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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.88 目には目を、雨には嵐を

憂希は救護班に戻り、美珠の治療を受けていた。献身的に美珠は能力を使い、憂希を回復させていく。外傷とは違い、概念的な人の体力を回復させるのは美珠の能力であっても早くはない。命懸けでギリギリの戦闘後にほぼ毎回と言っていいほど、熱を出して数日寝込むくらいの消耗だ。脳が戦闘中には自覚させていないだけで、かなりの消耗だ。


「...ありがとう。いつも」


「これが私の役割だから。...大丈夫、どんな怪我だって神崎君は私が治してみせるから」


自分が傷つくことよりも人が目の前で傷つくことの方が辛そうな憂希に、怪我をせず、無理をせずと釘を刺すことはあまりよくないと思い始めていた。それは暗に憂希に戦うなと言っているようなものだと感じたからだ。それは遠回しに、人が目の前で傷つくことよりも、自分を大切にしろと言うようなもの。そこだけ切り取れば何も悪い意味ではないが、それでもこの状況と憂希の人間性を鑑みれば、それは悪い意味になる。憂希が最も苦しいことを我慢しろと言うようなものだからだ。


「私はもともと医者を目指してたって言ったことあったよね?」


「うん。初めて会ったときに」


「...人を直接救えるってものすごく素晴らしいことだって思ってたの。そのために人の何倍も努力して、勉強して。医者になってからもそれは終わらない」


「うん。俺もすごいことだと思う」


「戦争が起きてるって知って。私の能力が戦闘向きじゃなくて、人を治す力だってことを知ったとき。...私、安心しちゃった」


自分の心の奥にあるものを自分でもなぜかわからないこのタイミングで、美珠は憂希に吐露する。それは滑らかな水のような粘度で、さらさらと流れていく。その感覚に戸惑いや嫌悪感はない。


「人を傷つけずに済む。戦うなんてしなくていいって」


「...うん」


「でもね、今は違う。私は人を治すことができるけど、人が傷つかないように護ることはできない。それがどれだけ歯がゆくて悔しいか。...今日まででたくさん経験してきた。神崎君や仁野ちゃんと並んで戦えないことが...すごく。自分は無力なんだって思って」


「そんなことは」


「ありがとう。...そう、今はそう思ってないの。思わないようにしてる。私を頼ってくれる人が大勢いる。私が救える命はたくさんある。...私が悔しがるべきなのは、私が命を救えなかったとき。戦えないことをいくら悔しがってもなにもできないから。できることを全力でやろうって。....神崎君を見て、そう思えるようになったんだ」


「......」


「ありがとう、って言いたくて」


美珠はまっすぐに憂希を見た。本当に心から感謝を伝える。美珠にとっても憂希は自分が歩む道の方向を示してくれる存在だった。ひねくれず、自分が置かれている環境において自分に何ができるかを純粋に追及し、それを全うしようとする姿は誰においても見習うべき姿勢だ。


「俺は何もしてないよ。まだ、できていないこともたくさんある。俺の方こそありがとう」


「そんなことないよ。お互いがお互いの子とちゃんと見るって話したけど、その前からずっと、神崎君は頑張ってる。...皆、全力で戦ってる。誰も頑張っていない人なんていないから」


「...うん。そうだね」


死はいつでもすぐ近くにある。銃弾が体を貫けば致命傷なことに変わりない。自分ができる範囲を全うするだけでも十分リスクは伴う。その範囲を越えることが何もいいことだけとは限らない。


『敵兵の火炎により雨が蒸発。爆撃を阻止され、拠点の完全破壊には至らず』


「っ。,,,やっぱりまた防がれたか」


「雨が止んだ...。あ、また降り始めた。さっきより強いね」


「火で蒸発されたのか。...少し雨を弱めておこう。爆撃が無効されたんなら、敵の能力者を捕捉するほうが先決だ」


「この雨は神崎君が全部降らせているの?」


「いや、全部じゃないよ。この作戦が伝達されてから、そもそも自然発生するように気象を数日前からいじってた。雨雲自体は基本的にほぼ自然発生した感じにしてる。雨量はいじってるけどね」


「...すごいね」


「...あれ、弱くならない。...日本軍側はそもそも中国側ほど雨は強く......」


爆撃が目的の豪雨は日本軍側まで範囲を広げてはいない。死人兵は仁野が対処していたこともあり、ほぼ拠点の範囲に収まる程度しか雨は強めていない。なんなら火薬に影響がないよう最初から小雨程度にしていた。だが、今の雨は小雨と言うには強すぎる雨。


「っ...」


憂希は嫌な予感から瞬時にその雨を制御する。雨という現象ではないことは瞬時に理解し、水を空中で留める。水のような液体であることには変わりなく、雨とは別にそれが降り注いでいることをその制御で理解した。


「なんだ、何が降って」


「大丈夫!?」


「がっ...ぐぅっ」


「なんだ!どうした!?」


その雨らしき液体を途中で止められたことは、後から考えれば憂希の大きな功績と言える。雨が数十秒降り注いだ瞬間、日本軍本隊に異常事態が発生する。最前線部隊や敵軍が発症した症状が次々に日本軍本隊にも表れる。血を吐き、意識を失って倒れていく。


「これはっ」


「出血毒のような症状...。嘘、どうして」


「くそっ。やられたっ。安楽堂さん、さっきまで降っていた雨が毒かもしれないっ。」


「え、そんな。...こちら救護班から全体に通達。先ほどまで雨に打たれていた人、動ける人は救護班まで。近くに症状が出ている患者がいる場合は今のうちに搬送してください。今、雨は止んでます。雨に毒物が含まれていた可能性があります」


