6話 ゴブリン族の願い~期待と不安~
本日もお読み頂きありがとうございます。
お手柔らかによろしくお願いします。
今回はちょっと短いです。
「私共の願いをお伝えするにはまず、我々ゴブリン族の現在の状況を知って頂く必要があります。少々長くなりますが…よろしいでしょうか?」
私が頷くと族長は静かに語り始めた。
今いるこの森はディパ大森林という、このビゲス大陸でも数少ない未開の地。
数多くの国が存在し、領土を広げるのを我先にと争っているにも関わらず、この大森林はどの国にも属しておらず開拓もされていない。
それはこの森の生物体系にあった。
ここにはこの世界でも頂点に近い存在である竜種や、沢山の冒険者がまとまって挑んでも勝てるかどうか怪しい魔獣など、生きていく事自体が難しい地なのだという。
そんな土地になぜ底辺近いゴブリン族がいるのかといえば、差別や迫害から逃れて辿り着いたのがここだったという。
数年は魔獣以外の獣を狩って凌いできたが、最近では獣もあまり見ず、どうにかこうにか多くの犠牲を伴いながらこの森でも底辺に属する魔獣を狩る事で生き延びた。
しかし、ここ数回狩りは上手くいかず、戦死者だけでなく餓死者も増え、これ以上失敗すれば一族が途絶える危機だという。
「…ゴブリンって本当に弱い種族だったのね。」
思わずボソリと呟いてしまった。
それを拾ったのは初接触くんだった。
「そう、ですね…。本当に弱い自分が情けないです。仲間を見捨てて逃げる事しかできない…そんな弱い自分が許せない…。」
その握りしめた拳が震えている。
私のように生まれる種族を選べる者など他にいるのだろうか。
誰だって他に虐げられる事のない強者に生まれたかったはず。
私は他者を弱者と呼ぶ資格はない。
「ごめんなさい…。」
ありきたりな謝罪の言葉しか出てきてくれなかった。
そんな自分がまた嫌になる。
前世でも伝えたい事程言葉に出来ず、自分の思いの半分も伝えられた事がないかもしれない。
(生まれ変わってもコレじゃあ意味、ないじゃん…)
地面に視線を漂わせているとポンポン、と優しく頭を撫でられた。
驚いて顔を上げると彼がいた。
「ま、仕方ないんだ。俺たちはゴブリン。弱いのは弱い。だから力を合わせてなんとか生き残ろうとしている、っていう訳だ!」
飾り気なくニカッと歯を出して笑いながら私に語りかける彼は、初接触くんの叔父であるアントンさん。
初接触くんはアインというらしい。
叔父といってもほとんど年も変わらないらしい。
けれどアインくんよりも筋骨隆々、右頬には古傷があり、頼れる兄貴分といった感じだ。
そんな彼が、落ち込んだ様子の私を気遣ってくれる。
申し訳ない気持ちを押し込めて、多分上手く笑えてないけど笑顔を作って頷いておく。
「そこで貴女様にお願い申し上げます。此度は失敗の許されない狩り。それをどうかお手伝い頂きたい。勿論、貴女様はお怪我のないよう離れていて下さって構いません。なんとか魔法で援護して頂きたいのです。」
族長からのお願いはこれだった。
生まれたての私はほとんど魔法を使った事がない。
ましてや狩りなど前世でもした事がないのに、一族の存亡がかかっている狩りを手伝えというのだ。
プレッシャーが半端ない。
が、手伝うと先に言ってしまったし、これも何かの縁、なのだ。
「…私に出来る事は少ないと思います。それでも良ければ…お手伝いさせてください。」
真剣な顔で私の返答を待つ族長たちに、私も自分の気持ちに真摯な言葉で返す。
すると周りを囲んでいたゴブリンたちから喜びの声がわく。
その声にビックリして目を丸くしてチラリと横目で族長を見ると、その目に涙を浮かべて喜んでいるではないか。
(……そんなに期待されても、困るよ…)
私の胸中は複雑だった。
期待される喜びと不安がせめぎ合う。
この不安に押しつぶされるのが日常だった。
そのために外に出られなくなってしまい、暫くは家族が扉の外から声を掛けてくれていたが、徐々にその回数は減り…ついにはなくなった。
その時、私は安心したのと同時に悲しみに包まれていた。
あれ程声をかけて欲しくなかったのに。
あれ程放っておいて欲しかったのに。
あれ程1人になりたかったのに。
実際に声がかからなくなり、放っておかれ、1人になったら悲しくなった。
こんな悲しみはもういらないと思った。
(そうだよ…もういらないって思ったじゃない)
今度は不安に潰されないように。
彼らと力を合わせて、彼らの知恵を借りて。
私の出来る限り、彼らの力になろうと決意する。
「私に出来る事、させてください!」
「ありがとう、有難うございますっ!」
族長が深々とお辞儀をしてくる。
それを見た他のゴブリンたちも同じく、深々とお辞儀をする。
みんなにお辞儀されるような身分でもないけれど、この期待に応えられるように頑張ろうと思う。
私も精一杯の笑顔でみんなに応えるのであった。
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