No.81 夜の日照り
火炎による熱で雨が地面に到達する前に蒸発したことで花菱の能力による爆発が発生しなかった。花菱の能力は起爆条件を任意で設定できる。時限式、衝撃感知、熱感知など起爆の要因となり得るものを条件に設定した上で、対象に爆破属性を付与する。条件が満たされれば例え水であっても熱で爆発する。逆に言えばその条件以外で爆発しないようにすることもできるということだ。
「敵が炎の熱で雨を蒸発させていますっ。着弾前に雨が消されていますっ」
『了解。起爆条件を熱に切り替えます。神崎上等兵の能力で起爆しないよう注意してください』
「了解。敵はかなり温度を高くしています。低い温度で起爆するようにすると地上からかなり高い位置で爆破するかもしれません」
『アドバイス感謝します。神崎上等兵の能力で雨水の水温を維持することはできますか』
「やってみます。炎直撃に対応できるかはわからないですが、周囲の熱には負けないと思います」
『了解です。それを雨にお願いします。継続して敵前線基地を破壊します。敵能力者の対処はお任せします』
「了解」
ロシア戦とは異なり、地に落ちる雨を無効化されているわけではない。日本軍側はすぐに状況を分析し、次の手を講じる。雨という人が共存することを選んだ回避困難な自然現象に爆破という強力な力を加える戦法は防御がかなり難しい。初撃で致命的なほどの被害を出す戦法は単純な爆撃や砲撃よりも戦略的だろう。
「劉隊長っ。被害甚大ですっ。ほとんどの兵装が破壊されましたっ。死傷者多数。前線維持は極めて困難ですっ」
「マジかよっ。それ本部に報告してほしいっ。皆いったん逃げる準備してっ」
「了解。迎撃はしますか!?」
「できる範囲でやってほしいけど、いったん俺が対応するっ。敵の位置はわかってる?」
「いえ、何が爆発しているのかすら不明です」
「おっけ~。...俺の炎で爆発が止んだから見えないなんかが飛んでたかも。まあよくわからんから周囲一帯を焼き尽くすっ」
「前線基地は放棄して撤退準備をしますので、被害は最小限でお願いします」
部下との会話を終えた瞬間に劉は特に狙いを定めることなく炎をかなり高い位置に展開する。炎の屋根を作り、雨をすべて遮るように防御を展開する。
「え!?」
しかしその炎は劉が想定していない動きを見せる。高度を維持したまま炎上するように能力を行使したはずなのに、そのまま流れるように炎は前線基地に広がる。
「なっ、どういうことだよ。...爆発だけじゃないのか?」
劉は直観的にそれに抗うのではなくすぐに炎を消滅させた。その直感は衝撃から熱に爆破条件を変更した雨にも有効となり、降りしきる豪雨は普通の雨のように地面を濡らす。
「なんだ...何を仕掛けてきてる。てか何が爆破してんだ?」
「劉隊長っ。朝鮮半島側より敵影を感知しました。地上をこちらの前線基地に向けて侵攻中です」
「ってことは日本軍ってわけか。..なんか日本本部に仕掛けただの言ってたか?やり返しに来てんじゃんかよ」
「どうしますか」
「え~?地上のやつらはとりあえず迎撃だろ?報告はいつも通り任せた。爆発もその部隊ってなら潰せば解決だ。俺がやる。とりあえず撤退準備しながらいい感じにやってくれ。俺はとりあえず向かってきてる部隊をぶっ叩く」
「了解」
劉はそのまま前線基地に向かう日本軍に向けて走り出す。策と呼べる策はないまま、敵軍にただひたすらに直線的に迎え撃つ。
「雨が降ろうが槍が降ろうが、俺の炎は消せやしないぜ。おら!!」
その威力と勢いに全振りしたような火炎放射を日本軍の地上部隊へと思いっきり放つ。しかし、その火炎放射は日本軍に届くことはない。
「ぐああ!?」
その炎が放たれた瞬間、可燃性ガスが充満していたかのように劉の周辺が一気に爆発する。走り出した距離よりもさらに長く劉は吹き飛ばされ、施設の壁に叩きつけられる。
「ぐがあ....っ。,,,は?どういうことだよ....」
劉は目の前で発生した大爆発で吹き飛ばされはしたものの、火傷などは一切くらっていなかった。爆発における熱の影響を一切受けていなかった。爆発となれば火を制御できる憂希ですら、配属当初無理やり抑え込もうとしてひどい傷を負っていた。仁野のような常時発動型でなければ基本的に生身と同じ体のはずが、劉は一切炎のダメージがない。
「くそ、何が起きた?さっきは炎で爆発は収まったはずだろ...」
爆発により数瞬の間が空いた後に雨はまた地面と一緒に世界を雨音に染める。
「何が何で起爆してる...。くっそ~わっかんねぇ。難しいんだよもっと簡単にしてくれ」
劉は推察や考察の類が苦手である。わかりやすい火炎という能力で助かったと思っていた。複雑な能力ともなれば例えグレード1だろうがそれ相応まで使いこなす自信はなかった。だが、直感的に炎連想することならなんでもできるというわかりやすさと劉の性格はかなりマッチしていると言える。だが、戦争においては複雑な状況、理解不能な現象は頻発する。この能力戦争においてで言えばさらにそうだ。
「ああ、もうやめだっ。ただ爆発するだけなら致命傷にはならねえ。一気に全部燃やし尽くしてみてからまた考えるっ」
