僕の預かったマーメイドが世間知らず過ぎて、ヤバイ。 前編
告白しよう。僕はバッフェルクイットが嫌いだ。
過去に愛の告白をして断られた、この場所が嫌いだ。
過去にこの場所で家族同然の姉さんがプロポーズを受けようと考えた、この場所が嫌いだ。
過去に、そんな最悪の精神状態のふらふらの時に、裸の魔法使いが空から降りてきて攻撃を仕掛けられた、この場所が嫌いだ。
「何で僕はここにいるんだ?何か変わるかもって、何かいいことあるかもって、ここに来たんだ。嫌な思いをするためじゃない」
「そうやって、嫌なことから逃げ出して、ずっと生きていくつもり?」
独り言を見事にた~~るにゃんに返された。ちょっと恥ずかしい。
「すごおいですね~~!」
平日の昼からでも、バッフェルクイットは大盛況だ。何でもあるこの街は、いつだって活気付いている。
「とりあえず、買い物から覚えられたらいかがでしょうか?」
「そうだね。そうしようか。えっと・・・」
・・・・いない。
「これ一つください~~~」
そんな事をトラの着ぐるみを着たアイス売り場で言っているのを見つけた。
「・・・・・僕は、これ」
「私は、モカチョコチップアイスフィートミントソーダをいただきます」
「あのね。エリカ。こういう買い物っていうのは、お金っていうものが必要なんだよ」
「そうなんですか~?ただでくれないんですね~?」
もしかしたら、僕は彼女に、旧石器時代からの貨幣文化、物々交換のお話から始めなければいけなかったのかもしれない。
「ご主人様。今日のところは、そういった説明を省いて、一旦、思う存分バッフェルクイットで、現代社会のテーマパークを満喫して頂いたらどうでしょうか?細々と説明に説明を重ねてしまうと、おそらく、精神的にくたびれると思います」
「そうだね。そうしようか。おいおい時間をかけて、分かってもらおうか」
僕らはそれからさくさく歩きながら、ウインドウショッピングをしながら、エリカにどういったものかを説明していく。
「楽しいですね~。やっぱり陸は楽しいです~きてよかったですね~」
そんな事を言って、スキップではしゃぐ。身長は僕よりちょっと低いぐらいの女の子にしては、結構背が高いほうだ。しかも、おっぱいがいっぱいだ。胸の揺れが、半端ではなかった。
「それでは、エリカ様のお召し物を揃えましょうか。私のでも、おそらく窮屈でしょう」
「ありがとうございます~」
「僕はここで待ってるから、ゆっくり選んであげてよ」
「お先に言っておきますが・・」
「なに?」
「おそらくエリカ様は、ご自分の気に入ったお洋服でしたら、ためらい無く、買い物カゴに入れるでしょう。・・・この店で宜しいのでしょうか?」
一応、家庭用の量販店の店を選んだつもりだけど・・・。
「そこまで高いのは無いんじゃないかな?」
僕は僕の思っている通りの言葉をそのまま口に出した。
「おそらく、初めてのショッピングがこの場所で、好き放題に選んだとして、後々のご自身お一人でショッピングされる際に、いろいろ落胆されるかと思われます」
「そうかなぁ・・・」
ぴょんぴょん跳ねながら、早速、展示されているマネキンの服をむしりとると、買い物カゴにぶち込んでいった。
「あれは、上下揃えて七万円はしますね。一般の女性の初めての買い物から結構離れてますが・・・宜しいのですか?」
「・・・・ユニクロへ移動しようか」
「賢明なご判断ですね」
僕らは、側に近寄り、まず、僕が口を開けた。
「とりあえず、場所を変えよう。シンプルな場所があるんだよ。そこでは、いくらでも買っていいから」
「わかりました~」
そのまま、店外に出ようとするエリカを止める。
「ダメだよ。その服は返さないと」
「そうなんですか~。買っちゃダメですか~?」
なんとも言えない表情をされてしまった。僕はあはは・・っと笑って、中に入っているカートごとレジに向かった。
「・・・ご主人様」
「・・・・なんだよ、た~~るにゃん」
「ノーと言える事も、必要なんですよ」
「仕方が無いじゃないか。初めて買い物ぐらい、いいじゃないか。そういうのも、おいおい分からせていけばさ」
「今理解出来ました。お父さんが、何故、娘に良い顔を見せるためにプレゼントを怠らないかを」
「・・・それに近いかもね・・・」
117390円になります。っと言われた。・・・カードでっと言った。
「一般女性の初任給は手取りで、大体11万円だそうですよ」
「・・・女の子は可愛らしいものとかも、一着ぐらいは持っておかないとね。全身ユニクロの僕なんかですら、美鈴からディスられてるのに、女の子なんだもん、こういうのも必要だよ」
「・・・・ご主人様が女の子をずばり言ってくださって、感動しました。よくよく理解が進んでおりますね」
「・・・・深夜アニメのおかげだと思う」
「・・・なるほど」
ダストボックスで不必要なものを捨ててくると、エリカは戻ってきた。
「どうでしょうか~~。似合いますか~~?」
アクセサリーも買っていた。新しい財布も。髪留めがカワイらしい。ちっちゃいミニバッグも絵になってる。
