僕の義妹が真剣に僕の貞操を奪いにきて、ヤバイ。
「兄として、というよりも、人として失格かな・・・人とのハグを、拒むなんて」
僕はそんな事を考えながら、天井のミッフィーのつぶらな瞳を見ていた。
「・・・・・大きくなっていた」
それは、僕がこれまで抱いた事の無い感情のそれだった。
ショックだった。
「・・・・・そんな事を感じる自分にも、ショックだよな・・」
「何がショックなんですか?」
「胸が・・・」
え?
クローゼット(高い、デザイナーズクローゼットで奥行きが深い)の中から、佐織が出てきた。
「・・・・!?」
「『兄として、というよりも、人として失格かな、人とのハグを、拒むなんて・・・』聞いてましたよ」
「・・・・・」
予想以上に頭がパニックになっていた。心の秘密を見透かされた生の体験のようだ。
「私が、車中の帰りに、ずっと声がうわずってたの、知ってましたよね?」
「・・・・・」
「泣きそうだった目を、知ってましたよね?」
「・・・・・うん」
「酷い兄だと思いませんか?」
「・・・・・うん」
クローゼットから出てきた事は、すでに僕の頭には無かった。
「・・・・・・ごめん」
「・・・・許さないです」
佐織はクローゼットから出てきて、電気を消し、僕の体に馬乗りになった。
「凄くショックだったんですよ・・・・涙を忘れるくらい」
「ごめん・・・」
「兄さん、私のためなら、どんな事だってしてあげるって前に言いましたよね?」
「・・・うん」
「・・証明してください」
真っ暗闇の中、佐織は顔を僕の顔に近づける。
「最後までしろ、だなんて事は、言いません。兄さん。これまで、兄さんがしなかった事をしてください。それで、今日の件は、許します」
「・・・・」
「初めて、『ちゃんとしてください』って言ってから、一度も兄さんはちゃんとしたことがありません。今日は、兄さんの心の貞操を、奪いにきました」
「・・・・」
なんともないような台詞に見えるけど、後半は泣きながら言われた。
「今日だけで、良いです。本当に、心から私を愛してくれてるなら、ちゃんとしてください。心から、私に許しを、許しを請いてください」
「・・・・」
「いいですか。私は優しいので、五秒時間をあげます。この台詞、五秒間って初めて兄さんを襲った時以来ですね。いいですか。よーい。スタートです」
「・・・・・・」
まず、唇が触れて、やがて密着し、少しずつ、ちょっとずつ、歯の隙間から佐織の舌が、這入ってきた。いつもより、遅い。まるで、怖がっているように。それでも、少しずつ、少しずつ、僕の舌まで伸びてくる。
「・・んっ・・んんっ」
ざらざらの舌を重ねてくる。僕は、いまだに迷っていた。本来なら、鉄板のような僕の操の精神が揺れるはずはない。しかし、佐織に限っては、ずっと二人で生きてきたのだ。賑やかになった半年前よりも前から、ずっと。僕は佐織を見守ってきた。家事も全部、僕がやった。料理だって、そうだ。
「・・ん・・・んん・・」
今回だけは・・・・今回だけは・・・・いいんじゃないだろうか。沙織の涙が僕の頬骨を伝って、流れる。
「・・・・んん・・ん・・」
僕は左右や上下に、必死になって舌を動かす佐織に、合わせようと思った。
「・・・・・」
今回だけ・・・・神様・・仏様・・・お母さん・・・天国のお父さん・・・今日だけは・・・今日だけは、お許しください。この不貞を・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
ピピピピピピピピ
緊急アラームが鳴った。僕は佐織の両肩を持ち、引き剥がした。
「晃弘君。緊急事態よ。緊急コード5098。太平洋北北東1059キロ。タンカーの事故です。頼んだわよ、晃弘君」
「分かりました」
僕はスマフォを切った。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・兄さん」
「・・・はい」
「さっき、ちょっとだけ、舌、動かしましたよね?」
「・・・・・・・・・・・・・動かしてないです」
「兄さん」
「はい」
「さっき、わずかに、舌、動かしましたよね?」
「・・・・・・・・・・・動かしてないです」
「・・・兄さん」
「はい」
そう言って、僕のラリックマの寝巻きを取り上げ、上半身をイキナリ裸にすると、僕の右肩に全力で噛み付かれた。
「いッッッッッッ!!!!」
おそらく、っていうか血が出てる。
「ったああああああああああああいいいいいいいいいいいい」
「これでちょっとはスッキリしました。兄さんは私の奴隷なんだから、一生私から受けた傷を残せばいいんです。また、噛み痕をつけますから」
そう言って、僕から離れて、ベッドの脇に立ち、つかつかとドアに向かっていった。
「・・・・いってらっしゃい、兄さん。お気をつけて」
「・・・・おやすみなさい、佐織」
ドアは、ばたんと閉められた。
ナイトフルを展開して、マッハ3の速度で現場へ向かう。その間も、ずきずきと肩が痛んだ。
「スッキリしたって、言われたし、これで良かったんだ」
そんな事を考えていると、また雲を突っ切ってしまう。綺麗な三日月だった。




