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僕の預かったマーメイドが世間知らず過ぎて、ヤバイ。 後編

楽しいです~!!


ジェットコースターに乗り終わってもぴんぴん飛び跳ねている。僕は隣で震えていた。


「大丈夫?アッキー。顔が真っ青。っていうか、白いよ?」


「・・・・・・ちょっと、そっとしておいて・・・」


そんな事を言うのが精一杯だ。


「面白かったですねー。それじゃあ、もう一回乗りましょう~」


「エ・・エリカ。よく聞くんだ・・・」


僕は助けの視線を栞に送った。・・・!頷き返してくれた。


「あのね。エリカ。こういうのは一回きりっていうのが、大切なんだよー。何回もやっちゃうと、次にシーファンシーに来た時に、飽きて乗りたくなくなっちゃうでしょ?」


「なるほど~。栞さんは賢いですね~~」


ほっとした。またもう一回。なんて言われたらと思うと、逆毛が立ってくる。栞さん賢い!連れてきて正解だった!


「とりあえず、お土産屋さんで何か買い物がてら、休憩しましょうか」


た~~るにゃんの建設的な意見。良いね。


「僕はここで休憩してるから、好きなのあったら買ってあげて・・支払いは全部僕でいいから」


僕はた~~るにゃんにカードを渡して、一人ベンチで半ば放心状態で観覧車を見上げる。


・・・・・・・あっ。・・・・・・・・・。


変なことを思い出してしまった。目をそらして、上物のコーラを買ってベンチで三人のショッピングを目で追った。


「こうやって見てる分には、普通であろう日常光景と、何一つ変わるものはないんだよね・・・」


「あら?晃弘君。お一人ですか?」


隣を見ると、最上さんと香苗さんがいた。二人こそ平日に何やってるんだろうと思う。


「いえ・・・友人達と、です。僕はちょっとジェットコースターで磨耗しちゃって。最上さんと香苗さんはシーファンシーを楽しまれてそうですね」


二人は、シーファンシーのマスコット達のウサギの耳や大きいカエルの耳をつけて、ガスの入った風船を2、3個も持っている。片手にはどっしりとした紙袋だ。おそらく、中にはキャラモノノベルティーグッズ、アメニティーが所狭しと詰まっているのだろう。顔には、シーファンシーの仲間達になれちゃうペインティングが施されていた。


「ええ。隠蔽工作が終わって、一息ついた休日です!せっかくの休日ですからね。初めてだけど、シーファンシーは最高ですね!」


「もしかして、栞と一緒なの?晃弘君」


「ええ。そうですよ、香苗さん」


そう言って、二人は僕の隣のベンチに座った。


「そうなの。今日は極めてテンション高かったのよ。昨日は珍しく夜九時には眠ってたし」


「そうですか・・・結構楽しくやってますよ」


「あの三人?」


「そうです」


「へぇ。・・・あの子は誰?」


「えっと・・ちょっと知り合いから頼まれた子なんですけど・・・八町島での生活を、今教えてるところです。生まれが・・その、結構のどかな場所で」


「そうなんですか!今度私にも紹介してくださいね!」


「ええ・・・」


「あの子、人間じゃないわね」


「・・・・どうして分かったんですか・・」


「・・・晃弘君。カマかけには、今後注意する事ね。まぁいいわ。プライベートとはいえ、ハメを外し過ぎたらダメよ」


「・・・分かってますよ」


「あと、栞の事。どう?」


「どうって・・・普通・・ですよ。最近は」


「あの子って、ああいうのを、好んで演じてるような部分があるから」


「知ってますよ」


「そう。良い感じに解凍してるみたいね。何かあったら、いつでも連絡していいからね」


「ありがとうございます」


「それじゃあね。晃弘君」


「おつかれです、晃弘君」


「それじゃあ、また!香苗さん、最上さん」


香苗さんだって、かなりハメを外してたじゃないか・・。そんな事を、後姿を見送りながら考える。服の後ろには、でっかいウサギさんがプリントされていた。


「・・・コーラが、美味しい」


「しかし・・まぁ。周りを見渡せば、カップル、カップル。カップルのオンパレードだな・・・」


大体喜劇、たまに悲劇。そんな不思議な場所なんだよね。ここ。


「けっこおおお買っちゃいましたあああ~~~!!!」


遠くで間延びした声が絶叫している。よほど楽しかったのだろう。笑顔から最高の幸せ度数が伝わる。


「ありがとうございました。合計金額が十三万を超えてましたが」


「・・・・いいよ。特別な日だからさ」


たまに全てがどうでもよくなる時がある。今もだ。心底、着て良かったなって思える。こういう瞬間は大切だ。今日はいろいろあったけど、人生を振り返る際の一ページになるだろう。


