敵軍が急に現れた!こっちも作戦開始だね!』


『もう攻撃しちゃっていいのかな!?』


『ニコちゃん、ニコちゃん!始めちゃっていいかな?』


『ニコちゃんっ、上空から飛来物発見~!撃ち落としちゃう?』


「え、熱源感知は反応してない。ミサイルとかじゃないっぽいけど。,,,迎撃しておこうか。皆は敵部隊を作戦通り攻撃して~。上のやつはこっちで対応するから。んじゃ~始めるよ!」


『『『一斉加熱!最大火力!オーバーヒート!!』』』


「小さい的だけど...全力で撃つっ」


AZが放射する地表を一瞬で灰にする熱線は大気を伝播し、灼熱の津波のような破壊をもたらす。それと同時にニコは上空の飛来物に向けて手榴弾と弾丸を放つ。複数の手榴弾は的確にその飛来物を捉える位置で起爆し、空に無数の爆炎を咲かせる。その花弁を穿つように数発の弾丸が空を切って対象を貫こうとする。


「えっ...。途中で弾丸が止まった。...防がれた?」


しかし、その爆発も弾丸もその対象に効果はない。いや、すでにそれらには適応済みである。適応した物から一切の影響を受けず、適応した物を例外なく破壊する。戦争における兵器の類など、すでに死に物狂いで適応済みなのだ。


「小龍ですっ。まずは防壁や砲台を破壊しますっ」


本来、到達できるはずのない適応の数。一度試すということは何度も瀕死になるようなものだ。それが武器や兵器を中心としているならなおさら。小龍の芯の強さは、自分が信じる正義のために自分をどこまでも犠牲にできること。文字通り、命を懸けられることにある。


「人じゃんっ。能力者単独の奇襲!?」


「僕が相手だっ」


小龍は着地と同時に能力をロシア軍基地に放つ。着地地点に存在する基地を構成する防壁や砲台など、連なるものすべてがその一撃で木っ端微塵となった。威力とは関係のない破壊。適応したものすべての天敵となる能力。その神髄が今、戦場に放たれたのだった。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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