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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.89 勝利のための一矢

急に出現した暴風の壁とどんどん気温が下がっていく状況に中国軍は大変混乱していた。黄の能力が阻止されなかったことで日本軍の攻撃力は打撃を受けたことで多少なりとも弱まるものだと油断していた。


「おいっ、その能力でこれをどうにかできんのか。今までその目で確認した能力であれば例外なく扱えるのだろうっ」


「くっ。や、やってますよっ。でもここまで大規模に風を加速されたら、こっちが風をぶつけたり止めようとするにも助走が足りないんですっ」


「弱音を聞きたいのではないっ。これでは私の能力を敵に放つこともできん」


「そうは言っても...くそっ」


大気を操作し、風を作り、嵐を起こす。気流を操ると言ってもそう単純ではない。車でもなんでも最高速度に到達するにはある程度の助走が必要となる。瞬時にゼロから百まで出力することは容易ではない。どんどん加速を強めていく巨大な竜巻など、最高速度が更新されていくようなものだ。それにブレーキをかけようとしても弱い力ではびくともしない。


「気温低下を阻止しながらあれを止めるって...無茶言うなよっ」


雨の蒸発と黄の能力を敵軍に放つ援護だけのはずが、状況は一変。どんどん中心の空間が狭くなる巨大な竜巻を必死に抑えながら、温度変化にも対応しなければならない。とはいえ、自分にとっても危機的状況なことには変わりない。


「くっ,,,。この能力絶対あの人だろっ。こんなやばかったっけ!?」


一度憂希と対峙した経験を持つ明海はその当時も能力の理解度や練度で苦戦した記憶はあるが、それでも今感じているほどのものではなかった。劉との戦闘から間もなく本気の戦闘に突入したことで体がまだ感覚を覚えている状態で再現できていることが何よりも大きい。


「黄将軍っ。ここは一度撤退したほうが」


「貴様、何を抜かしているっ。ここが対日本軍における要であるということを知っての発言か!?貴様、日本軍の捕虜となっていた間に何もかも日本人に傾いたのではあるまいな」


「そういう話じゃ」


「貴様の能力は相対した敵を猿真似し、鏡写しで対抗するしか能がないのか。敵の能力に有利になるよう立ち回るのがその能力の強みだろう。手段が数多にある貴様が何を手の打ちようがないなどと言い放つつもりであれば、日本に与したというほかないだろ」


「っ...」


黄の主張は尤もであるが、それはあくまで能力を主語に考えた場合であり、今の状況を言っているのではない。すぐにでも拠点すべてを呑み込む勢いで迫る竜巻を止まりはしないながらもブレーキをかけていることには意味がある。その能力リソース的にこの巨大な竜巻をどうにかできるほどの余力はないという話だ。だが、それが理由にならないというのも一理ある。能力リソースを理由に目の前に迫りくる死に対して、何も手の打ちようがないと諦めるのは自殺行為だ。考えるまでもなく、がむしゃらにできることをひたすらやるのみだ。


「...じゃあこの基地はこの位置ではなくてもいいですよねっ」


「なに?どういう意味だ」


「この竜巻からこの拠点ごと離脱しますっ。遠方って話じゃなく、この竜巻の範囲から抜け出すだけですっ」


「だから何を」


「もうやりますからっ。なんか起きても僕が悪いってことでいいんでっ」


黄が明海の意図を何も理解できぬまま、明海はそれを無視して自分の行動を貫く。拠点まるごと収まる空間を対象とした空間転移。米軍の神酒が持つ空間を掌握する能力を再現し、今の位置から拠点すべてを一瞬で移動させる。防御し続けることよりもその場から離脱することを選択した。これは予感や予測ではないが、最適解だった。


「よしっ。....えっ」


空間転移は瞬間移動のように一瞬で竜巻の影響範囲の外に移動した。その移動が完了した瞬間に竜巻に巨大な落雷が天と地をつないだ。轟音が衝撃波のように空間を引き裂き、震えさせた。


「やばすぎ。...本当に一人でやってんの、あれ」


一つの能力を研鑽することより、行使できる能力を増やすことに注力してきた明海にとって、自分と同じグレード1に位置づけられる人間が引き起こしているという事実は目を疑うものだった。実際、憂希の成長曲線は実戦経験が圧倒的に多いことに起因する。憂希が戦争に投入されてからより一層激化しているからこそ、死線を潜り抜けた経験値は伊達ではない。


「化け物かよ...」


「敵の渾身の一撃を回避した今が反撃の時だ。すぐに仕掛ける」


「えぇ...」


窮地を脱したと安堵した瞬間にすぐ攻撃に切り替える黄を見て、明海は少し引く。しかし、立て直しとしてこれ以上の好機はない。さっきの一撃が不発だったことに気づけば、すぐに追撃が来るだろう。


「じゃあ、この空間に能力を最大濃度で使えますか?」


「どうするつもりだ」


「距離が離れたことを活かして、敵の陣地と死人兵が進軍している場所をすべて覆うように拡大しようかなって。なんかを日本軍に撃ったりするとそれでばれるし、その対策したりするのもだるいなって。空気に拡散したら効果が弱まるなら、空間をそのまま拡大すればそこまで薄くならないって思って」


