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89.星神使いのオリミユ


「アタシの名前はオリミユ。ミユって呼んで♪」


 ――オリミユ……?

 

 俺は愕然として、声が出なかった。


 "オリミユ"といったら伝説のパーティーの星神使いだ。前回までは出会わなかったオリミユに、今回は偶然出会うなんて奇跡は普通起きない。


 まさかとは思うが、伝説のパーティーは俺とイヴィアナがやり直しをしていることに気付いたのだろうか。俺とイヴィアナの企みを阻止するためにオリミユを送った可能性もある。


 ――この子が、伝説のパーティーの星神使い……


 超絶としながらも温和な少女の笑みが、途端に陰険に見えるようになった。オリミユは、晴天さながらの2つ結びを愛らしく揺らして俺たちの反応を伺っている。


 彼女はどういう意図で俺たちに接触したのだろうか。魔族に襲われているところも自作自演で、俺たちをおびき寄せていたのかもしれない。


 ――ダメだ。全部悪い方向に持っていっちゃう……


「オリミユさんですね!」と、シェリロルが彼女の名前を呼ぶ。

 

「そっちも素敵な名前だね、オリミユさん」


 それにグレアムも続いた。

 

「もう。ミユでいいのに」


 オリミユは口角を上げながらも、悄然と人差し指を合わせた。


 そういえば、マルシュもウルリクアクアもオリミユのことは"ミユ"と呼んでいた。


 俺は反応に逡巡している途中で、イヴィアナの存在を思い出した。彼女もまだ何も発していない。勘づかれないように密かに一瞥すると、中空を見つめて何か考えている様だった。狼狽を表面化しないよう尽力している。


「ミユね、よろしく」


 作り笑顔でイヴィアナは話した。上手な作り笑顔だが、俺だけにはイヴィアナの真意が見えていた。


 まだ何も反応していないのは俺とエリィだけだ。俺はエリィのように無口な印象を彼女に残していない。何か言わなければ。


「リアト、どうしたの♩」


 俺が呆然と立ち尽くしていると、オリミユは弾んで俺の眼前に現れた。


 煌めく黒蝶真珠の瞳――その既視感はカソリゾイが所持していた耳飾りだ。彼の語るオリミユは、快晴さながらの髪色に黒蝶真珠の瞳。眼前の少女を連想させる容姿だ。


 本当に麗しい瞳だった。カソリゾイの持っていた黒蝶真珠の耳飾りさながら、角度によって様々な色に変化する。


「変わった名前だなって思ったんだ。いい名前だよ」


 俺はなんとか言葉を紡いだ。

 

「変わってる?リアトのほうが変わってると思うけどな♪」

「それは確かにそうだな!」


 オリミユという名の衝撃から、不自然な応対になってしまっている。怪しまれていないことを願おう。


「オリミユはこれからどうするの?」と、グレアムが問う。

 

「アタシはこの先のローグポリスに行くつもりだよ♩」

「それなら丁度いいし、一緒に向かわないかい?この辺は魔物も多いし、危険だと思うから」


 ――まじか……グレアム……


 この流れだけは阻止したかった。だが、救助した少女を置いてこの場で別れるというのも無慈悲な話だ。致し方ない。


「えっ……でも悪いよ。キミたちはただでさえアタシを助けてくれたのに……これ以上迷惑をかけるなんて」


 オリミユは眉を下げて、申し訳なさそうに言った。


 ――こんなに謙虚で優しい少女が、本当に伝説のパーティーの一員なのか?

 

「大丈夫ですよオリミユさん。私たちの冒険の目的のひとつに"人助け"がありますから」


 シェリロルは俺を見遣って「ですよね?」と言った。


「そうだよ」


 俺はすぐさま返答した。それは間違いじゃない。誰であろうと、助けられる人は助けたい。

 

「そんな素晴らしい目的を持った冒険者パーティー、初めてだよ♩ありがとう」


 オリミユは手を絡めて、天を仰いだ。神に祈っているようだ。

 

「じゃ、そろそろ寒いし行くか」


 依然とイヴィアナの炎魔法で暖をとりながら、交易都市ローグポリスへと歩を進めた。


 オリミユは1枚の短めなローブを羽織っているだけ。下半身は素肌のまま、この極寒の環境を平然と歩いている。靴は植物のサンダルのようで、履いていないも同然だ。シェリロルまでとはいかないが、彼女もかなり感覚が狂っている。


