No.83 融点と氷点の衝突
憂希は能力自体ではなく、能力者自体に驚愕することは初めての経験だった。No.999は驚愕というより生物としての不気味さが勝っていた。明らかに尋常ではない能力行使に一切怯まない劉の戦意。まさに炎のごとし戦士。
「ゴフッ、ゴホ。ああ~あんた絶対強えやつだろ。グレード1とかだよな?文字苦手で資料読んでねえんだ」
「...はい。グレード1です」
隠す必要もないと思い、憂希は正直に答える。手元で通信機の再起動を試みるがうまく起動しない。この灼熱地帯の状況を把握できていないため前線基地への追撃はほぼ停滞していた。とはいえ、中国の前線基地はほぼ全壊している。そのため、日本軍は中国領土内に侵攻する準備を進めていた。憂希もそう予想し、この前線基地を完全に落とすことに集中する。
「じゃああんたを倒すことが俺の任務だっ」
常に内部に莫大なエネルギーを作り続け、それを起点に手足から放出することで一瞬で最高速度に到達する、外的要因を一切受け付けない最高火力を維持することができる。それは攻撃力でも推進力でも変わらない。
「確実に防御できる手段を見つけないとっ」
憂希は高速で飛行し、劉の突進を回避しながら分厚い岩盤の壁を幾層にも重ねた防壁を形成し、劉の突進を防ごうと試みる。
「無駄だっ」
しかし、ただの壁では劉から放出する熱で融解し、衝撃波のように発生する熱気で消し飛ばされる。
「あの熱と突撃の威力を無力化するには...」
いくら水蒸気爆発や衝撃波で物理的なダメージを与えようとしても、劉が発生させている大量の熱気は常に爆発し続けているような爆風を生んでおり、その爆風で威力が削れらてしまう。しかし、こちらの防御は火力で消し飛ばしてくる攻防一体の状態を維持している。
「おらおらおらおらあああああ!!!!」
どんどんその速度を上げながら縦横無尽に飛び回る劉は彗星のように発光している。当たればその火力と衝撃で木っ端微塵にされるほどの威力となるだろう。炎の光は残像を残し、劉は光の軌跡を残しながら飛び回っている。
「熱を相手にするのは初めてじゃないんですよ」
熱で何もかも融解されるのであれば、融解されているものを操作するという発想。地中の奥深くから地面にかけて一気に温度上昇させ、溶岩を地表に噴出させる。それを水と同じ要領で流体として操作し、劉をその中に閉じ込めていく。
「なんだよ!?やっぱなんでもありかよ!!」
「時間稼ぎをさせてもらいます」
このまま閉じ込め続けて持久戦に持ち込めば憂希は危なげなく勝利することができるだろう。だが、それではこの戦いにおいて憂希の成長はない。憂希は無意識に効率的な勝利より自身の成長を求めて戦っている。それは劉の熱量にあてられたとも言えるだろう。
「くそっ!!こんなのすぐに!!」
溶岩の牢獄の中でひたすらに火力を上げ、消し飛ばすために四方八方に火炎を放つが劉の体のように抉れても次々に再生していく。
「さっきの感覚を...もっと...」
憂希はその間にまた自分の体温をどんどん下げていく。だが、今回のイメージは温度ではない。自分の体を氷にしていくような感覚で能力を使う。何よりも冷たく、周囲を凍てつかせるような状態。氷の塊ではなく雪の集合体のような感覚。
「あの再生力を...俺も」
腕が欠損しても、傷を負っても、戦闘を継続できることを間近で目撃した。能力的に上位互換であればなおさらその領域までいかなければこの先通用しない。ロシアのグリゴリーは自身に不変を付与し、絶対防御を完成させていた。No.999も不死性の再生力を向上させ、環境や状況に適応していた。能力を自分にも使い、状況を有利にすることができるなら、その可能性には挑戦しなければならない。そう憂希は考えている。
「周囲を変化させるのではなく、自分の中にその最高出力を常に発生し続けながら...とどめる」
ここで劉と同じ炎熱系を選択しなかったのは劉に対抗する術を明確に構築するためだ。決定打に欠けるこの状況を打破することが最重要である。
「ぐっ....」
手先の感覚は無くなり、動かそうとすれば筋肉や骨にひびが入ったような痛みが走る。だがそれはまだ能力行使の練度と精度が足りていない証拠だ。あくまで体を冷凍しているだけであり、体に能力を宿すような本質的な効果を出せていない。
「体を...冷やすんじゃなく。...俺自身のすべてに能力を...まとわせる。...染みこませるように」
「おらああああああああああああああああああ!!!」
憂希がその場から動かず、能力に集中している間に溶岩の牢獄を自分を中心に全方位へガスバーナーのような高出力の火炎を解き放つことで溶岩すべてをを諸共消し飛ばした。その火炎と熱気で施設がさらに炭に変化していき、融解した地面が波打つように剥がれていく。しかし、その炎に侵されようとも憂希には一切効果がない。それどころか憂希の周囲は融解するどころか冷気を帯び、霜が降りている。
「俺より温度が高いなら俺が上回ればいい話だ!!!」
「まだ...まだだ」
「ぐっぐうう!?」
憂希はまだ劉の領域まで到達していない。今できる限りの有効打として雷撃を何発も撃ちこむ。炸裂する稲妻と雷鳴が轟き、次々に劉へ叩き込まれる。その衝撃と電流による動作阻害がさらに時間稼ぎとなる。
