7話 ゴブリンのお客様
お読み頂きありがとうございます。
本日もちょっと短いです。
お手柔らかによろしくお願いします。
私という戦力、と呼べるかまだわからないけれど…。
それが加わったので、今まで出来なかった狩りの仕方や獲物が取れるのではないかと言うことで、このまま狩り場へ移動し、狩りに挑むはずだった予定を変更するようだ。
彼らが今まで向かっていた方向と逆、つまり彼らの集落へ戻る方向へ少し進むと約20人の集団が悠々と収まる拓けた場所に出た。
今日はここでキャンプをする、とのこと。
元々キャンプ予定はなかった為、そのような準備はないがそれぞれが役割を持ち、簡易のテントを作ったり煮炊きの準備を慌ただしくしている。
そんな中、私は真ん中近くに拵えたキャンプファイヤーのような焚き火近くの丸太に腰下ろして、忙しなく動く彼らを眺めながら、時折傍に積まれた薪を火に焚べていく。
私の座っている場所には彼のスカーフが敷かれている。
始めからこうしていたのでは断じてない。
少しでも彼らの手伝いをしようと私も動いていたのだが、どこへ行っても「ここは大丈夫だから休んでいてくれ」と言われるのだ。
どう見てもマンパワー不足なのに。
どこにも任せられる仕事はない、と言うことだろうか…、と半分しょげているとアインがやって来て言う。
「貴女様はお客様なのです。それもこれまでにない程特上のおもてなしをしなければいけない程のお客様。その方にお手伝いいただく訳にはいかないのですよ。お気持ちだけ有難くちょうだいしているので、ゆっくりお休みいただきたいのです。」
そう言う彼も忙しなく動いていたのだろう。
顔は泥と汗で汚れ、疲れているように見える。
そんな中で私を気遣ってくれ、声をかけてくれたのだ。
(私はどうしていつも自分の事ばかり……だからこうして迷惑をかけてしまう)
申し訳なくて、情けなくて…。
自然と俯いてしまった顔を、下からアインが覗き込んでくる。
その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「貴女様に出会えた事で、我々の運命は好転しているはずです!それだけで我々は貴女様に返し切れない恩義があるのですよ。」
彼は立ち上がると、そっと手が差し出した。
私がその手をじっと見ていると、優しい声音が降りてきた。
「我らにもプライドはあります!我々のプライドにかけて貴女様をお守りしますし、今日は出来る限りのおもてなしを致します!だから、どうか楽しんでいただきたいのです……そのようなお顔はして欲しくないのです…」
ハッとして顔を上げると、声音と同じ、優しい表情をしたアインと目が合う。
私と目が合うと更に笑みを深め、私の手を取りキャンプファイヤーへ向かって歩き出す。
私も半ば引きずられるように後をついて行く。
「本当は…」
ポツリと呟くようにアインが言う。
「本当はみんな怖かったんです。俺たちゴブリンは弱い。この森の中じゃ、本当に1番弱いかもしれないんです。」
キャンプファイヤーの傍には、所々に腰を下ろせるように丸太が無造作に置いてある。
そこへ先程のようにスカーフをしいてくれるアイン。
スカーフの場所へ私を座らせると、少し開けてアインも腰を下ろした。
ジッと揺れる炎を見つめたままアインは続ける。
「俺の父も母もゴブリン族の戦士でした。この弓は母が使っていた物です。」
背負っていた弓を手に取るとそれを優しく撫でる。
その目には愛しさと悲しみが混ざったような色が見えた気がした。
「父は王国の首都から逃げる時、俺たちを逃がす為の囮となり今はどうなったのかわかりません。母は、この森での狩りの時に…。弓だけは見つけたので、今は俺が使っています。」
静かに語ってくれた内容は、日本で育った私には遠く、実感のない話だった。
けれど彼の話は事実なのだ。
この世界は弱肉強食の世界。
命の価値は限りなく低い。
彼は弓に落とした視線を上げると、私を見つめる。
そこにはしっかりとした意思が宿っていた。
「俺たちは今度の狩りで失敗出来ません。後がないのです。そんな時に貴女様と出会った。生まれたばかりだというのに、直ぐにマナを支配出来たり、見た事もないクリーンを使ったり…貴女様は可能性に溢れている。だから、俺たちの未来も可能性に溢れているんです!わかりますか?」
ふわりと優しい表情を浮かべるアイン。
私は下に敷かれたスカーフを撫でながら、実感なく聞いていた。
その様子に苦笑いを浮かべながらも、呆れる事なく笑ってくれるアイン。
「今はわからないかもしれないですけど、きっと明日。わかると思います!」
しっかりと確信をもった様子で語ると、彼は立ち上がる。
「ってことなので、今はゆっくり休んでいてください。もし何かしたいのであれば、多分燃え尽きることはないと思うのですが、この火が消えたら結構危ないので、そこの薪をくべてください。色々準備が終わったら、きっと大変なので本当にゆっくり休んでいてくださいよ!」
私の座っている丸太の隣には小さな山に、薪が積まれていた。
それを指さして彼が言った。
そしてそのまま彼は仕事へ戻ろうとし、こちらを振り返る。
「本当に休んでいてくださいよ!お客様なんですからねっ!」
いたずらっ子のような、ちょっとからかうように彼は私に念を押すと手を振り、持ち場へと帰っていった。
私の気持ちを察してくれたのだ。
私に役目をくれ、更には気持ちを少しでも軽くしてくれるように色々と話をしてくれた。
語りたくない話でもあったろうに…。
彼が去った後、心無しか気持ちが軽くなっている気がした。
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