第1話 ハズレ固有魔法【文字喰い】
可愛い男の娘系主人公です。
『バカアホマヌケ』
古びた本に乱雑に書かれたその文字を、少年が指でなぞる。
次の瞬間、その文字は跡形もなく消えた。
「おぉ! ヴィヴィ君、やっぱりいい仕事をしてくれるね。いや〜、ありがとうねぇ!」
町の図書館の司書の老人は目を丸くする。
「いえいえ! ありがとうございます!」
ヴィヴィベル=ローゼンドルネンは柔らかく笑う。
彼は真紅の髪と赤い瞳を持ち、少女と見間違われるほど整った顔立ちをしていた。声も高く、初対面では女性だと思われることも少なくない。
慣れた手つきで落書きの文字を指で本の上をなぞり続ける。
彼の固有魔法——【文字喰い】
文字を食べることで、何かに書かれた文字を消すだけの不思議な非戦闘用魔法。
インクの染みや犬猫などの落書きは消せない、消えるのはあくまでも文字だけだ。
その上、文字を食べる度に鉛筆を齧ったり、インクを口にぶちまけた様な苦い味が口の中に広がる。
それを笑顔で毎回、誤魔化すが顔をしかめそうになる程の苦痛だ。
「また教本にイタズラされちゃってね、本当に助かるよ」
そう言いながら老人は小銭を手渡した。
「これくらい朝飯前ですよ!」
ヴィヴィベルは笑顔を崩さぬまま、内心では顔をしかめた。
おえっ……今日の落書きは特にまずい……何で書いたんだ……?
でも、お金はいいのに。毎回断っても握らされちゃうんだよな。
「ヴィヴィ君は冒険者なんかより本屋がやっぱり天職だよ」
「……ははっ、そうかも知れませんね」
そう話していると後ろから男に話しかけられた。
「次はウチの看板の落書きを頼むよ!」
「……えぇ! 喜んで!」
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1年前
15歳の固有魔法判定の日。
ヴィヴィベルが水晶に手を添えた、神官は静かに告げる。
「汝の固有魔法——【文字喰い】である」
一瞬、会場が静まり返る。
「……なんだいそりゃあ?」
誰かが彼を指差しで苦笑する。
「文字消したからなんだよ!」
「冒険者はダメだな、女に間違われる様な男はやはり軟弱」
その言葉はヴィヴィベルの心をイバラのツルでがんじがらめにされ、ズキズキと長く痛み苦しむ傷となった。
本好きで貧弱な身体でも憧れていた——冒険者。
その思いはいとも容易く打ち砕かれた。
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「ヴィヴィ、お疲れ」
夕方。実家の本屋に帰宅する。
店内にはびっしりと多種多様な本が並び、いつも通りの紙と革の匂いが漂っておりヴィヴィベルは頬を緩めた。
こんな環境で育ったからなのか、本の匂いは昔から好きだった。
この匂いを嗅ぐと、不思議と心が落ち着く。
「父さん、お疲れ〜」
「ああ。そうだ。悪いが倉庫の整理を頼む。古書が増えて足の踏み場もないんだ」
「わかった」
裏の倉庫に入る。棚という棚には乱雑に置かれ積み上がった木箱や本は天井近くまで届いていた。
「これは売れる……これは捨てる……くらいなら寄付かな」
一冊ずつ、いつも通り選別をする。
生まれてからずっと本に囲まれてきた。
だから僕は生粋の本好きだ。
同年代の子達と読んだ本の数を競えば圧勝だろうね。
その時だった。
「……ん?」
1番奥の埃被った木箱の中。
だが埃だけが、その本を避けるように積もっていた。
そこには異様な本が……いや、本と呼べるのかも怪しいモノがあった。
表紙はある、だが途中でページが引きちぎられたみたいだ。
元が何ページあったのかもわからない、裏表紙も千切られているからもちろん無い。
「父さん!」
「どうした! ネズミでもいたか? それとも虫でも湧いていたか?」
ヴィヴィベルの焦りっぷりに本屋として最悪な事を想像する父。
「違う違う! この本って何?」
父は受け取ると少し首を傾げてから、何かを思い出したらしい。
「あぁ、それか。曾祖父さんの代より前からあったかもしれないガラクタだ」
「ガラクタ?」
ガラクタ?
だが本からは言葉にできない力が漂っていた。
「破れてて売りようがないし、黄ばんだ白紙のページが残っているだけだ。それも表紙の文字は読めないしな」
「ほぼ白紙……? 読めない?」
ヴィヴィベルは本のページに視線を落とす。
白紙?違う。
見たこともない文字がびっしり書かれている。
……これはルーン文字ってやつかな? 何語なんだろうか、読めないや。
「……なにこの文字?」
「ヴィヴィ?」
「え?」
「だから表紙くらいしか文字は無いだろ?」
父は不思議そうに首を傾げる。
「そ、そうなんだ」
自分にしか見えてないのか?
心臓は高鳴る、意味はわからないけど。
「試してみるかな……」
その刹那、不安がよぎる。
何か悪い事が起きてしまったら……?
だけど知的好奇心には勝てなかった。
いつもの様に本に右手を添えた。
「——文字喰い」
次の瞬間だった。本から金色の文字が一文字ずつ浮かび上がる。それも触れてない文字までもが一斉に浮かぶ。
「なっ!?」
文字は光の粒子となり、腕、胸、首へと流れ込み、やがて全身を巡る。
金色の文字は抵抗するように震え、それでも逃れられず、彼の中へ飲み込まれていった。
その勢いで部屋中の本が開きページがパラパラと捲れていく。
「ぐっ……ぁああああッ!!!」
美味しいッ、初めて文字が美味しいけど身体が熱い! や、焼ける様な熱だっ。
甘い?
旨味?
今まで食べてきた文字とも違うっ!
これは……ただの文字じゃない!
魔法そのものだ!
そう思考する中でも脳に流れる膨大な情報量にパンクしそうになり目が白黒する。
知らない魔法理論。見た覚えのない魔法陣。見知らぬ魔術師の横顔。破かれる本。
——
飛翔魔法
最高位魔法
通常詠唱時間:約42秒
——
詠唱破棄
適応された魔法の詠唱時間:0〜1秒
——
それに付随する攻撃魔法。
稲妻を放つ魔術。
そして、統合された情報から事実を理解した。
——飛べる。
——戦える。
——それも詠唱は不必要。
その瞬間に、本は正真正銘の白紙だけの本になった。
そしてヴィヴィベルの身体には黄金に輝くルーン文字が刻まれ、静かに消えた。
そうヴィヴィベルが倉庫の壁にもたれていると外から叫び声。
「魔物だァー!」 「誰か人手を!!」
父と共に外を見ると逃げ惑う人々に泣き叫ぶ子供。
剣を抜刀する兵士に冒険者。
そして彼は、己の手を見て思う。
きっと飛べる。
理由は分からない。だが、身体の奥に魔法が根を張ったような感覚だけは確かだった。
だったら——
「助けなきゃ!」
この力なら守れるっ!
だが即座に父が腕を掴む。
「待て、ヴィヴィ! 何を考えている!」
「でも! 今の僕なら助けられる!」
ヴィヴィベルは止める父を振り払う。
「信じて!」
そのまま店を飛び出した。
――この日。
世界に散らばる七冊の禁書、その最初の一冊が、新たな継承者を選んだ。
面白かったり続きが気になった方は是非とも評価お願いします!




