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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.108 台風の目

暴徒鎮圧作戦の報告を憂希から受け、ゼシカやケビンは想定よりも難敵であることがわかった光信聖教に対して、次の手をどうするかに頭を悩ませている。


「状況から察するに、その場にいた者のいずれかが離脱のために能力を使ったとは考えにくいね」


「そうは言っても、他に内通者の情報はなかったのでしょう?暴徒化した兵士が脱走し、格納庫への立てこもりが発生した段階で、その周囲含め、警戒や監視は十分に行っていたわ。相手に何か動きが見られる前に、彼が一網打尽にしてくれた、というのが事実ではなくて?」


「ええ、それも事実だろう。能力によって適用範囲や発動条件は異なるからね。神崎 憂希君の初撃を逃れた兵士が外部に連絡した、もしくはその中にいた者が時間がかかるが後発的に発動する能力だった可能性もある。今は推測の域を出ない。次からは相手が制圧した後も離脱する手段を持っている可能性があることを頭に入れて対処したほうがいい、という教訓を得たね」


「捕獲して情報を抜き出すことは諦めたほうがよさそうね。こちらが内通者を保持しておく方がリスクが高い気がするわ。軍に反旗を翻した時点で処分は確定させないと」


「...能力者という本来保護すべき対象を救えないのは無念だけど、そうするかないかもね。解決策は常に模索しつつ、基本的にはそういう方針でいこうか」


「...」


こういう話を自分も聞いていいのだろうか、と内心思いながら、自分の報告から派生した議論を無言で聞いている。そしてその会話の流れから、自分が次に任されるであろう任務の内容を察していた。本人の悪性がどうであれ、宗教に思考を植え付けられた状態で、こちら側からそれを引き抜くことを許さず、回収しては投入することを繰り返す相手には手段を選んではいられない。ここで躊躇った分、後から自分に返ってくる可能性がある。それが最悪の未来につながることは絶対に避けなければならない。


「とういうことで、今の話を聞いていて理解したと思うけれど。あなたにはこれからいろいろお願いすることになると思うから。期待しているわ。手始めに、グレード1に違わない制圧力と戦況支配力。これを今回確認できたのは大きいわね。...楽ではないし、簡単ではないと思うけれど、共通の脅威を排除するために、改めて協力をお願いするわ」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


憂希と欧州軍は対等ではない。そもそも個人と組織では比較するものではないが、それでも欧州軍は光信聖教に空けられた穴から兵力が流出する中で、その対処を憂希を主体で行うことに価値を見出している。グレード1の能力者が一人増えるというのは能力や状況によっては中隊や大隊規模の戦力増加と言っても過言ではない。それを人一人の衣食住を保証するだけで賄えるとなればリターンは大きい。


「今、欧州軍としても光信聖教の拠点もしくは潜伏先を調査しているところだよ。能力者の軍事利用に異議を唱えておいて、暴徒に利用するような集団は見過ごせない。真に能力者が平和で安全かつ、今よりも繫栄した社会で暮らすことをこそ、私たちが望む未来だ。犠牲なき勝利を目指したいが、きれいごとだけでは何も成せない。覚悟を決めて、共に協力し合おう」


「...はい」


この状況で憂希に選択肢はない。相手がただ洗脳されただけの兵士だとしても、戦う意志の無かったただの関係者だとしても、洗脳された結果、架空の正義感や義務感で行われる暴挙を止めないわけにはいかない。この時も日本軍にいる仲間たちに何かしら危害が加えられていてもおかしくはない。


「....仲間って思うのは自分勝手か」


思考を巡らせる中で、憂希はふと、そう感じてしまう。反乱し、暴れ、逃げ出した自分がまだ日本軍にいるメンバーを仲間だと言うのは自分勝手すぎる。やっていることは光信聖教に入信した内通者とそこまで変わらない。そう認識してしまった瞬間に、自責の念が荒波のように押し寄せ、憂希の心をぐらつかせる。しかし、もうここまで来て引き返すことはできない。そもそもいくら自責の念を感じようが、これまで日本軍に散々利用され、植え付けられただけの使命感で数多の命を奪ってきたことに比べればテロ行為に走る宗教団体と自分が似ていることなど、小さい話だ。


「俺は戦うしかない」


用意された部屋に戻る道中で、憂希は自分に与えられた能力のために犠牲になった両親や、今まで作戦の中で奪ってきた命を無駄にしないために、ただただ自分に戦い続けることを強いる。今まで知らずに歩んできた茨の道の先にその歩みの意味を作らなければ、今にもどうにかなってしまいそうだ。自分を撫でて吹き抜けるそよ風にすらこづかれているように感じる。


「…」


用意された部屋にかつて日本軍で生活していた部屋を重ねる。思い出と言うにはあまりに期間が短かったが、それでも今、視界に広がるなんの思い入れもない部屋よりはましだった。尋ねてくる仲間もいない。


「今日は寝よう…疲れた」


ずっと監視し、ことあるごとに責めてくる自分自身の相手をしながら、奇妙で不気味な宗教団体との実戦に望むのは精神をすり減らした。慣れない環境に知らない組織。信用できる人間もいない環境。


「安楽堂さんは…こんなところに一人でいたんだな。すごいや」


かつて欧州軍の捕虜として監視下での生活を強いられた美珠を思わず思い出す。あの時は無事を保証させるために必死だった。今思えば、この戦争に巻き込まれてからも利用されてばかりだ。いろんな人間の手のひらの上をただただ転がっていただけだと思うと、滑稽でしかない。


