4.精霊使いと暗黒騎士
期待されていた万能魔法については俺なりに使いこなせている。イヴィアナの実家から盗んだ魔法図鑑をみて種々の魔法を学び、実践でも使えるようになった。それに、イヴィアナが魔法は自由の権化と言うため、俺の想像力で魔法を誕生させることも出来た。
「マズイ、ここって……監獄島プリゾネイじゃない!」
乾いた笑いでイヴィアナが言う。
冒険の途中、大陸を越えてユミルテ王国に赴くために向かった船舶が、監獄島という物騒な異名を持つ島に辿り着いてしまった。
「え?は?!どういう事?なんかめっちゃ導かれてんじゃん俺たち!?」
「だから航海の知識なしに海に出るなって言ったのに……」
イヴィアナは呑気に「あちゃー」と言ってるし、グレアムは慣れた雰囲気で溜息を吐いていて、焦燥しているのは俺だけだ。
2人から聞いたところ、プリゾネイは帝国の犯罪者が収容された島で、一度入れば二度と出られない島だという。
とは言っていたものの、監獄島には犯罪者を収容する刑務所しかない訳ではない。文明は徐だが開化されており、清廉潔白な民も居住していた。プリゾネイで生まれ育って暮らす者もいるという事だ。
ただしこの島から脱出するのも難儀で、犯罪者の奸計を疑うためどのような立場の人間であれ島の外に出ることは不可能であった。
俺たち3人はどうにかプリゾネイから逃れる手段を探すため、身を潜めながら市街地を探索していた。そして、忍んでいた最中、俺の黒髪にみかんが降ってきたのである。
「すみません。ご迷惑をおかけしました。私はシェリロルと言います」
それがシェリロルとの出会いだった。俺の頭部にみかんを落とした謝罪として、俺たちにみかんをお裾分けしてくれた。
彼女は薄い青色の髪をハーフアップにして、左右にお団子にまとめていた。後ろ髪は柔らかな曲線を描いている。手の込んだ髪型から、お洒落を気にする女の子であることが分かる。
瞳は俺やグレアム、イヴィアナのように一色に見えない。虹彩の上が朱色、下が黄色──まるで沈みゆく夕陽を瞳に閉じ込めたようだった。初めて見る幻想的な瞳に、自己紹介している時はじっくり鑑賞してしまった。身長はイヴィアナよりも数センチ低く見える。
彼女は四大精霊の一角である大地の精霊のディーダと秘泉と呼ばれる憩泉の精霊のユーチーと契約しており、ヒール適正の高い優秀な精霊使いだ。
しかしながら、シェリロルは自身の能力の高さに気がついていない様子だった。
プリゾネイの独特な文明や学習形態によって精霊に関する知識が皆無なのだ。
そんな世間知らずのシェリロルは冒険する俺たちへの羨望を語った。外の世界を知ればどんなに楽しいかと夕陽さながらの目を輝かせた。そんな事を言われては、俺の返す言葉はひとつしかないだろう。
「良かったら、一緒に脱出して冒険しない?」
ということでシェリロルは俺たちの新しいパーティーメンバーとして堂々採用した。
そして錬成魔法で未熟な小舟を創り、シェリロルの精霊の力でなんとかプリゾネイから脱した。もちろん看守という追跡者がいたが、俺たちのパーティーにはイヴィアナとグレアムという超火力要因の"反逆者"が居るのだから心配するまでもない。
とは言ってもこの脱獄劇はもう二度と経験したくないくらい肝が冷えた。追撃者からは幾重もの魔法が発動されて、死ぬかと思った。
そして本来の目的地であるユミルテ王国に到着した。ユミルテ王国は魔竜の巣が近辺にあり、暴徒化した魔竜の被害が世界一多い国である。ちなみに魔竜などの"魔物"を生み出したのは400年前、最恐と謳われた魔王であり、討伐しきれないほどの魔物がこの世界に存在する。
ユミルテ王国のとある都市を襲った魔竜を俺たち4人で退治したことから、ユミルテ王国との交流が始まった。ちなみにイヴィアナの策略通りらしい。本当に恐ろしい女の子だ。