「これからはいかがされますか?」


「そうだね・・せっかくだし、イーストベルフィーネホテルで夕食を食べようか」


「ご主人様。大変申し訳ないのですが、あそこの五つ星レストランのフルコースは半年待ちになりますよ・・」


「大丈夫、任せて」


僕は電話をかける。


「僕だよ、僕、僕」


電話が切れた。


・・・・・・・・・・・。


もう一度、電話をかける。


「晃弘です・・・・」


「なんだ、あなただったの?てっきり最近流行の僕僕詐欺かと思っちゃったわ」


・・・・・。


「お願いがあるんだけど、いいかな」


「あら。初めての事ね。いいけど、グラミー賞の辞退はしないわよ?」


「そうじゃないよ。今隣のシーファンシーに居るんだけど、隣接するバッフェルクイットイーストベルフィーネホテルで夕食が食べたくってさ。良かったら四つほど席を用意できないかな?」


「いいわよ。それで、何時?」


「今から三時間後ぐらいなら大丈夫かな?」


「うちのレストランって仕込みだけでもかなり大変ってパンフレットに書いてあったから、多分フルコースは無理よ。それでも、美味しい料理なら何かしら出せるとは思うけど」


「ありがとう」


よしよし。グッド。むふふ。今日はスペシャルなディになっちゃうよっ!


それからちょっとのセクハラを受けて、電話を切った。


「オーケー。とりあえず、あと三時間。まだまだ遊べるね!」


「さっすがっアッキー!」


「凄いです晃弘様~!」


「やりますね、ご主人様」


ニューレコード!今、この瞬間が、僕の人生の絶頂さ。なんたって、両手じゃ抱えきれないんだから。


海賊船に乗って、シーファンシーを横断したり、エリカがリトルプリンセスの特殊メイクを受けたり、迷子センターを空にしたり、お化け屋敷に入ったり。最後にシーファンシークルーのパレードと花火を楽しんだ。


花火を見上げるエリカが泣いているのを見た。僕は両手を挙げて大喝采。大きな花火が綺麗だ。


「最高でした~~!最高過ぎると涙が出ちゃうんですね~」


そんな言葉も貰えた。大満足のシーファンシーだった。


ホテルに着いて、ベルボーイが誘導してくれた先は最上階のVIP席だった。


遊園地はもちろん、八町島の360度のパラノマ。フロアには、調理キッチンがある。そこで滅茶苦茶な高さの帽子をのっけているコックが一人、いそいそと調理をしている。


促されるまま、席に着く。


「・・・凄いですね~」


そんな感嘆詞が飛び交う。つい半年前まで、僕は一般高校生だったのに。中学の頃は、夏休みの間にバイトした事がある。時給は650円だった。


「お待ちしておりました。私、イーストベルフィーネホテル、総料理長を務めますエノテカ・ピンキオーニと申します。名高い三上晃弘様が当レストランをご予約を入れてくださり、感激しました。本日はフルコースではなく、スペシャル料理をご用意致しましたので、存分にお楽しみくださいませ」


凄まじく高い白帽子を被ったイケメンコックがそんな事を言ってくれる。かなり嬉しい。VIPだ。やっほーい!