劉は性懲りもなくもう一度火炎を放つ。しかし今回は限定的な炎の放射ではない。自分を中心に全方位へ向けて炎を爆発させるように解き放つ。爆発を相殺するような勢いと熱を解き放った瞬間、当然その熱に反応した雨水は降っている雨粒だけでなく地面を濡らして夜にきらめいている雨水ですらその対象となった。踏みしめている地面すら花菱の爆発で抉れるように吹き飛ぶ。
「があああああ!!!」
しかし、その爆発ですら自分の爆発的な火炎で上書きするように上回ることで実質的に無効化して見せた。これほどごり押しな対策はないが、それでも能力の規模や威力で上回るというのはこの能力戦においては重要な勝ち筋である。
「よっしゃあこのまま敵軍側を焼き尽くしてやるっ」
後先など考えない消耗が激しいなんてものでは済まないほどの大放熱で一定距離で無理やり雨の爆発を誘爆させ、その火炎を放つ方向をどんどん日本軍側に向けて絞っていく。
「っ!?」
しかしその絞って放った灼熱の光線はジェットコースターのレールのように曲がり、劉に帰ってくる。劉自身に能力が刃向かってきてるような状況。
「くそっ」
回避すれば自分の後ろにいる仲間や施設に被害が及ぶことを察知し、劉は咄嗟に自分が放ったはずの灼熱の光線を両手で受け止め、その手の中に抑え込む。
「ぐっ、うぅううぐううあああ」
劉はただ抑え込むのではなく手の中で炎の対流を作り出し、循環させることで勢いを効率よく逃した。持ち前の能力センスが光る。
「へへへっ。炎で俺に勝とうなんて百年早いって話だ。……だが、すぐ近くに誰かいんのは確定だよな。これで炙り出す!」
手の中に収めた高エネルギー体をそのまま上空に向けて打ち上げ、空中で大爆発を引き起こす。発光と爆発の規模は花火の何倍もの大きさになる。
「……っ。いた!」
夜空を白く照らした中に黒い影を見つけ、この事態を引き起こした犯人と断定し、一気に仕掛ける。
「っ!?どこに、ぐああ!?」
だが、その影を認識した瞬間に発光で目が眩む。姿を見失ったその相手は瞬きの間に目の前に出現し、劉自身が衝撃により吹き飛んでいた。飛ばされていることを認識した頃にはすでに何かの壁に衝突し、止まっていた。
「何者だよっ!」
さっきまで自分がいた位置に反射的に反撃するがそこには誰もいない。
「なっがばばぼ!がば!」
動揺した隙に海や川など近くになかったはずなのに劉自身は気がつけば水の中にいた。咄嗟に周囲へ放熱し水を蒸発させようとするが、一気に大量の水が蒸発したことによる水蒸気爆発が発生し、また劉は吹き飛んだ。
「がっ…ぐっ」
炎が関係ないただの衝撃はさすがに劉にも効果があり、地面に転がりながら痛みに喘ぐ。
「やっぱりずっと炎を放ち続けているのか、炎の特性を体に宿し続けてるのかどっちかだな」
劉の前に能力で圧倒した憂希が姿を表す。様々な手段での攻撃で劉の能力をおおよそ掴んでいた。
「……っ、誰だお前は!?日本軍か!」
「名乗るつもりはないです。恨みつらみだけで戦ってるわけじゃないけど、今回の奇襲は文句を言われる筋合いはないです。戦争なんだ、お互い様でしょう」
「くそ、何言ってるかわからねぇよ!日本人!」
中国軍の翻訳能力者はどうやら撤退したか戦死したかでこの場に能力の効果は残っておらず、憂希の言葉は劉には届かなかった。
「あなたを戦闘不能にすれば作戦は続行できる。こっちの作戦は継続させてもらいます」
「……これで勝ったつもりならな、甘いぜおい」
だが、この状況においても劉は一切諦めてなどいなかった。歯応えのない相手より、苦戦を強いられる強敵の方が燃える。自分が全力で戦った先に更なる高みがあると考えている。
「こっからだろ!」
劉の周囲一体の温度が一気に上昇する。地面のアスファルトが融解していくほどの熱。炎のみを扱ってきた劉はその点だけ言えば憂希よりも能力に長けていると言える。全てを平等に焼き尽くす炎はまさに攻撃の象徴。
「くっ、まだ」
「この空間で立ってるってことはやっぱあんたただもんじゃねえわな。燃えるよなあ」
まるで炎の中にいるかのような空間に二人。水は蒸発し、地面は溶ける。憂希は能力でなんとか最適化をし続けることで耐えていたが、劉はそうではない。自分自身も炎に近い性質にすることで、炎の影響を受けないという逆転の発想。炎を消火するのは炎ということに近しい現象を作り出し、炎の力を弱めることなく放ち続けている。普通の人間ではどちらにしろ耐えることなど不可能な空間が広がっている。
「何使いだか知らねえが!太陽に勝てるやつなんていねえだろ!俺に触れたらそのまま消し飛ぶぞ!」
劉は自分を中心に灼熱の炎を放ち続け、大きな球状の火炎を形成する。飲み込んだものをすべて蒸発させるような温度はまさに太陽が地上に顕現したかのような熱量。
「くっ…これで雨も蒸発させていたのか。ならもう…水や氷は使えないな」
憂希は自分の能力に制限をかけられた状態で戦うことを強いられる。
「能力を体にも…」
だが、憂希は能力の扱いにおいて一歩先に行く目の前の者から得た発見を自らに取り入れることを考える。今まで自分から切り離し続けていた能力を自分に当てはめるという挑戦を。
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