「お前らが、たった4人で魔竜を討ったのか?」
そこで邂逅したのは、竜討伐団団長のエリィだった。
彼は紫髪の直毛のショートヘアで、左の触覚だけ妙に長くしていた。前髪は揃えて切っているが、目にかかるほどの長さ。
和風の耳飾りを着け、右目に黒い眼帯をした少年だ。淡々としているが、金色の瞳は燦然と輝いており、笑うと八重歯が見える可愛らしい所もある。身長は俺より5センチ以上は大きいだろう。
「はい!勇者パーティーです!」
2つの団子を揺らしてシェリロルが元気よく発言すると、イヴィアナも続けて「勇者パーティーだよ!」と笑顔で言った。
シェリロルがこんなに乗り気な理由は航海中にイヴィアナが勇者パーティーであることを強調して、シェリロルに刷り込んだからだ。2人が楽しそうなら構わないが、勇者パーティー自認のアホパーティーに見えるような気もする。
「そうか……まあ、強いならなんでも良い」
エリィは明らかにドン引きしていた。
彼の使用する刀は"大太刀"と言い、エリィの身長より遥かに大きな刀だ。彼曰く、竜の首を斬るにはこの大きさが最適らしい。だが、ユミルテ王国の竜討伐団の中で大太刀を使っているのはエリィだけだった。
そして、彼は暗黒騎士で、死神魔族と契約して右目を喪う代わりに刀に死の魔法を纏えると言った。この刀で少しでも斬られてしまうと並の人族や魔族ならば即死らしい。俺を超えるチート能力の出現で頭を悩ませたものだ。
「それじゃあ、まあ。その……勇者パーティーに頼みたいことがある」
「どんとこいです!」
シェリロルは胸を叩いて鼻息を鳴らした。
「ある魔竜についてなんだけど……」
彼の話によると、チート能力を持ったエリィにも討伐できない魔竜がいるらしい。魔力を身体に纏うことで魔法や攻撃を受け付けない最強の盾を持った魔竜である。この難攻不落の魔竜は時折王都を襲い、ユミルテ王国は多大なる被害を被っている、とエリィは語った。
当然困っている人を前に断るはずもなく、鉄壁の盾を持つ魔竜退治に赴くことにした。
「なんで快く手を貸してくれたんだ?こんな馬鹿げた魔竜と戦うなんて、どんな冒険者も嫌がる」
魔竜討伐の前、エリィは俺に聞いてきた。長い前髪の隙間から、悄然とした金色の瞳が見えた。
「まー…………俺たちは人助けをする為に冒険してるから。場数を踏んでるイヴィアナやグレアムはともかく俺はまだ怖いけど、エリィの笑顔が見れるなら恐怖心なんてなくなるよ」
エリィは目を瞠った。金色の瞳が綺麗に輝いている。
「ごめん、俺笑うの普段から下手なんだ」
そういう癖に彼の珍しき笑顔は自然だし、八重歯も見えて最高だ。
これまたチート能力を使う魔竜だったが、俺の"無効化"には及ばず、ご自慢の盾を破壊された後はイヴィアナの火炎放射と、グレアムの剣戟で呆気なく終わった。魔竜にも畢生があるだろうが、他者の領域に迷惑をかけるのはよろしくない。
「リアト。お前のパーティに入れてくれないか?」
淡白で孤高の騎士だと思っていたエリィの口から出た言葉だと思わず、俺は二度見した。エリは顔を赤くして頬をかいている。やはり可愛らしい側面がある。
「でもエリィ、ユミルテ王国の事は……」
「国王陛下には承諾を得てる。リアト達となら、上手く戦えると思ったから。多分だけど……」
「いいじゃんいいじゃん!入ってよエリィ!グレイも前線が増えると嬉しいと思うし」
イヴィアナはエリィに駆け寄り、明朗に肩を組んだ。
拒む理由なんてない。元より勧誘したかった所を、竜討伐団団長という高官の立場があり憚られていたのだ。
かくして俺リアトと、帝国魔道士イヴィアナ、名誉騎士グレアム、精霊使いのシェリロル、暗黒騎士エリィの5人パーティとなった。
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