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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.76 解れる過去

そこから自然と仁野は自分の好きなヒーローについて憂希に話した。誰よりも強く、誰よりも優しい。皆から頼られ、皆に好かれる。悪意を許さず、慈悲深い。その背中を見る人を必ず救い、その正義を行使する者を必ず倒す。そんな偉大なヒーローだと言う。まさに正義の化身。理想のヒーローだ。


「でもヒーローって強い相手と一気に何人も戦わないじゃん?基本サシでバチバチって感じ。しかも護るのは戦えない人だし、なんもかんも違うからギャップ感じるよ~。まあ、それでへこんでたらカッコ悪いんだけどさぁ」


「それでも目標がぶれることなく努力できるのはすごいことだと思うよ。うまくいかないことがあるのは...仕方ないって諦めたくはないけど、全部完璧にってのは難しいし」


「あははは、憂希君ってほんっと褒めるのうまいよねっ。やっぱ話してると元気出るなあ。...憂希君の話も聞いていい?」


「そうだね、聞いたからには俺も答える義務がある」


「あ、無理やりって感じになるなら全然無理しなくていいかんね?」


「いや、それは大丈夫、平気だよ。ありがとう。...ニノの話を聞いていて思った。ちょっと俺も似てるんだ。...俺の場合は突然和日月とSPみたいな人に囲まれて、ほぼ強制連行って感じだった」


「え、全然違うじゃんっ。誘拐ってこと!?」


「ああ、ごめんごめん。確かにそこは似てないわ。似てるって思ったのは境遇というか。...和日月たちが俺に接触してきたのは、両親の墓参りのときだったんだ。ちょうど卒業報告に行っていて」


「え...」


自分も似た状況にもかかわらず、仁野は心の底から悲しそうな表情をする。思わず口元に手が当てられ、自分のことよりも辛そうにしていた。


「もう三年前くらいになるのかな。高校入学してすぐくらいのときに、災害で家族を亡くした。...気づいたら、一人になっていて、必死に生きてきた。何でもないそこそこの大学に受かって、まだ将来への不安を抱えて、それでもとりあえず一歩進んだかなって思ったんだけど。まさか、全然違う世界に来るとは思わなかったよ」


境遇が似ていることを共通点に感じるのは心理的な法則に則っているだけだが、集団行動を前提とした社会を構築する人間においては自然な思考だ。それだけでその人のすべてを理解することはできないとしても、そう感じることは人が持つ優しさの一つだと憂希は思っていた。だからこそ、頭によぎる嫌な考えを拭うように言葉を続ける。


「でもここでは一人じゃない。同じ立場、同じ目線で一緒に戦える仲間がいる。..戦争にはまだ前向きにはなれないけど、でもここにはちゃんと居場所がある気がするんだ」


憂希が執着とも言えるほど固執する仲間の命は、今ままで抱えてた世界からの孤立感が和らいだことに対する反射的な守護欲なのかもしれない。


「うん、うちもそう思う」


ずっと憂希を見ていた仁野の視線が、座っていた自分の膝に落ちる。仁野の中でまだ感じている憂希との力の差を誤魔化すように。自分がヒーローになるべきなのに、自分の中で憂希が揺るがぬヒーローになっていることを隠すように。そのことをどこかで許してしまっている自分から視線を外した。



後日、憂希は仁野の話をしたグレード1同士の連携について振動や矢場、花菱と共有した。その結果としては現時点ではグレード1だけでなく、様々な状況で的確な対処が必要となるとし、部隊同士の壁は取っ払い、臨機応変かつフラットな意思疎通ができるようにしていく必要があるという結論になった。


「日本は現在言うまでもなく危険な状態だ。先日の襲撃は大打撃だが、それが致命傷にまで至らなかったのは君たちの功績が大きい。自軍の敷地内ともなると作戦行動が限られる。グレードが低くなればなるほどできることは単調化していくし程度も小さくなる。被害を抑えながらの立ち回りとなったときに自分たちができることの少なさにこれほど歯がゆさを感じたことはないよ」


振動はいつもよりグレード1頼りになってしまった今回の襲撃を振り返る。


「ここまでやられた以上、こちらも防戦一方というわけにもいかない。戦争は前線が一番激化するという概念が能力一つで覆るのなら、例え前線を維持していても意味がない。我々としても次の作戦に向けて話し合っていたところなんだ」


「ロシアと中国が隣接する関係上、俺らは下手に動けんかったがそうも言ってられん。ロシアは前回かなり消耗させただろう。ならこれを好機と捉え、中国に集中するかあるまい。奴さんらもこっちの回復なんて待ってくれやしないだろう」


「とはいえ、中国は基本的にNo.999と今回の死人兵という手しか見せていません。グレード1の能力兵の一人を排除したものの、もう一人の捕虜は行方不明。そもそもの中国軍本隊で言えば、全戦力は未だ確認できていません。人口だけで言えばトップクラスの国です。死人兵の能力者により実質的に戦力を削り切れないとなると攻撃するにしても攻め方はかなり重要になるかと」


