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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.91 眩惑する狂信

日本本部に帰還した中国奇襲部隊はすぐに医療病棟に搬送され、緊急処置を施された。しかし、血液検査やレントゲン帰還した中国奇襲部隊はすぐに医療病棟に搬送され、緊急処置を施された。しかし、血液検査や尿、胃液を検査したり、その他の要素も考慮しMRIなどの検査も同時に行った。結果として体内に毒素は発見できず、真の原因を突き止めることはできなかった。だが、その症状から神経毒に似ていることから応急的な手当として解毒剤の投与などを行ったが、その効果は薄い。


「安楽堂さんっ、大丈夫っ?」


「はいっ...。大丈夫ですっ」


唯一完全に効果がある治療は美珠の能力だ。戦場での全体治癒はわずかながらだが効果があり、各兵士の症状進行を遅延させたことで重症化した兵士の数は少なく済んだ。その結果、効果は薄いが解毒剤投与などでも回復する者も少なからずいた。それは長い目で見れば大きな効果だ。そして何より、全体回復という手段にちゃんと効果があることを確認できたことが大きい。まだその効果は薄いが、それでも可能性があること自体が日本軍全体にとってとても大きいことだった。


「.....」


日本軍内の医療崩壊が発生していることもあり、仁野を含めた無事な女性兵士は手伝いを命じられ、医療病棟でサポートを行っていた。仁野はそのサポートを行いながらも、心はここにあらずという状態だ。美珠も激務でなければ同様の状態だっただろう。今現在、敵の能力で行動不能となっている兵士の中でも予断を許さない重症者は少なくない。最前線に近ければ近いほどその症状の重さは比例した。


「...なんで、憂希君だけ」


自分に唯一、敵の能力の効果がなかったことから、仁野は自分こそが中国軍の拠点を攻撃する役割を担うべきだったと自分を責めた。何度も攻撃したのに、自分が拠点破壊を達成できなかったこと。花菱の撤退命令があったとはいえ、自分には能力の影響がなかったことから、憂希の捜索、回収に名乗り出なかったこと。後から考えれば考えるほど後悔と情けなさで自責の念に駆られる。


「....」


無意識に憂希を頼り、甘え、依存していた。戦場でもいつも助けてくれることや最前線で戦ってくれることを心のどこかで当たり前に思っていた。仁野はそう思い込んで、さらに自分で思いつめる。なんの功績も上げられない自分が、酷く醜く感じた。


「いったん...憂希君への憧れは....閉まっておこう」


恋心があるのは確かだった。憧れを抱いていることも自覚していた。いつか憂希に追いつき、並び立ち、憂希を支えることができるようになりたいと思っていた。だが、それが自分の弱さを招いていると決めつけた。自分の中で決まり切っていない覚悟と、憧れだけを口にして行動が伴っていない現状を改善するまで、そんな余裕はないと判断したのだ。


「...もう怖がってらんないんだよ。皆とどんどん離れてく。...恋矢。自分でわかってるっしょ?」


乙女は戦士になることを自分に課した。戦場に身を置く以上、このままの状態では自分が自分を嫌いになってしまう。自分が一番好きな状態じゃないと、好きな人にアピールなんてできない。好きな人に好きになってもらうことなんてできない。誰が見ても、自信に溢れ、信頼を集め、活躍する。そんな自分になるまで乙女でいることを仁野は封印するのだった。



日本軍は過去最大の窮地に立たされていることは事実。窮地ばかりで完全な立て直しができていない日本軍だが、他国に比べて圧倒的に敵対国が多く、その敵対国と隣接している条件下では致し方ない。完全な敗戦が日本本部襲撃という致命的な打撃になったとはいえ、そのほかに敗戦は基本的にない。これは善戦していると言えるだろう。だが、実質的にグレード1の兵士を失っていた状況。所在不明、行方不明。戦場で死体を確認できないという異常事態。この能力戦争において、通常の戦争では起きえないことが起きるだろうが、それでも今回のような事態は初めてだった。


「...能力者含め行動不能者多数により、最前線の状況は不明。...地上の敵能力から逃れるため、爆撃部隊から地上の詳細は確認できず。...よって神崎上等兵の情報は一切なし。...花菱中佐の最後の通信のみ...か」


和日月は報告書に目を通しながら現状を噛み締める。作戦の目的だった中国拠点の破壊は達成された。それを成し遂げたのはどちらも憂希だった。全体の作戦があったからとはいえ、ほぼ単独で敵拠点を二つも堕とした功績は大きい。戦況支配力だけで言えば、他国の危険因子に並んできている。実際、日本軍の戦績は憂希の恩恵を大きく受けているだろう。


「ここにきて神崎上等兵を失うのはあまりに痛手。...中国軍が拉致したということか。あの壊滅状態でそのような余裕があるとも思えんが」


推測にも及ばない妄想の域を出ない。あまりに情報が少なすぎる。他の兵士には一切、そういった行方不明者がいないことも含めて情報不足。全力で捜索したいところだが、その情報不足に加えて人員不足の現状。今、優先すべきは兵士の回復であることを踏まえても、グレード1と言えど、後回しにせざるを得ない。