 伝説のパーティーの星神使い"オリミユ"と思わぬ邂逅を果たしてから、1日目の夜が訪れた。


 道中にあった山小屋の一室に一晩泊めて貰えることになったが、6人で一室の非常に狭苦しい状況となった。


 寒さを凌げる山小屋で休めるだけ有難いことだ。順調に進めば、明後日の昼にはローグポリスに到着するだろう。


「こんなこと聞いていいのか分からないけれど、君の"逢いたい人"ってどういう人なんだい?」


 部屋で就寝準備をしていた所、グレアムが忌憚なく質問した。


 ――確かに気になる。


 オリミユは伝説のパーティーに属し、カソリゾイが強者と評するほどだ。そんな彼女が渇望するほど逢いたい死者は誰なのだろうか。といっても、正直に答えてくれる保証は無い。


()()?――あれ、そっか。アタシなにも説明してなかった。それは何も伝わらないよね……ごめんなさい♩アタシ、人とあまり交流しないから順序立って話すのが苦手で……」


 オリミユは頭をかいて「えへへ♪」と愉快に笑った。

 

「そんなの気にしてないよ。話すのが嫌なら話さなくても大丈夫だし。ただ僕が気になっただけだよ」

 

「私も気になるけど」とイヴィアナがグレアムの肩から顔を覗かせた。


「アタシが逢いたいのは()じゃなくて、()()だよ♪アタシの昔の契約者"至恵の精霊イフォーツ"に逢いたいの」

 

「え、精霊?」と驚愕するグレアムの声に、シェリロルが「精霊ですか?」と被せる。


 精霊使いの彼女ならば聞き逃すことの出来ない話題だろう。


「うん♪キミも精霊使いだよね。分かるよ、なんとなく♩」


 オリミユは人差し指と親指で丸をつくって、そこからシェリロルを覗いていた。

 

「本当ですか?私は憩泉の精霊、大地の精霊と契約しています!」

「ユーチーとディーダね。ユーチーなんてその能力とは裏腹に冷たい子って聞いたよ。キミは相当、気に入られているみたいだね♩」

「は、はい……」


 シェリロルはどこか悄然と答えた。その悄然とした声を不思議に思って一瞥する。彼女は眉をほんの少しだけ下げていた。


「ユーチーとディーダは本当にかけがえのない存在です。ですから、オリミユさんの気持ちも分かります」


 ――そうか……同じ精霊使いとして同情してるのか……

 

「ありがとう♩シェル」


 死者の話をしながらも、オリミユは依然と多幸感のある笑みを浮かべる。不思議で、不気味な少女だ。


「てか、精霊って命が尽きることあるの?あと、精霊が居なくなれば、その精霊が司るものの存在が危うくなるんじゃない?」

 

 人見知りのエリィが久々に口を開いた。名前のくだりのとこも無言を貫いていた。エリィはオリミユのことが苦手なのだろうか。

 

「精霊の命が尽きることは基本的にはないと思うけど、イフォーツはアタシを助けるために生命力を全て使ったの」


 カソリゾイから聞いた話と乖離する点はない。彼は至恵の精霊(イフォーツ)がオリミユに生命力を全て与え、彼女を不老にして消失したと言っていた。


 このような珍奇な素性を出会ってまもない俺たちに吐露するオリミユ――かなり警戒心が低い人のようだ。


 ――まさか正直に全部言うとは思わなかった……


「ん〜……♩この世界の"恵み"に関しては心配無用だよ♪キミも世界から恵みがなくなっていないことはわかるでしょ?アタシがイフォーツの力を受け継いでいるから、実質今のアタシが至恵の精霊の役割をしているんだと思う」


 オリミユは心臓に手を当て、瞼を閉じた。自身の中に宿るイフォーツの魔力を感じ取っているのかもしれない。


「あんたは精霊ってこと?」

「それは違うかな、イヴィ。アタシはただの人間……そういう役割を持っているのかもしれないけど、恵みを守ろうっていう責任とか、精霊であることの自覚なんて一生持たないよ♪アタシはアタシ。イフォーツにもらった命で、たくさん楽しいことをするの」


 煌々としたオリミユの笑顔は、今までみた誰よりも多くの幸せを掌握しているようだった。太陽も隠れたこの時間帯でありながら、この部屋が彼女の存在感だけで光り輝いている錯覚を覚えた。


 ――こんな純粋な少女が俺たちの敵なのか……


「そう。なら、黒魔術に手を出すのはやめた方がいいよ。絶対に楽しいことじゃないから」


 イヴィアナは真摯な眼差しで言った。敵だから冷徹な訳ではない。イヴィアナとしての単なる警告だろう。


「うん……そうだね……♩だから、あと1ヶ月で方法を探せなかったらしばらく急いて探すことをやめるつもり♪」


 オリミユは相変わらず弾んた声音で話す。けれど、表情は暗く沈んでいた。

 

「1ヶ月?なにかあるの?」


 俺は疑問を口にする。

 

「アタシの誕生日♪今年こそは話したいな」


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