No.84 日本の反撃
劉の意識は朦朧としており、無我の境地とも呼べる状態で本能的に行動している。文字通り、火事場の馬鹿力だ。
「ああああああああ!!!」
周囲を取り囲む死の冷気をまとった暴風に猪突猛進的に突撃する。爆破し続ける彗星のような破壊力を持った劉の突撃は通常であれば通過するだけであらゆるものを融解し、貫通する威力を持つが、絶え間なく超高速で回転し続ける銀の暴風には熱の効果は与えられても、その貫通力までは維持できず、はじき返される。
「ぐっ...がああああ!!」
何発も火球や火炎放射を放つも、劉がいるその空間は気温が急激に低下していく。暴風に到達するころにはその威力はかなり減少しているため、銀の暴風に対して有効打とはならない。
「ぐっ...かはっ」
自分の燃焼と大気の急激な冷却により、大気中の酸素がどんどん無くなっていく。能力の過剰行使で息が荒くなる一方なのに、吸う酸素がない。いくら吸っても呼吸できている感覚が掴めず、劉はさらに意識が朦朧としてくる。
「っ!?ぐあああああ!?」
そこに追い討ちをかけるように取り囲む乱気流から劉に向けて真空になりつつある大気中を高電圧の雷撃が放たれる。銀の暴風と雷撃の監獄は劉をどんどん追い詰めていく。
「ぐっ……がっ……」
とうとう劉は完全に気絶し、そのまま大量の水が発生している地面へと落下した。劉が着水する前から水は蒸発していく。大量の蒸発はどんどん劉から熱を奪っていった。
「はぁ…はぁ…くっ…はぁ…」
憂希の限界ギリギリで極限状態での戦闘は憂希に軍配が上がった。
「ぐっ…くそ」
劉の技術を真似しようと試みたが、再現することはできなかった。それでもその挑戦により憂希の攻撃は格段に威力を増し、複数の現象を併用することで結果的に劉を攻略することができたのも事実だろう。だが、憂希の任務である前線基地の破壊から中国領土への侵攻を実質的に止めることに成功したことを考えれば、戦争として勝ったのは迎撃に成功した劉だと言える。
「もっと…できることかある…」
憂希はその場に崩れるように座り込む。体力の消耗を回復しないことには飛行して本体を追いかけることもできない。
「敵と一対一で戦うと…グレード1のくせに苦戦してばかりだ」
劉にとどめを刺すことすらできていない。無事では済んでいないだろうが、自身の熱量でダメージを半減され続けたことを考えれば、攻撃のダメージとして致命傷を与えられてはいない。あくまで持久戦としての勝利だろう。能力としての勝負には負け、戦争という戦いには勝ったようなもの。その不甲斐なさと能力者の持つ可能性に自分の未熟さを痛感した。
「あの人は...どうなった」
戦っていた敵は憂希が生み出した大量の水に沈んだところまでは確認できたが、その後まではわからない。生きているのかすら不明だ。
「...とにかく、本隊に合流しないと」
まだ能力を使えるまでは回復していないが、それでも歩を前に進める。ここで休んでいる暇はない。前線基地でこれだけの能力者が配置されている。そうなれば日本軍側に重きを置いている今、中国領土の中枢には対日本軍用軍事基地には相当な兵器や能力者が配備されていることだろう。前線基地が想定よりも苦戦したことから迎撃態勢を整えられている可能性もある。
「雨は...まだ降っている」
憂希の作戦はまだ継続できる天気だった。その雨が降る先に日本軍は活路を見出しているのだ。
日本軍に前線基地の襲撃を受けた中国軍は遠方に観測する完全に異常事態でしかない温度変化と通信途絶に全力で警戒態勢と情報収集に動いていた。
「くそ、だから前線基地という重要な拠点に奴を配属するのは反対だと言ったのだ。無人偵察機は?」
「丹毅隊長の能力の影響で戦闘エリアに接近する前に融解してしまい、情報はほとんど取れていません。ただ、衛星からの映像では広範囲で異常気象が発生している様子が確認されたため、能力による戦闘が発生していたものと思われます」
「温度観測ですらそんなことはわかっている。欲しいのはもっと具体的な情報だ。そんなこともわからんのか」
「も、申し訳ありません」
「この基地周辺の異常はないんだろうな?ここが傾けば今後の作戦に影響が出る。我々の失態となることを肝に銘じて動け」
「り、了解っ」
慌ただしく状況確認をしているが、様々な手段が劉と憂希の戦闘により麻痺している。多少距離があるとはいえ、大量の大気が急激に熱膨張したり、固体になるまで冷却されたりした影響はある。夜なこともあり、視界はかなり悪い。一気に爆破されたこともあり、情報はほとんど何も入っていない。
「能力者は前線基地に向けて出撃を開始。状況と敵軍の規模、数、陣形を確認せよ。こちらの警戒網を突破して攻撃してきたことを考慮し、全方位への警戒を常に行え。その情報を基に私が指揮を執る」
「「了解」」
「この黄 仁壺にこれ以上泥を塗ってくれるなよ。将軍に任命されてすぐに失態など、ありえん。私の昇進を蔑ろにしてくれるな」
黄は対日本軍用軍事基地における基地司令にまで上り詰めたことにすがっていた。今まで各基地の全権が王一人にあったこともあり、中国軍の中でその空席を狙う人間はかなり多かった。そんな中で手に入れた能力とこれまで様々な手でのし上がってきた立場がついに認められた矢先、この異常事態である。
