叫ぶ星、地球
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少年は惑星だった。
惑星は、どこかの星の叫びで目を覚ました。
そして惑星は、その叫ぶ星を助けるために、自分のかけらをその星へ届けた。
叫ぶ惑星――地球。
ある青年の名は千草。
木星のかけらの魔法使い。千草は、この地球で平和を保ち続けるために生まれた。
「今日までよくこの平和を保てたよね。この前はさすがに危なかったけど」
千草は隣を歩く青年にぼやいた。
「まあね。でもこの地球、呪いと魔法が6対4くらいで毎日生まれてるからさ。それでも最初に比べたら、かなりマシになったと思うけど?」
隣を歩く青年――ツバメは、軽く笑いながら言った。彼は、水星のかけらの魔法使い。
「ここに来た当初は本当にひどかった。この惑星の仕組み的に、争いはゼロにできないからね。きみもそう思うだろ」
「うん、思うよ。で、今夜も見回り行く?」
「行くに決まってる。この前の呪い、完全に消したわけじゃないし。再発してるはず。それに、新しいやつも放っておけない」
★
俺たちは魔法使いだ。
魔法使いはそれぞれの惑星にいる。
水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星。9つの惑星に1人ずつ、合計9人。
本来はそれぞれの惑星で、見習いと一緒に呪いの増幅を抑えてる。
呪いっていうのは、その星に住む生き物の負の感情が集まって、どんどん増えていく現象だ。下に溜まって、積み重なって、やがて形になり、最悪の場合結界を作る。結界を作った”魔物”は、呪いを広げるために周りの生き物の呪いを集め、発展ではなく滅亡を望む。
例えば、人の感情に干渉したりする。
本来なら死ぬほどじゃない問題でも、呪いに近づき、干渉されてしまうと、簡単に命を投げる選択をしてしまうこともある。
予定外の死は、創造主にとって都合が悪い。と、聞いた……。(いるかどうかは、分からないけど。)
生き物はそれぞれ役割を持って生まれてるから、それを果たさないまま消えると、本来あるはずの影響も消える。
それは星の発展、ひいてはこの銀河=コロニーの発展の妨げになる。
だから俺たちは、その原因――呪いを魔法に変えて、このコロニーを守ってる。
来たる「太陽との一体化」、つまり滅亡を避けるために。
そうして俺たちはこの地球に集められた。
集まったっていうより、呼び出されたって方が正しいかな。
この地球は面白い。いろんな形の生き物がいる。
そういえば、海王星のクラスメイトに犬を飼ってる子がいたな。見回りのとき、海王星の右手に噛み跡があったのを覚えてる。
形がある生き物は、一度傷つくと簡単には戻らないらしい。
俺たちはもともと形がない。だから、形があるってだけで興味深い。
気分次第でどんな姿にもなれる俺たちと違って、この地球の生き物は基本的に形を変えられない。
変えるには、コストもリスクもストレスも、そして傷も必要らしい。
彼らは星のかけらでできている。何度も超新星爆発を起こして、バラバラになって、またくっついて。また爆発して…。それを繰り返して…。
そのかけらがいつかまた集まり、本来ばらばらになる特性があるのにも関わらず、くっつくことを諦められずに形を成し、そこに太陽、月を合わせた12の惑星のかけらを宿し、それを魂と呼んだ。
___そんな精密で繊細なものを生き物と言った。
しかし、彼らの中の惑星のかけらはいずればらばらになり、コロニーに戻る。
これをこの地球の生き物は”死”と呼ぶ。
☆
地球に来てまず苦労したのは、住む場所だった。
あちこち移動して、最終的に日本という国の二階建ての安いアパートに落ち着いた。現在の居住地は
上の階には木星のかけらである俺と天王星、金星、火星。
下の階には海王星、水星、土星、冥王星。
いろんな層の呪いを拾うために、俺たちは姿を変えて潜り込んでる。学校や会社、スーパー。人間の生活に入り込むには、それなりに「証明」も必要になる。
だから拠点は必要だった。
そうして地球生活2年目の8月。
2つ隣の部屋に住む金星のかけらの魔法使い、律樹が、俺の部屋に訪ねてきた。
「最近、ちょっとおかしいんだ」
「何が?幽霊でも見た?」
軽く冗談を言ったけど、律樹は笑わなかった。
「僕の対応している領域での呪いが広がってる。そもそも呪いが多いし、それに、ときどき形を持った呪いまで出てる。これ、かなり危ない状態だよ」
それは確かに異常だった。
「そのわりに、街は妙に平和なんだよな」
「そう、それ。それが一番おかしい。きっかけは少ないのに、最終段階の呪いが多すぎる」
律樹は少しだけ視線を落とした。
「あとさ、僕のことなんだけど」
「なに?」
「バイト先の男の子がさ……僕の“女の姿”に惚れてるみたいなんだ」
「そりゃそうだよ。きみ、見た目、完璧だから」
「それはいいんだけどさ。最近、ちょっと危ない感じがする」
「危ない?」
「出生図、読んだんだ。あの子と、僕が地球に来た日の星。惹かれる理由は分かった。でも。このあとどうなるかも、分かる」
「……で?」
「避けたいんだよ。この事件」
★
金星は、人間からはヴィーナスって呼ばれてるらしい。愛とか美の象徴。
でも僕には、形の価値がよく分からない。
“今”、僕は男の形をしている。でも、それに特に理由はない。ただどっちも体験してみたいだけ。
バイトのときは女の姿になる。
そっちの僕は、どうやらかなり魅力的らしい。
「好きです。付き合って下さい。」
ボロボロの姿で、震える手を差し出す目の前の彼は、何を考えているか分からなかった。僕にどうしてこんなことをしてくるのか…。どうしたいのか…。
彼はずっと、僕を見ていた。
でも僕にとっての親切は愛で、それは誰にでも向けてるものだ。
もしも、僕を独占することを考えているのなら、君だけのものになるつもりはないし、独占されるつもりもない。
「ごめん。でも、気持ちは嬉しいよ。ありがとう。これからも友達でいよう」
彼は一度うつむいて、肩を落とした。
それから、もう一度だけこっちを見た。
その目に、メラメラと燃える憎しみ――怒りが混ざっていた。




