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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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No.107 眩む兆し

憂希は作戦を担うにあたり、ケビンに連れられ、作戦会議室へと向かっている。欧州軍の中でも内通者の暴動鎮圧は急務であるため、作戦エリアに直で派遣ではなく、事前にすり合わせの場を設定された。それほど内部的にも重要な情報なのだろう。


「私たちのトップに組織外の者を通すというのは中々珍しいことだよ。ただ、少し気難しい部分がある人だ。君なら大丈夫だとは思うけどね」


「そうですか」


ストレスのない意思疎通ができるのであればなんでもいい、と憂希は思っていた。日本軍という環境を離れることで少しではあるがひしめき合い、今にもつぶれそうなほど押し寄せてくる怒りや苛立ちから解放されている。自分にとっても脅威である光信聖教と自分自身が和日月の能力を攻略することに集中すれば、少し気がまぎれるだろうと考えていた。影のようにいつでもそこにあり、意識すれば色濃くなる憤怒から、憂希は目をそらすことしかできない。


「ここだ。入るよ」


「はい」


日本の会議室とは少し異なり、政治的な重厚感ある会議室ではなく、洗練された最新のオフィスのようなきれいな会議室だ。シンプルな扉を開けるとそこには会議室の広さに反して、人は三人しかいなかった。一人は見覚えのある男。それ以外は初見の女性二人だ。そのうちの一人がその両名の真ん中で会議室の椅子に座り、他二名が挟むようにその後ろに立っている。


「...あなたがケビンのお気に入りね。ようこそ、我が社へ。歓迎するわ」


その高貴さ、美麗さゆえに感じるプレッシャー。人としての格の差がそこにあることを存在感だけで示しているような感覚。思わず目で追うような何かを感じる。


「...こちらこそ、日本軍にいた俺を加えていただきありがとうございます」


「年齢の割に律儀ね。日本人らしいわ。ゼス...私はグラム社CEO兼欧州軍防衛開発局局長を詰めるゼシカ・グラムよ。よろしく、日本の新星さん」


「神崎 憂希です。よろしくお願いします」


「さて、早速本題に入りましょうか。ケビンから事前にいろいろ聞いていると思うから、状況説明は最小限にするわ。内通者が暴動を起こし、欧州軍基地の一部を占拠されている状況よ。あなたには子の内通者を鎮圧してほしい。情報を取りたいから全滅は避けてほしいけど、手段は問わないわ。一応、基地に被害は出ないようにしてほしいというのが要望ね。ここまでで何かある?」


「...内通者はすべて能力者ですか?それと、すべてが軍の関係者ですか?」


「基本的に能力者だけど全員ではないわ。軍の関係者ではあるわ。民間人はいない」


「...わかりました。すぐに対応します」


「へえ...相手の人数や武装状況とか、細かい情報は必要ないのね」


「...場所がわかっているならこちらから襲撃できるということですよね。...なら、問題ないと思います」


「頼もしいわね。では実力を見せてもらうとしましょう」


作戦会議と呼ぶにはあまりに短い。しかし憂希にとってはそれで十分だった。防衛や奇襲を受ける側でないだけですごく気楽だった。しかし、憂希が自覚できていないだけで、気楽な理由はそれだけではない。自覚することを憂希自身は認められないだろうが、その気楽さは仲間がいないことが大きかった。護る者のいない戦いが自然と憂希にのしかかる重圧を軽くしたのだ。


「...このくらいの話であれば、別に俺がやらなくてもグレード1の人なら難なく対応できるんじゃないですか?」


会議室から退室し、作戦エリアへと早速向かう。その道中で純粋な疑問をケビンに投げかける。実際、その通りである。憂希でしか対応できない状況とは思えなかった。そもそもグレード1が対処できない状況のほうが珍しい。相性や能力行使の環境や状況による有利不利はあるが、奇襲ともなれば話は別だろう。基地が相手ともなれば対策を講じられることはあるが、それでも一人いれば戦況が変わるほど、絶大な能力だ。


「君の有用性を示したい、というのが一番の目的だ。また、こちらの都合で申し訳ないが、こういう組織的なぐらつきは事を大きくしたくない。我々のグレード1が対応することで能力などの情報を仕入れる目的も考えられる。下手に動けば、後々足元をすくわれかねない。申し訳ないが、保険だな」


「...まあ、そこまで清々しく言ってくれるなら、別に大丈夫です。利害関係はお互い様ですし」


「話が早くて助かるよ。対軍戦闘ならまだしも、世界各国に根を下ろす宗教団体ともなれば、慎重にならざるを得ない」


「それもそうですね」


欧州軍としても余計な情報を外に出すのはリスクが大きい。日本軍で発生した事態は詳細までつかめていないものの、光信聖教から欧州軍が探っていた日本軍が保持する能力者進化のリスク低減について情報を持っていることを憂希から聞いていた。つまり、国家レベルの情報を仕入れることができるほど、組織内部に侵入しているということになる。そのことを聞けば、過剰なほど警戒するのも無理はない。


