僕の知らない人魚が隣で寝ていて、ヤバイ。
「・・・・・偉大なる朝明けだ・・光が、心地良い・・」
タンカー事故を30分で解決して、それから眠くなったので、適当な太平洋の何も無い無人島で、横になり寝むったのだった。
「・・・この子誰だろ・・・っていうか距離近いよ・・」
起きたら隣、わずか20cm隣に、杖を抱えて丸くなって寝ている女の子がいた。
「・・・・どう見ても、魔法使いの・・・コスプレしてるよね・・」
そもそも、魔法使いは、そういう格好をしない。・・・・いや、そういえば、そういえば、倒してきた魔法使いの数々も、結構個性的なファッションセンスをしていたな。そう思い返した。
「起こすべきかな?いや、たまたまの、通りすがりの人だろう。起きたし、もう帰ろうかな」
「・・・うん・・・・」
目を擦りながら、起き上がってきた。
「・・・・Hello」
「・・・・おはようございます」
「おはようございます。良い天気ですね」
日本語を使えるのか。っていうか髪の毛がピンクだ!・・・・もしかすると、この辺りの近くで、仮装パーティか、コスプレ撮影会でもやってるのかもしれない。
「そうですね。良い天気ですね」
いや、違う!半径60kmほどは、島一つさえない海の孤島だったじゃないか!
「・・・・それでは、失礼します」
「お待ちくださいな」
「・・・はい」
「少し、お話しませんか?」
のったり、ゆったり、一般のおよそ半分のスピードの喋り方だった。魔法使いのコミュニケーション特有の魔力交信ではなく、口を使って音を発する喋り方だ。
「え・・えっと。いいですけど・・・」
「ありがとうございます」
にっこりと微笑む。この感覚、あれだ。なんというか、なぜかしら、分かった。社会の波に揉まれていない、まるで、生まれてから、そのまま育って、笑う、そんな・・・本当の意味での、無垢。そんな感覚を感じた。
「えっと・・・・」
「はい・・」
「最近、何かおもしろいことありました?」
僕の問いに、首を傾げて、う~~んと唸った後に、そうだ。と短く言った。
「私は彫刻家なんですけど、新しい削り方を見つけて、おもしろいと、感じました~~」
うふふ。そう笑う。
「そうなんですか・・良かったですね!どんなのを彫っているんですか?」
「そうですね~~、大昔のアトランティス時代に流行った、寸劇の人物なんかを彫ってますよ~~」
・・・・え?アトランティス時代?
「そ、そうなんですか~。えっと、それって、何年前くらいですか?」
「6000年前くらいですよ~~。常識ですよ~~」
うふふ。笑い方が、なんともいえない。本当に少女のそれだ。年齢は外見から僕と同じくらいのように見える。
「え・・・えっと。あの、聞いてもいいですか?」
「どうぞ~~」
「おうちはどこですか?」
「ここですよ~~。っていうか、ここしかないじゃないですか~~ふふ。おもしろい人ですね~~」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
ここ!?ここに住んでるの!?ここ何も無いと思うんですけど、一面野原・・・野原・・・・。いや、待て。野原?どうして、草木が咲いているんだ?こんな隔絶された場所では、生命の環は続かないはずだ。それとも、僕の認識不足なのか?いや、違う!そもそも、どうして、彼女はここにいるんだ!?いやいや、それよりも・・・!
