第2話 禁書の力、刮目せよ
ヒロイン出ます。
町には魔物の襲撃を知らせる鐘が鳴り、人々は悲鳴をあげて逃げ惑う。
その喧騒を切り裂く兵士の怒声が響く。
「西門から魔物だっ! 逃げろ!!」
「子供と老人は抱き抱えて走れ!」
20匹を超える狼型の魔物。涎を垂らし息を荒く人間を獲物として捉える。その目は赤く怪しく光る。
その後方では一回り巨大な個体が唸り声を上げる。
「グァアアァァア!!!!」
「くっ! なんでこんな場所にCランクの魔石狼がいるんだ!」
配置された兵士達のランクとは釣り合わない絶望的な状況。
「や、やばい! やられ……」
そこに颯爽と現れる少女。
「邪魔」
兵士の首根っこを掴み後方に投げ飛ばす。
青いロングポニーテールを翻し、並みの兵士よりも長身の少女が前に出ると攻撃を受け止めた。
名を、ソラリス=インウィクトゥス。
幼い頃からヴィヴィベルと共に育ったクールな幼馴染。
動きやすい軽装のアーマーを身に纏い、巨大な斧槍——ソルナハルバードを構えた。
「適応」
そう一言呟く瞬間に身体能力が跳ね上がる。
飛びかかる魔物の牙を紙一重で躱し、勇猛なライオンの如く走る。
そしてハルバードを振い首を断つ。
身体を横に回転。
横に薙ぎ倒し3匹の頭部を破壊。血飛沫で返り血を浴びるもソラリスは怯まない。
「すげぇ……!!」
「流石、不敗のソラリス!」
歓声が上がるも全く気にしない彼女は武器を構え直す。
「まだ来る……」
魔石狼は倒れても奥から次々と姿を現す。
更にリーダー格の魔石狼は地面を踏み崩し叫ぶ。
その刹那、空からも風を切り何かが現れ、荒々しく獰猛だが品格を示す。
——それはグリフォンだった。
巨大な魔石狼は陸を支配し、グリフォンは空を支配する。
兵士や冒険者達は悲鳴に近い声をあげる、それも無理もない。
グリフォンは王国の近衛兵達でも倒すのは困難、それがただの田舎町に現れたのだ。
「私以外、全員距離を取れッ」
体力はまだある、勝機は0では無い。
ならば、私が逃げる道など無い。
背を向けるなど、あり得ない。
ソラリスは後ろを振り返る事無く立ち向かう、これがヴィヴィベルにとってヒーローに憧れる理由だった。
天に滞空するグリフォンは隙を見て鋭い爪で上から詰めてくる。
「グァッグァァアア!!!!」
「っ……!」
ハルバードを回転させ爪を弾く。だが休む暇もなく魔石狼の集団が真正面から飛びかかる。
それすらも受け流しつつも1匹また1匹と始末するも連撃は止まらない。
そして個として強き魔物2匹に、魔物の集団相手では部が悪く肩を抉られてしまう。
「適応」
ソラリスの傷口は徐々に目に見えて閉じていく、だが肩で息をしジリジリと距離が詰められていく。
遂にはハルバードを弾かれ、無防備になったところを鉤爪で持ち上げられ地面に叩きつけられた。
「ぐはっ……適応……」
ヨロヨロと立ち上がるソラリス。
その緊張の糸を切る様に後方から声がする。
「ソラリスッ! 大丈夫!?」
あのソラリスが傷を負っている……
それに本で見たランクの高い魔物ばかり、何が起きているのだろう……?