「・・・あはは・・わざわざありがとうございます。えと・・そんなに僕って有名ですか・・?」


「ええ。それはもう。ちなみに、オーナーから頂いたご要望はお客様に最高の料理を振舞えとの事でしたので、今回の料理は少々趣が異なります」


「え・・えっと、どんなのが出るんですか?」


「それはお楽しみに・・・」


総料理長が下がっていった。僕の唾液は、止まらない。


僕達の前に、大きな鍋が出された。


「本日のメインディッシュ、次元渡り鳥の羽根煮込みスープでございます」


フタを開けると、虹色のスープがそこにあった。


「・・・・っ・・・ッ・・・!」


「辛いッ!」


「アイスみたいです~~」


「おでん・・・・の味がします・・」


小学校の頃だった。夕焼け空になって、僕は泥まみれで帰ってきた。風呂に入って、母さんが出してくれたのは、カレーだった。美味しかった。


気が付けば、鼻水を垂れ流し、涙で目の前が見えなかった。


・・・・・・・・。


「こちらのスープは、お客様の最良の思い出を引き出し、味として認識して頂ける食べ物になっております。最高の時間をお過ごし頂けたかと思いますが、いかがでしたでしょうか」


「・・・最高だったよ」


言葉がうまく出なかった。感情が表現できない。そのまま、総料理長は下がって、フロアの一室で僕達はくつろいだ。食後のコーヒーとアイスが、美味しい。


「カレーの味がしたんだけど、どう?」


「こっちは先ほど食べたカレーの味がしました~」


二人はなんともないように会話している。僕とた~~るにゃんは、動かない。


「た~~るにゃんは、どんな味がしたの?」


「・・・・・最高の、味がしました」


「僕もだよ」


ピピピピピピ


ピッ!


「どうだった?」


「・・・美味しかったよ。最高だった」


「でしょ?あたしも初めて食べた時は驚いちゃった。動けなさそうだったら、部屋を用意するけど、どう?」


僕は、た~~るにゃんを見た。まだフリーズしている。解凍しそうにはなかった。


「一部屋用意してもらえるかな」


「おっけー、多分VIPは全部埋まっちゃってるから、シーファンシー見えない部屋になっても文句は言わないでよね」


「言わないよ。VIPルームで至れり尽くせりで、今日は本当に感謝に絶えないよ」


「別にいいわよ。それじゃ、またかけなおすわ。部屋の番号を教えるから」


スマフォをポッケにしまって、た~~るにゃんを見る。・・大丈夫だろうか。こんなた~~るにゃん、見たこと無かった。声をかける事すらためらわれる。


「すっごぉーーーい!!夜景きれえええーーー!!」


「ここが八町島なんですね~~~!大きな島に、何でも詰まってるんですね~~!」


二人は、ガラスに手をついて、煌びやかな夜景を楽しんでいた。


電話が鳴り取ると、番号だけ伝えられ、電話は切れた。


「た~~るにゃん」


「・・・はい」


「部屋を取ったから、今日はもう、ここで泊まろう」


「はい」


上の空の返事だ。きっとまだ、夢見心地なんだろうと思う。


「ここで一泊するの!?」


「うん。部屋も取れたみたいだし、移動しよう。一応スイートが空いてたみたいだから、そこもきっと夜景が楽しめるよ」


「わ~~い」


「わ~~い」


「た~~るにゃん、歩ける?」


「はい」


僕はた~~るにゃんの肩を取って、歩かせ、なんとか部屋を移動した。


「ひろおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいい」


「大きなベッドですね~~大きなテレビですね~~~えっ。これって、お姫様ベッドってやつですね~~!」


天蓋つきのお姫様ベッドまで置いてある。元々僕達の住んでいるフロアは、デザイナーズマンションのかなり上等のものだからそれほど新鮮味は無いはずだけど、こういう大人数で宿を取るというのは、わくわくする。僕は、修学旅行の時なんかは、興奮して眠れないタイプなのだ。そして、当日は絶対最後の一人まで、起きているタイプなのだ。


「跳ねます~~~」


そういって、ベッドをトランポリンのように遊んでる。・・・・バネが痛むから止めときなって・・・という言葉を言いかける。ちょっとぐらい、いいじゃないか。こういう時なんだから。きっと、僕は親バカになるんだろうなぁ。なんて事を考えて、五分を過ぎてまだやってたら注意しよう。なんて考える。