「その空間操作、しくじるなよ。中国軍に能力が及ぶようなことがあれば貴様も含め、全滅するぞ」


「僕がそれに手を抜くわけないじゃないですか」


「それもそうだな。日本本部で襲撃の援護よりも自分の回復に全力を注いだ結果、生き残ったしぶとさを持つだけある」


「誉め言葉として受け取っておきます。僕に皮肉は通じませんよ。言われるまでもなく、自分でそう思っているんで」


明海の手の上に隔絶された空間の球に黄は能力を最大濃度で付与する。しかしの空間は色や匂いなどに変化はない。あくまでその空間に存在するあらゆるものが黄の能力の特性を得たに過ぎない。


「僕にも能力教えてくださいよ。そうすれば二倍で使えるのに」


「私の能力は魔法の類だと言っただろ。私が望む事象をを敵に再現する能力だ。敵本体を狙うだけであれば間接的手段はいらんが、広範囲となれば別の対象に付与し、接触や吸引などの起点を作る必要がある。これはすでに軍の中ですでに共有済みの内容だ」


「そうですけど...。なら、僕も使えると思うんですけどね...」


「貴様の能力も万能ではないということだ。敵兵の一人に先ほどの効果がなかったことを考慮し、今回は別の効果にした。何かしら能力で耐性を持つ者かもしれん。効果がある能力を探る」


「わかりました」


明海は自分の能力だけで日本軍を殲滅することを避けるため、黄の能力に依存する形をとった。責任逃れできるルートを残しておいたのだ。自分の評価を挽回する機会よりもこれ以上下がらないようにすることを優先する。どうせ活躍したところで何も認められやしないという諦めが、憂希とは正反対な行動につながっている。自分にできることを全力でやるのではなく、自分がやらなきゃいけないことを最低限に減らす努力。それもまた戦争においてはリスク回避と言える。


「じゃあいきますよ」


手元にある黄の能力は付与された球状の空間を一気に日本軍側に空間転移させ、その転移先でそのまま数百倍にその範囲を広げる。地上部隊はすっぽりとその範囲に収まり、日本軍本隊もどんどん呑み込まれていく。


「よいしょっ!...あれ、なんか力入りにくい?気のせいかな」


仁野も最高濃度まで引き上げられた黄の能力に反応を示すが、そのあらゆるものに対する耐久値が振り切っている仁野にはすぐに有効とはならない。しかし、普通の兵士にとっては致命的だ。


「あれ、また。...いや、なんか違う。...どうしたの!?やばいっ。また皆倒れ始めたっ。雨降ってない。何されてるかわかんないっ」


仁野はすぐに無線を入れ、全体に通達する。いつもならすぐに返事が返ってくる無線には応答がない。


『こちら救護豚の安楽堂ですっ。仁野ちゃんは何ともないっ!?』


少し間が空いて返ってきたのは美珠の応答だった。


「美珠ちゃん!?うん、なんともない。そっちは何があったの?」


『ちゃんと確認できてないけど、私以外皆、痙攣などの症状を発症して次々に倒れていった。完全に脱力している人や筋肉が緊張している人と様々。私は自分で自分を回復してなんとかなってるんだけど、回復し続けないと私も同じになっちゃう』


「なにそれっ。なんでそんな」


仁野は自分が最前線に立っていることとさっきまで憂希が中国拠点に対して猛攻を仕掛けていたことから、日本軍に対する攻撃なんて微塵も見えなかったうえに、相手にそんな余裕があるとは思えず、困惑した。そして何より、実質的に日本軍の地上部隊が行動不能になったことの衝撃が大きすぎる。


『安楽堂上等兵。こちら、花菱です。地上の状況を詳細まで共有していただけますか』


『は、はいっ』


そこから美珠は花菱に現状起きている異常事態を事細かに説明した。ただ、いくら詳細に説明しようとも有効な解決策には結びつかない。今までとは全く違う症状と起点が一切わからない発症。発症者の体内で何がどんな作用をして発症しているのかもわからないこの状況では、日本軍に継戦能力はないに等しい。


『状況、理解しました。まず仁野一等兵は無事が確認できている安楽堂上等兵をすぐに後退させてください。治療の要です。神崎上等兵は先ほどの落雷や暴風で通信が遮断しているため、回復後に伝達します』


「了解っ。『ステラ・インパルス』!!!」


死人兵をすべて木っ端微塵に吹き飛ばす一撃を躊躇なく放ち、仁野はすぐにその場から離れる。周囲に遠慮することなく力をフルで発揮できる。その瞬発力は脚力で大地をめくり、空気がはじける音が鳴り響き、衝撃波が生まれるほどだ。たった数秒で日本軍の前線部隊の位置まで移動し、何が起きているのかを目撃する。


「なにこれっ...。大丈夫っ!?」


何人もの日本軍兵士がその場に崩れるように倒れ込んでおり、身動き一切とれないでいる。仁野の声掛けにも反応はない。いや、何か反応しようとしていることはわかるが声を発したり、体を動かすことができないようだった。呼吸すら少し怪しい。外に出てようが装甲車などの中にいようが関係なく、例外なく倒れている。文字通り、日本軍は壊滅した。




ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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