隊長たち含め、日本本部としても憂希たちに指摘されるまでもなく、今回の襲撃の重大さを正しく認識し、次に繋げるべく将校を中心に議論がなされていた。


「総司令は今回のことについて何か言ってるんですか」


憂希は日本本部襲撃時に前線に出てこなかった和日月を不審に感じ、それを隠そうともせずに振動らに質問する。通常の軍隊であれば上官への進言などもってのほかであり、私情を挟んだ質問などは指導の対象となるが、この特殊兵装部隊にはそこまでの厳格な規律はない。一般人からの入隊者が多いため、会社などの上下関係に近い。


「和日月総司令は米国への助力とさらなる軍としての組織一体化について協議している。今回のような日本を対象とした襲撃や攻撃に対しても米軍の援護や連合軍の覇権を行えるように交渉しているとのことだ。...とはいえ、日本が中心となる戦闘において連合軍の指揮を日本側が担うことを米軍が許すかどうかは怪しい。自国の兵や兵器を日本が管理するというのは面白くないはずだからな」


「...そうですか」


恐らく振動たちもまた、中国軍との戦闘に和日月が出撃しなかった理由を把握していないのだろう。総司令が前線に出るということは通常ありえないことではあるが、一度戦場で戦闘しているという実績と、その時以上に緊急事態だったことをふまえると疑問の声が上がるのは当然だろう。


「明確にまた決まったら全体に通達する。もちろん連携を深めておくのは継続してくれ。...ああ、そうだ。余裕があったら物資の運搬を手伝ってくれないか。元本部の人員が各支部にばらけたこともあり、ここに運び込まれた物資が少し飽和していてね。我々に声がかかっていたのだが、正直それどころではないこともあってね」


「わかりました。...本部はしばらくここになるんですかね」


「それはまだ何とも言えないが、周囲の警戒網や市街地などへの影響を考えるとこういう立地のほうが好ましいのかもしれないな」


「そうですか」


もう何もかもが瓦礫や灰の下敷きになっているである自室にも戻れる期待はしないほうがいいのだろうと憂希は察した。憂希が普通の生活をしていた唯一の痕跡が完全に消えた。支給される物資に衣服などの生活必需品はあるだろうが、憂希はこの戦争に完全に上塗りされたように染まっていく。



「...あれ、誰もいない」


振動から指定された倉庫に入ると、山積みの物資だけでそこには誰もいなかった。食料や衣料というより軍事物資が中心のためか、運搬する人を選んでいたのだろう。医療班や自衛隊関係者では扱えない情報も中にはあるだろう。


「...能力の繊細な制御の練習になるか」


大雑把というより大規模な能力行使がほとんどとなる戦場においては自分の体を浮かせる気流くらいしか繊細な能力は使わない。能力の上限値がかなり高いことがグレード1の強みではあるが、それと同程度に下限値もかなり強みと言える。微風、水滴、微電流など規模に関わらず平等に能力の対象となるのだから。


「これなら仁野にも声をかけたらよかった。能力を常に使うっていうのもスタミナつけるみたいなトレーニングにはなるだろうし」


いつの間にか浸透した能力者としての意識を憂希はもう疑問にすら感じない。人間は極限状態でも一定の許容量を持つ。生命維持に関わることでも麻痺という無理やり許容する防衛本能すらあるほどだ。生物的な生存本能の一部なのだろうか。


「...しかし、何の荷物なんだ。...弾や武器じゃないし。...どっちかっていうと医療用の何か....いや、資料も多いな」


コンテナケースだけでなく、段ボールや専用のファイルなど様々だ。何かしらの機械も多くある。


「...これって」


憂希はその資料の一つに目が留まる。そこには『能力者進化実験γ』の文字が記載してある。和日月が以前、憂希に見せた過去資料にはγなどの文字はなかった。


「...え、これ。....最初の実験なんかよりずっと最近の」


その資料が作成された日付はここ数年のもので、古くても十年以内には作成されたものがほとんどだった。


「...最近も実験をしてるってことか?...."リスク低減処置の検討"って....失敗したら死ぬってやつか?」


能力者への進化で絶対的なリスクとして皆が認識するのは失敗時の死という大きなリスク。故に世界共通で基本的に秘匿されており、日本以外の国は志願制とはいえど対象を一部に絞った募集でそれを実施している。ただ能力者に適応したからと言って、グレードが高い能力になる保証はない。


「...あれ。...ここからリスク低減に高グレードの確率向上が追加されてる」


日付が更新されていく度に中身の詳細までは理解できないにしても、記載されている言葉一つひとつを切り取って何について書かれた資料かくらいは読み取る。


「.......え、これって」


その資料の中に憂希が無視できないものが記載されていた。そう、それは以前に本部に内通者が表れた際に見た『青少年高負荷実験』のβ版実験結果の資料だった。



ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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