7.達成!魔王討伐
魔王を討伐した。
これはフラグなどではなく確実に。魔王の死体は微動だにせず、暫くすると消滅した。
「皆さん大丈夫ですか……?疲れているようなら憩泉の精霊を呼びますよ」
「無理しないでシェル、魔力を無駄にしないほうがいいよ」
疲労困憊の状態で息をつくもの、汗をふき取るもの、気遣いするものそれぞれだ。そんな中イヴィアナとシェリロルは話していた。イヴィアナは規格外の魔力量を持ち、シェリロルも精霊使いとして相応しい魔力量を持っているから、男三人より余裕があるのだ。
俺は安堵感と達成感で呆然としていた。
「イヴィ、君の願いが……ううん。僕たちの願いがやっと叶ったね。これでイヴィの望む世界が見れるかな」
グレアムが天を仰いで呟いた。魔王との戦いで、天井が貫かれている。そのせいで上を向けば魔王領独特の邪悪な空が広がっている。
「そう……なるといいけど……」
イヴィアナはぽつりと呟く。
「これで僕もイヴィのワガママから解放されるね」
「うるさい」
イヴィアナと遭逢してから始まった冒険が──イヴィアナとグレアムの夢が成就した。俺は二人を横目に幸せに浸りながら目を閉じた。
「少し休んでから帰りましょうか?」
シェリロルは幸せそうに微笑んで言う。冒険への羨望を語っていた彼女も、こんな偉業を成し遂げられるとは思っていなかっただろう。
「もうこんなとこ来ないし、眺めておこう」
珍しく、エリィの声に感情が乗っていた。心地よさそうに伸びをしている。
魔王領から帰還したらマルシユラフトにまた会いたい。そんな邪念が俺の中で浮き出た。
「ゆっくりしたいのはわかるけど、魔王領は危険だし早めに帰ろ。ただでさえ疲れてるしね」
「ま、イヴィの言う通りだね。リアト、大丈夫そうかい?」
グレアムの呼び掛けに目を開けた。帰路も気を抜かず頑張ろう。
──ところで、俺たちってどこに帰ればいいんだろう?
イヴィアナ、グレアム、シェリロル、エリィは元の居場所に戻ってしまうのだろうか。少し寂しい。
俺もツアルト婆ちゃんの家に一旦帰還しなければ。
そんな平和な未来を思い描いていた。
「大丈夫だ!さ!帰るぞー!」
「ご機嫌ですね〜!リアトさ──」
シェリロルの純真な笑顔が傾いていく。そして歯止めが効かないまま地に流れ落ちた。シェリロルの首が──
「シェリロル!!!?!」
俺の声なのか他の仲間の声なのか分からない。誰もがシェリロルの名を声高に叫んだ。
頭部を失ったシェリロルの胴体は、時間差で今倒れ込む。綺麗に巻かれた薄青色の髪の毛も、血に染まっていた。
「なんだ……?!」
焦りと驚愕で、俺の口から自然と出ていた。
「みんな!物陰に隠れて!」
イヴィアナの果敢な叫びにほとんどが脊髄反射で動いた。
「なんなんだこれ」
「さぁね、私も知りたいよ!」
エリィとイヴィアナの掛け合いの中、俺は状況整理ができず、シェリロルの凄惨な死体を注視していた。
「シェル……」
イヴィアナの嗚咽が耳に入る。
理解できない。俺たちは魔王を討伐したはずだ。この惨劇はどういう事なんだ?魔王軍の残党が魔王の崩御後すぐに攻め込んでくるか?俺たちは魔族の長を倒した者たちだ。そう簡単に出し抜けると思わないだろう。
冷静になれ。魔力探知を強化し、敵を探すんだ。これ以上の被害を回避しろ。
魔力探知を強化するものの、一向に魔力の気配を感じられなかった。敵が居なければ何も動けない。そもそも攻撃が存在するのかも不明だと言える。いや、シェリロルが殺られている限り存在するのだ。だが、魔法や斬撃の類は目に入らなかった。
「イヴィ、リアト敵は見えた?」
グレアムの問いにイヴィアナと俺は首を振った。こんなに魔力を感じない攻撃は初めてだ。
「とりあえず物陰に隠れてれば攻撃が来ないみたいだから、ゆっくり移動して撤退するしかなさそうだね」