「...君はいつも悩みの種だな、神崎上等兵。君にかけた投資は他の人員をはるかに凌ぐというのに、なかなか飼いならしてはくれぬものだな」


視線も手元の資料からモニターに移し、和日月は呟く。そこには先日の日本本部内通者襲撃時にアクセスされたファイルの一覧が表示されていた。ファイル名はほとんどが日付のみで構成されていたが、その日付は総じて約三年前の年で固まっていた。そしてどの資料にも必ず『hieap』の文字がファイル名の末尾に入っていた。



不気味なほど真っ白い部屋。壁や床材のつなぎ目に至るまで白一色。そこの部屋に存在するあらゆる物体がすべて同じ白で統一された奇妙な部屋。その真っ白部屋を煌々と照らす白すぎるライトの光に曝され続けたことで、憂希は無理やり覚醒させられた。


「...?」


あまりに情報量が制限された空間に現実感がなく、麻痺状態から解放されたばかりの脳では状況を理解できない。混乱しながらいつもより重い体を起こす。


「ぐっ...うぅ」


頭がひどく痛む。体も全体的にだるい。光が強すぎて目の奥が痛む。手で遮っても壁や床で反射して全然防げない。何もしていないのにずっとストレスを与えられているような感覚だ。


「なんだここ。..どこだ。...なんでこんな」


ようやく状況を把握しようと思考が働く。記憶があいまいだが確実にこんな場所に覚えなどない。確実に隔離されていることだけはわかるが、そのほかに情報があまりにもなさすぎる。色の情報すらないのだ。夢の中のようにすら感じる。


「戦争...。作戦はどうなって。俺は...」


およそ六畳程度の純白の部屋。自分の影すら異物に感じるほどの光の強さと白さで思考がうまく働かない。時間間隔すらない。今が昼なのか夜なのか、作戦からどれくらいの時間が経ったのか。そもそもどこなのかすらまともに判断できない。


「くそ...。まずはここから出ないと」


『そのまま動かずにお待ちください』


白い寝具から立ち上がった瞬間にどこかに内蔵されたスピーカーから声が響く。痛いほどの静寂のせいで、そこまで大きくないはずの音に体が強張る。その声はドラマでしか聞いたことないような合成音声になっており、性別すら判別できない。


『素直に従っていただき、感謝します。一つ、確認させてください。あなたは神崎 憂希さんでお間違いないでしょうか』


「...誰かもわからず連れ去ったのか。素性のわからない人間に名乗るつもりはない」


『なるほど、それでも構いません。神崎 憂希であるという前提で進めます。あなたは我らが信仰する神の力により、その身にその一端を宿しております。よって、その力を宿し者は例外なく、神のためにその力を行使すべきであると考えております。我々に協力する気はありますか』


「...何の目的で何をするのかすらわからないのに、返事なんてできません」


『目的は一つ。我々の神から授かりし力を愚かにも私的に扱おうとする傲慢な悪鬼より、同胞を救うことです。そのために現時点で存在する同胞を軍事利用する組織をすべて解体することが目的達成のために必要な目標です』


「...解体とは」


『悪用するような輩はその精神から欲に染まっています。神の御導きにより改心する者は迎え入れますが、取り乱し、内なる悪が表に出るようであれば断罪するのが通例です』


「...どうやってそれを」


『今、あなたに施していることと同じです。この美しき白の空間は神の力を宿しております。神が示す光により、弱き悪であれば数日でその姿を晒すでしょう』


「...」


その分野に詳しくない憂希でも理解できる。今、目が覚めてからのこの短時間で自分に出ている様々な不快感や違和感を考慮すれば、数日で頭がおかしくなる人間がいても不思議ではない。実際いろんな感覚が狂っていくのがわかる。そしてそれをまるで正当な手段であり、自分たちが正義の中心にいるかのような振る舞いを疑うことなくしている声の主は明らかに異常だ。


「つまり、俺もここに閉じ込めておく気なわけだ。....あんたらは何者なんだ」


『はい、神の光によりあなた自身が清らかな生命かを見極める必要がありますので。...申し遅れました、我々は”光信聖教”と申します』


日本本部に内通者を忍ばせ、情報を流出しようとした団体。どこかの国に属し、スパイ行為などを中心に工作する団体という推測は外れ、完全に独立した狂信者集団であることが発覚した。


『まずは一週間、この神の光で満たされた部屋でお過ごしください。食事は定刻でご提供します』


「そんなこと、受け入れられるわけないだろっ」


『あなたに拒否権はありません。あなたは神に選ばれ、すでにその身に力の一端を宿しているのですから』


「それは横暴...。おい、切るなっ」


一方的に光信聖教徒からの通信は切れ、憂希はまた痛いほどの静寂に包まれる。あまりにも非現実的な悪夢のような状況に、戦闘後の疲労が重くのしかかってくる。日本にとっても憂希にとっても最悪なタイミングで捕らえられた。


「...長居するつもりはないが、情報は欲しい。今は休んで...それから動くか」


すぐに脱出を試みても全快じゃない状態では何が起きるかわからない状況に臨機応変な対応は難しくなる。また、このまま無事脱出できたとしても今後も脅威となるこの団体を無視はできない。憂希は完全に孤立した状態で正体が一切掴めない敵を相手取ることになった。



ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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