僕の見合い相手とのお見合いの延長が初デート過ぎて、ヤバイ。
「それじゃ、そろそろビクトリアとの約束があるから。た~~るにゃんは、観光でもしててよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「分かった。どうせ監視してるんだよね。・・・・・・どこか行きたい場所ある?」
「・・・・・・・・・・」
珍しく顔色がちょっと変わるのを、僕は見逃さなかった。
「どうぞ。た~~るにゃんも僕の性格しってるでしょ?言ってよ」
「トレヴィの泉には、一度行ってみたいと思ってました」
伏せ目がちに言われた。珍しい態度だ。トレヴィの泉っていうと・・・ローマの休日か。母さんのDVDコレクションにあったな。
「分かった。そこで・・・・・」
「ダメです」
「え?」
「トレヴィの泉はローマにあります。現状の脅威は、未だ根本的な解決はしておりません。教皇直属護近衛兵の脅威がある以上、ローマに近づく事は良くありません」
「・・・・なるほど」
あの強さ、アーヴィングの強さは本物だった。僕の防衛魔法を突破する超火力に加えて、あの速度。三撃目でようやく慣れたけど、問答無用の速攻で攻撃されてたら、僕の魔法カードは灰になっていただろう。・・・いや。それは無いか。殺すつもりの純粋な殺意の場合は、僕は察知できたはずなのだから。でも・・・リーダー格はアーヴィング以上の強さか。・・・・・・。
「わかった」
僕は頷いて、ビクトリアに電話をかける。
「もしもし。晃弘です」
「おお。晃弘か。待ち詫びておったぞ!今どこじゃ?」
「ヴィネツィアだけど、遠かったらこっちから行くよ」
「いい!折角着てくれたのじゃ。こっちから行く」
「いいよ。家さえ教えてくれたら、こっちが向かうよ」
「乙女のたっての願いを拒むのか?憎い男よのう・・・!」
ずるい。そう言われると絶対に引き下がるしかなくなる。
「分かったよ・・・。どこで待ってればいいかな?」
「ヴェネツィアといえば、サン・マルコ広場じゃろ!渋谷のハチ公みたいなものじゃ。待っておれ。一時間で着く」
「分かったよ。それじゃ」
僕は電話を切った。
「ご主人様、少し宜しいでしょうか」
不満げな顔をしたた~~るにゃんが言った。
「どうぞ」
「先ほどの戦闘の事ですが、余裕を待たずに、確実に仕留めるべきだったかと思います」
「・・・・あの子・・・っていうか、アーヴィングは、何か問題を抱えてるみたいなんだよ。その問題の噴出口が、僕に向けられたってだけだよ」
「ご主人様。甘過ぎます。命の奪い合いでは、確実に奪得る時は、奪い得るものなのです。魔法カードも手に入った事でしょう」
「いいんだよ。僕達の目的は共通してるよ。誰かを守る仕事って事がさ。ただやり方が違うんだ」
きっちり一時間後に、ヴィクトリアは現れた。・・・柱の影に隠れて。
「・・・・・・」
どうすれば良いんだ?こちらをチラチラ見ててバレバレじゃないか!様子を伺ってるようだけど・・・僕が声をかけるべきなのかな!?
「・・・・・・」
とりあえず・・・近づいて・・・あれ?いない。
「ア・・アア・・・アッキイイー・・・今日も晴天な青空じゃな!」
「ヴィ・・・ヴィッキー・・!今日も晴天な青空だね・・!」
社交パーティ帰りのような華やかなドレスだ。15歳らしさの可愛らしさを持たせつつ、華のあるお洒落なデザイン。赤を基調としたデザインは、ヴィクトリアにとても良く似合っていた。
「きょ・・・・今日は・・・き・・記念日なんじゃっ!」
そんな事を出し抜けに言われる。何の記念日なんだろう?
