No.85 豪雨のちに爆炎
広範囲の爆発と仁野が放った一撃で展開した中国軍の前線部隊の隊列を一気に崩壊させた。爆発を防ぐほどの防壁ですら仁野の一撃の前ではガラスのように脆い。
「本命はやはりここか。こちらの襲撃は成功したと聞いていたが、この規模の作戦を決行できる戦力が残っていたのか?本当に日本軍に打撃を与えたのか怪しいぞ」
目の前に出現した明らかに強力な能力者に黄は爆発の原因から注意を逸らされた。どんどん拠点側へと広がってくる爆撃も地上部隊の能力者によるものだと仮定して対応を検討するほうが無難だろう。
「今こちらの軍に接触しているのはたかだか一人だっ。数で蹂躙せよっ。能力による誤射はするなよ。多対一の作戦で抑えろっ」
ただ単独突破を許すほど中国軍もやわではない。急遽編成された軍とはいえ、軍人上がりがほとんどを占める兵士において基礎的な統制の練度は高い。能力においては練度がまだ甘い部分は多いが、それでも戦争において戦況を支配するのは作戦と編成であることに変わりはない。
『敵兵はフィジカルが強化されている能力者と思われますっ。銃弾や砲弾では効果がありませんっ。特殊攻撃を中心に対処しますっ』
「くそ、厄介な能力者を保有している。...武器に効果がないというだけで厄介なうえに、あの出力。有効打を探しながら敵本体への迎撃態勢を立て直せっ。くそ、乱戦に持ち込まれてはあたしの能力が使えん。その前に本命を潰すしかない。...なぜ敵兵が単独で突入してきているのにこの爆発は終わらない。味方諸共お構いなしか...。いや、耐久できるフィジカルがあるのか」
『爆発範囲がどんどん拠点側に拡大していますっ。拠点にも防御を展開しますっ』
「防御展開しつつ、敵地上部隊の侵攻を抑えろっ。敵を乱戦に持ち込ませるなっ。敵の動きが停止次第、私の能力で迎撃する」
『了解』
「...地上部隊にいる能力者による範囲攻撃の類か?なんにせよ厄介極まりない。日本本部襲撃でこれらを排除できなかったのは痛手だぞ。やはり、現場に行かずに指揮を執り続けるのには限界がある。現場指揮を執れる司令塔が必要よな。...この作戦を成功させ、実績を基に打診してやる」
黄はひたすらに戦闘の後、自分の未来を考えている。だが、今危惧すべきは直近の未来であることを黄はもう少し意識すべきだっただろう。ほぼ初戦に近い大規模な戦闘において、攻め込まれている側が他に思考を回す隙などありはしない。攻撃手段が予想できないこの能力戦争であればなおさらだ。
『隊長っ。爆発規模がどんどん大きくなっていますっ。また天候も悪化している模様で、雨も大粒になってきており、火薬類に多少支障が出始めておりますっ。またこちらの砲撃のほとんどが空中で迎撃されており、効果は薄い状況ですっ』
「ならなぜ敵の爆発の規模が拡大しているっ。敵は何をこちらに放っているのか早急に報告せよっ」
爆発要因がずっと不明なまま、防御に徹していたがそもそもそれは異常事態だ。起爆しているものがわからないのに対策などできはしない。敵の殲滅と同時並行で敵の攻撃の対策を講じるのは定石だが、奇襲という状況ではそれは簡単ではない。
『継続的に爆発が発生しておりますが、砲弾などの物体は観測できませんっ。熱源のようなものも感知できておらず、敵の爆発手段は不明ですっ』
「...任意の対象の表面全体を爆発する能力。...いやそれでは継続的な爆発としても発生個所がランダムすぎる。余すところなく爆破するなら対象を同時タイミングで起爆するはずだ。その方が逃げ場がない。...それに耐えられるとはいえ、絶対にダメージを受ける爆発エリアに味方を突入させるか...?起爆要因を理解しているからではないのか?」
