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2話 魔王転生

さわさわと心地好い風が草を揺らし私の頬をくすぐり、顔へ注ぐ日差しの眩しさに無理矢理意識を引き戻される。


「…んぅーーっ…」


目を擦りながらむくりと起き上がると大きく伸びをする。

先程の女神とのやりとりからほんの僅かな時間しか経っていないはずだが、とても長い時間同じ姿勢でいたようなコリを全身に感じながらひとつ、欠伸(あくび)をする。

女神と話したのは真っ白で何も無い空間であったが、今いる場所は背の高い木々が鬱蒼(うっそう)と生い茂り薄暗く、木々の伸ばす枝葉の僅かな隙間から眩しい太陽の日差しが私の周りだけピンポイントで降り注いでおり、まるでスポットライトのようになっていた。

チラホラとほかの場所にも光が差しているが、なんの嫌がらせかと思う程、他の場所よりも明らかに光の強さが違っており、そこにいる私には日差しが目に痛い程である。

折角異世界転生をするというある一定層の憧れの舞台へと上がれた、と言う余韻を楽しもうとしていたのに…。

余韻のへったくれもなくなってしまうくらい強制的に覚醒させられた程の日差しである。


うらめしや!


その強制覚醒された頭で私の今の状況を整理し始める。

私は何も無い空間からポっと出で孤独に生まれ落ちたらしい。

そして私がいる場所。

視認出来る範囲では、森の切れ間らしきものや道の類は見つけられない、どこかの深い森の中、であるという事。


「はぁ…森の中で独り生まれ落ちた訳か」


人間関係が嫌だと言ったし、群れたくないとは言ったが、生まれる時まで孤独だとは……。

しかしながら、本当の意味では孤独ではないかもしれない。

何故かというと、私の周囲には生物の気配があり、それらの視線を感じる。

がしかし、私へ近寄ろうとする動きは何故かない。

じっと見られている…観察されている?


(…まぁ、敵意はないようだし、とりあえず転生した私の体の確認を先にしてしまいましょうか。)


目の前に広げた自分の掌を見ると随分と小さい。

幼稚園の年少くらいの頃と同じか、それよりちょっと大きいくらいか。

肌の色は透き通るような白さを通り越し、ちょっと青白い気がする。

スベスベのモチモチの赤ちゃん肌は地味に嬉しい。

髪は太陽の光を反射する、ビューティーなキューティクルをもった銀糸のようなサラサラストレートのとても綺麗な銀髪で、だいぶ長く地面に広がっている。

多分身長と同じくらいはあるのではないだろうか。

と、頭に手をやるとまず耳の先が尖っている事に気が付いた。

所謂(いわゆる)エルフのような耳というやつだ。

そしてその耳の少し上には角が生えていた。

ツルツルとしているが硬く先は尖っているようで、正に角としか言えないものが両耳の上から生えている。

しかし、とても小さなものなので髪型を変えれば隠せてしまうのではないだろうか。


「っ…おぉっ?!」


そんな事を思案していると突然髪の毛がスルスル、ウネウネと自分で動き出したではないか。

変な声が出たのは仕方ない。

予想外過ぎだ。


「………なんと言うことでしょう」


某番組ナレーション風の言葉が思わず洩れてしまった。

なんと自分の思う通りに髪の毛を動かす事が出来てしまったのだ!

ウネウネと動かす事は勿論、長く伸ばしたり短くしたり、ちょっとした形を作ってみたりも思い通りであった。

しかし先程の長さがなぜかしっくりきたので、元の長さにして角を隠すようにリボンを作り、その高さでツインテールにしてみた。

傍から見たらきっと気持ち悪い光景なんだろうなー、とも思うが何より…


(魔族ってなんて便利!!)


そんな気持ちで私は嬉しかった。

前世での私は髪の毛を結んだりアレンジする事が苦手で、いつもポニーテールのように1つに結ぶのが精一杯。

私だって色々とお洒落にやりたい髪型やアレンジはあったが、不器用過ぎて出来なかったのだ。


しかしだ!


こんなふうに思ったように動かせるのだから、憧れていたあの髪型やアレンジのアレコレも夢じゃないっ!

なんてワクワクしながらも一旦冷静になり、女神からもらった体の確認を続ける。


「よいしょっと!」


思わずおばちゃん臭い掛け声が出てしまった…気をつけなければ。

この体は生まれたばかりで見た目は多分幼女だ。

声も可愛らしい幼女声。

その中身はおばちゃんだが、今は幼女である事を念頭に可愛らしさを心掛けていこうではないか。


で、服装であるが、これはあまり可愛らしいとは言えない。

上下黒で、上はチューブトップのようなもの、下はローライズのショートパンツのようなもので、とても体にフィットしており簡素。

しかしながら、動きやすくはあり、そちらを重視しているようだ。

飾り気など欠片もない。

と、今度はなんだか服が微振動している。

プルプルしており何やらくすぐったい。

しかし程なくしてプルプルは止まってしまった。


(…おや…?)