「良い感じだよ。似合ってるよ」
「嬉しいです~」
そう言って手を握られ、僕の唇に触れた。
「次は~ユニクロってとこに行くんですよね~。まいりましょ~」
「・・・彼女なら、進んで婚約してくれそうですね・・・」
そんな事をボソリとた~~るにゃんに呟かれる。
「あ・・あははは・・」
ユニクロに着くと、二人は、女性用下着コーナーから女性用の服まで、じっくりと見ていて、順調に買い物カゴは膨らんでいっている。
「・・・結構時間かかりそうだな・・」
僕はコーラを飲みながら、ベンチに座っていた。このコーラ。上物だ。流石バッフェルクイット。サイクルが早いのだろう。炭酸の量がバッチリだ。
「・・・アラ?こんなところで一人?」
プラチナブロンドの長髪に、全身黒のドレス。深紅の小さい帽子、編み込まれた髪の毛はおそらく一時間以上美容室で整えたのではないだろうか。サングラスで覆われてる目からは赤色の光がわずかに見えた。高そうな香水の香りもした。・・・・・こんなオーラ出てる美人に、僕は知り合いはいない。
「人違いですよ・・・」
「何言ってんの。あたしよ、あたし」
そう言ってサングラスを取った。
「・・・・すみません、やっぱり知らない人です」
「あなた、もしかしてバカにしてる?ここで魔法をぶち込んでもいいのよ?」
・・・・・あ。
「もしかして・・・・ワーナー?」
「やっと気付いたの?」
だって、以前はスキンヘッドに、怖いカラコンつけて、おっかない服装だったんだもん。そんな事は怖くて当然口に出さない。
「・・・美人過ぎて気付かなかったよ。前のは・・・ちょっと個性的過ぎたから」
結構女性に対する良い言葉ではないだろうか?まさか、僕がこんな言葉を放つ日が来るなんて。天国のお父さん。ありがとう。晃弘は、無事にすくすく育ってます。
「ふうん。あなたは、相変わらず平均で凡庸なスタイルに埋もれてるみたいだけど。ま。わざとだと思うけど。ヒーロー様はいろいろ大変みたいねぇ」
「スーパースターに言われたくないよ。っていうか、何でここにいるの?」
ワーナー・デイビスはいわゆる歌手だ。最近ではアート部門も手につけて、グロテスクな絵画やCDジャケットにした絵画なんかを美術館で展覧会を開いたりしている。今年のグラミー賞の一つを獲ったというメールが最近やってきた。
「あら?あなたってニュースとか見ないのね?」
萌え燃えニュース速報、た~~るにゃんにゃん速報なら、毎日チェックしてるよ?そんな事は当然言えない。
「忙しくってね」
「なるっほど。あたし、バッフェルクイットイーストベルフィーネホテルのオーナーになったのよ。来日の際にもどうせ使うし、この場所なら、世界中の品物を最速で扱えるし、買えるからね。」
「へぇ・・・それはそれは・・・おめでとう」
「ありがとう。ま。お金はバンバン流さないとね。それで、あなたは?」
「僕は・・・預かってる人が出来て、彼女が人間社会で自立出来るようになるまで、手助けしてるんだよ。今は買い物の覚え方。今、あそこで悩んでる二人」
「あのメイドと巨乳?へぇーあなた、ああいうのが好みなの?」
「そういう問題じゃないからね。長い話だよ」
「ふうん。で、今日は丸一日、あの子に付き合ってるって訳?」
「そうだよ」
「ふうん。・・・・どれどれ」
瞬間、凄まじい魔力の濃度が、ワーナーの身体を覆った。
「ストップ!」
「・・・あら?どうしたの?」
「シール反応が検出されるような強い魔力は控えてよ!」
「それじゃあ、どれぐらいならいいのよ!」
「今のの半分・・・っていうか、魔法で、彼女を探ろうとしたでしょ。止めてよ」
「いいじゃない?その様子じゃ、あなた、あの子の事も確かめなかったでしょ?」
「女の子を探るような真似なんてしたくないし、しないよ!」
「じゃあ、代わりにやったげる」
「ちょっと!!」
先ほどの魔力の半分以上の濃度のそれが、アメーバ状にワーナーから伸びて、エリカに触れた。
「・・・・・・・・あの子、何歳?」
「え?・・・・いや・・・お年頃なんじゃあないかなぁ・・・」
「見た目二十前半っぽいけど、中身は子供レベルじゃないの・・・真っ白の買ったばかりの手帳を連想しちゃったじゃないっ!」
「知らないよ!とにかく、そういう訳だから!今日は忙しいんだよ!」
「あたしも混ぜてもらおーっと思ってたけど、あたしはパス。・・・・あなたって、結構自分から面倒事に首突っ込んでくのねー・・ああいう子守りだなんて」
「うるさいなー・・ほっといてよ。僕が自分で決めた事なんだから」
そんな事を言った直後、ワーナーはニッコリ笑って手を振っていた。
「・・・・あの子、何者?魔法使いじゃないみたいだけど、私の魔法行使を破って気付いて、こっちに手を振ってきたわ」
「・・・・長い話だよ」
「ま。いいわ。何かあったら連絡遣しなさいよ。あなたはあたしの、この世でたった一人の対等な『お友達』なんだからね」
「ありがとう。また連絡するよ」
僕は隣を見たら、すでに居なかった。
「せめて会話ぐらい終わらせてよ・・」