黄は現場からの情報を頼りに発生している問題の考察に入るが、能力を見抜くということは簡単ではない。憂希や仁野などですら現場で実際にその能力と対峙し、その能力の効果を目で見て、肌で感じているにもかかわらず、即答できることはほとんどない。一般社会では考えられないような事象が目の間で起きるのだ。通常の感覚からすればパニックになるような光景を正確に捉えることは至難の業だ。
「まずは能力中心の迎撃に切り替えろっ。遠距離攻撃ができる者、防御手段があるものは前線へ回れっ。同系統の能力者は固まって動け。その方が効果が大きくなる。武装兵はいったん後方へ退避しつつ迎撃せよ。拠点側からの迎撃であれば効果は出るっ」
『了解。空軍部隊から出動準備完了との連絡あり。どうしますか』
「まずは無人偵察機を先行させ、それに続くよう少数で出動せよ。敵本隊を叩け」
中国拠点から次々に戦闘機が発進していく。現代兵器において主力となる戦況支配力はこの能力戦でもまだ現役だ。
『隊長ッ。爆発エリアに侵入した瞬間、無人偵察機ならびに戦闘機も起爆っ。第一部隊が全滅しましたっ』
「なにっ。.....地上だけではないのか。戦闘機は出撃停止っ。私の能力を使い敵の動きを封じるっ。特殊弾の準備状況はっ」
『完了しておりますっ』
「前線部隊は本陣へ後退しつつ、突入してきている敵兵から距離を稼げっ。私の能力の巻き添えになりたくなければな」
『了解』
「兵器による爆撃でないのであれば、能力者を殺せば解決する。もうこれ以上好きにはさせん」
これ以上の打撃は致命的になる上に、対策が進まないままでは拠点が堕とされるのも時間の問題だ。黄はこの状況を打開するため、切り札を出す。
「あれ、何か下がってない!?敵軍が下がってる気がする!」
『前線維持が苦しくなったか、何か仕掛けてくるかのどちらかだ。まだ油断するな。本隊ももう少しで敵拠点を射程内に捉える。一気に叩くぞ』
「了解っ」
仁野は中国前線部隊の動きに感づいた。しかし、その狙いまでは理解できない。とはいえ、日本軍の狙い通りではあった。敵が何かしら対策を打ってくるのは想定内である。それを凌駕するための日本軍側の切り札はまだ投入していない。作戦の押し付け合いこそ戦争だ。
「うちから逃げられるわけないっしょ!」
中国の日本本部襲撃の前から始めたボクシングで磨いたフットワークと反射神経を存分に発揮する。仁野が敵陣をわざと駆け巡ることで、地面に到達する前に仁野への接触で起爆した雨がどんどん起爆していく。その起爆前に仁野はその起爆範囲を離脱する。さらに、駆け巡るだけでなく要所要所で重い一撃を叩き込み、場を乱す。
「え、なに!?」
その時、空中で大爆発が発生する。今まで砲弾が雨に触れて発生した雨とはまた異なる。明確な差はその爆発が火薬による爆発ではないという点だ。
「なんか空中で爆発した!なんか降ってきてる...?」
闇夜では光を発生しない爆発は目視が難しい。しかし、雨の爆発で照らされたとき、明らかになにかが霧散しているのを仁野は目視した。
「ぐっ...ゴフっ。がっ」
「うぐっ...やば...」
「なんでここに落としてんだっ。へたくそっ...がふっ....」
その直後、仁野の周囲にいた生存している中国軍兵士たちが次々に血を噴き出して倒れていく。銃弾や爆発ではない。各兵士の体内から異常が発生している。
「え、なになになに!?なんか敵が皆血を噴き出して倒れちゃったっ。さっきの爆発なんかしてきてるかもっ」
『一度そのエリアから離脱せよ。仁野一等兵は何ともないのか』
「うちは今んとこ全然平気っ。苦しくもなんともないですっ。え!?やば!?その爆発がめっちゃ起きてる!本隊狙ってなんか撃ってきてるかもっ」
