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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.80 爆炎の火蓋

日本軍の作戦は日暮れと共に決行した。憂希と花菱を主軸とした爆撃部隊と地上で敵の注意を引く地上部隊で構成され、地上部隊の侵攻に合わせる形で爆撃部隊は敵に発見されないよう慎重に進む。地上部隊は一定距離からの砲撃のみを行い、接近しての前線押し上げを行わずに戦力を温存。爆撃開始を合図として一気に侵攻する作戦だ。


「やっと前線だぜ。...ずっと防衛ばかりでくすぶっていたところだ」


「同じ部隊なのに傀さんと一緒の作戦は久々な気がします」


傀はずっと能力を行使しての防衛部隊に回されており、憂希や振動とは別部隊に派遣されていた。貫通の能力を所有していた錐生が戦死してからそれぞれがバラバラの役回りとなっていた。振動は索敵と現場指揮、憂希は主火力として前線投入、傀は防衛として後方支援。前線ではない場所での戦闘が勃発するようになってから日本軍の消耗は激しくなるばかりで、部隊ごとの作戦はもうしばらく行われていない。


「えらく活躍しているらしいじゃねえか。グレード1としての自覚が出てきたんだな」


地上部隊の侵攻から少し間をおいて移動する軍用ヘリの中で傀はいろいろ聞いていた憂希の話をする。言葉や態度は粗いが、なんだかんだちゃんと先輩らしいことはする。


「まだ...できていないことは多いです」


「バカ言うな。この作戦もお前の発案なんだろ?日本単体でこの規模の作戦は初だろ。俺だって負けてらんねえって思ってんだ。胸張れよ」


同じ民間人から軍に入隊した中で傀が一番軍人としての自覚が育っている。


「実際あなたの活躍は日本軍の皆が認めるところです。謙遜は人によっては美しくは映らないときもあります。功績は否定せずに受け入れるべきですよ」


「わかりました。ありがとうございます」


花菱もまた憂希の功績を称賛する。ここまでどたばたとした状況でなければ昇級も十分あり得るほどだ。各作戦でグレード1のメンバーはそれぞれその作戦の要として立ち回り、その上で生還しながらちゃんとそれぞれの功績を残している。


「...そういえば、傀さんはどういう経緯で軍に入隊したんですか」


グレード1のメンバーもそうだが、この世界に入ってから憂希が最初にあった民間人出身者は傀と美珠だ。その二人には配属当初から会話する機会は何度もあったが、どういう経緯で能力者になったのかまでは聞いたことがなかった。


「ああ?なんでそんなこと気になってんだ?俺は普通に自衛隊の入隊試験に参加しようとしたら面接当日に別室案内の特別待遇を受けたんだ。そん時の特別扱い感はさすがに滾ったぜ」


「元々自衛隊志望だったんですか」


「ああ、頭も悪いし金もなかったんでな。とはいえ腐るつもりはなかったからよ。目的もあったしな」


「目的?」


「ああ、俺は施設育ちなんだわ。かなりガキのときに災害孤児になったらしくてな。俺の家族はその施設の皆だった。親の顔とかも知らん。親代わりはその施設で世話になった親父さんだ。自衛隊に入って俺がもらった金を施設に寄付したくてよ」


「それはご立派ですね」


ここまで真っ直ぐな志を持っていることに憂希は感銘を受けた。自分ができることに全力で臨み、目的のために尽力する。それに紐づく野心や狡猾さがあってもその軸は真っ直ぐな信念に基づいている。グレード3の能力となったことを悔しがったのも自分のステータスというよりも受けられる待遇やそれをどれだけ還元できるかが左右されるからだろう。どこまでも実直な男だった。


「別室に行ってからそのまま能力付与って感じですか?」


「いや一応面接みたいなことはやったな。それもあって普通に自衛隊として特別扱いされていんかと思ってたわ。まあその面接以外の試験なしに適正ありとみなされてからはすぐに能力付与だったがな」


「その時に能力について何か説明あったんですか?」


「いや?ただ、自衛隊よりも好待遇な組織に興味はあるかとかそんな感じのことを聞かれて、希望するって答えだけだな」


自衛隊志望ということもありどちらにせよ国のために働く道にいた傀には無理やり施術することはなかったようだった。もちろん、命のリスクがあるという事前説明はなかったことから半分強制的と言えば強制的だが、それでも少し待遇は違う。


「...精神的負荷も別にないか」


倉庫整理で見かけた精神的負荷実験に関係がありそうな内容も特にない。境遇は似ていなくもないが、共通点と言うにはあまりに違いが大きい。憂希のように一人で生きてきたわけでもなく、家族と呼べる存在はいた。仁野のように能力付与直前で何かがあったわけでもない。


「お前は結構無理やりだったんだっけか?最初のころは結構それでピリついていたもんな」


「今でも納得はしていないですよ。でも、それにうだうだ言っていたら戦場なんてとても生き抜けない。傀さんにも言われた、今の自分にできることを探してそれを全うすることに集中しているだけです。...深く考えるとまだ呑み込めていない部分に意識が行ってしまうので」


「私からすれば一般社会から急にこの世界へと連れてこられた皆さんは言葉では表せないほど偉大であると思いますよ。偉そうなことを言うようですが、自分の立場を考え、それに基づく責任を認識し、自分ができることを全うすると言う考え自体が尋常ではないのです。一般社会においてもそれをできている大人はそう多くはないでしょう。そういうことを真面目に考える人間ほど、擦り減ってしまうものですから。それをこの命が懸かる環境でできるというのは誇っていいことです」


