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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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115/115

No.115 戦を占めるもの

ゼシカは憂希がこの場に戻ってきたことに少しの安堵の中に、意識から外すことのできない脅威を抱えていた。それを表に出すことはない。表情にも、言葉にも。


「戻ってきたところで悪いけど、状況はギリギリよ。相手はすでに次の手を講じていると考えるのが自然。空間掌握を正面に相手にできるほど能力の相性はよくない。消耗戦には持ち込めているけど、それは言ってしまえば空間掌握の能力者だけ。敵軍の船隊はほぼ無傷。他の能力者もほとんど消耗していないはずよ。この均衡が崩れれば一気に双方の兵力が衝突することになるわ」


「米軍はグレード1の能力者をかなり投入してきていました。ほとんど総力戦に近い印象です」


「敵軍の艦隊と海上という不安定な足場を利用し、徹底的にこちらの有利を維持しましょう。欧州軍に上陸を許してはダメね。空間掌握を機能させず、広範囲で防衛するわ。神崎 憂希、あなたはどれくらいさっきまでの状況を継続できる?」


「海上だけであれば一時間程度は」


一度、凍結の出力を最大まで自分の中で高める必要があるが、それでもそれが完了すればあとは放出するだけだ。爆発的に広がる冷却を制御し、上書きするようにそのレベルを引き上げれば、最低限の消耗で大規模な能力行使が可能となる。ただ、それほどまでに効率を重視しても長時間は難しい。


「そこにさらに他の攻撃にリソースを割けば、もっと状況を維持するのは短くなるわけね」


「さきほど、俺が海の上に飛ばされる前、米軍の兵士が陸上を移動し、転送先を調査していました。欧州軍の脇腹を突くような位置です。海上だけに集中するのも危険かもしれません」


「...あのイージス艦の特攻を起点に動いていたのね。陸上にも能力を展開しておいてよかったわ」


「私からも一つ、意見をいいかな」


ゼシカが状況を整理しようと、情報をインプットしているところにケビンが手をあげる。


「君の消耗は大丈夫かい?」


「まだ平気よ。今は、早く方針を決める方が優先。...それで?」


「ああ、完結に済ませよう。当初の消耗戦は空間掌握を警戒しての作戦だったけど、今はその目的をほとんど達成している状況だと私は思う。そのうえで、引き続き消耗戦を継続するのは私は悪手だと考える。空間掌握を消耗させたところで米軍の侵攻は艦隊全体の継戦能力を削らなければ、この戦いは終わらない」


「...こちらから攻めるというの?」


「さすがだね。ご明察の通り、敵艦隊を叩くのがベストだと思う。空間掌握による防御が薄くなり、相手としても攻め入る隙を作るために前傾姿勢となっている。その足元を崩し、額を地につけさせることが最適ではないかな」


「...どちらにしてもリスクがあるならリターンの大きいものを選択するべきという考えね。ただ、護りをおざなりにするのは致命的よね?一撃で欧州軍全体を抉り取られる可能性がある以上、それを阻止し続けるのは必須よ」


「ああ、だからこそ誰が護り、誰が攻めるかが重要となる。君の裁量ではどう考える?」


「....」


深くしっかりと考えている時間はない。それでも即決はできない。重要な局面で策を転じることは戦局を左右する。そんなことは言うまでもない。


「ゼスが前線に出るわ。神崎 憂希の能力は汎用性も攻防どちらも優秀。だからこそ、ここで米軍に削られるわけにはいかない状況で、実勢経験の多さを買わせてもらうわ。それに、ゼスの能力であれば、奇襲の成功率を上げられると思うの」


ゼシカはここで自分が前線に出る意味を誰よりもわかっていた。基本的に戦場に出ることは少なく、組織全体のマネジメントや戦略構築を主体としていた。ただ、そのままでは自分が能力者になった理由を失ってしまう。あの日に宿した覚悟は、軍の上澄みで胡坐をかくためのものではない。降りかかる火の粉を払い、状況を打開するための力。それを眠らせたまま、腐らせていては理想のために命を懸けた者たちに示しがつかない。自分の両親にも合わせる顔がない。