『了解。迎撃態勢をさらにレベルを引き上げる。仁野一等兵は引き続き前線の押し上げを行いながら、爆発エリアから一定距離を維持しろ』
「了解っ」
中国軍が仕掛けてきた攻撃の正体は謎だが、仁野にその効果は出ていない。だが、中国軍側が何か仕掛けてきていることは明白である以上、警戒せずにはいられない。
「仲間なのに。...一番前に立って戦っているのにこんなっ。...許せないっ」
味方への影響を考慮せずに放たれた敵軍の残酷な策に仁野は怒りを覚える。ヒーローに対峙する悪役が行う姑息かつ非人道的な手段に酷似している。
「戦争関係なく、命を軽く見てる人、めっちゃムカつくんですけどっ」
血を吐きながら、倒れながらも仁野に向けて銃や能力を放つ兵士たち。その攻撃をすべて受け止めるようにはじき返しながら、仁野は静かに怒りに燃える。普段の生活ではシワが寄らない眉間に力が入る。
『こちら神崎。本隊に合流しました。遅れてすいません。花菱さん、いつでもいけます』
「...憂希君っ。...よかった、無事だったんだ」
その表情はすぐに安堵へと変わり、仁野は我に返る。憎むべきは戦争そのものであり、個人ではない。どんな非人道的な作戦も戦争が起きなければ実行されることはなかった。そもそも日本本部を襲撃した中国軍に、敵である自分たちが期待するほうが間違いだ。
『こちら花菱です。神崎上等兵、雨量をさらに引き上げられますか?可能でしたら、あとはこちらで次の作戦に移行します』
『対応可能です。徐々に引き上げます。タイミングはお任せします』
さきほど雨が少し激しくなったのは憂希が日本軍本隊に合流したから起きた事象だった。まだその程度しか回復していないため、戦線に復帰するのは困難だが、それでも本命の作戦は実行可能である。
『了解。では次の作戦に移行します。仁野一等兵は本隊まで撤退してさい』
「了解っ」
仁野はすぐにその場からロケットのような衝撃を放ち、跳躍で本体まで離脱する。雨の存在を意識させないように離脱の軌道ですべてを回避するという神業を見せる。雨すら意識すれば止まって見える仁野の身体能力が成せる芸当だった。
中国本隊はこの日本軍の動きに困惑する。ただでさえ、思った以上に手前で切り札を迎撃され、その効果が薄いどころか、理由不明で仁野には効果がなかったことから味方を巻き込んだだけという大打撃を受け、混乱を見せている状況だった。
「くそ、まともに敵軍まで到達しないのであれば効果が発揮されん。これでは自爆ではないか。しかし、こちらの能力を察知されたか?大立ち回りをしてくれたものだが、離脱させることができたのは大きい。前線を下げ、こちらの能力範囲におびき出すまでだ」
『前線部隊より通達っ。上空に雨がまとまっていきますっ。作戦エリア全体を覆うような量ですっ。落下しながらまとまっていきますっ』
「ただの雨水の集合体であれば能力者部隊で蒸発させろっ。一点集中で放てっ。...くそ、奴の能力があれば雨水程度」
この爆発の本質を見抜けていない中国軍はたかが雨水と侮っていた。環境を利用することなど、能力の有り無し関係なく一般的な戦術だ。大量の水というだけであれば、能力者による迎撃で十分事足りただろう。しかし、この雨は爆弾である。上空へ迎撃しようと天に顔を見せたものから次々に襲い、その迎撃すらままならない状態で、傀の能力により爆発することなく一体化した大量の雨水は、存分にその役割を発揮する。
「なっ....」
投入した前線部隊の全滅。それがなぜ雨水を起点に発生したのか理解できない黄は、目の前を白く染めた光と、轟音よりも早く到達した爆風にただ絶句することしかできなかった。
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