ヴィヴィベルが走り駆け寄る。
だが彼女は咄嗟に強い語気で拒絶する
「来るなっ、何故来た!」
ヴィヴィが何故来る? 戦闘魔法は精々フラッシュしか使えないのに。
兵士達は何をしているのッ。
無力な彼を戦地に近寄らせた兵士に怒りを覚える。
その会話の最中でも武器を手に引き寄せ、魔物の攻撃を受け流す。
「で、でも!」
「足手纏い」
短い言葉、だが悪意は無い。事実を突きつけたに過ぎない。昔からそうだ、ソラリスは不器用だが人を護りたいんだ。
だけど今は変わった。
「違うんだ」
手を見て握る。
試すか試さないかじゃない、やるんだ、ここで。
ヴィヴィベルは身体の奥底に脈打つ魔法、それが何かに強引に引き出された感触を感じる。
手脚には黄金のルーン文字が浮かび上がり、足裏と手首に赤色の魔法陣が現れる。
「飛翔」
足元の魔法陣が爆ぜ、そのまま何かに弾かれた様に一直線に空へ撃ち出された。
「え……?」
ソラリスは珍しく目を丸くする。
それと共に魔物の注意は完全にヴィヴィベルに向いた。
本能で感じたのだ、危険なのはコイツの方だと。
だが当の本人は少し呑気に姿勢を正そうとする。
「うわっ! ……おっとと……」
それを見上げるソラリス。
「ふっ……また懲りずに無茶をする」
ソラリスはこの状況で頬を緩めた。
距離を取っていた兵士や冒険者達も呆然と見上げる。
「お、おい! 本屋の息子が飛んでいるぞ……」
「魔法だと?」
空中ではまだぎこちなく姿勢を崩す。だがその表情は笑みだ。
「なんとかなった!」
次は攻撃、頭の中で自然と力の解き放ち方が浮かぶ。
その瞬間、全身は赤い稲妻に包まれ、地面にまで電気が及ぶ。
「いいね、これ! アハハッ!!」
ヴィヴィベルは知らず笑っていた。
怖いはずなのに。 命の危険があるはずなのに。
この力をもっと知りたいという感情が、恐怖を上回っている。
それが自分の本心なのか、それとも――
目は赤白く光り、真紅の電気は辺り一面に火花を散らす。
今だ、捉えたっ。この力を放つ。
「雷霆」
そう呟き手を上げて静かに落とす。
「……」
その真剣な表情から昔の彼はいなくなったと感じたソラリス。
手から膨大な電撃が放たれる。
空一面が真紅に染まる。
——轟音。
そして空からも稲妻が空気を切り裂いて落ちる。
ドォォオオン!!
1つ2つ3つと何十と何百と増えていく光の筋と町中に轟く雷鳴。
無慈悲に魔物達に降り注ぐ。
「グギャアアア!!」
リーダー含め、陸地の魔物は炭化し死滅。
静寂が訪れ、煙立ち込める町。
しかし、最後に残ったグリフォンは、ヴィヴィベルが下を向いた今が狙い時と爪を立てて襲う。
「っ! うわぁ!?」
だが地上への警戒を怠ったのが命取りだった。
その瞬間、ソラリスのハルバードがグリフォンに飛んでいき、喉元を貫いた。
討ち取るとソルナハルバードは持ち主の手元に飛んで戻って行くとキャッチすると共にくるっと周り構え直した。
ヴィヴィベルは驚いた拍子に地面に落ちて尻餅をつく。
「いたた……」
「ヴィヴィ」
「あ、さっきはありがとう! やっぱ僕だけじゃ無理みたい……」
彼女は静かに首を横に振り笑った。
「強いよ、誇って良い」
「……ありがとう!」
あれ……? なんか身体から抜けていく……魔力切れ?
そう笑顔で礼を言うとソラリスは疑問をぶつける。
「その顔と右の手の甲の模様は?」
ハッとなり手を見ると何かの文字が刻まれていた。
だがそうしているうちに顔の模様は消えた。
その時だった。
「……まさか」
瓦礫の奥からローブの男が立ち上がる、片手には黒い笛。
「貴様……」
男はヴィヴィベルを見て……いや、彼の模様を見て震えた。
「あり得ない、その刻印は……。何故、お前から1冊目の禁書の力を感じるんだ!」
ヴィヴィベルの顔色が変わる。
「禁書……?」
「な、何故っ! 何故ガキ如きが継承済みなのだッ!」
男は地面を叩き怒り狂う、その姿に不気味さを感じたヴィヴィベル。ソラリスはその男を取り押さえた。
凸凹コンビです。2人とも美形です。




