続・僕の預かったマーメイドが世間知らず過ぎて、ヤバイ。 中編
右端から、僕、た~~るにゃん、エリカ、栞、この順番で座れた。
大冒険活劇を見れた。手に汗滲むアクション、息を飲む映像美、呆けてしまうようなロマンス。どれもこれも、僕の小さかった頃に憧れてた、冒険だ。いつだっただろう。こんなにも遠い存在になってしまうなんて。物語に没頭する間際には、決まってポップコーントリプルエックスが回ってきた。現実に引き留められる現象が、まるで誰かに、映画に魅入るなと言われているようだ。
「アッキー」
そんな中、声がした。魔力を行使して行われるコミュニケーション、言語を介せず話せるウィザード特有の会話。
「なんだよ、栞。今いいところだから、ちょっと黙って」
「隣、見てください」
僕は隣を見た。栞の横顔があった。
「大丈夫です。二人は気付いてませんよ。今なら、どうやっても」
マ・・マズイ。動悸がしてきた。息切れも。僕は手元に栞の買ってきた二杯目のコーラに手を伸ばす。
「い・・今はダメだって・・」
「今じゃなければいいんですか?」
僕のジーパンのチャックが、音を立てずに開かれていった。デジャビュを感じた。
「・・・・ッ!」
おかしい。おかしい。これまで、平静を保ってきた、僕だけど、これまでに無いほど高揚し、興奮し、そして、勃起している。凄まじい好みの絵師の凄まじいシチュエーションの画像を、BBSで見つけて、一心不乱にマスターベーションを行って、人生の快感と幸福感を噛み締めていたあの時に、似ている。・・・・我慢できない。
「・・どーしちゃったんですかー?なんだか、ほっぺたが真っ赤になって、心臓の鼓動も普段の倍くらいなっちゃってませんかぁー?」
「・・・・盛ったね」
「エヘヘ!」
マズイ。本気でマズイ。理由の無い性欲が僕の神経を支配している。抜きたい。抜きたいッ!抜きたいんだあああああ!!!
「盛ってないですけど、私、アッキーが欲しいなぁ。手に入れたいなぁ。そんな想いの元で待ってたら、私から溢れ出る魔力で食べ物を包み込んだんですよ。・・・・・アッキーのストローはべろべろに舐め回しましたけどね」
正直、聞いてなかった。どうでも良かった。マズイのは、今の僕の状況だ。一瞬でも気が緩んだら、チャックから雄雄しく立ちはだかっているジャガージャッカーをしごいてしまいそうだ。本気だ。本気で、だ。
「・・・・・・・」
認識が甘かった。今、僕は命のやり取りを仕掛けられている。そして今、僕の状況は危機的だ。
「栞・・・・」
しごいてくれっ・・!なんて言葉すらも喉から出かかりそうになった。ありえない。ありえないのに。僕の意識と肉体は会話していなかった。
「・・・」
ズボンのポッケ越しに、左手でわずかに、ちょっぴり、自分を慰めている自分自身の行為を自分で発見してしまった。劇場で公開マスターベーションをやるなんて、夢にも描いた事はなかった。
「はは・・あはは!アッキー。私がやってあげましょうか?」
「・・・・・」
お願いします!頼みます!土下座しますから、頼みますッ!!
言えるわけ・・・無いだろうっ!?
「・・・・・お・・・お・・・・・」
「・・うんうん。なにかな?言ってごらん?」
「・・・・オン。ナイトフル・・・オン!!」
「やだっ・・・・!うそ・・!!?」
僕は限りなく気配を絶って、空へ逃げ、出口を目指し、男子トイレに逃げ込んだ。
はぁ・・・はぁ・・・うう・・・はぁ・・・・・ふう・・。僕って、最低だ・・・
「へぇーそんな風になってるんですかー。結構飛ぶんですねー。なるほどなるほどーなるほどなー」
個室の上から、栞が覗き込んでいた。
「いいじゃないですかー?さっきは私のも見せてあげたでしょー?」
言い返せなかった。
「それでも、どうして今、オナニーしてんですか?」
・・・・!
「結構、そういう性癖があるんですね。意外でしたよ」
本気でそういう顔と声をした。分かってないのか・・・理解していなかったのか・・。無意識!?これは・・!
