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翼のない悪魔  作者: 内田


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3/8

凛城楓

 楓が目を覚ました。しかし、会いに行くと僕は驚愕した。あまりにも変わり果てていたのだから。


 目は虚ろで、枯れ木のように細くなっていた。手で触れるだけで崩れ落ちそうなほどに…


 こんな時、人はどうするのだろう。ただ泣くのだろうか。ただ嘆くのだろうか。違う。誰かがそれを救いたいと思う。そして、今回救おうと思ったのは僕だった。


「理事長。」


 僕は理事室に入り、頭を下げた。殺してやりたい相手に頭を下げたのだ。


「楓を、楓を助けてください。」


 理事長は真剣な表情をしていた。そして僕の目の前に来て、手を差し伸べてきた。


 しかし、それは偽りの笑顔だった。すぐにわかった。楓の天使のような笑顔とはまるで違った。


「楓くんを助けるには君が取り込んだ悪魔を楓くんの魂に憑依させるんだ。」


 悪魔を憑依させる。しかしそれは討伐対象を作り出すという大罪だ。そんな提案をこの男はやすやすと提示してきた。


「しかし、それだと楓が…」


 楓が殺されてしまう可能性が高い。だからその手段はあまり使いたくなかった。


「そうしないと彼女はどっちみち助からない。」


 朝霧朧は突然そう呟いた。こいつは楓すらも手駒にしようとしている。しかし、この手段を使わないと楓が生きる確率は0%だ。だからこの手段を使う他なかった。


「わかりました。」


 悪魔の魂を人間に宿し、命を救う。前例がないやり方だ。しかし、助けるにはこの方法しかない。


 もちろん大量の苦難が待っているだろう。それでもやるしかないのだ。


 朝霧朧の計らいで楓は僕の部屋に運ばれていた。そして僕は始める。魂の同化を。


「楓…」


 僕の体から熱気が溢れる。そして、力が抜けていく。今までの体の軽さが消えていく。そして楓から体温が感じ取れた。


 肉が再び付き、肌の色も良くなってくる。今まであったクマが消えていた。努力の証が消えた。


───楓…



 私は目を覚ました。長い夢を見ていた感覚があった。好きな人と一つになる夢を見ていた。幸せだった。


「雪…?」


 私の隣には、雪が倒れていた。いつもの弱々しい彼がいた。今すぐにでも抱きしめたかった。しかし、そんな事出来なかった。


 なぜならば今私は興奮していた。雪の気配が私の中に入ってきたのだから。


 以前からあった衝動が更に増していく。まるで悪魔のような感情が更に強くなる。


 呼吸が荒れ、肌は赤く染まった。体の奥が熱くなった。今すぐにでも雪を襲いそうになった。


 駄目だとはわかっている。それでも抑えられるかわからなかった。それ程までに繋がりが強くなった気がした。


 瞬間、視界が揺らぐ。目が重たくなる。眠くなる。そして私はそのまま目を閉じた。


「悪いけど雪くんと始めるのはまだ早いよ。」


 私は目が覚める。そしてそこは理事長だと瞬時に理解した。なぜならあの男が、朝霧朧が立っていたから。


「お目覚めかな。」


 理事長は笑顔でそう呟いてきた。少し不安になるような雰囲気が出ていた。


「おめでとう。」


 理事長はいきなり拍手をしてくる。まるで祝福するように、何かを喜んでいるようだった。


「雪くんの頑張りで君は助かった。だから彼の同意なしに襲っちゃ駄目だよ。」


───見られていた!?


 私は心の中でそう思った。この人の気配に気づかないほど興奮していたのか、それともこの人が気配を消していたのか…


「要件はなんですか…」


 私はそう問う。理事長ともあろう者が、わざわざ私をこの場所に連れてきたのだ。何か理由があるはずだと思った。


「ただ祝福したいだけさ。」


 嘘だとすぐわかった。隠す気もない、私で少し遊んでいるのだ。少し頭に来たが、心を落ち着かせた。


「嘘はいいので、要件を言ってください。」


 理事長はニヤニヤと笑い、そして私に告げる。その驚きの言葉を。


「雨琉雪と交わりたいかい?」


───は?


 それは私にとって全ての始まりだった。人生の絶頂を迎える為の、そして最も過酷な道への…


「雨琉雪と協力して6柱の悪魔を殺せ。そうすれば雨琉雪と一つになれる。」


 今度は真実を話すような口調だった。嘘だとは思えなかった。しかし、今の私では6柱の悪魔を殺す事なんて出来るはずがなかった。


「君と雪くんならいずれは6柱の悪魔を殺せる。何だったら僕も協力する。」


 私にとって最高の条件だと思ってしまった。6柱の悪魔を殺せば雪と交われるという最高の蜜だった。


「どうだい?協力する気になったかな?」


 私は特に疑問も持たず、"はい"と答えた。それ程までに雪の事しか頭になかった。

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