8話 運命の前夜
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辺りが真っ暗になる頃にようやく、ささやかな宴の準備が完了した。
幸運にも捕れたウサギの丸焼きが数羽と、森に実る木の実や山菜がたくさん並んでいる。
この量ならば20人で食べても足りるだろう。
毎回このくらいの量を確保出来ていたなら、今回のような状況にはならなかったのだろう。
だから今日、このくらいの量を確保出来たという事は奇跡と言うべきだろう。
大きな焚き火を囲んで皆で腰を下ろし歓談していると族長が立ち上がる。
久々のまともな食事を目の前にして、ざわめき立っていたゴブリンたちが会話を止め族長に注目する。
私もそれに倣う。
族長はひとつ咳払いをしてから話し始める。
「本来ならば今、この時、このような状態である予定はなかった。しかし!偶然であったが大きな戦力となってくれるであろう御方と、我々は今日、出会う事が出来た!これは我々の運命を変えるであろう!!」
族長はみんなの顔を順番に見ながら力強く話す。
その声にゴブリンたちも、無意識のうちに体に力が入っているようだった。
最後に族長の視線が私で止まる。
私に何か訴えてくるようなその眼差しは、出会った頃の怯えや恐怖、絶望といった悲観的なものは一切感じられず、今はただ強い輝きを湛えている。
その目の輝きは私を、私の力を信じてくれているから発せられているのだと、彼の話から否が応にでもわからせられる。
なんの保証もなしに私に寄せられている信頼。
けれど私には、みんなを助けられる程の力があるとは思えない。
「明日、我々は再び狩りへと向かう…一族の存亡を賭けた狩りだ。幸運にも今日は、こうして質の良い食事が出来る。明日の為に良く食べ、良く寝る事!…あんまり長く話すと我慢出来ない輩もいそうであるから、これまでとする。では皆の者、乾杯!」
「「「乾杯っ!!」」」
族長の話よりも、目の前にあるご馳走に涎が垂れそうになったり、もう既に垂らしている者が続出していたのを見かねた様子で、ヤレヤレといった表情の族長は乾杯の音頭をとる。
盛大な乾杯の挨拶が返えり、我先にとみんなモリモリ食べ出す。
体が小さい人も細い人も、みんな口いっぱいに詰め込んで食べている。
(本当に食べられてなかったんだなぁ…)
涙を流して食べる人もチラホラいて、それを見て他人事のように考えてしまう。
本当は自分にも当てはまる。
この世界に転生して天涯孤独。
今は運良く?ゴブリンたちと行動を共にしているが、そのあとは自給自足だ。
食べられない事が続くことだって珍しくなくなるだろう。
明日が来ない時が来るやもしれぬ恐怖だってあるだろう。
だからこそ自分の力を確かめ、鍛えていかなければいけないのだ。
そんな決意をしながら、私のために、と分けておいてくれた分の肉に手をのばす。
今日初めて見た、生き物が死んでから肉になるまでを。
だからこそ、心の底から感謝する事ができた。
生命を貰い自分の命とすることに感謝を。
「いただきます。」
そうやってモグモグしているとアインが傍に寄ってきた。
声をかけようか悩んでる様子の彼を、ちょっと悩んだが手招きして呼んでみた。
きっと彼に尻尾があったらブンブンと振られていたのだろうな、といった笑顔で喜び全開にコチラへと向かってくる。
「…なに?」
素っ気なく声をかけてしまった。
仕事だと割り切っていた時は人見知りしないのに、プライベートだと人見知りの激しかった私の悪いところは異世界でも健在なようだ。
それでも物怖じした様子なく彼はニコニコと笑顔だ。
若干顔が赤いような気もする。
「貴方様のお名前はなんと言うのですかっ?」
唐突な彼からの質問にパチクリと瞬きを繰り返す。
それに彼は嬉しそうに笑う。
「また貴方様の知らないお表情が見れました!けど、やっぱり貴方様では言いづらいし距離を感じますっ!なのでお名前を知りたいのですっ!」
(ん…?!お酒くさい…?)
彼がググイと近づいてくるとアルコールの独特な匂いがする。
どうやらお酒も出ているようだ。
色々と大盤振る舞いでやっているのだろう。
(それにしても…名前、か…)
今の私には名前がない。
転生した時は独りだったから。
誰も誕生を祝わず、誰も誕生を願ってもいなかった。
そんなポッと生まれた私に名前なんてあるはずがないのだ。
(…わかって聞いてる……訳ないか)
一瞬ムっとするが、彼に悪気は一切ないだろう。
まだない名前を聞かれているだけ。
そう思うと、なんだかとても嬉しくなってきた。
ただ単純に名前を教えて欲しいと願われる事は、こんなに嬉しい事だったのだろうか。
思い出されるのは前世の最後の職場。
あそこで私のフルネーム、いや苗字だけでも覚えている人がいるだろうか?
顔すら覚えている人がいるか、怪しいのではないだろうか。
空気のような存在だった私を、誰も気にする事はなかったのだから覚えているばすがない。
そんなだからか、彼の好意がとても嬉しい。
自然と表情が緩んでいた。
しかし、これは困った。
私には今、名前がないのだ。
自分で付ける…というのも何だか違う気がする。
今度は知らず知らずのうちに、困り顔になっていたのだろう。
アインが慌てだした。
「すっすみませんっ!困らせたかった訳じゃないんです!無理ならいいんです、ごめんなさいっ!」
土下座をして必死に謝るアイン。
(この種族は土下座が好きなのだろうか…)
なんて一瞬考えて、周りが私たちに注目している事に気がついた。
(こんな大声で話してたらそりゃ、みんな気になるよねー…)
内心グッタリしながらも、顔には笑顔を作り彼に話しかける。
「あのね、アイン。私、さっき生まれたの。だからね、名前ないの。ごめんね、教えられなくて。」
ちょっと演技してウルウルと瞳を潤ませ、可愛こぶってみた。
そうして彼の肩に優しく触れ、困ったように微笑みかける。
その効果は思った以上だったみたいで、彼は少し赤かった顔を更に赤らめて飛び起きた。
「めっ!滅相もございませんっ!!!こちらこそ申し訳ありませんでしたっ!」
これまた大声でそう謝ると凄い速さでみんなの輪の中に消えていった。
お読み頂きありがとうございました。
誤字、脱字等ございましたら、ご指摘ください。
話のストックがなくなった為、更新が少し遅くなります。
多分明日更新は出来ないと思います。
申し訳ありません。