「・・・・・・忘れて・・」
「そういわれるなら、いいですけど・・・。意外ですね。こういう変態っぷりは、二次元の嗜好だけだと思いましたけど・・・」
「席に戻るよ・・・」
「わーかったよ!」
席に戻って、僕は自分の頼んだアメリカンコーヒーを飲む。・・・落ち着いたようだ。なんだったんだ。さっきの性欲衝動は。いきなり湧き上がるなんて・・・。
「ご主人様、席を立たれていたんですね。気が付きませんでした」
「いいんだよ」
・・・・こんなに後味の悪いマスターベーションは、初めてだった。
「うわああぁ~~~こんなにたくさん本があるんですねぇ~~!」
「そ。バッフェルクイットの図書館は日本有数!さすがにバチカンにあるポルノ図書館には負けるけどねぇ~~」
「・・・・・・」
「ポルノ図書館って何ですか~~?」
「え。えっとー・・あ!!ほら、こっち来て!こっち!紙芝居やってるよ!」
「ご主人様もオーラで以って相手を制する事が出来るようになるなんて、成長されましたね」
「・・・・・・」
「ですが、近い内に、そういうご説明をしなければいけません。ちょっと口に出せない単語からネットスラングまで」
「・・・だよね・・・」
嫌な役目だな。そんな事をちょっとだけ思ってしまった。それでも、僕は既に、この役目を引き受けてしまったのだ。後退は許されない。僕の父性がモーターのように轟音を立てて回り始めているのだ。
「次はどこへ行ったらいいかな?」
「シーファンシーなどいかがでしょうか?」
「・・・いいね。行こうか」
「オーーーイ、アッキー!」
遠くから、佐織が大声を出してやってくる。・・・・エリカが居ない。
「あれ?エリカは?」
「朗読会だよー。こっちーこっちー」
手招きについていったら、朗読会という立て札がかけられている一室があった。中に入ると、童話を朗読している女性、それに聴き入っている聴衆達が居た。エリカも混じって、うんうん唸っている。僕達は音を立てないように、隣に座る。
「・・・・・」
静かな空間だった。聞こえるのはぽつりぽつりと情景を映す言葉だけ。窓の外では、雨足が見えた。言葉と重なっている。
「・・・・・」
「すっごく面白かったです~~!」
「それは良かったよ。どういうところが良かったの?」
「一言一言の言葉で、私の知らない風景や、人物を描写して、まるで側にその人と一緒に居るかのように、はっきりと感じてしまったんです~。同じ声でも、張りや大きさで、気持ちが分かって、すっごく素敵でした~」
ウフフ。なんて幸せそうなはにかんだ笑顔をするんだ。僕まで嬉しくなってくる。
「次はー・・えっとー」
「あれ食べたいッ!!」
栞が指をさすのは、マクドナルドだった。
「テキサスバーガー復活だって!信じられない!これはもう、行けってお告げですよね!?」
僕に尋ねられても困るけど、その勢いは、僕の姿勢を傾けさせる迫力があった。
「いいね!行こうか!」
「CMでやってたやつですね~行きたいです~」
「た~~るにゃんも、いい?」
「私は何だっていいですよ。・・・ピクルス抜きなら」
「テキサスバーガーにはピクルスは入ってないよ!イックヨーッ!!」
ダッシュでなぜか栞は駆けていく。それに続いて、なぜかエリカも駆け出す。わからないけど、僕も駆けた。ため息の後に、た~~るにゃんの駆け足が聞こえる。
「ハァハァ・・・テ・・テキサスバーガー四つに・・」
「私三個!」
「私は二個です」
「私は一個でおなかいっぱいですね~」
「テ・・テキサスバーガー七個に・・・ポテトのL四つと、コーラL四つでお願いします・・・」
トレイにのっけられたバーガーを前にすると、女性陣は大きく唸りながら、感嘆詞と共に口に運ぶ。
「むっひー!マイウだよーマイウ!」
栞は食べながら口に手をあてて叫ぶ。
「オイシーですね~~。うんうん。すいません~~」
感想の後に、エリカは店員を呼び止めた。
「右端にのってるの、全部お願いします~」
「す・・すみません・・ご注文はレジでお願い致します・・」
「エリカ・・・あの・・・右端全部って・・」
「美味しいんですよ~これ~。きっとここにある品物、全部美味しいんでしょうね~」
「だからって、そんなに食べきれないよ・・」
「そうなんですか~」
ちょっと残念そうな顔をする。
・・・・・・・・。僕は無言で席を立ち、ボリュームのありそうなバーガーを三つほど注文する。
「ここって美味しいですね~」
「だよー!結構美味しいんですよ。でもね。要注意。毎日食べると、太るし、飽きるし、マズくなる。週一くらいが、ベスト。これ、私情報」
「そうなんですか~」
頼んだバーガー三つをテーブルに運び、エリカの前に置く。
「美味しそうですね~~!」
十分後には、見事に完食した。
「ご主人様」
「はい」
「・・・・太りますよ?」
いいんですか?体型がヤバイ事になりますよ?健康を害しますよ?いいんですか?そんな事を言われてるようだ。実際、そんな事を言ってるのだろう。
「あ、あのね。エリカ。食べすぎは良くないんだよ」
「どうしてですか~?こんなに幸せなのに~」
僕は下手すれば、『スーパーサイズミー』という毎日マックを食べたアメリカのドキュメンタリーを見せる必要さえあるのではないかという気持ちになってきた。
「あのね。太るとね。物語の主人公になれないの」
・・・!