「えっと・・・どんな記念日なの?」
「わらわの初・・・初デートの記念日じゃ!」
この瞬間、僕は衝撃が走った。そうだ。言われるまで気付かなかった。これはデート以外のなにものでもない。ただ、一緒にバッフェルクイットで荷物持ち、映画を楽しむ。なんて以上に、大陸を横断している。バスではなく、ジェット機だった。そうなのだ。これは、もはや、ちょっと遊ぶ。なんてレベルを超えているだろう。
「あ・・・あはは・・・」
普段、僕は楽々と海や大陸を越えているから、客観的に初めて考えた。そう。これは、デートだ。
「と、とりあえず、て、ててて、てててて」
いや・・・お見合いの延長なのだと、僕は考えていたけど、実際はそうなのだろう。しかし・・・。
「ててててて、手を、繋ぐぞ!」
「そ、それはもうちょっと、深い仲になったら・・・」
「知っておる!そういう考えだと、知っておる!・・・・わらわが、手を繋ぎたいのじゃ!はよう、手を出せっ!」
僕は強引に左手をつかまれると、左手は拘束された。
「よし!散歩するぞ!」
「うん・・・」
僕達はとことこ歩く・・・歩く・・・・・って。あれ!!!?
サン・マルコ広場の僕から見て左と右に、わずかな、極々わずかな、警戒心が流れている。・・・かなり強い警戒心。僕らが手を繋いだ瞬間に放たれ、そしてすぐに消えた。
「どこへ行く・・?」
僕は視界の端で捉える。・・・・居た。魔法使いだ。シルクハットを被った新聞を読んでカフェラテを飲んでる老紳士。テーブルで机にひたすら英和辞書をキャンパスノートに模写している女子大生風のIpodを耳につけてる女性。・・・・どうやらSPがついてるのは、僕だけではないようだ。
「・・・・・・・・・・・・・黙ってついてくるのじゃっ!」
かなりのスピードの早歩きだ。ずっとこの速度で、歩いてきたんだと思う。ヴィクトリアは。僕はというと、このスピードの半分以下。何も知らなかった何もできなかった普通の高校生だった。・・・今はなんとか、ついていくことが出来る。
「何か飲み物が欲しくなってこんか?」
そんな事を露店の飲み物屋の前で、不意に立ち止まられて言われた。
「そうだね。喉が渇いたね」
「そうじゃろう!?わらわもじゃ。なんか飲むか。・・・・・一杯やるか」
おそらく、最後の言葉は、何かテレビドラマか何かで覚えたのだろう。しかし。指摘するものアレだ。・・・僕は頷くだけだ。
「お・・おお・・・おっちゃん・・いつもの!」
「あいよ!」
おもいっきり日本語だけど、おっちゃんもネイティブな日本語で返して、カフェオレを二つ渡してくれる。
「釣りはとっとけ!」
「悪いね!」
そんな言葉のやり取りが続いた。バッフェルクイットの夕暮れ時の飲み屋街のノリだ。
「ここのはな。旨い・・・・マイウだぞ。マイウ」
「そ、そうなんだ」
「・・・うむ。良い感じじゃ」
「・・・うんうん。美味しいね」
「じゃろう!次、行くぞ!」
そんな事を言われて、また手を取られ、ずんずん進む。
「そうじゃ。折角だからお土産でも買うか?」
そんな言葉が、ヴェネツィアングラス工房の前で急停止後に聞こえる。
「・・!良いね・・!」
僕らは気持ちの良い音が鳴るドアをくぐって、店に入る。
「きれい・・・・」
青、緑、橙、赤と、煌びやかに光るガラスに様々なシンボルマーク、動物達の絵柄と共に描かれている。見てると、欲しくなってきた。
「そうじゃろ!そうじゃろ!綺麗じゃろ!」
そんな事を声を大きく叫ぶように言う。店主が僕らの顔をチラリと見る。僕は頭を下げた。
「これなんか、良いんじゃないか?」
かなり高い背のグラスだ。グラスの下には太陽をかたどったものだろうか。細々とした装飾が施されている。青の深さが、グラスの背に合わせて深くなっている。・・・・・お値段、270万円。
