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自由戦争 -兵器と異能が戦火広げる世界大戦の果てに-  作者: 夜求 夜旻
第2章 世界大戦の引き金

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104/114

No.104 先の見えぬ世界

光信聖教の活動目的は能力者という神の加護を受けた者の保護とそれらを軍事利用しようとする各軍の解体。ただ、その名目とは裏腹にその行動だけを切り取れば、能力者を増産する技術や能力者そのものの確保に動いているように見える。光を信仰しているのにもかかわらず、真の目的や思想は深海よりも見えない。その毒牙がかみつくものを選ばず、藪に潜み、誰彼構わず狙っているようにすら感じる。


「ケビン。あなたは何か知っているの?このカルト教団について」


「報告書で上げられていない情報は一つだけあるよ。これは貴重な情報だ。日本も同様に関係者の一部を宗教に取り込み、内部情報を抜き取っていたらしい。さらに、グレード1の能力者である『正義』にもコンタクトを取っていたことが発覚した。関係者の取り込みはホワイトルーム拷問と呼ばれる精神的な拷問で行われている。影もできないほどの強い光で照らされた無機質な真っ白い部屋に閉じ込められ、外界から遮断し、あらゆる感覚器官を麻痺させていくものだそうだよ」


「入信勧誘どころか洗脳ね。...一度狂わされて、宗教の教えとしてあらゆる価値観を刷り込まれるわけね。...民間人に紛れているようじゃ対策はかなり厳しいわね」


「また、『正義』から彼らの目的についても聞き出している。目的は能力者の保護と能力者を軍事利用している組織の解体、だそうだ。つまり、全世界の軍が対象となっている完全な第三勢力といったところだね」


「...本当に解体なのか怪しいところね。実際は乗っ取りなんじゃないのって思うけれど。まあいいわ。それで?その『正義』はどうなったの?話が聞けるくらいには正気だったってことよね」


「これは例外にしておいた方がいいと思うけど、彼は正気だったよ。どう耐えたか、なぜ無事だったかまでは聞き出せなかったけど、まあそれでも限界ギリギリって印象だった。グレード1が彼らに捕らえられたのは初めてだっただろうし、何かイレギュラーがあったのかもしれない」


「..そう。まあ、そこは大して重要じゃないわね。...では本題に戻りましょ」


その会議室にいるのは十名にも満たない参加者であり、取り仕切っているのはゼシカだ。自室にいる時とは装いが異なり、軍服に身をまとい、長い髪も二つに結っている。ケビンは青年の姿で参加しているところを見るに、やはりそれが本当の姿なのかもしれない。


「内部に宗教団体の刺客が入り込んでいることを掴んだ瞬間、小隊長らを中心に軍の関係者が暗殺されるという事件が発生しているのは皆さんご存知かと思うけれど。目的はおそらく能力者の洗脳や組織体制の破壊。そして軍事機密の奪取といったところでしょう。能力者に選択肢をもたらし、能力者の社会を構築するうえで、本来であれば協力関係になるべき相手ではあるけれど、そのやり方や思想には同意しかねる部分が多すぎる。さらに言えば、すでにこちらに対して強硬手段とも言える暗殺を仕掛けてきている時点で会話の余地はないわ。従って早急にこのカルト教団に対策を講じる必要があるわ。この会議ではその方針を決める」


CEOや局長という肩書きを納得させるほどの威厳と取り仕切り方。無駄なくトップダウンで全体の方針を決定し、詳細を会議として実施していく。自室にいる時のナイーブさは一切感じられない。それどころか芯の強さをはっきりと感じる。


「私から一つ、提案していいかな」


「どうぞ」


「『正義』をこちらに引き込み、他国との戦闘ではなく、光信聖教に対する対抗策として機能させるというのはどうだろう。もちろん、組織内の問題は別途対応が必要だ。情報統制や閲覧権限の引き上げを初め、かつて日本国が行ったキリスト教の踏み絵のように内通者を洗い出す必要がある。それでもただ後手に回るだけでは解決にならないからね」


「方針としては別に反対はしないけど。それは散々失敗しているじゃないの?と言うより、そもそも軍に配備されている能力者で勧誘して成功しているのなんて一握りでしょう?」


ケビンは世界各国に対してあらゆる形で接触を図り、その都度、目星をつけた対象に声をかけている。実際、それでヘッドハンティングできるのはせいぜい欧州の能力者に対する待遇を求めてくるものであり、軍事的な視点で言えば、ほとんど増強できていないと言える。とはいえ、他国とは打って変わり、能力者を中心に軍を編成できる程度には能力者の数が潤沢であることも事実。


「欧州軍に所属させるというより、対光信聖教の協力関係を築こうと思っているよ。まだ詳細は聞けてはいないが、光信聖教との接触で彼はかなり消耗している。いや....絶望していると言っていい。人を救い、人を導くための宗教が、人を陥れ、人から望みを絶つとは何とも度し難いよね。...まあ、言葉を選ばず言えば、そこに付け入る隙がある」


「随分と気に入っているわね、その人のこと」


「彼をそのまま野放しにしておくと、いずれ私たちの脅威となる。これは明確に言い切れる。協力関係を築いておくことは重要だ」


「...なるほど。わかったわ。では対策はケビン、あなたにお任せするとしましょう。内部の問題は全関係者にカルト教団との関係がないか総点検で対応。能力者に関係する全ての情報の閲覧権限をここにいるメンバーによる承諾を義務付けるわ。小隊長暗殺に関係したと思われる人物は漏れなく調査にかけて。多少粗い手でも構わないわ。...以上よ」