「さっきの朗読会の主人公も、ほっそりとした、美しい女性だったでしょう?食べ過ぎるとね。あの、ガラスの靴に足が入りきれなくなっちゃったり!」
「・・!それは困ります!王子様に見つけてもらえないじゃないですか~」
「だからね。食べすぎはダメなんだよ~~~」
そう言って、栞は僕に右目だけ閉じ、ウインクした。グッジョブ栞!さっきのはコレでチャラだよっ!
「そうですか~。これからはほどほどにしないといけませんね~~」
「そうそう。腹八分目がいいんだよー。あれ?た~~るにゃんは?」
「あっちで、撮影されてるよ」
たまにあるのだ。そうなのだ。彼女は、た~~るにゃんのコスプレを常時着こなしているのだ。こういう人の多い場所だと、一枚、七枚、頼まれたりするのだ。
「あれ?晃弘じゃない?もしかして、デート中?」
そんな事をテキサスバーガー四つをトレーに乗せた美鈴がやってきた。
・・・・マズイ。美鈴に僕の幼少時代の頃の話をされたら、これまでの雰囲気がぶっ壊される。戦車の砲台によって、跡形も無く。
「ち・・違うよ!」
「はじめまして~。私はエリカですよ~・・晃弘様は、私のゴッドファーザーなんですよ~ウフフッ」
「へぇ・・。私は寺鳴美鈴。今度結婚式がある真歌子姉さんの妹よ」
そうなのだ。そういえば、結婚式も近々やるって言ってたな。・・・行きたくない!!!!
「私はアッキーのバイト先の同僚です。栞って呼んでくださいね。えっと・・・幼馴染の美鈴さんっでしたよね?」
「そうそう。それで合ってるわ。何て聞いてる?」
「・・・・・仲が良くて家族ぐるみの付き合いをされてるって聞きましたよ」
「ふーーん。そんなとこね。隣、いい?」
「どーぞ」
この状況は、避けたかった。
「それで、エリカさん。晃弘があなたのゴッドファーザーってどういう事?」
「私の名付け親なんですよ~。ウフフっ・・素敵なお名前ですよね~」
「あんた。どういう事?もしかして、どっかからさらってきたんじゃないでしょーね?」
「・・・・日本語での名前だよ。彼女は遠い国からやってきて、現代日本の生活は不慣れなんだ。今、いろいろ教えてるところ」
「そうなんですよ~~。ウフフッ!陸って素敵ですねっ!」
「・・・・まぁね。確かに八町島は良いところよ。もー大体バッフェルクイットはまわった?」
「まだ三分の一ってとこですよ」
「ふーん。これからね。・・・ってゆーか。あんた。学校サボって何してんの?」
「え・・ええーっと。ちょっと、エリカって実は高貴な名家の生まれでさ。いろいろ案内してくれって言われてね・・」
「ふーん。私も結婚のばたばたやってるって理由だけどね。姉さんの結婚式、あそこでやるのよ」
バッフェルクイットには大きな式場も当然あるのだ。教会の建物で、なんやかんやが揃っているらしい。テレビのCMでも頻繁に流れるほどだ。女性が夢見る結婚式があそこに詰まっているらしい。
「へー・・」
「あんたも呼ばれてるでしょ。来なさいよ」
「・・・・・・よ、予定が合えばね・・・・」
行きたくない。絶対に。行ったら、号泣してしまうだろう。僕は、もう、過去を振り向かない。
「それじゃ、そろそろリハーサルやらなんやらだから、またね。エリカさん、栞さん。晃弘」
そう言って大手を振って去っていった。何時食べ終わったんだろうか。また一人、俊足の真歌子の名前を継ぐ者が現れたか。
「大変お待たせしました、ご主人様」
た~~るにゃんが戻ってきた。
「それじゃ、シーファンシーに行こうか」
「シーファンシーってどういうところなんですか~?」
「遊園地みたいなところだよ。遊園地よりも規模が大きくて、アトラクション要素も大きく、エンターテイメント性も盛りだくさんだよ」
「楽しみです~」