二人の会話を聞いていた花菱が淡々と述べる。紡がれた言葉がいつも冷静で理性的な人柄に隠された感情を表現し、それらが二人に伝わる。


「投げ出したくなることも多いでしょう。逃げ出すことすら恐ろしいこともあるでしょう。それでも前向き立ち向かう姿は立派と言うほかありません。この戦いにおいて、そういう人材が味方にいてくれていることを私は誇りに思います」


花菱も振動と同様、この戦いに若者を巻き込むことには否定的だ。他国と比較しても日本は成人直後の年齢や未成年者の割合は多い。能力者への適合割合が完全に百パーセントではない現状として年齢が理由にならないことは隊長という立場を担う以上、ある程度理解しているつもりだが、思うところはある。だからこそ、花菱もまた努力し活躍する若い兵士を労わずにはいられないのだ。


「間もなく作戦エリアです。今降らせている雨を主軸に爆発を付与し、敵軍基地に集中するよういくつかの塊として投下します。いいですね」


「「了解」」


「作戦開始です」


中国の領空に差し掛かる少し手前で作戦の定刻を迎える。憂希は雨量を徐々に増やし中国に豪雨を降らせる。雷を伴った豪雨は夜をさらに深く沈ませる。


「このヘリで維持できる最高高度はここまでです。これ以上接近すればこの雨でも察知されるでしょう。...では敵軍前線基地を一網打尽にします」


「俺はこの天気を継続すればいいんですね?」


「ええ、私が広範囲で爆破し、それに対抗してくる敵軍の動きを見てさらに追撃します」


「じゃあいくぜ」


はるか上空にて花菱の能力で爆破属性を付与された雨は憂希の風に乗って中国の前線基地へと降り注ぐ。その工程にて傀の凝固の能力で周囲の雨と空中で結びつきながら落下していき、その体積をどんどん増やしていく。


「着弾する頃には立派な爆弾よなあ」


それを一粒だけではなく、ヘリの高度に存在する雨すべてに同様の能力を付与し、一気に落下させる。地面に到達するころには雨粒はバスケットボールより二回りほど大きな球体となって着弾する。その体積に存在するすべての水分が火薬と変わらない。作戦開始から数分後、地上は火炎と発光による大混乱が勃発する。


「では次の段階へ移ります。神崎上等兵は空中から地上の状況および敵の動きを逐一報告してください。私たちがその報告を受けて爆破位置を最適化するために移動し、さらに追撃します」


「了解」


「憂希っ、死ぬなよ。お前が死んだらこの作戦はお釈迦だ」


「もちろんです……。傀さん、花菱さんもお気をつけて」


そう二人に告げた後、すぐに憂希はヘリから空中へと飛び出し、次の作戦行動に移る。自分の能力で激しい雷雨となっている中で地上が見える高さまで落下する。


「っ……いつもより気流操作がむずい」


爆発する雨を自分に当てないよう自分の周囲に気流を作り、雨を逸らしながら落下する途中で広い範囲に雨が地面に落ちて上がる飛沫のように止むことなく爆発が発生している。見ている場所が闇夜の大地ではなく空であれば世界有数の花火大会でも見ているような光景だ。


「あそこだけ爆発が激しい」


第一波以降の雨は傀の能力を使わず、雨粒の状態で落しているため一定規模の爆発になるはずだ。その中で爆発の規模が変わっていればそこに何かがあることの裏付けとなる。


「この雷雨なら落雷くらい普通だよな…」


爆発が激しいのであれば高確率で誘爆する何かがある。つまりは兵器の類が多く集まっている可能性が高い。


「っ…どういうことだ」


憂希が落雷を放とうとした瞬間、一気に地上の爆発が止んだ。しかし、それ爆発が消えたわけではない。広範囲で発生している火炎は雨の勢いで弱まるどころかさらに勢いをましていく。


「炎が生きているならそのまま全体をっ」


地面を覆う火炎の勢いをさらに激しくしようと憂希が能力を行使しようとした瞬間、対象となる炎がすべて視界から消えた。


「一瞬で…どこに」


雨はまだ降り続けているのに爆発は一切発生していない。能力の無効化の類であればこの雨や風も弱まるはずだ。何かされているのは火炎のみなのか爆発も含むのかがわからない。


「こちら神崎っ。地上の爆発が一切止んでいます。敵軍に何かしらの能力者がいますっ」


その通信の直後、消えていたはずの火炎が姿を現した。それはこの豪雨を蒸発させるほどの温度まで上昇した爆撃で発生したすべての炎を凝縮した火炎の塔。雨雲まで穿ち、消し飛ばすほどの勢いで中国の前線基地から天高く放たれた火炎放射が憂希の横を過ぎ去る。距離はあるはずなのに肌が焼けるような感覚になるほどの熱を放っていた。


「よくわかんねえけど雨まで蒸発させたら爆発収まったぞ!水に気をつけろっ。俺の周りは全部消し飛ばしてやったから安全だ」


地上に若い男が一人。憂希たちと同じように民間人出身者でありながら、能力のセンスのみを買われて中国の部隊長にまで昇りつめた天才。


「じゃあ天気を快晴にしてやれば解決ってことだ。一気にやるからお前らはすぐに出撃できるようにしとけよっ」


彼を中心に爆発が原因ではない火炎が発生する。渦を巻き、空気の対流のように燃焼する対象を持たないまま火炎が流れるように燃え上がる。侵略すること火のごとく。それを体現する火炎の能力者である。





ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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