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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.79 導火線に雨

ラプラスは日本本部襲撃からおよそ一週間後に完全に回復した。外傷はなく単純な能力の酷使が原因の慢性疲労。回復には単純な休息がほぼ唯一の対処方法だ。


「...」


明海があの現場から行方不明となっていることを聞いたラプラスは複雑な気持ちになっていた。彼の提案を蹴ったのは自分であり、あの場から自分が離れ日本軍の守護という任務を優先した結果であることに違いはない。それが誤っていたという認識もない。それでもなぜか切り捨てられない自分の思考に混乱していた。


「あぁ...これは残っていたんだ」


自分に用意されていた部屋に入り、そこにあったわずかな荷物の中に明海とやり取りしていたノートがあった。それを流れるように開く。


「...書いてあったんだったら渡してよ」


そこにはまだ読んでいない明海のメッセージが記載されていた。どうやらNo.999の襲撃前にはもう記載されていたらしい。


「...ここでも言ってる」


そこには明海に持ち掛けられた逃亡の企みや明海の心情などが記載されていた。メッセージに残すまでもなく当人の口から伝えられていたものがほとんどだ。


「...え、これって」


何となくペラペラとめくっていたところでノートの最後のページにびっしりと記載された文章にラプラスは気がついた。ノートを交換してやり取りをしているときには気付かなかった。いや、書かれていなかったはずだ。


「...」


そこには中国軍の情報が少し記載されていた。実験による死のリスクを危惧した政府により、中国軍は数をそこまで増やせずにいること。そのため、No.999を中心としたテロ行為で隣国を攻撃し、能力者の進化実験を行使することもしばしば。ただ、強力な能力を異国の人間に与えることはリスクが大きく、軍の拡大は思うように進んでいないという。だからこそ外国人であり中国国籍の明海に能力者の話が舞い込んできたということ。


「こんな話。...全然」


会話には一切出てこなかった情報がずらっと記載されている。聞いても一切答えなかったことにラプラスは少し苛立ちを覚える。


「...え」


しかし、その苛立ちはすぐに驚きへと変わる。情報の記述の後に明海の心情が記載されていた。この情報はいつかは話そうと思っていたこと。でもすぐに話すとラプラスと会話できる機会が減ってしまうと考えたこと。それどころか好きなものの話をたくさんできることに夢中になって本当は話すことをしばらく忘れていたこととその謝罪。


「本当によくわからない人。これじゃあまるで」


ただ、明海は話がしたかっただけなのではとラプラスは思った。バカげた考えだがそれでもラプラスはそれを否定できなかった。実際それに似たようなことを言っていた記憶があるし、重要なことを先延ばしにするような性格だった。


「...本当に二人で逃げ出そうなんて考えていたのかな。...味方や敵にどう思われるかを気にするくせに、こっちにはなんも気になんて回さなかったのに」


思い出してまたラプラスは少し苛立った。その時、ラプラスは複雑な表情の中にうっすらと笑みを混じっていたことに自分でも気付かなかった。


「...幼い王が統制する軍。軍はまだそろっていない...どこまで信じていいのか。...でも軍がそろってないのにこの被害なら、軍がそろったら日本は。...一度憂希や仁野に相談してみよう」


この情報が対中国戦における日本の転機となることは明確だった。最新の情報ではないにしても体制情報となれば戦争時の対策や作戦立案に十分活きる情報であり、組織としてもこれからどう動くかなどの予想ができる。実際、この情報をもとに日本軍は急ピッチで中国軍襲撃作戦に向けて動き始める。完全に体制が整った状況で再戦するのはリスクが大きく、No.999と死人兵という存在は戦争において正面から対峙するのは明らかに日本側が消耗するだけだ。中国の動きに都度対応するのでは日本に勝ち目はない。そのため日本は今までの前線維持の方針から一変した攻めの姿勢に転ずる。


「米軍は現在、対ロシア戦で戦力を割いていることもあり、規模の大きい合同作戦は厳しいという返答だ」


「...ロシアを抑えている以上、中国はこちらで対処しろということですか」


「そう悪い方に事を考えるものではない。今まで二カ国との戦闘が前提となった作戦、編成だったため日本本土を手薄にできないという観点から攻めあぐねていた。しかし、それを一国に集中できる好機と捉えるほかない。事実として現時点での一番の脅威は中国軍だ。本部襲撃を許した今、これ以上中国軍の勝手は許せん。捕虜からの情報もこの機会を後押しするように有用なものだった。軍として完成しきる前に潰すのが最善と判断している」


「じゃあすぐにでも仕掛けるのか?俺たちの基地はまだバタバタしてるだろ。旦那の案には賛成だが、俺たちは今欧州軍とも敵対中だ。...どの国とも好戦的ではないにせよ、腹の内がわからねえ不気味な奴らだろう?」