「わかった。私もサポートに回ろう。ここで欧州軍の力を示し、安易に攻撃できないように釘を差すのは、今後の展開を大きく変えるだろう」


「...」


憂希は二人の判断について、疑問を持ったが、それを口に出すことはしなかった。頭に浮かんだ疑問は単純で、上に立つ人が前に出るべきなのか?という素人じみたものだ。部外者である自分が口出しすることでもないと呑み込んだ。いつもなら自分なりの意見を投げかけるところだが、憂希をそうさせなかったのは秀明からの指摘が頭にこびりついているからだった。


「神崎 憂希。逃げ出すことなく、敵に撃たれることなく、この場に戻ってきたことを信じ、欧州軍を預けるに足るものと考え、任せるわ。頼んだわよ」


「...はいっ」


ゼシカのその言葉に自分が今置かれている状況を忘れそうになるほど、深い喜びを感じてしまった自分を憂希は酷く嫌った。人に頼られ、信用されることに貪欲な自分が醜く見えたからだ。こういうふとした時に、目の前に唐突に現れる鏡が、憂希に現実を突きつける。


「全軍に通達するわ。敵軍が大きく動きを見せる可能性がある。各員、米軍の上陸を絶対に阻止してちょうだい。ここで欧州軍の力を示し、二度と安易な侵略をさせないよう学んでもらいましょう」


ゼシカの全体通信は理知的であり、熱を帯びるものではない。だが、その冷静さと無駄のなさが欧州軍兵士の意識を鋭く研ぎ澄ます。欧州軍は戦いに勝つために戦っているのではない。その戦いの先に更なる人類の繁栄と平和な世界があるという理想を胸に、戦っている。


「出るわ。神崎 憂希。私に向かって思いっきり上昇気流を発生させることはできる?」


「はい、できます」


「お願い」


憂希は言われた通り、思いっきりゼシカに向かって上昇気流を発生させた。自分が飛行する際に発生させる気流よりも強く。


「っ...」


その風を受けたゼシカは憂希の予想を超えた速度で上空へと舞い上がる。おおよそ人体が風を受けただけでは到達しない速度をゼシカは自分の質量を下げることで実現した。体積はそのままに、風の抵抗を一身に受け、数グラム程度まで軽量化された肉体は数秒で数千メートル上空に到達する。


「....嘘っ。なんてコントロールなの」


ゼシカは自分が到達した位置に驚きを隠せない。数グラム程度のゼシカの体を気流操作だけで米軍の真上に運ぶという離れ業をその身で感じたからだ。日ごろから自分で飛行するために扱っている分、憂希の気流操作は能力者の中でも抜きん出た制御力だ。


「体積を極小に。質量をざっと数百倍。圧力と摩擦を下げて、重力加速度をありったけにっ」


極小となった体で音速を超えるため、本来なら必ず発生する自然の摂理という壁を能力で強制的に破壊し、米軍の防御壁を穿つ弾丸とする。


「くっ」


いくら肉体を切り刻もうとする障壁を取り払おうとも、ゼロになるわけではない。ギリギリのラインまで速度を上げ、敵の感知も防御も突破する突撃に突き進む。


「っ!」


展開している大気圧を自分と米軍の上空の一部のみ解除する。針に糸を通すような突破口をここで切り開く。


「っ〜〜〜〜〜!!!ここよ!!」


自分が展開した大気圧の壁を通過した瞬間を狙い、能力を一点に集中する。


「海の偉大さをその身に受けなさい」


能力の対象はその空間に存在する米軍。ありったけのリソースを注ぎ込んで、空母や戦闘機、武器や兵器などあらゆる無機物の体積を最大限まで小さくする。


「ぐっ…!」


体に負荷がかかり、目の前が眩むほどの消耗が襲いかかる。しかし、それに負けて自分も大海原に身を投げ出すわけにはいかない。欧州軍の窮地は自分が状況を変え、切り抜けると誓ってここにいる。能力行使ごときに吐く弱音なんて、ゼシカには残っていない。すべて吐き出して、覚悟と決意をありったけ詰め込んで、この場に来ているのだ。