「あそこだ。格納庫内に陣取り、周囲の武器や兵器を盾に下手げな攻撃をさせないようにしている。襲撃は容易いが、こちらの被害を極力抑えるには少々、厄介でね」


どうやら内通者の暴動集団は自分らを囮に欧州軍への被害を誘発するように立ち回っているようだ。宗教のために命まで犠牲にする考え。テロ組織と同じだ。


「...わかりました。一度俺が奇襲を仕掛けます」


「頼んだよ」


「...ふぅ。.....っ」


憂希はその場から動くことなく、内通者がいると言われた格納庫に能力を放つ。地上から二メートル弱の高さまでをすべて氷結させる。ホワイトルーム拷問の期間で訓練した出力の瞬間最大風速を向上させた成果をここで発揮させ、瞬く間にそこはすべてに動くことを封じる白銀の絶世界となる。


「接近します」


間髪入れず、そのまま凍結した格納庫へと高速飛行で音もなく接近する。あらゆる感知機器は氷点下をはるかに下回る空間においてその機能を失っていることだろう。反撃も迎撃も許さない奇襲攻撃。


「...んん、これは想像以上だね。仮に格納庫ごと破壊しろと言っていたら、どうなっていたんだろうか」


憂希がその場から離れた後で、思わずケビンの口から感嘆が漏れる。躊躇を消し去った憂希の制圧力は脅威的だ。予備動作なしで回避困難な攻撃を仕掛ける。これは事前に能力で有利を構築しておかなければ対応するのは難しい。グレード1でもその能力によって制圧力は異なる。


「...ん?...凍っていない部分がある...か?」


格納庫全体が凍結しているはずだが、憂希の研ぎ澄まされた感覚は氷結を伝って、内部の空間に温度差のような違和感を感じる。正確な場所までは特定できないが、それでも大きくはない範囲でそれを感じる。


「....あれか」


憂希は慎重に接近し、違和感のある場所を目視で確認する。そこには周囲のあらゆる影響から完全に隔離された空間が存在していた。温度も音も何もかもが隔絶されたものでいきなり発生した凍結に混乱し、周囲の状況を確認することに躍起になっているようだった。会話どころか隔絶された空間内の音すら聞こえないが、十数名の人間が必死に何かを会話している。ただ、暴動全員を隔絶で護れたわけではなく、周囲に同じくらいの数が凍結されている。


「...あの中を凍結させれば終わりか。...っ!?」


隔絶された空間内に氷結を発生させようとした瞬間、敵の動きのほうが先手を打った。格納庫に存在するあらゆる金属が格納庫の外側へ向かって、何かに撃ちだされたように放たれる。


「なんだ...!?」


その金属を空中で凍結させることでその威力ごと氷の中に封じる。しかし、停止したと思った直後、凍結している中で金属たちが高速で回転を始め、まとわりつく氷を削り始める。


「くっ...磁力か何かか」


金属で溢れる格納庫においてそれを対象とする能力は本来とは違う意味でも武器の宝庫だ。憂希の位置を特定した攻撃ではないとはいえ、氷の牢獄を突破するため全方位に攻撃を放っている。ただ、その反撃では状況は好転しない。この状況を掌握しているのは間違いなく憂希である。


「水攻めは磁力じゃ防げないだろっ」


憂希は生かして捉えるため、隔絶された空間内に大量の水を発生させ、渦潮のような激流を生み、中にいる者をかき混ぜる。空間認識と視界を奪い、酸素を吸えずもがくしかない状況で混乱を誘う。その狙い通り、呼吸を優先して隔絶を解除したことで、周囲に展開されていた大気すら地に落ちる冷気にさらされ、濡れた体は一瞬で凍結した。隔絶が能力自体にも適用されなかったことで憂希の攻めが上回った。


「...よし、これで。なっ、なんだ!?」


しかし、その場にいる誰もが予想できない事態がさらにそれを上回った。凍結され、完全に意識すらないはずの暴徒たちの体が視界が真っ白に眩むほどの光を放った。格納庫内は太陽でもその場にあるかのような閃光で溢れかえり、物体への光の反射すら許さないほど光で埋め尽くされた。


「くっ....。....っ!?....誰も....いない」


その閃光が消え、眩む視界の中で格納庫を見渡したが、捉えたはずの暴徒たちが一人残らずその場から消えていた。氷塊はまるで人の形に抉り取られたかのようにすっぽりと痕跡だけを象っていた。


「...どういうことだ。テレポートできるほど...余裕は与えていない。移動するなら凍結前の意識のある状態じゃないと....」


初撃から意識不明で拘束していた暴徒も漏れなく姿を消している。手段は不明であり、どこに消えたのかすらわからない。能力者がいたことは磁力と隔絶の現象からは明らかだ。何かしらの分身やら召喚の類ではないだろう。


「...戻って報告するか。とりあえず、格納庫は無事だ」


暴徒の鎮圧は成功したが、捕獲はできなかった。しかし、光信聖教の奇妙さはどんどん浮き彫りになっていく。そこに確かに存在し、目に見えているはずなのに掴みどころがなく、具体的な形を把握できない。それはまるでこの世界を照らす、光のようなものだった。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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