「あの。足が・・・無いんですけど・・・」
「私は人魚だから、足はいらないんですよ~~。うふふ」
「そ、そ、そうですよね~~。そもそも、こんな場所に、足があったって、役に立ちませんもんね~~」
「ですよ~~。ウフフ~~」
「アハハ~~~」
・・・・・・・・・。ツッコミ不在のこの空間で、僕にこれ以上、どうしろと!?いや、それよりも、ここは引くべきだ。僕の認識外の世界だ。これ以上、留まる事はベストな選択ではないだろう。
「それじゃ、この辺で、失礼しますね・・・」
「待ってください~」
「はい」
「わたくし、母以外の人と、お話したことがないんですよ~」
「はい」
「もう少し、外の世界の事を、教えてください~」
ちょっと顔を赤らめてそんな事を言われる。
「えーっとですね。そうですね・・・。Ipod知ってますか?」
「知らないです~」
「インターネットは知ってますか?」
「知らないです~~」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「え・・・えっと・・・えっと・・・・。えっとね」
ダメだ。思考回路がフリーズしている。まさか、こんな事態に、っていうか、こんな人に・・・っていうか人じゃないし!いやいや、人魚という字は人という字が入っている。そう考えるのも失礼な事だ。こんな事、僕は夢にも考えた事はなかった。
「スターバックスのコーヒーは好きかな!?」
僕は自分でも、何を喋っているのか、よく分からなくなってきた。
「好きですよ~~」
「なんで!?」
声が裏返ってしまった。まずい。初対面の人に、こういうツッコミはマズイ。それでも、彼女は、何の表情も変えずに、言ってくる。
「母がたまに買ってきてくれるんですよ~~」
「へぇ~~そうなんですか~~~」
「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノが一番好きですね~~」
「ぼ、ぼ、僕はエスプレッソ・・・・」
「へぇ~~あんなにちっこいコーヒーがお好きなんですか~~~。おもしろい人ですね~~~」
カフェオレと答えるつもりが、正常に舌がまわらなかった。っていうか、僕よりスタバ通ですね!
「あ、ありがとうございます・・・」
「私はずっと海にいるので、陸での生活を憧れますね~~」
「足が無いと歩けませんよ?」
「大丈夫ですよ~~~」
そう言うと、尾ひれが足に変り、立ち上がった。
「私はどちらにもなれるんですよ~~。良かったら~~連れっていってくれませんか~~?」
見ず知らずの人間に、どこでもいいから、連れて行ってくれって頼むのか!?僕がエロゲーの鬼畜野郎だったら、君は大変な事になってるぞ!?っていうかお母さんはどうしたんだよ!
「お、お母さんに連れて行ってもらえないの?」
「母は強情だから、連れて行ってくれないんですよ~~」
「う~~ん」
少しずつ、この環境にも慣れてきた。やっとまともな頭で考えれそうだ。
「そうだね・・・。まずはお母さんに相談するのはどうかな?それから、よく考えてみれば良いと思うよ。とりあえず・・・・」
僕は名刺を渡す。
「僕の名前は三上晃弘」
「名前~~ですか。困りましたね~~。私はまだ無いんですよ~~」
一般社会でも、名前が無いケースというのは、無い。他人のいる一般社会では、他人と区別する必要があるからだ。つまり、名前が無いということは、この子は、ずっと、ずっと一人だったんだろうか。
「もしかして、ずっと一人?」
「一人じゃないですよ~~。この下の海底には、町があるんですよ~~~。行ってみますか~~?」
町!?海底に!?人魚の!?これから!?・・・・落ち着け、落ち着くんだ、僕!そもそも、そもそも。
僕だって魔法少女の息子じゃないか!!!!!!!
いや・・早苗さんの案だけど・・・そもそも、母さんは何人なんだ?いやいや、アリスだってそうだ・・・あれれ?そもそも、魔法使いなわけだし・・・。いやいや。待てよ。魔法少女って何だ!?もしかしたら、遥か過去からやってきたのかもしれない。逆も十分にある。
「・・・・また今度にするよ」
「そうですか~~残念です~~」
「とりあえず、お母さんにさ。今日のこの事を話してみてよ。コレクトコールは辞めてって伝えてね。できればメールでお願いとも」
「わかりました~~」
「それと・・・今度から、水着をつけてね。お母さんに水着を買ってもらってね」
そうなのだ。下半身、丸出しなのだ。計らずとも、見てしまった。告白しよう。決して下心は無かった。見えてしまったのだ。・・・・・・・・・やはりピンク色だった。・・・・・・毛の話だ。
「それじゃ、またね」
「それじゃあ、また会う日まで~お元気で~~~」
僕はエアスターを顕在化し、勢い良く、ダッシュへ踏み込む。
「名刺・・・・・渡して良かったのかなぁ・・・・」
ひょっとしたら、ずっと海の暮らしをさせてあげたほうがいいのかもしれない。でも、彼女は陸での暮らしに憧れてるとも言っていた。
「座標は記録したし、もし監禁の疑いがあるなら、人魚の町へ向かうのも必要な事だ」
そういえば・・・・ナイトフルって、海の中は、大丈夫なんだろうか。
「・・・・・・・・・」
下を見ると、どこまでも、どこまでも、深く深い、青があるのみだった。