「ケビンっ。ゼスを欧州軍本隊に!」


『すまないが、今はこちらに戻らないほうがいい』


「っ……何が」


『今、空間掌握の能力者と神崎 憂希君が対峙している。巻き込まれかねない。君の攻撃が米軍に直撃したことはこちらでも確認した。空間掌握の能力者が退くのも時間の問題と見ている。この戦いはどうやらどう足掻いても持久戦のようだよ』


「っ…痛み分けとはね」


ゼシカが単独で米軍に突撃したのと入れ違いで、米軍から神酒が欧州軍に突撃していた。艦隊規模を転移できるほどの余力は残っていなかった。ただ、単独で防御不可の攻撃を仕掛けられる神酒が射程距離に到達できた時点で、米軍としては勝ちを確信していた。


「何で君が欧州軍にいるの!?あたし飲みすぎ!?幻覚とか酒のレベルじゃなくない!?」


「米軍にも情報は入っているはずです。俺がここにいることまでは、知らないでしょうけど」


「んあ~?なんだっけ?最近作戦出てなかったから体にお酒循環させてたからあんま覚えてないな~。どうしたの~?よければお姉さんが話聞いてあげるよ~?」


米軍の確信とは裏腹に、神酒は戦場で見知った顔が目に入ったことで、作戦や戦闘などから意識が外れ、憂希への興味にすり替わってしまった。アルコールを入れた神酒は良くも悪くも外向的になり、興味や疑問に素直に従うようになってしまう。


「神酒さん、米軍の防衛に戻ってくれませんか」


「どうして~?あたし、欧州軍を殲滅するように言われたんだよ~。やんないと怒られちゃうからさ~」


「欧州軍の兵士が米軍の艦隊に攻撃を仕掛けています。神酒さんが離れたことで能力を通せるようになったからです。このままでは米軍の侵攻部隊は全滅しますよ」


「あたしの前に出てきて、今は欧州軍にいる君が、そんなこと言ってもな~。あ!わかった!あたしを騙そうって思ってんでしょ!そうはいかないよ~ん」


「じゃあ通信できるか試してみてください」


「またまたそんなわけ...。.................ほんまや。え!?マジ!?やばいじゃん!?ありがとね!」


神酒は騙されたように態度を百八十度変えて、その場から立ち去った。かつて共に戦った相手であれば、ある程度の信用と油断を見せるのは神酒の人間らしさであり、弱さだろう。もし仮にここで憂希が隙を突いて攻撃すれば、神酒の能力と言えど、完全に回避することは困難だっただろう。


「....」


窮地を乗り切った憂希は、普通なら達成感と安堵で緊張と表情が緩む状況において、神酒と対峙していた時よりも険しい表情をしていた。胸の中心に刃物を突き立てられたかのような痛みが走る。その感覚を、憂希はよく知っている。それを突き立てたのは神酒の純粋な言葉だった。去り際に放たれた憂希を信用しきったような言葉は、どんな攻撃よりも今の憂希に痛みを与えた。


「...."味方でよかった".....か」


確実に裏切り、この戦闘でもずっと米軍を攻撃していた憂希に向かって、純粋な凶器は容赦なく切りつけてくる。罵倒や叱責を受ける覚悟は十分にしていた。二度と仲間には戻れないかもしれないと考えてもいた。それでも、自分の行いが裏切りではないと、まだ仲間だと言われることは予想していなかった。その場で思いついたことをよく考えもせずに発言する神酒相手でも、ここまで抉られている自分の弱さに、憂希は思わず地面を強く殴りつけた。


ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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