6.黒魔法使い②
魔王直下の魔族、不可知のユーペスは一瞬で失墜し、跡形もなく消え去った。
「魔王領のダンジョンに人族がいるなんて驚いたわ。もしかしてだけれど、貴方たちが勇者のパーティー……?」
黒魔法を使う金髪の女の子はこてんと首を傾げた。
俺は狼狽しながら頷く。
先刻の合体魔法は壮大で戦慄する大魔法だった。ダンジョン自体が崩壊する心配までした程だ。
「それならよかった。やっと追いついたみたいね、ホワステル」
「そうだね、偶然だけどよかった」
金髪の女の子は高飛車でありながら鷹揚な話し方で、白髪の女の子は控えめでシェリロルのような話し方だ。いやシェリロルは堅苦しすぎる。シェリロルを少し緩くした貞淑な話し方と言うべきだろう。
「あの、俺の事……覚えてますか……?」
──あぁ、また気色の悪い話し方になっている気がする。情けない……
金髪の女の子は口を少し開けてから無邪気に笑った。
「もちろん。まさか助けた相手が未来の勇者様だとは思わなかったけれどね」
金髪の美少女は俺の仲間を一瞥した。
「名前って……」
──やっと聞けた。あの時聞けなかった、俺の第一歩。
「私はシヴァージ王国の宮廷魔導師マルシユラフトよ」
金髪の美少女ではなく、マルシユラフト。どのような意味が含まれているのか分からないが、直覚的に相応しい名前だと思った。
「シヴァージ王国!?そこの人なの?しかも宮廷魔導師だなんて……黒魔道士がそんな地位でなんで私知らないの……それにホワステル様まで……」
イヴィアナの驚嘆に追いつかなかった。シヴァージ王国ってそういえば、魔王軍との戦いの最前線にいる国だったような。
「イヴィアナとグレアムは知っているだろうけど、あたしはヘズ帝国のホワステル。黒魔法のことは……」言い留まってマルシユラフトを見遣っていた。「黙ってあげた方がいいと思う」
ホワステルという白髪の彼女は帝国魔道士でイヴィアナの先輩だろうか。
怪訝な目を向けて考えているうちにイヴィアナが仰々しく空咳を出した。俺に説明してくれるみたいだ。
「ホワステル様は"帝国治癒師"。帝国民から尊敬されるお方。だからこそビックリしてるの!ホワステル様が最初から協力してくれるって分かってたら……」
「イヴィアナが追放されたと聞いた時は驚いたけど、きみらしいね。あたしは旧友を少し助けるために来ただけだよ」
「旧友……?ってまさか!!マルシユラフトさんって、あの!?!?」
「ちょっ、ち、違う違う!私は伝説のパーティーじゃなくって、ただのホワステルの友達よ」とマルシユラフトは首を振る。
"伝説のパーティー"?初耳の言葉だ。稚拙な称号に微笑が漏れたが、イヴィアナの睥睨に気がついて急いで口角を下げた。
「バカにしないでリアト!伝説のパーティーは誰もが憧れる存在なの!」
「そうだねイヴィ。リアトが悪いよ」
イヴィアナの敵愾心は止まらず、俺を責め立てる。グレアムまでイヴィアナと同じように俺を薄目で見るとは──そんな憧憬を抱く相手とは露知らず、一言謝罪した。
「伝説のパーティー……すごそうです……!」
「え、シェルも知らないの!?」
シェリロルも俺と同じく、この世界に無知で少し安心する。イヴィアナはあんぐりと口を開けた。
「魔王領に入るにはシヴァージ王国を経由するのが一番楽なのに。うちの国に寄ってくれたらすぐにでも協力したわ」
マルシユラフトは嘆息を吐いて話し続けた。
彼女が遣えるシヴァージ王国は魔族との戦いの最前線にいる滅亡寸前の国だ。現状維持では限界があると頭を悩ませていた中、勇者──パーティーの話を小耳に挟み、俺たちのことを捜索していたと言う。
「魔王城に入るためには"魔王城の番人ネベルブリーヤ"をどうにかしなきゃいけないんだけど、それなら今どうにかしてもらってるから安心して」
「これからネベルブリーヤを倒しに行かなきゃって思ってたのに……ホワステル様ありがとうございます」
慇懃なイヴィアナを見るのは何だか気味が悪い。彼女の外に巻かれた毛先も今は内巻きになっているような気がする。
「あたしじゃないから……!シヴァージ王国の宮廷魔導師や宮廷狩人のおかげだよ」
ホワステルは否定の意を込めて、謙虚に手のひらを振った。
──ところで"魔王城の番人ネベルブリーヤ"って誰だ?俺はどうして魔族についての見識がこんなに浅いんだ?
俺の凝視に耐え兼ねたイヴィアナが申し訳なさそうに、霧魔法で魔王城を雲隠れさせている魔族だという説明をしてくれた。
なんだかイヴィアナは色々すっ飛ばしているように思うが、世間的には常識の範疇すぎて教える必要も無いのだろう。
「いい?今の魔王の力は偽りの力なのよ。魔王はその偽りの力の源である魔道具を各地に隠匿し、それに守衛をつけているわ。さっきのユーペスみたいにね。それを壊せなければ魔王を倒せない」
マルシユラフトは俺たちに衝撃的な事実を説明してくれた。
「なんだそれ……知らなかった……」
俺たちは武力だけで突っ込もうとした脳筋になるところだった。
「私とホワステルは早急に分散された魔道具を壊しに行ってくるわ。あなた達は魔王と戦って欲しい」
マルシユラフトの真摯な赤い瞳に少し気圧した。俺との覚悟の違いが浮き彫りになっている。
真意を曝け出すと、俺はまだ恐怖を抱いていた。魔王というのだから、ゲームで言うとラスボスの立ち位置だろう。今までの冒険で経験値を積んでいたとしても、やはり緊張と恐怖が綯い交ぜになる。
「分かった」
「私たちがいるでしょ、リアト」
イヴィアナの一声に気付かされ振り返った。グレアム、シェリロル、エリィ、そしてイヴィアナ。俺には仲間がいる。
「勇者パーティーだから、大丈夫だろ?」
エリィが口を開けて八重歯を見せて微笑む。
「そうです!勇者パーティー!」
シェリロルが拳を高くあげると、綺麗なハーフツインのお団子が揺れた。
「僕たちの連携は他の追随を許さないからね」とグレアムはウインクした。
「武運を祈るわ。みんな」
マルシユラフトの激励する声が俺の心をさらに鼓舞する。
魔王を討伐したら、彼女との友好関係を築けたら嬉しい。
そういう幻想を頭に浮かべていた。
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