イヴィアナの提案通り虎視眈々と退こうとした瞬間に、どこからともなく攻撃が降り注ぎ、腹が切り裂かれた。刹那に斬撃が見えた気がするが、やはり攻撃は目視し難い。
「リアト!」
悲嘆に叫ぶイヴィアナの声が聞こえた。
「イヴィ……アナ……」
「待ってなさい!あんたは私が助ける!約束したでしょ!」
旅立ちの時に約束した事をまだ覚えていたのか。
イヴィアナががむしゃらに疾駆してきていた。それは敵地で動く格好の的に過ぎなかった。
「やめろ!イヴィアナ!!」
俺の叫びも虚しく、イヴィアナが例によって切り裂かれた。もっと多くの魔法を知っていたら、何か変わっていたのだろうか。
出血多量で意識が朦朧とする。傷口部分が熱くしだいに眠気が強くなっていた。そろそろ意識が落ちる。
グレアムとエリィはまだ万全の状態で生きている。今も警戒怠らず四顧するあの2人なら大丈夫だ。どうか生き残ってくれ。
「また……ダメ……」
満身創痍の中、踏ん張ってイヴィアナに近づいた時に聞こえた言葉だった。思わず疑問の声が出る。
──イヴィアナ、お前は何を知ってるんだ?
頭が混濁しながらも意識は遠のいていく。グレアムとエリィが俺らを呼ぶ声が遥か遠方で聴こえた。
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瞼を開けると、少し前まで見慣れた景色が広がっていた。
死への畏怖と激痛で過呼吸が起きる。傷口を確認するが、傷跡は跡形もなくなっていた。
「リアト、その作業が終わったらおやつがあるから少し休みなさい」
「おやつ……?」
聞いたことがある文言だ。ひたとデジャヴという言葉を思い出した。いや、これは過去の追憶を辿っているのだろうか。
これはイヴィアナと邂逅する少し前の時分の出来事だ。
──違う違う!
──それよりもっと肝心なことは、俺は既に死んでいるはずだ。夢か?
「ツアルト婆ちゃん!」
「なんだいリアト?」
「俺、生きてるの?これなんの世界?!」
ツアルト婆ちゃんは顔を顰めて、首を傾げた。
「なんだい?今生きてなけりゃ、私が見れるわけなかろう。それに半年前にこの世界のことは教えただろう。記憶がおかしくなったのかい?」
なんとなく頬を抓った。普通に痛みを感じる。
これは現実世界だ。俺は実体験した冒険から魔王討伐、そしてその後の急襲による死までの経緯を既に見知っている。
所謂、タイムリープである。その起点となっているのが”死”だ。“神”が下賜した慈悲なのだろうか。二度目の機会をくれた事は悪いことではない。今度こそは必ずあの惨劇を回避するまでだ。
この後、直ぐに帝国から逃亡したイヴィアナが水をせがみにやって来るはずだ。
イヴィアナ──そういえば死を目前にして意味深長な言葉を吐いていた。また──と、イヴィアナはもしかして俺よりも前に、このタイムリープを経験しているかもしれない。
玄関の扉が乱暴に開かれる。前と同じく、イヴィアナが尋ねてきたのだ。
好奇心を昂らせ、少しの畏怖を抑えて確認しに行くと、高貴な服装を纏うイヴィアナが息も絶え絶えでいた。
帝国魔道士の正装を纏う彼女に懐かしさを感じる。そして、変わることのない東雲色の毛先だけ外に巻かれたツインテール。
「イヴィアナ……」
「水……水くれる?」
前回の俺では知り得ない彼女の名を呟くが、イヴィアナは驚嘆する素振りを見せない。
「水を与えてやりなさい、リアト」
「うん」
ツアルト婆ちゃんの指示通り、コップで水を掬い小走りで戻った。前回同様、コップから少し水が溢れた。
「どうして帝国魔道士様がこのような辺境に来られたのですか?」
「それは……」
「イヴィアナ、覚えてるか?」
勇猛果敢に発言した。怯んでいる暇はない。
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