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翼のない悪魔  作者: 内田


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消えゆく自我

 僕は朝霧朧に呼び出されていた。そして理事長室に入るとそこには楓が立っていた。


「楓?どうしてここに?」


 楓に質問するが、返答はなかった。静寂の中、声を上げたのは朝霧朧だった。


「雪くん。楓くんは6柱の悪魔の討伐に協力してくれるらしいよ。」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の頭は真っ白になった。そして僕は少し矛盾を感じていた。


「約束はどうなるんですか…」


 楓を殺さないという約束。もし楓を前線に行かせたら悪魔に殺されてしまうかもしれないのだ。


「僕が言ったのは僕からは手を出さないというものだよ。」


 僕はかなり頭に来ていた。楓を守れると思ったのに危険な目に合わせてしまうからだ。


「あなたが…手を回したんですよね。」


 僕がそう呟くと朝霧朧はため息をついた。そして当たり前の事を言うかのように、


「こうするしかなかったから楓くんにも手伝ってもらうようにお願いした。決断したのは彼女だよ。君はそれを蔑ろにするつもりかい?」


 本当にそうなのだろうか。朝霧朧が脅したのではないだろうか。楓はそうせざる負えなかったのではないのだろうか。


「雪。大丈夫だよ。私は私の意思で選択したの。」


 楓は何故か呼吸が荒くなっていた。何があったのかは僕にはわからない。しかし、これだけは言いたかった。


「理事長。もし楓に何かしたら、お前を、殺す。」


 僕は殺意を込めてそう言った。しかし朝霧朧は余裕そうな表情で笑っていた。


「雪ごめんね。変な事に巻き込んで。」


 楓はそんな事を言ってくる。僕はそれを擁護するかのように呟いた。


「悪いのは全部理事長だから楓は気にしないでいいよ。」


 そう。悪いのは全て朝霧朧なのだ。あいつが変な事を楓に吹き込んだからこうなったのだ。


 ずっと考えていた。楓と悪魔は融合した。なら変化があってもおかしくはない。


 僕のように悪魔的な衝動が増える可能性もあるのだ。そして僕はふと思い出す。


 楓は一度呼吸が荒れていた。それがもし悪魔の影響なのであれば、何かとんでもない事が起こるかもしれない。



「楓、僕は君のことが好きだ。」


 僕は昼食中に楓にそんな事を呟く。楓は顔を真っ赤にしていた。そして楓は、


「どうしたの?いきなり。」


 明らかに焦っていた。それもそのはず。大して好きじゃない相手にいきなり告白されたのだ。焦るのは当然だ。


「いつも助けてくれる。だから楓に憧れてる。」


 告白するタイミングはここじゃない。だから少し濁した。すると楓は突然僕を押し倒してきた。


 楓の唾が垂れてくる。そして楓の顔は火照り、呼吸が荒れていた。これで全てがわかった。


 楓に起こった変化。悪魔的衝動。それは性欲の変化。性癖の変化だ。楓は何故か僕に興奮するようになってしまったのだ。


「なんで、なんで君は、私を焦らすの…」


 楓は我慢の限界を迎えていた。推測だが、目覚めてからこの衝動に何度も耐えてきたのだろう。だから限界を迎えた。


 しかし、このまま始めてしまってもいいのだろうか。愛のない状態で繋がりを作ってしまってもいいのだろうか。


 自分の心の奥底にある甘い考え。それが僕を襲う。僕は正直言って楓が好きだ。でも楓はどうなのだろう。好きなはずがない。


 楓の中の僕は弱い男だ。そんな男を好きになるはずがないのだ。だから僕はこう呟いた。


「楓はそれでいいのか。」


 いつになく真剣な表情を楓に向ける。すると楓は正気を取り戻していく。


───言い訳がない。


 雪をいきなり襲って、同意も無しに始める。そんなのは駄目だ。だからこそ私は心の中の悪魔を抑え込む。


「雪。ありがとう。」


 楓は落ち着き、僕の事を離した。僕は伝える事にした。楓に悪魔が宿っている事を。


「楓、今君には悪魔が宿っている。」


 驚くと思っていたが、実際は違った。楓は少し微笑み、こう呟いた。


「知ってる。」


 驚かされたのは逆に僕だった。しかし、それは当たり前の事だった。ここまで変化があって気付かないはずがなかったのだ。


「でもそのおかげで私は助かった。雪が助けてくれた。」


 楓はこちらに体を向け、真剣な眼差しを向けてくる。そして僕に対して、


「ありがとう。」


 と言った。

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