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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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114/115

No.114 逸る雷雲

グレード1の能力は能力の対象に及ぼす影響の大きさ、もしくは能力の対象の範囲、量によって、消耗量が異なる。対象が少なくても変化量が大きければ消耗は増えるし、対象が多ければ変化量が少なくても消耗は増える。


「くっ...なんなのこれ~!!!」


神酒は欧州軍への攻撃部隊全体をカバーする範囲に外界からのあらゆる変化を拒絶するよう、空間を隔離している。その範囲は数十キロメートル以上にも及ぶ。ここで艦隊を密集させては一網打尽にされる可能性がある。そのため、米軍は艦隊を展開した状態から変えられず、神酒はそれを欧州軍の攻撃から護るため、広く能力を行使していた。


「さっきので終わりじゃないの!?てかこれ何?何で押されてんの!?何が爆発したの!?」


大好きな酒を飲みながら優雅に過ごし、必要最低限の攻撃を敵の格となる部隊に一瞬で叩きこみ、悠々と帰還する算段だった。敵軍に動きが見えた瞬間、それをすべて迎撃すれば終わりの予定だった。それが、一瞬で欧州軍が出現したと思ったら、間髪入れずに先手を打たれた。軍隊の転送までは予想していたが、ここまでの範囲を攻撃されるとは思っていなかった。


「神酒。悪いわね。私の情報不足だったわ。欧州軍にここまでの影響力を一瞬で引き出せる能力者がいるなんて。...あんな災害級の気象変動、どんな能力で誰が起こしたのか。ただ、秀明がうまくやってくれたみたいよ」


「なのになんでまだこんなつらいの~!?」


「これはおそらく...彼女が表舞台に出てきているわね。それほど欧州軍も切羽詰まっている。...何に能力を使っているのかはわからないけど、ここに今、アレックスを派遣しているわ。彼女ならこの状況を打破し、あなたを解放してくれるはずよ。もう少しの辛抱ね」


「ああああああっ。お酒誰か口に入れて~~!」


ボイセンベリーは想定外に苦戦している状況に対し、穏やかに保っている表情とは裏腹に、内心は焦燥や苛立ちに近い感情がその水かさをどんどん増やしていた。大規模な水蒸気爆発がこれ以上続けば、さすがに神酒と言えど、限界が来る。継続的に発生している謎の圧力に加え、大規模な水蒸気爆発。これらから艦隊すべてを護るのは骨が折れる。


「ロシア軍のAZと並ぶ温度変化に加えて、あの乱気流。...欧州軍の彼は原子操作だけでそこまでできるの?...いや、可能性は高いわね。ただ、そこまで効率は良くないはず。なのに、あの規模で...。情報が足りないわね」


「これこのままだとやばいと思うっ。てかもう無理!あたしが囲んでる空間の中でさっきの爆発やられたら無理っ」


空間を隔絶していてもその中の空間は変化している。波は揺れ、大気は流れ、人は動く。すべてを変化しないように空間を固定することは可能だが、それでは仲間の命の保証はできない。空間を固定できても、時間は固定できない。人は基本的に時間に干渉する術を持たない。


「あの超常現象が無いことが今は救いよ。アレックスが到着するまでただ、秀明からの連絡もずっとない。動きを見せたのはあの閃光弾だけ。ただ、彼の能力であればそう簡単に死ぬはずはない。...こういうことになるなら艦隊を囮にでもして、奇襲作戦を決行すべきだったわね」


艦隊を囮にするという作戦を口に出したものの、ボイセンベリーの中でその作戦の実現性は皆無に近かった。世間一般的には国防の要とも言える軍事兵器を湯水のように使うことは許されない。ましてやここまで大規模に投入した戦力を使い捨てというのは米軍の方針として看過できない作戦だ。しがらみのない軍隊などないが、それは確かに足枷となっている。


「火薬の量で決まる戦争なんてとうの昔に終わったっていうのに、いつまで上の人間は銃を握ったままなのかしら」


「お待たせしましたっ」


「やあ、どうやら状況は芳しくないらしいね」


救世主が到着するタイミングでアレックスが戦地に現着する。アメコミ映画であれば壮大な音楽が流れていることだろう。ただ現実はそんな尺を使っているほど余裕はない。


「アレックス、急な招集で悪いけど、すぐに作戦に参加して」


「状況は彼から聞いたよ。まずはこの空間にかかっている圧力からだね」


「早くして~~!アレックス~~!」


圧力を発生させているのはあくまで質量を引き上げられた大気だが、圧力が発生している以上、それはアレックスの能力で干渉できる。


「っ...。これは、思ったより強い圧だね。何がこんなに圧を生んでいるのか...?興味深いけど、検証している時間はなさそうだね」


アレックスは正体不明の圧を対象にその圧力に反作用的に圧力をぶつける。同時にその圧力自体が弱まるように能力を行使していく。何がこの圧力を生み出しているかが理解できれば、煩雑に能力をぶつけるようなことはせず、その圧力自体を消し去ることが可能だ。ただ、アレックスのイメージには要因と効果がつきものだ。それは物理学者がゆえの業に他ならない。


