85.運命によるズレ
前回よりもさらに5日ほど早く進んでいるだろう。エリィとの邂逅はいつも、辺境を襲う魔竜を退治することが発端となっていた。それから宮廷に招待され、初めて顔を合わせる。
――今回も普通に魔竜を退治して会いに行くか。
そうした適当な考えでユミルテ王国に進んだのだが、辺境の村や都市を訪れても魔竜が襲来することはなかった。
ユミルテ王国では頻繁に魔竜が出没する地として有名で、各地に竜討伐団の分隊が配置されている。それなのに、なぜこんなにも平和なのだろうか。
俺たちがユミルテ王国に訪れた本来の目的は魔竜の動向の調査と魔竜退治だ。魔竜の動向を調査するには竜討伐団と接触しなければならない。
竜討伐団と接触すればエリィとは確実に会えるが、展開の変化が著しい。少し心配だ。出来ればいつも通りの邂逅が望ましいだろう。
そう願いながら進んだが、王都までの道中で魔竜は一切現れなかった。つまり、簡易的に宮廷と接触することが不可能になったのだ。
ユミルテ王国の冒険はあまりにも不調だった。イヴィアナも不安そうにしている。
「ユミルテ王国にきたのに結局なんも出来てないな。どうするか〜」
俺は息を吐きながら言う。ユミルテ王国の王都を散策している時に吐いた諦めの言葉だった。
「そんなの決まってるでしょ。直接宮廷に行くの」
イヴィアナの発言に、俺とグレアムは「え?」と異口同音に言う。
その隣でシェリロルは「宮廷というのはなんですか?」と首を傾げた。
「王様が住む場所って言えばわかるか?」
「王様……偉い人ですよね。なるほど……?」
そういえばこの時期のシェリロルは俺と同等の非常識さを持っているんだった。
「プリゾネイでいうと……」イヴィアナは人混みの中立ち止まって思考した。「あ、そうそう。監獄長。監獄長が住んでるとこだよ」
「監獄長……あ、市長様ですね!」
プリゾネイの監獄長を務める人は罪なき人々の住む地の市長まで兼任しているようだ。本当に独特な文化の島だ。
「なら、市役所みたいなところなんですかね?よく分かりました」
納得するシェリロルに、俺たちは少し困惑した。
「し、市役所……そ、そうかな?うん……」と、拙ないながらも肯定するイヴィアナ。
「う、うん……?」
何を言っているのか理解しきれないグレアム。
俺は「そうだな……うんうん……」と上の空で肯定しおいた。
宮廷は市役所というほど小規模ではないが、シェリロルの視点から見れば宮廷は市役所なのだろう。
そしてグレアムと俺にイヴィアナに翻意を促せるはずもなく、彼女の意向のまま宮廷の目前まで来ていた。
ユミルテ王国の王城は日本の天守閣と西洋の宮殿が混合した見た目をしていて、端的に言えば近未来的な天守閣だった。
国民も大正ロマンさながらの服装をしていて、日本文化を彷彿とさせる。
宮廷に入るためには受付に用途を述べる必要がある。その内容を受付人が判断し、宮廷への入城が認められるらしい。
30分ほど列に並び、やっと俺たちの番が回ってきた。
当初は「順番を守る意味なんてない」と、イヴィアナが暴挙に出たところを、俺とグレアムが必死に止めた。
帝国魔道士はその稀有な力量から優遇、崇拝されている。そのせいで甘やかされていて、自尊心が高いようだ。
「俺たち、魔竜の動向を確かめに来たんだ。魔王が指示を強めると、魔竜も行動が激しくなるらしい。それで竜討伐団の本部と直接話をしたいんだが……あの……」
俺は必死に説明したが、受付で対応してくれる相手は無愛想に頬杖をしていた。不貞腐れているようで、まともに話を聞いていない。
「あの、聞いてます……?……か?」
「あぁ……」
この適当な返事は聞いていないと言っている様なものだ。
「……竜討伐団の本部はそんな簡単に行けるもんじゃないですからね、申し訳ないですけど」
受付人は俺たちと目も合わせずにそう告げた。
「俺たち魔王討伐のために冒険してるんだ。手を……」
「そういう人たまにくるんですよねえ」
受付人は依然と俺たちをあしらった。
――まぁ仕方ないか……
俺たちが勇者パーティーとして名声を上げたのは、ユミルテ王国での魔竜討伐を経たことが契機となった。エリィが仲間に与した頃から本格的に"勇者パーティー"の噂が広がったのだ。
今の俺たちはまだ自認勇者と反逆者2人。そして、無知な少女の最悪な4人だった。
「そんなこと言ってもいいの?冗談はいいから、早く入れてくれない?」
イヴィアナは俺を押し退けて前に出る。この展開はあまり好んでいなかったが、これ以上時間を無駄にする訳にはいかない。目をつぶろう。
「しつこい方々ですね……」
「まさか私のこと知らないだなんて言わないよね?」とイヴィアナは帝国魔道士の証である指輪を見せびらかした。
「て、帝国魔道士……!?」
受付人は頬杖を崩して、机に顔をぶつけた。相当動顚している。
「いや、それ偽物ですか?偽造罪に……」
受付人が手を伸ばし、イヴィアナの指輪に触れようとしたところをグレアムが払う。
「本物だからあんまり触らないであげてくれないかい?」
聖人のグレアムは時折、酷く恐ろしい形相をする。受付人もグレアムの強面に怯んでいた。
「イヴィアナ・フレインって言わないと分からない?」
「だ、大火力の帝国魔道士……」
イヴィアナが身分証を提示すると、受付人は驚くべき速さで謝罪を述べた。そして、途端に物腰低く接しだした。
――反逆者なのに身分証使えるんだな……
イヴィアナのおかげで竜討伐団の本部にいるエリィとも無事に接触した。かくして、毎回恒例、最強の盾を持つ魔竜の討伐に向けて準備を進めていた。
前回までは俺たちが辺境の魔竜を一瞬で片付けたことが契機となって、竜討伐団に魔竜討伐を手伝うように勧誘された。しかし、今回は自発的な協力のため、何度も心配の声をかけられた。
そのため、討伐の際は後方に配置させられてしまった。そんな状況では魔竜を討伐できない。俺は開始早々指示を無視して"入れ替える"を使い、最前線に立っていつも通り討伐に成功した。
「ありがとう、リアト。そしてみんな」
まだ仲間になっていないエリィがぎこちない笑顔で言う。俺たちの手荒さに少々引いている印象も受けた。
「このくらい冒険の一端に過ぎないよ。エリィの笑顔が見れてよかった!」
「だから、俺は笑うのは苦手なんだって……」
エリィは頬を赤らめる。大きな手で顔を申し訳程度に隠していた。
――やっぱり可愛い所がある。
出立前日の夜、いつも通りエリィは俺たちの宿屋を訪れて仲間に入れて欲しいと伝えに来た。
竜討伐団の団長という立場もあって、直前までかなり悩んでいたようだ。それにしても、19という若さで国の防衛軍の重要機関である竜討伐団の団長に――エリィの能力には何度も驚愕する。
ようやく今回の冒険でも5人でパーティーを組むことが出来た。
――俺の大好きな仲間たち。今度こそは生きるために運命を打破しよう。
お読み頂きありがとうございます。感想やリアクション、評価いただけるととても励みになりますꕤ︎︎