「体動かなくても関係ねえぞ!!直接燃やすっ」
「ふぅ...すぅ...絶対零度を自由に」
「なっ...」
憂希を直接燃焼させる火炎を発生させたが、憂希は一切燃焼しない。それどころかその周囲の温度すら上がらない。次々に雪や霜のような結晶が降り始め、地面に積もっていく。憂希を中心に凍結がどんどん広がっていく。
「外に出しすぎないように...俺自身が....」
イメージを重ね、集中をさらに高める。自分の体を冷たくするだけではなく、冷気や氷そのものへと変貌していくようなイメージで能力を使っていく。
「くそっ...なんでなんも効かねえんだ!?...だったら無理やりにでも直接叩き込んでやるぜ!!」
雷撃を叩き込まれているのにもかかわらず、自分の背面から無理やり火炎を放出することで推進力を生みだし、憂希に接近し、物理攻撃に乗り出す。
「くそ、まだ感覚を掴めてない。...だがっ」
まだ劉の領域まで自分に感覚を落とし込めていないが、そのまま憂希は何度も一瞬で消し飛ばされている氷壁を形成する。
「無駄だって!!...な!?ぐっ」
しかし、劉の熱気だけではそれは無力化できなかった。なんなら一切溶けてすらいない。明らかに氷としての強度と温度がさっきまでとは異なっている。軌道を変えきれなかった劉はそのまま氷壁に衝突し、劉が触れてからやっと表面が溶け始めた。
「冷...痛って!?」
その氷は冷たいという領域を完全に通り越した温度まで下がっており、通常なら触れた瞬間壊死するレベルだが、維持していた火力で相殺することで何とか耐えていた。
「逃がしませんっ」
縦横無尽に移動していた劉の動きを止めたこのチャンスを憂希は逃さない。劉が触れた氷壁から瞬時に氷結を伝達し、劉を完全に包み込む巨大な柱のような氷塊を形成した。一瞬で周囲の軍事施設よりもはるかに大きい氷柱が形成されるほどの冷気が憂希の中に閉じ込められている。
「ぐっ...冷気を最大に!」
『こちら花菱で...。神崎上.....こえますか?』
「はいっ、聞こえますっ」
通信機が回復したのか、花菱からの通信が入り、それに憂希が応答する。
『そち...の状きょ...しえていただ...ますか』
「敵軍の炎の能力者と対峙中。前線基地は壊滅しましたっ。作戦を続行してくださいっ。能力者は俺が相手しますっ」
『了解。健闘を祈りま...』
「ありがとうございますっ。あとから合流しますっ。」
ここで本隊とコミュニケーションが取れたのは大きい。劉と対峙したことで作戦が中断してしまうと敵軍が体制を整えてしまう。そうなれば奇襲作戦が通用するかは怪しい。日本軍側の動きや攻撃手段の情報が入っているため、何なら不利になる可能性すらある。
「くっ....どれだけ冷気を上げても下がり切らない。...なんならどんどん熱くなってる」
下限がある温度において、上限の無い加熱に対抗するとなれば長期戦はかなり不利だ。起点である劉自身の温度をどんどん上げられては、憂希側はジリ貧となる。
「この間に...」
しかし憂希はそれだけで解決しようとはしていない。そんな一辺倒な策で突破できたことなんて今まで一度もない。だからこそ、現状を常に更新し続けなければならない。
「ぐっ...」
氷結の能力を全力で行使しながらその他の能力を行使するのは、ここまで戦闘で能力をかなり使っていたこともあり、さすがにしんどさが出てくる。
「この基地はすべて...破壊する」
巨大な氷塊を中心に巨大な竜巻を発生させ、前線基地の施設を地表からすべて剥ぎ取る。その乱気流に水分と氷の粒を流し込み、雷を大量に帯電させる。地面を熱をすべて奪うように巨大な湖のような大量の水を広範囲に発生させ、全身全霊で能力を使って挑む体制を整えた。
「ぐっ....くっそ」
気絶しそうなほどの倦怠感と今までの戦闘で受けたダメージによる痛みが今更になって自己主張を始める。だがそれを理由にここで力を緩めるわけにはいかない。競り合うことではないはずだが、それでも敵が命を懸けて挑んできている状況で、少しでも加減すれば一気に持っていかれるだろう。
「っ...出力が追い付かない」
他に能力のリソースを割いたことが主な原因ではないが、それでも火力上昇に集中し、自分自身が火炎そのものとなっていく劉の炎は憂希の氷結を凌駕していた。
「だあああああ!!!があああ!!」
もう意識があるのかないのかすらわからない状態で氷結を突破した劉は太陽そのもののような熱を放ちながら空中へ繰り出した。
「卓越した能力、これから脅威となるでしょう。だからここで...あなたを倒します」
展開していた稲妻をまとう巨大な竜巻は一気にその姿を銀色に変える。巻き込むものをすべて氷結しながら切り刻み、引き裂く乱気流はどんどん絶対零度に近づいていく。固体化していく大気と竜巻の内外の気温差でさらに激しさを増していきながら、劉の火炎を削り取りにかかる。火炎と氷雪の正面衝突が始まった。
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