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短編集  作者: 春鏡凪
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9/10

列車

 列車に人が乗っていく。

 それをぼーっと眺めながら、じっと彼らを見送っている。

 まだ私の切符は時間じゃない。

 だから彼らを見送った。

 知らない彼らを見送った。

 いつか向かう道だとぼーっと静かに眺めている。

 隣の君が立ち上がった。

 列に見知った顔が見えた。

 頭がサッと冷たくなった。

 列車があちらに向かって走り出す。

 嫌だ、お願い行かないで。

 列車は無情に走り出す。

 泣いて叫んで、願っても。

 列車は構わず進んでく。

 

 愛してるは結局ただの飾りだ。

 君はどれだけ私を愛していたとしても、一番悲しんでいる時に私を置いていく。

 列車は遠くに見えなくなった。

 見えぬ君は、物言わぬ記憶になった。

 彼を乗せた列車は、いつも見ていた列車だった。

 同じ列車がまた誰かを迎えに来た。

 ――それが悔しかった。

 君が誰かとまったく一緒なんて、腹が立ってしまった。

 ひどいな、私はなんてひどいんだろう。

 君が恋しくて仕方ない。

 涙の跡を残したまま、私はベンチに座り直した。

 また隣に誰かが座った。

 億劫そうに切符を眺めていた。

 彼の頬にも涙が伝っていた。

 ふと彼は私を見やった。

「あと何回、あなたは泣いてくれますか」

 私は悩んだ、だけどこう言わなくてはと、決心がついた。

「何回でも」

 泣けなくなるのはもっと嫌だ。

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