5話 マナと魔法と洗濯と
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私がマナを引っ込めることに成功すると、目に見えてゴブリンたちの顔色や表情が変わる。
無意識とはいえ、本当に悪いことをした。
「ごめんなさい!わからなかったとはいえ、あなた方には迷惑をかけてしまったみたいで…」
シュンと項垂れる私に族長と初接触くんが慌て出す。
「いえいえ!貴女様は先程生まれたばかりだとおっしゃいました。それでは致し方ない事にございます。それどころか、少しの指南で完璧にマナを支配されております。流石としか言えませぬ!」
族長の言葉にコクコクと首を振る人形と化す初接触くん。
そろそろ初接触くんでは可哀想になってきた。
「そうですかね?まぁ…迷惑をかけた事には変わりないんですけどね。それとそこのスカーフを貸してくださった方、ありがとうございました。」
立ち上がり、尻に敷かせて貰っていたスカーフを手に取る。
それは湿った地面に直接敷かれていたために、しっかりと泥で汚れてしまっていた。
自分を思って貸してもらった物は綺麗にして返したいが…、とそこで思い出したのが全魔法適性。
どうやって魔法は習得するものなのか不明ではあるが、前世のなろう系知識と先程のマナの操作があればどうにかなるんではないだろうか?
このスカーフを洗濯機で洗剤を使って洗濯するイメージをしながらマナを操作する。
すると思っていた通り、スカーフが洗濯機で洗ったように綺麗になる。
匂いを嗅ぐと、前世で使っていた洗剤と柔軟剤の匂いがするし、肌触りもフワリと柔らかかった。
「そ、それは一体…?!」
族長も初接触くんも目を剥いて驚いている。
(あれ?生活魔法的なのはないのかな?)
自分としては満足な出来だったが、彼らの反応を見ると、この生活魔法のようなジャンルの魔法がないのか、私のなんちゃって生活魔法がおかしいか、どちらかになるが…。
「…こういう魔法はないんですか?あ、とりあえずお返ししますね。ありがとうございました。」
綺麗に畳んで初接触くんに手渡す。
手にそれを取るとその感触にギョッとする初接触くん。
「あ、あの…これは一体?!」
何かマズい事をしただろうか。
なんだか初接触くんの顔色が悪い。
それを見た族長は、初接触くんからスカーフを受け取ると、族長もまたその感触にギョッとしている。
(…これは確実にやらかした感。)
「あ、あの…これは一体…?」
「…思いつきで魔法で洗濯してみました…けど……マズかったです?」
族長の信じられないと顔に書いてあるかの如く、驚きの表情と、私の言葉を聞いた初接触くんが族長から引ったくるようにスカーフを取り上げると大事そうに胸に抱えた。
その時にフワリと洗剤と柔軟剤の香りが漂ったのだろう。
その香りに初接触くんはうっとりと、族長はこれまた目が飛び出るような勢いで驚いている。
「これはぁ…いーい匂いですねぇ…」
初接触くんは香りをお気に召してくれたようだ。
族長が初接触くんをギロりと睨み、頭頂部へゲンコツを1発お見舞いし、彼の胸に抱かれていたスカーフを取り上げる。
だいぶ痛いゲンコツだったのだろう…初接触くんは涙目で頭を抑え、蹲ってしまった。
それを見た族長はフンっと鼻で一息つくと、私に向き合う。
「大変畏れ多いのですが、これを清浄化なさった魔法はどういったものなのでしょう?従来あるクリーンの魔法はこのように生地を柔らかくしたり、馨しい香りを付けたりする事は出来ません。それにこの手触りや香り…そのへんの貴族でも欲しがるような価値があるでしょう。」
真剣な表情と口調から、それは嘘ではない事はわかる。
しかし、そんなに価値があるものなのだろうか。
「これは生地を痛めないように洗剤を使って洗い、その後柔軟剤を入れて濯いだ物をイメージして魔法を組みました。そしたら出来たものですね。」
とりあえず魔法について、自分がした事をそのまま伝える。
ただし、この世界に洗濯機があるかどうかはまだわからないので、そこは言わない。
そうなると洗剤とか柔軟剤も怪しかったかもしれない。
「…洗濯…洗剤に柔軟剤とな…」
やはりキーワードになってしまったようだ。
でももう口から出た言葉は戻せない。
それこそ時間を巻き戻したり出来るのならば可能ではあるが、そういったものは神の御業とされるものだろう。
しかしファンタジーではよくある魔法なのも確か。
ここではありなのだろうか?
そういった事を1人悶々と考えていると族長から声がかかる。
「洗剤はわかりますが、柔軟剤は分かりかねます。貴女様には何ともないものかもしれませんが、これは世の者がこぞって欲しがると思いますよ。…しかし何にせよ、貴女様の魔法はとてつもない事が確かとなりました。そこで…大変無礼な事を承知でお頼み申したい事があります。」
柔軟剤はないようだ。
と、そこではない。
頭を深々と下げたまま面を上げない族長。
それほどまでして、私なんかにして欲しい事があるようだ。
「顔を上げてください。私なんかに出来る事ならお手伝いしますよ。」
「なんとっ!それは有難いっ!」
とても喜んで勢いよく顔を上げる族長。
しかしそこに私は条件を突き出すのだ!
「でも条件があります。」
ビシッと人差し指を1本立てて族長の前に突き出す。
狼狽えた様子の族長と、やっとの事でゲンコツショックから立ち直った初接触くんがキョトンとした顔でこちらを見てくる。
私はニコリと微笑む。
「簡単な事だと思います。先程言ったように、私は生まれたばかりで何も知りません。なので、この世界の事や魔法、生活の知恵など。この世界で生きていくのに必要な事を教えて欲しいのです。勿論、あなた方が知っている情報だけで構いません。ね?簡単でしょ?」
微笑んだまま、コテりと出来るだけ可愛く、首をかしげて見せる。
初接触くんは顔を赤くして俯いてしまったが、族長は何やら難しい顔をしている。
「…わかりました。しかし、その条件で良いか、この願いを受けて頂けるかどうかは、私共の願いを全て聞いて頂いてから選んで頂きたい。」
「……私に死ねって言う願いじゃなければ大抵は受けると思うよ?とりあえず聞くけど。」
いつの間にか敬語が面倒くさくなった私はタメ語になってしまっている。
こんなところも前世では社会に馴染めない原因のひとつだった。
敬語を使えない人間は弾かれる事が多かった。
しかし族長は、族長というその種族の中ではトップの存在であるにも関わらず、私のタメ語を何の文句も言わずに受け入れている。
族長はとても丁寧な敬語で私に話しかけているにも関わらず、だ。
理由はわからないが、私にとっては有難い事であった。
話がズレてしまったが、私が族長に言った事は本当だ。
この世界に生まれた時に偶然でも出会ったのは、きっと何かの縁なのだ。
その人々が私に何かして欲しいと言うのならば、私がこの世界に転生した目的である長く生きること、を妨げない事ならば受けようと思っている。
出来る出来ないは別にしても、試してみたり、みんなと試行錯誤してもいいのではないだろうか。
「…では、私共の願いなのですが…」
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