「た~~るにゃん、大丈夫?」


「はい」


即答するが、明らかに聞いてない。僕はそのまま寝かせて布団をかける。ベッドの数が五つ、内一つはキングサイズのベッドだ。


「すごおおおおおいいい!!バスタオルが!歯磨きが!!シーファンシーのキャラモノだよおおおお!!!」


明らかにこれまで見たこと無い栞のテンションだ。ぶっ壊れてるように見えるが、実際は、これが真のテンションなんだろう。


「記念にもらっとこう!!」


そんな声が聞こえる。


コンコン。ノックの音が聞こえる。


「はい」


出ると、そこには、今度は赤色の長髪をした浴衣姿のワーナーがいた。


「どう?楽しんでる?」


「うん。すっごいはしゃいでるよ」


「ふうん。それは良かった。ちょっと飲まない?」


「・・・あのね。僕未成年なんだよ?」


「オレンジジュースくらい飲めるでしょ?」


「行くよ」


ゴシック調の内装からその一室に足を踏み入れるとガラリと変わった。まるでライヴハウスだ。狭い空間に所狭しとテーブルと椅子が置かれている。所々に人が座っている。誰もいないステージにはわずかなイルミネーションが物悲しく光っている。僕達はカウンター席に座った。何も言ってないのに、オレンジジュースの色をした飲み物が置かれた。ワーナーには透明の液体と氷の入ったグラスが置かれた。


「ふう。ここなら邪魔されずに時間を過ごせるでしょ。・・・・・もっと嬉しそうな顔したら?」


「僕の幸せ度数のメーターはとっくに振り切れてるんだよ。これ以上は分けて欲しいものだね」


「幸せや不幸っていうものは、雪崩のように降って沸いてくるようなものよ。次から次へと重なって、それを制御しようなんて思わないことね」


このオレンジジュース。わずかに、ほぼわずかに、アルコールが入っている。しかし、美味しい。


「そうそう。今日のディナーのアレだけど、何?次元渡りの鳥とか言われてスルーしてたけど、実際のところ何?」


「アレはそのまんまの意味よ。次元と次元を飛行して移動する鳥なんだって」


「へぇ・・・パラレルワールドとか?」


「パラレルワールドはIFの世界のお話でしょう。そうじゃなくって、この世界に隣接する次元の話・・・じゃないかしら。例えば、人間じゃなくて、尻尾の生えたエルフ達が地球のような場所に住んでいて、近くの惑星にはダークエルフが住んでるの。だけど、彼らは干渉しない。なぜなら他の惑星に干渉する術がないから・・・」


「なんだか映画みたいな話だよ。スピルバーグの」


「例え話だって・・・・おかわり」


そう言うと内ポケットから葉巻を一本取り出し、口につけ、ライターを僕に投げる。


「・・・・はい」


葉巻の先端に火を点ける。


「ありがと」


フーーーーーっと息を吐き、白い紫煙がゆらめく。


「ほら!」


そんな事を言われて一本投げられる。


「・・・吸わない」


「もったいない」


何がもったいないんだろうか。とりあえず、返した。


「で。そっちはイロイロ大変なんでしょ?夜中でも平気でエアスター使ってるの見かけたけど」


「まぁね・・・でも、実感があるよ。不思議と充実感で満たされてる。案外合ってるのかもね」


「へぇ・・・そーゆーもんかしら?」


「少なくとも合ってるね。たまに夜空のドライブをやったりするよ。雲を抜けて、稲光が下に見えるんだ。眼前には月があって。・・・役得だよ」


「今度連れてってよ」


「いいよ」


それからちょっと世間話をやった。そうだ。僕も意見を返して反論してくれる人間は少ないのだと、ふと思った。それでも、今は完璧に幸せで満ち足りている。これ以上は無い。結局かなり飲んでふらふら、さよならを言って、部屋に行き、ドアを開けたら発狂しながら笑っている栞に枕をぶつけられた。テンションがおかしいと思ったら、テーブルに冷蔵庫の中のビールやカクテルが空になって置いてあった。熟睡しているた~~るにゃんを中央に据えて枕投げをやった。終わって電気を消すと、直ぐに寝息が聞こえてきた。きっと、ここに居る全員、もうエネルギーは空になったんだと思う。


結局エリカのための一日だったなんていうのは口実のようで、純粋にただ一日を満喫したに過ぎなかったのではないだろうか。朝、二日酔いの頭を抱えながら、ふと思った。まぁいいさ。散々な目に遭った事だってある。これぐらい誰かに許してもらえるさ。


そう思って、二度寝した。



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