「・・・・ちょっと高いかな・・」
「どういう意味じゃ?」
「お値段が高いよ・・・」
「デザインは気に入ってるおるのじゃろう?」
「そうだけど、値段が高いんだよ」
「値段で買うか買わないのかを、決めるのか?」
多分、ビクトリアはこれまでの人生で一度も、購入の検討要素に値札を入れなかったのだろう。さる血筋とは言ったものだ。僕は反応に困る。
「うん・・・僕は半年前まで、普通の一般家庭の一般人だったからね・・・」
「今は違うじゃろう。折角じゃ。わらわがプレゼントをしてやる。男のためにお金を使うのは、アッキーが初めてじゃ」
暗に、断るなよ。と言われてる気がする。・・・しかし、好意に甘えるには、限度を過ぎている。
「それなら・・・こっちがいいかな」
僕はシンプルなイルカデザインのグラスを指差す。
「ほお。こっちもなかなか良いな」
「シンプルなのが好きなんだ」
これは前に、美鈴に『ユニクロ』『しまむら』ばっかなんてダサ過ぎじゃない?』という問いの答えと同じだった。僕はシンプルなデザインにこそ、デザインの本質があるのだと、信じているのだ。美鈴には狂信者だと叫ばれたけど。
「わらわも、シンプルなのも、好きじゃ」
お店を出て、手提げ袋を渡される。
「ありがとう」
「どういたしまして」
それからまた、ずんずんと進んでいく。
「・・・・疲れてこんか?」
そんな事を格式のあるお城のような場所の前で言われた。
「・・・・ビッキーは疲れたの?」
「・・ちょっとだけじゃがな。ちょっとだけ、休憩せんか?」
「そうだね。休憩しよう」
そう言って、僕は手を取られて、お城の中に入っていく。ここで休憩とかできるのかな?それとも、このお城のような場所が別荘だと言われても、僕はもう驚いたりしない。
「二名じゃ!」
「かしこまりました。二名様ですね。それでは・・・少々お待ちくださいませ」
けたたましく鳴る電話にフロントのボーイが出ると、顔色を変えた。
「大変申し訳ございません。当ホテルは全室満席となっております」
「そうか・・・それは残念じゃ」
僕らはお城のような場所から出ていく。ホテルだったのか・・・。
「代わりになる場所を探さないといかんな・・・」
「えっと。まだホテルみたいな場所に二人っきりで入ったらいろいろと問題があると思うよ」
「別にわらわは、かまわん」
ちょっとだけ、怖くなってきた。おそらく、ヴィッキーは、限度や常識から大幅に外れていると思えてきた。休憩とか言われて、ホテルに連れ込まれるなんて、非常にマズイのだ。
「ホテルじゃなくて・・・・あ。あそこのベンチとか、どうかな?」
素晴らしい海上を見渡せる一つのベンチを発見した。
「・・・・そうじゃな。あそこで休むか」
僕達は当然だけど、並んで横になった。家族のような人以外で、誰かと並んでベンチに座るなんて、ちょっとだけ緊張してきた。そうなのだ。相手はお見合いの相手なのだ。今更自分が現在、何をやっているのか実感してきた。
「・・・なんやかんやで、もう夕暮れ時じゃな」
「そうだね」
「・・・・つまんなかったじゃろ」
「ううん。楽しかったよ」
「そうか!それは良かった。こうして、ベンチに座って、夕陽を見る間柄だと、のっぴきならない関係のようじゃな?」
「そ、そうだね・・・」
美しい街並みが闇に暮れていく。ゴンドラが僕らを横切っていく。
「きれ・・・」
不意にほっぺたに何か柔らかい感触がした。顔を横に向けると、顔を真っ赤にしたヴィッキーがいた。
「そ、それじゃ!!わらわは、もう夕飯の時間じゃ!」
いきなり立ち上がると、僕が返事をする前に、走り去ってしまった。
「もう少しだけ、夕陽を見ていくかな・・・・」
次から次へと流れ出て行く感情を無視して、目の前の美しい光景に集中した。