これはもしかすると、服も思い通りに出来るのかもしれない。

が、しかし今はレベルか何かが足りないため、今後動かす事が出来るようになるか今は出来ない、といったところではないだろうか。

黒のオーバーニーブーツも同じような感じであった。


(なんて便利、異世界。ビバ!異世界!!)


どうにかしてレベルを上げれば洋服代も美容室代もいらないのだ。

それにお気に入りをわざわざ探す必要もない。

その便利さに1人感動しガッツポーズをとっていると、ふと我に返る。


(さっきから視線は感じるのに、なんで近寄ってこないんだろう…)


そう、先程から結構な数の視線を感じる。

しかしそれらは近寄ろうとする気配はないが、ジーっと穴が開くほどにこちらを観察されている。

色々と恥ずかしい行動をとっていたかもしれない…。


(こんな可愛らしい幼女を観察するだなんて…変態?!?)


こんな森の中に変態なんているのだろうかとも思ったが、ここは異世界。

奴隷制度なんかもあるかもしれないし、まだ自分の容姿について大切な顔面偏差値なんかは未確認であるが…


きっと!いや多分!!


美幼女な気がするのでどこぞの金持ちに売り飛ばそうとする輩に見つかってしまったのかもしれない。

そうなると身の危険が迫っている事になるが、そういった敵意や害意のある視線ではないようにも思う。

そういった視線には前世での事もあり敏感なのだ。

しかし、だからと言ってこのまま観られているのもなんだか(しゃく)(さわ)るので、とりあえず1番近いと思われる視線の主に会いに行こうと決める。

そうと決まれば、この体の性能チェックも兼ねて全速力で走る。


(突撃!隣の〇ご飯!)


するとどうだろうか、驚く事に前世で体育2だった私が一瞬にして視線の主の背後に立っているではないか。

疲れも息切れも何も無い。


「え…?ひ、ひぃ?!!」


私が一瞬のうちに姿を消し、自分の背後に現れた事で驚き、上擦った声を上げ、尻もちをついてしまった小鬼のような人型の生物がいた。

私の知識からするとゴブリンと呼ばれる、ゲームや小説なら始めの方に現れる雑魚モンスターのように見える。

しかしながらその目には確かな知性が感じられるし、日本人男性の平均くらいの身長がある。


(ゲームのゴブリンと何か違う…?)


勝手にゴブリンと決めつけ観察を始める。

そのゴブリンの肌は私のより更に青みががっており、口には八重歯が発達したような牙、頭には私のより大きめの角が2本、ゲームの様に小汚い腰蓑(こしみの)のみではなく、簡素ではあるがきちんと上下着ており、それに革鎧のようなものも要所要所に着けている。

手には弓、背中には矢筒も背負っている。

よく見ると地面には手から落としたであろう矢が落ちている。


(あれー…?敵意は感じなかったような気がしたんだけど。転生して鈍っちゃったかなー?これは危険…かなぁ?)


弓と矢へ交互に視線をやると、少し正気に戻ったような小鬼がその視線に気付いた様子で更に慌て始める。


「い、いやっ!違うんです!!そういう訳ではなくてっ!!えっ、えっと!あのっ、そのーっ!」


(おぉ!やっぱり知性ある生物のようだ。)


女神の転生特典のお陰で、問題なく言語理解は出来る。

アワアワと1人慌て出す小鬼は、なんだか憎めない感じで、可哀想にさえ思えてくるから不思議だ。

ただでさえ青い顔を更に青くしている。


なんだか気が抜けてしまいため息をつくと、それまで様子を静かに見守っていた視線の主達がガサガサと音を立てこちらへと集まってくる。

ゆっくりと歩み寄ってくる彼らは皆大小、老若男女はあれど、ここでアワアワしている小鬼のような姿をしていた。

私を取り囲むように集まると、1人の年老いた小鬼が1歩前へと歩み出、土下座をするように頭を地面へとつけた。


「大変御無礼を致しました!何卒、何卒!我らをお(ゆる)しくださいませっ!!何卒!!」


周囲の小鬼より幾分か年老いてはいるが、貫禄と深い知性が感じられるその人物が大声で(のたま)う。

すると、それ以外の小鬼たちも一斉に土下座し、「何卒!何卒!!」、「お赦しください!」等、口々に許しを()うてくる。

全く理解出来ないこの状況に今度は私が慌て始めるのであった。

お読み頂きありがとうございました。


誤字、脱字等ありましたらご指摘ください。

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