「変わらず憂希にも接触しているようです。目的は自軍拡大だとは思いますが、逆に言えばいつでも仕掛けられるという脅迫とも捉えられます」


「なればこそ、最大の脅威を取り除き、遅れを取り戻さねばならない。民間への被害を考慮せずに奇襲してきたとなればもうこちらから攻めなければならない」


和日月の言葉に各隊長たちは厳しい顔つきで頷く。中国という脅威を抑えなければならないのは皆同意見なのだろう。考えられるリスクはあるが、それを並べているだけでは現状打破は不可能だ。追い込まれた日本軍が打開するには次の一手が重要だ。


「それでは、中国軍前線基地殲滅及び主要基地襲撃作戦について詳細を詰める」



上層部の作戦会議から二日後、各隊員への作戦内容の通達と編成、作戦決行日が連絡された。


「殲滅作戦...」


前線維持や撃退が今までの作戦の大半を占めていたこともあり、憂希はその内容に抵抗を感じた。最近無我夢中で戦闘していたこと、憂希が掲げる仲間を護ることと直結していたこともあり、ずっと抱えていた戦争への抵抗感が薄れていたが、それがまた復活する。ただ、かつての抵抗とは違う感覚になっていた。日本が置かれている状況を当事者として把握し、それに対して適切な作戦が何かくらいは憂希も理解しているつもりだった。


「前線基地や全体より...No.999を確実に無力化するほうが優先なんじゃ」


確かに憂希は一時的ではあるがNo.999の破壊行為を無力化し、その被害を抑えることに成功している。だが、絶対零度レベルの凍結ですら適応するように不死性にようる回復力が勝り、それを突破されてしまっている。不死にのみ能力リソースを割いているNo.999の能力効率はグレード1の中でも随一だろう。消耗戦をあの乱戦の中で挑むのは自殺行為とも言える。


「でもラプちゃんがあの人から教えてもらった話が本当なら前線もがっつり固められちゃったらもうきついんでしょ?てか、No.999がいつどこに来るのかなんてだれもわからないんだし。うちらにできることやるしかないってのはうちもわかる気がするけど」


「No.999を常に警戒しなければならないというのがかなりの負担だということはオレも同意見だが、仁野の言うことももっともだ。常に首元を警戒し蹴ればならない状況に追い込まれているのはNo.999よりも中国軍全体のほうが影響しているだろう」


「...そうだね」


「でも今回の作戦、ガチだよね。もう真正面から戦うなんてしないのかな?...戦争だからしょうがないことなのかもだけどさ」


対中国への作戦。それはかつてロシア戦で憂希が花菱と考案した雨を爆撃に変える広範囲攻撃を主軸とした絨毯爆撃作戦。地上では死人兵の展開やNo.999の乱入、その他中国軍が新たに編成した陸軍などの投入が予想される。そのため、原理を理解できたとしても対処が難しい初見殺しのようなこの作戦が有効であるという結論になった。


「...」


ネスメヤナやニコの驚異的な能力に対抗しようと考えた作戦だが、憂希は自分でその作戦の無慈悲さに自分の抱える抵抗感との矛盾を感じ、また自己を嫌悪する。ただ自分がやりたくないことを拒絶しているだけの子どものわがままのような感覚でしかないと感じ、妄想に近い正義感がただの私欲であると突き付けられた気分になった。


「うちは一応地上部隊として待機って言われたけど、本命の作戦にはあんまし関係ないみたい」


「オレは本部が移転されたここの警戒が任務となった。輪廻も待機だって話だ」


「つまり、作戦にしっかり関わるのは俺くらいか。...自分で考えた作戦だ。責任もってやり遂げるよ」


「何かあったらすぐいくからっ。...無理しないでね」


「うん、ありがとう」


仁野はずっと消えることのない憂希の辛そうな表情をどうにか自分が明るくすることはできないかとずっと悩んでいる。ただその胸中は憧れとともにひそかに奥底にしまう。その辛さを支えるヒロインになりたいのではなく、その辛さを取り除くヒーローになりたいがゆえに。



日本軍の作戦開始二日前。中国では日本への本格的な侵攻のため、新規部隊が集められていた。前線基地と日本本土襲撃部隊の大きく二つに分かれる形で編成され、作戦開始前の最終調整の段階にまで至っていた。軍全体の規模はおよそ三連隊ほどであり、その中で大隊ほどの人数が全員グレード2からグレード4までの能力者で編成されていた。各大隊の隊長はグレード2の中から選抜され、任命されていた。欧州軍のような完全に能力者が中心となった新規部隊が誕生した。


「義子様。各部隊の集合が完了しました」


「そうか、ありがとう先生。皆、足元が悪い中来てもらって悪かったかな」


「戦場では雨など些細なものです。槍の雨どころか何が降るかわからないのですから」


「それもそうだね。...さて、日本が混乱している間にチェックメイトまで持っていこう。玉はもうすぐそこだ」


新しい部隊を濡らす雨は日本から仕掛ける開戦の合図。それを中国側は日本の作戦が開始するまで知る由もない。遠慮も加減もない戦争という奪い合いは本当の顔をまだ見せていなかった。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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