「奴が前線基地を死守できなかったのは思わぬ朗報だが、尻拭いまで面倒を見る義理はない。...ここが正念場だ。ここで防衛、迎撃を成功させてこそ格の違いが謙虚に出るということだ」
常々、自分の保身と昇進が頭を支配している。劉とは異なり、生粋の軍人上がりであり、頭の切れと実力は周囲からも認められているが、あらゆる方面で悪い噂は絶えない男。実際、そのほとんどが事実に基づいている点と能力によりさらにそこに拍車がかかっていることを踏まえると、そこもまた劉とは違い、部下の目線は信頼ではなく恐怖に近い。
「何も感知できぬまま、襲撃を許すなど、この現代においてそこまで不可解なことが起きるわけがない。敵が接近していることは明白だ。敵影さえ掴めば、そこから攻撃手段や作戦はある程度絞れる。そうなればこちらは優位になるよう作戦を組み立てればいい。...奴のように直観で応戦しては何の成果にもつながらん」
どうにも劉が目の上のたん瘤のように感じているようではあるが、それでも方針としては非常に建設的だ。
『航空機レーダーは雨雲が分厚く正確なデータが観測できません。引き続き周辺を警戒します』
「了解。...くそ、天すらこの窮地においてさらに追い込んでくるとは。見放されたような気分になるな」
憂希が発生させた雨はここ数日ずっと大地を濡らし続けている。その雨雲は気象変動で影響を受けないよう、通常の雨雲の数倍分厚いものを広範囲に発生させていた。衛星カメラから見えれば中国全土を覆い隠しているように見えるだろう。
『前線基地より我が軍と思われる軍事車両がこちらへ向かってきています。ライトでモースル信号をこちらに送ってきていますが、誰が搭乗しているかは不明です』
「...敵味方どちらにしても最重要ターゲットだ。装甲車の搭乗者を早急に確認せよ。味方であれば前線基地で何があったかを確認できる。敵であれば偽装による襲撃だと断定できる」
『...車両から身を乗り出してこちらに手を振っていますっ。...味方ですっ。回収しますっ』
「よし、これで情報が多少揃う」
『さらに後方から敵軍と思われる地上部隊が接近中。中隊以上の規模だと思われますっ』
「な、地上部隊?前線の戦闘はさきほど沈静化したのではなかったのか。...地上からの接近で奇襲が成功するわけがない。地上部隊との戦闘にしては戦闘収束まで早すぎる。.....迎撃態勢および敵軍への攻撃開始っ。地上軍は能力者を中心に編成。砲撃で敵の出方を見ながら敵軍を囲むように陣形を取れ。数はこちらが上だ。囲んで蹂躙する。また、敵の軍は地上部隊以外にも投入されている可能性がある。目の前にぶら下げられたものだけに集中するな。この基地への攻撃を一切許すなよっ。敵軍の本命が明らかになれば、私の能力を使って一掃する」
「...最初から黄隊長の魔術で一掃しないのですか?」
「バカ言え、こちらの能力を知らぬ敵を相手に最初から切り札を使ってはその対象が本命ではなかった場合、それに対策されればこちらが不利になるのがわからんのか」
「し、失礼しました」
黄は通常の地上部隊であれば一掃できると確信できている強力な能力である。ただし、魔術や魔法という概念は能力に存在していない。黄も何かしら規則性のある能力のはずだが、部下の認識は魔術の類で浸透しているようだ。
『こちら前線部隊っ。部隊の展開完了しました。これより迎撃開始しますっ』
その迎撃にタイミングを合わせたかのように再び日本軍の爆撃が開始される。その匙加減は分厚い雲のさらに上空で敵の感知をかいくぐっている花菱による。前線基地にも憂希が出現したことから上空の本命には勘づかれず、作戦を続行できているのが大きい。
『こちら前線部隊っ。急に爆発が発生っ。何が起きているのかうわっ!?防御態勢を取れっ。見えない攻撃かもしれないっ。こちらの兵を囲えっ。うわあああ!?』
「なにっ。何が起きた!?くっそ.....。爆撃か?なら上空からもしくは砲撃。.....地上部隊が砲撃を感知できないはずがない。あの雲がありながら正確に地上部隊を狙えるのか?...このタイミングも偶然ではない。...遠距離攻撃のできる能力者は上空の雨雲に向かって攻撃せよっ。防御は地上部隊方向だけでなく上空も覆うように展開しろ。爆撃の可能性がある」
『了解っ』
「なんだこの量の爆発は。砲弾が見えないにしても多すぎる。同時にこの範囲を攻撃できるのに視覚できないなど....あり得るのか」
『敵地上部隊から急速に何かが接近してきますっ。人だと思われますっ』
「今度は何だっ」
戦闘機よりも速い速度で地上を爆走することができるのは日本に一人しかいない。様々な攻撃をその身一つではじき返しながら単独で突貫する。
「このままうちが一撃入れて敵部隊を倒しちゃうからっ。爆発はこれくらいならうちは平気っ。何なら雨だって避けちゃうよっ。じゃあいくよ!『ステラ・インパルス』!!!」
その一撃は爆発の雨よりも強力かつ、防御壁など紙同然に破壊する威力を誇る。空中に舞う雨すらその衝撃で起爆することでさらにその効果範囲を広げ、開戦の一撃としてはこれ以上ない攻撃となった。
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