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83.今回もみかん


 オルケアノスのいた屋敷から逃亡した後、すぐに都市ハルーアから離れた。休息をとったのは明け方頃になった。


 クリーエ家からの逃亡、ハルーアのメアール家屋敷からの逃亡と、怒涛の逃亡続きでさすがに疲労に襲われた。


 特にメアール家の当主"オルケアノス・メアール"公爵との対峙は心臓がいくつあっても足りないほどの緊張感があった。彼は人の精神をじわじわと削る才能がある。未だに俺の心拍数が高い。

 

 ああいう胡散臭く狡猾な貴族とは話したくもない。二度と会わないことを願おう。


「ハイルヴィロンだったかい?なんでそんなに彼のことを?」


 何も知らないグレアムが素直な疑問を口にした。


 逆にここまで疑義を呈さず着いてきてくれたことが信じられない。さて、なんて言い訳しよう。イヴィアナに視線を送った。


「帝都外でそいつに急に殺されかけたの。夜間警備隊だから最初に陛下を疑ったんだけど、陛下は私を殺すなんてバカなことしないし、他の誰かが指示した可能性あるとは思って」


 イヴィアナはまた皇帝のことを"バカ"と言っている。


「え!?!イヴィもリアトも大丈夫だったのかい?」


 グレアムの焦燥ぶりを見る限り、夜間警備隊は相当物騒な組織のようだ。


「俺は多分狙われてないし、イヴィアナも強いし平気だよ」


 俺はグレアムの肩に手を置いた。

 

「打ち負かしてやろうと思って情報を聞きに来たのに結局"ハイルヴィロン"っていう名前しか聞けなかったね」

「あぁ、そうだな…」


 徒労に終わったわけではないが、ここまで苦労して得た情報が本名のひとつだけは幻滅する。それほどまでにハイルヴィロン――ハルヴィンの情報は本人が徹底的に隠匿しているのだ。


「次ハイルヴィロンと戦うような事があったら私に任せて。本気出してあいつに魔法を使わせてやるから」


 イヴィアナは親指を立ててウインクした。


「あんまり無理はしないでよ、イヴィ。僕にも任せて」


 グレアムはイヴィアナの手を取る。いつも通り、2人とも照れるような素振りは見せなかった。


 そして、俺たち3人はのんびりと冒険を進めていた。


 グレアムとの邂逅が数日早まったおかげで既に時間は短縮できている。次に俺たちが目指すものは八斬りのシュラクペの討伐だ。


 イヴィアナの言う通り、前回と同様のタイミングで応戦する必要があるため、時間を調整する必要がある。そのために、気ままな冒険を堪能するしかない。


 数日間滞在した村落に別れを告げ、再び冒険へと歩を進めた。


 村落から港湾都市への道中ですら当たり前に魔物が出現する。この世の中は常に危険と隣り合わせで、暮らしにくい。


 余談だが、俺も杖がないと戦いづらくて仕方ない。俺が不満そうに戦っているのを見兼ねてイヴィアナは「我慢して」と何度も言ってくる。


 ――自分はご自慢の長杖を持っているからそう言えるだけだ。


 そんな不満も港湾都市に到着すれば解消される。いつもの商店で俺の杖を買うイベントがあるからだ。


 なんと今度は銀貨2枚で購入できた。前回は銀貨4枚だったのに2枚だ。それもそのはず、今回はイヴィアナに加えて俺も執拗く値段交渉をしたからだ。


 もちろん口うるさく「もう少し安く!」と言い続けたためでもある。ただ、俺が様々な魔法を見せたことが決め手だろう。店主は目を燦然と輝かせてすんなり安くしてくれた。


 この世界の人間は老若男女問わず"名無しの勇者"への憧憬を持っているようだ。


 ――俺も誰彼構わず尊敬される勇者になれたらいいけどな……


 それも俺のくだらない夢だった。誰にも負けない最強の英雄"名無しの勇者"に並ぶためには、イヴィアナやグレアムを越える必要があるだろう。


 ――そんなの無理に決まってる。


「あれ?!ここって監獄島プリゾネイだ……?!」


 イヴィアナは心做しか嬉しそうに言った。密航船の舵を取った彼女自身が、わざと航路を変更してプリゾネイに到着させたのだから間違いない。シェリロルに会えるのが楽しみで仕方無いようだ。


「だから航海の知識なしに海に出るなって言ったのに……」


 グレアムはいつもの台詞を口にする。この辟易としながら驚きのひとつも無い態度から、日常的にイヴィアナに振り回されていた背景が見えてくる。


「まぁ、大丈夫大丈夫。冒険ってこんなもんだろ?」


 俺は能天気に言った。イヴィアナの破天荒さがあるからこそ、シェリロルとエリィに出会えたのだ。

 

「リアト!少しはイヴィのこと怒ってくれないかい?」と、グレアムが呆れたことを口にする。

 

「それはお前がやってくれ」


 密航船を"認識を消す(カシェルト)"で隠し、身を隠しながらプリゾネイの内部に侵入した。俺たちが漂着した所から少し歩けばシェリロルが暮らす地区に着く。そこは本来の入港地から真反対の場所で、プリゾネイで生まれた育った罪なき人々が暮らす場所だった。


 シェリロルとの出会いは、俺たち3人が虎視眈々と脱出路を探している最中だった。突然、俺の頭上に大量のみかんが落下したことで、俺たちは巡り会ったのだ。


 そこでいつも通りならば「すみません。ご迷惑をおかけしました――」から始まる。だが、今回は邂逅する時期すら違う。といっても、前回も時期にズレが生じていたが、奇跡的にまたみかんが降ってきていた。


 ――今回はどのような邂逅だ?


 好奇心が昂る中、俺の足元にみかんが流れ込んできた。1つだと思って拾い前を向く。


 ところが、大量のみかんが流れ込んでくるではないか。


「すみません。袋を落としてしまって……!」


 みかんを抱えるシェリロルがそこにはいた。


 またみかんからの登場だった。


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