「…いつか本当に戦わなくて済む世界が来るのかな」


自分の最終目標すら今では現実感を一切感じられない絵空事に聞こえる。無意識に巡り続ける思考をそのままに、瞼を深く閉じる。家族と共に生きていた時から変わらぬ眠りにつく。その先に悪夢が待っていようが関係なく、瞼を重くし、視界から光を奪う。この世界の希望のように。



光信聖教は各軍の内部に信徒を浸透させることで、通常であれば外部からは見えるはずのない世界情勢や戦争の状況をこの世界の誰よりも正確かつ幅広く把握していた。各軍の拠点、軍備、作戦履歴、能力者の数。それらを情報として売り捌きながら、内通者を利用して各国同士の戦争を激化させながら、自分たちが介入する機会を自ら作り出している。そうやって打たれてきた点が徐々に線となり、輪郭を帯び、最終的な目的を確かなものとしていく。


「神の御加護を軍事利用を目的とした不完全な人格に植え付け、あまつさえそれを量産するとは。...これはあまりに度し難い行いですっ」


「神の御加護を宿した者が軍事行動を指揮しているようですっ。これは教えに反する行いですっ。すぐに内に潜む闇を払い、正気に戻さねばなりませんっ」


「神の御加護を神を冒涜する技術を用いて民間人に配り、軍に引き入れている国がありますっ。神の怒りに触れた者は死に、寛大な御心で許された者はその身に力を宿し、教えを知らぬまま我が物顔でその力を振るっていますっ。神に代わり、その者らに粛清をっ」


欧州軍の小隊長暗殺事件と内通者暴徒化事件をきっかけに、光信聖教の活動はさらに激しさを増していく。標的は世界各国に向けられ、すでに軍事行動をしている組織に対して、交渉や話し合いなどの平和的解決など模索することなく、過激かつ非人道的な手段で信徒としている能力者を中心に、軍に対するテロ行為が次々に発生していく。


「神への感謝を忘れ、導きに背き、教えを冒涜する行いです。光は平等に降り注ぎ、世界を照らすからこそ尊く、その温かさと豊かさが命を導き、育むのです。今の世界は神の寛大さにつけこみ、あらゆるものを私物化しようとしています。これは許されざる行い。...ただこれだけ無辜の民が巻き込まれ、戦争状態にまで発展しているとなれば、私たちもまた信者を護る聖戦を行わなければなりません。神の御加護をその身に宿す信徒と神の光の下へ。光照らす限り、神は我々を導き、お守りくださるはずです」


光信聖教の戦争介入により、世界各国の対立構造はより複雑化を極める。幅広く能力者への進化実験を行っていた米軍、能力者の受け入れや勧誘を行っていた欧州軍は次々に染みこんでくる光信聖教の魔の手を払いきれず、その組織内に一定数の内通者が潜んでいることを前提とせざるを得なくなった。疑わしきは罰せねばならず、殺さねば発光して消える厄介な癌となっていた。しかし、この光信聖教の介入に対して、軍として一切影響を受けていない組織が存在する。それは、秘密警察的な役割を担う軍がそのまま能力兵部隊へと進化したロシア軍である。


「ネスメヤナ、米軍に攻め込まれた極東連邦管区の奪還はどういう状況だ?」


「はい。敵軍は前線基地を構え、能力兵も投入していることから、単純な地上作戦だけでは敵の防衛に阻まれ、奪還作戦は難航しております。能力兵を投入する大規模作戦が必要かと」


「欧州に圧力をかけながら米軍との前線を押し上げ、日本を制圧しろとは。政府のやつらもなかなか面白い要求をしてくれるものだな」


「一度、こちらとの関係性を明確にしておきますか?」


「無駄だ。やつらは個人ではなく組織全体を主語にする。接触してくる人間は基本使い捨てよ。どちらが殺しを生業としているかわからんほどに狡猾だ」


「了解」


AZの量産化によって新規戦力の課題をクリアしたロシア軍は、基本的に軍事行動は陸軍や空軍を主体としながら、重要な局面でAZを投入する作戦を主体として立ち回っているが、AZも無尽蔵ではなく、対日本戦と米軍戦にてかなりのAZを消費してしまったこと今では、継戦を優先した作戦をメインで行っていた。そのため、目立った状況の好転はなく、政府からの改善指示が出され、グリゴリーは少し頭を悩ませていた。


「一つご報告が」


「なんだ」


「欧州側の動きが以前と比較すると鈍化しているように思われます。こちらの陸上部隊侵攻に対する迎撃態勢は投入戦力も含め、日に日に減少傾向です。欧州軍の内偵は基本すぐに手を打たれてきましたが、ここ数日は泳がされているのか、まだ連絡可能です」


「...ほう。雲がかかった要塞に、ついに攻め入る道が見えたか」


「はい。ですが、内偵者からの報告でお伝えすべき内容があります。軍や国政とは無関係な宗教団体が各国の軍にテロ行為を行い、能力兵の拉致や洗脳を行っているとのことです。欧州軍の迎撃が手薄になっていることにも関連があると、私は推測します」


「宗教?...能力者という要素がある以上、民間組織ですら無視はできんか。...どちらにせよ、今が好機であることに変わりない。...戦場を知らぬ甘ちゃんどもを黙らせるため、私も出撃するとしようか。極東もいずれ取り戻すが、失った分をまずは西側で補填するとしよう」


「了解」


世界的に見ても勝ち戦の少ないロシアは勝機に貪欲だった。AZを活かしきれない作戦や敵軍の能力者に阻まれる状況が続いた。ならばAZを量産する時間をただ待っているわけにはいかない。この戦闘が、過去最大規模の決戦となることをグリゴリーは持ち前の嗅覚で察していたのだろう。




ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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