「神酒、すぐ攻撃に出れる?アレックスが止めている間が勝負よ」


「ちょっと無理~。拒絶すんのが種類多すぎて疲れたっ」


物理的干渉だけならまだしも温度変化や雷撃など、多種多様な攻撃に加え、隔絶した境界線を満遍なく押し殺す圧力に長時間耐えた。その消耗は対象範囲の広さゆえにかなり重い。


「準備はしておいて。ここが正念場よ」


「ん~..........ぷはっ!!うぅぅううんまああああああああああ!!!おっけ!いける!!」


上等なウイスキーを入れたウイスキーボトルを取り出し、その中身を一気に飲み干した。神酒にとっては血液であり、ガソリンである酒を、第二次世界大戦中の兵士のように戦場で飲む。もちろん緊張を和らげるためでも、恐怖を乗り越えるためでもない。ただただ、神酒自身の回復薬として活用している。


「あなたがそういう子で本当に助かったわ」


「え~?なにどういうこと~?」


「飲みすぎて作戦内容まで忘れないでちょうだいね。欧州軍を突破するにはあなたの力が鍵なのよ」


「あ~いっ。任せて~よっ」


本当に正常な判断ができるのか、作戦内容を覚えているのか怪しい状態で、神酒は姿を消した。米軍は憂希が展開し、ゼシカが継続した足止めを何とか払いのけ、侵攻に乗り出す。


「さて、これでcheckmateとなればいいんだけど」


神酒という切り札を攻撃の場に出したボイセンベリーは、まだ勝ちの核心を得ていない。予測不可能、前代未聞がつきものなこの戦場において、慢心も油断も命取りだ。ただ、この自分にある手札をもって、相手の手を読み、切り崩していくこの感覚を、楽しまずにはいられなかった。



ゼシカは憂希が不在の中、迎撃用の兵器にも能力を付与しながら、米軍側の消耗を狙って、継続的に攻撃していた。対象範囲を絞ったり、高価を弱めたりすることで効率を重視した能力行使を徹底しているが、それでもその表情には隠し切れない疲弊の色が滲んでいた。


「...さすがに一人じゃ無理があるわね。...重力操作系と物体生成系の能力は米軍上空を中心に展開して。弾丸の雨のように戦場になるエリアには付け入る隙を与えないで。この地域は完全に封鎖しているわ。後のことは後で考えることにしましょう。まずはここを乗り越えるわよ」


欧州軍に所属している能力兵士の情報を網羅しているゼシカは、その情報と戦況を照らし合わせ、最適解を常に考えながら、自分も能力を行使するという離れ業をこなす。このレベルに至るには、数々の試練と絶え間ない研鑽による自己犠牲があってこそ。ただ一言、才能という言葉で片づけることはできない。


「...神崎 憂希はこのレベルを一人で維持していたというの?...ケビンが彼を認識した時期を考慮しても、この世界ではかなり歴の浅い能力者のはず。...脅威的ね。ケビンが気に入るのもわかるわ。本当に脅威と捉えておくべきね」


自分が憂希と入れ替わるように状況を維持しようとした結果からわかる憂希の異常さ。能力はもちろん応用が利き、対応できる盤面も多いのは事実だが、それでもゼシカは逸脱していると感じてしまう。その底知れなさを重ねるのは危険因子たちだ。


「彼の居場所がわかったよ。今の状況はどうだい?」


「これ以上は正直もたないわ。綻びを見せればすぐにでもそこを突かれて不利になる。それで?彼はどこなの?」


「ギリギリのタイミングだ。逆に言えば、タイミングがいいと言えるね。彼は今、ここに戻ってきている。先ほど彼の端末がオンラインになってね。位置情報を確認した。彼はどうやらこの戦場からはるか南西。大西洋のど真ん中に締め出されていたようだ。何かしらで彼の位置が特定され、米軍の能力者によって飛ばされたと思われる」


「...なにそれ、絶望的ってことよね?特定の衛星通信を活用しないとそんな位置じゃ電波なんて...。彼はどうやって」


「彼は能力で飛行できる。よって、地球上のどこにいても電波を乗せて移動する航空機に接近し、その機体に搭載されたWi-Fiを使用して、自分の位置を特定したんだ。そして彼は、今ここに向かっている」


「そう...。頭も切れるわけね。そんな状況でパニックにすらならないとは。民間人上がりだとは到底思えないけど。...でも、そんな位置から戻ってくることを待ってなんていられないわ」


「ああ、そうだね。だが、その時間は君が稼いでくれた」


「それって」


ケビンは黙って空を指した。今の戦況を示すようなどす黒い空が広がる中、そこに雲の中を根のように広がりながら接近する稲妻の影が見える。まるでこの場所を狙いすましたかのようにその稲妻が束になって落雷のようにゼシカとケビンの至近距離に降り注いだ。


「お待たせしましたっ。すいませんっ」


体に強制的に電荷を宿し、自分自身を雷電に近しい状態まで電力を高め、風圧を制御しながら雲の中を放電するかのように移動することで、数百キロメートルから数千キロメートルという距離をこの短時間で移動して見せた。熱を体に蓄えることの応用として別の属性でそれを再現した結果、憂希は自分の中の最速をこの土壇場で更新して見せた。


ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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