この会議を皮切りに欧州軍内部の関係者すべてに光信聖教との関係性を洗いざらい調査した。その結果、欧州軍内部だけでおよそ百名近くがふるいにかけられた。全体の数パーセントにも満たない数とはいえ、立場や所属はまちまちであり、幅広く浸食されていることが発覚。さらにそのうちの半数以上が能力者であり、軍事力としての打撃も無視できないレベルとなっていた。これに対し、欧州軍は可能な限りの意識や思考の回復に努めたが、洗脳は根強く、人格がすり替えられたかのようにほとんどの人間が回復することはなかった。


「やあ、探したよ」


「...あなたなら探すこともないんじゃないんでしたっけ」


「ネカフェで寝泊まりとは、ずいぶんと環境が変わったようだね。日本軍にはいられなくなったのかい?」


欧州軍の会議が終了した直後に、ケビンは憂希のもとを訪ねた。ただ、いつもとは違う場所や環境にさすがのケビンも驚きを隠せない。一人で過ごすにはあまりあるかつての憂希の部屋は見る影もなく、最低限の荷物が置かれた狭い部屋に憂希は暮らしていた。さすがに店内で会話するわけにもいかず、店の外に出て、建物同士の隙間のような路地に入る。


「日本軍にこのまま所属するかどうかはまだ判断できない。だが...俺がこのまま知らぬ顔で今まで通り所属することはない。はっきりさせなきゃいけないことが多い」


「...だからネカフェを点々としながら、防犯カメラやらに顔が映らないようそんな恰好でいるのかい」


パーカーのフードを深くかぶり、マスクをして、普通なら不審者として事情聴取くらいされそうなものだが、最低限の寝泊まり以外、自分がいる場所を固定しないようにしているため、憂希は未だに日本軍からは発見されていない。


「金は日本軍から離れた日にまとめて下ろした。今まで使ってこなかった分、一年は問題なく生活できる。俺は...どうしても確かめなきゃいけないことがある。それに恰好のことは言われたくないですね。結局その老紳士姿に戻っているじゃないですか」


「こんな公共の場に本当の姿などさらせるわけがないだろう。それはそれとして...なるほど。...君が今、日本軍所属の兵士ではないという前提で、一つ情報を共有しよう」


「なんですか」


「欧州軍にも光信聖教による内部侵食が確認された。日本軍でどの程度いたのかは知らないけれど、我々の中では無視できないほどの被害を被ったよ」


「っ...。そっちにもあいつらが」


「兵士を暗殺されるという事態にまで発展した。これは私たちの落ち度であり、光信聖教の脅威とも言えるだろう」


「なっ...。暗殺...」


「これは私個人として忠告するけど。....どんな手段でも臆することなく選択し、それが正しいことを疑わない集団だ。君たち日本軍にも内通者が生まれているのなら、早急に対策しなければ、菌のように繁殖し、気が付いたころには手が付けられなくなるだろう」


ケビンのこの言葉は協力関係を築くための話術ではあるが、それでも嘘偽りのない本心でもあった。先に動きを見せたのは日本軍からだった。多少の犠牲が出ても支障がないほど内部に浸透している裏付けとも言える。そしてその事実は軍から離れた憂希には考えが揺らぐ情報だった。


「これを君に伝えた意味がわかるかい?」


「...日本軍に戻れない俺が光信聖教から仲間を護るには、光信聖教を何とかしないといけないって話ですか。協力しろと?」


「それを決めるのは君だ。私は前々から君がどこにいようと何者だろうと、私は君を買っている」


「なぜ、俺にそこまで。毎回聞いている気もしますが、今は日本軍ですらない。日本軍とパイプ役にはなれなかったし、今は日本軍から捜索される身です」


「君の成長は目まぐるしい。日本軍から離れたのであれば君を引き込むチャンスだと考えているだけだよ。しかも脅威なのは双方同じ相手だ。我々も暗殺でかなり削られた。他国との戦闘ではないのに、この消費はさすがに痛手だ。これ以上は存亡にかかわる。何としても現時点で対策する必要がある。どうだい、君の住む場所も日本軍からの隔離も協力しよう」


「...わかりました。協力します。ただ、日本軍とのトラブルには巻き込みません。そこは協力していただかなくて結構です。これは俺の問題なので」


「そうかい。...まあ、無理強いはしないが、私はそこもやぶさかではないと伝えておくよ。まずは、目の前に迫る共通の脅威に共同戦線といこうか」


憂希にとって、衣食住に加え、日本軍側からの隔離や光信聖教の情報を取れる願ってもない条件であり、それに間違いなく承諾すると予想してケビンは提案した。お互いに利害は一致している。憂希はこのタイミングから欧州軍対光信聖教対策本部の実行隊として、名簿には記載されないままメンバー入りを果たした。

ご拝読ありがとうございます。

皆様の娯楽として一時を楽しんでいただくきっかけとなれましたら幸いです。


素人の初投稿品になります。

これからも誠心誠意精進いたしますので、ブクマや☆での評価・応援、どうかよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。

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