美珠はすぐに全体連絡を入れ、発生した異常事態を知らせる。救護テントでも周囲で次々に人が倒れていく。テント内にいた兵士たちは発症していない。発症原因は雨であることは確実だろう。


『現在、本隊におけるおよそ半数以上に症状を確認。そのうち、七割程度が重症であり、意識不明または心肺停止状態』


「振動隊長っ。今、俺が雨は止めていますっ。今のうちに救護班への搬送をっ」


『神崎上等兵が雨を阻止。重症者から救護班へ搬送せよっ』


「治療してくれてありがとう。俺は振動隊長と合流する。雨の解析も戦場でできるかわからないし、どうするかも相談してみる」


「わかった...。無理しないでね」


「安楽堂さんもね」


憂希は全快ではないが、能力を問題なく行使できるレベルまで回復した。すぐに前線部隊と合流し、敵の攻撃への対処や状況把握のため、会話する必要がある。この短時間で憂希がここまで行動できるようになったということは、美珠の治癒速度もどうやら上がっているようだ。毎回の戦闘で気を失う直前まで能力を行使し続ければ練度も上がるということだろう。


「振動隊長っ」


「神崎か、もう治療はいいのか」


「ほぼ回復しました。..それよりこれって」


「毒と断定するには情報が少ない。そもそも砲弾であれば毒ガスと仮定できるが、雨などの別の物質にも効果を付与できるともなれば条件はまだ絞り切れない状態だ。出血毒の症状に近いだけで、吐血や出血という能力かもしれない。きっかけも付与した何かしらを対象に接触させるということであれば、手段はかなりばらける。」


「死人兵がいる場所にはその能力が充満していて、こちらからは近づけない。...風で吹き飛ばせたかも定かではないし」


「敵の拠点は作戦開始時からかなり変形し、その範囲や防壁の数も増大している。防御は再生もあり、比較にならないほど分厚い」


「火炎の能力は俺が前線基地で対峙した相手の能力に似ています。...同じ規模ではなさそうですが、それでも本領発揮したら日本軍はかなり厳しいと思います。」


「...初撃で堕としきれなかったが故の苦戦か」


能力を理解し、それへの対策が必須となるこの戦争において、自分たちに致命的な状況で能力を正確に理解できていないのは非常に厳しい。強力な能力であればあるほど、その能力はすぐに敵に理解され、対策されるものだ。だが、ここまでの被害が出ている状況でその能力を明確にできていないのは、日本軍にとってとても苦しい状況だ。


「敵の能力が付与された水はどうしますか?」


「...触れる以外でも何か発症条件があるかもしれない。少し遠方で他のものが混ざらないように隔離しておけるか」


「了解。屋根や壁をつけて置いておきます」


この水も成分解析などで能力解明や対策構築に役立つ可能性がある。憂希が瞬時に雨との区別がつかないほど、表面的に症状を発症するような要素は判別できない。水を霧散させては、今後も能力の本質が不明な状態で戦うことになる可能性もある。貴重な情報源だ。


「...拠点に俺が、仕掛けてもいいですか」


「何か策があるのか?」


「上空までは敵の能力の効果は届いていませんでした。何かしらに付与してそれを狙いに放っているとしたら、敵拠点から何も飛ばさせないことが対策になるかと。火炎の能力者を倒したときと同じことをしてみます」


「それでさっきまでダウンしていたんじゃないのか。大丈夫か」


「戦闘が少し長引いて、それでも引き下がれなかったので少し無茶しただけです。でも、やれます。やらせてください」


「自分ができることは一番自分が理解しているか。...わかった、こちらからも砲撃を中心にし、これ以上拠点が拡大しないよう攻撃する。現時点で敵拠点周辺は前線基地ほどではないが、温度上昇を観測している。今度は無茶するなよ。」


「...了解っ。行きますっ」


その場からすぐに飛行で離脱し、憂希は敵拠点へと向かう。可能な限り高度を取り、死人兵が次々に展開し、侵攻するエリアに充満する敵の能力を回避する。上空からでも仁野が死人兵を食い止めていることを確認できた。


「っ...。確かに暑い。でも、あの人の能力ほどじゃない。...自分の拠点だから抑えているのか?...でも前線基地では全開だったよな。...熱が弱いなら、今が狙い目だ」


憂希は拠点から放たれる熱を感じ取るが、上空までは届いていない。小雨がかなり下で蒸発しているのが見える。雨に対する警戒はまだしているようだ。


「ふぅ...」


憂希は能力行使に集中する。死線の中で少し触れた能力の核心。自分の能力を自分自身に落とし込み、出力も規模も引き上げる。憂希の神髄である絶大な規模と瞬間的な威力。そして、様々な属性を複合できる能力。それらすべてを一段階進化させるための研鑽。


「こっちの本部を攻撃してきたのはあなたたちだ。....護りたい人が傷つくなら、戦争らしく容赦しないっ」


今、憂希には迷いも躊躇いもない。目の前で広がった地獄絵図を二度と再現させないように。今できる全力で中国拠点を攻撃する。前兆が一切ない暴風は巨大な竜巻を発生させ、巻き込んだすべてをすり潰す。竜巻の気流を氷点下まで凍結していき、大気が徐々に固体化し、巻き上げる瓦礫や土砂と一緒に氷塊が破壊をさらに加速する。


「天変地異になってやるっ」


竜巻の渦を貫通するように今までにないほどの高電圧で落雷を放つ。親の仇すら自分の武器とした憂希が放つ全力の落雷は分厚さでどす黒い巨大な柱となっていた竜巻を煌々と照らすほど威力。空が裂けたような雷鳴が閃光から遅れて響き渡るとき、帯電した竜巻が解放されたように放電し、周囲を蹂躙する。天災地変の本領発揮が今、始まった。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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