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4.黒魔法使い

 魔法の鍛錬も進み、イヴィアナほどの実力はないものの、一般的な魔道士以上に魔法を扱える様に成長した。場合によっては死生観を覆せるほどの魔法を出せることもある。

 イヴィアナからは成長速度に驚愕され、才能があると何度も鼓舞されてきた。俺は褒められて伸びるタイプらしい。


 5人パーティーになってからも変わらず、様々な国やダンジョンを訪れ気ままに冒険を続けた。ただ呑気に冒険している訳ではなく、能力向上のために寄り道は必至なのである。


 そして俺とイヴィアナで冒険を初めてから1年以上経った頃、魔王領に踏み入れた。


 魔王領域のダンジョンは魔族の隠れ蓑、または住居であるため、魔物や魔族は大勢いる。宝物庫もまだ荒らされていなければ貴重な代物があるかもしれない。この為、魔王討伐の前にもう一つダンジョンに挑戦するという話が出ていた。


「ここのダンジョンに入りましょ」

「ちょっと待ってイヴィアナ」


 イヴィアナは行き着いた先にあったダンジョンを指さした。それをエリィが訝しげな顔で引き止める。エリィの魔力は微量だが、エリィと契約している死神魔族の影響で魔族探知を得意としている。


「前と違うとこ…ダメだった…?」と、理解出来ないことをイヴィアナが零した。


「なんか、ラフアンが警告しているように思える」


 ラフアンとはエリィと契約した死神魔族の名である。エリィと出会った頃、シェリロルが興味津々で聞き出していたのをついでに聞いたのだ。既に亡くなった死神魔族で、亡くなる前にエリィと契約したことで、永劫にエリィの大太刀の妖刀の中で魔力が生きている。


「なら、逆に行くべきってことじゃない?!」

「ま、別に、リアトが決めたら?」


 イヴィアナとエリィは視線を俺に向けた。イヴィアナ発端のパーティーもいつの間にか俺が統率者的存在と化していた。

 それもこれも、イヴィアナが俺の事を勇者とデタラメに喧伝したせいである。このへっぽこが勇者になれるわけないというのに。


「まぁ…とりあえず入っとこ」

「よっし!いくよ!…大丈夫だよエリちゃん。私たちそこまで弱くないし」

「エリ"ちゃん"はやめて」


 イヴィアナは最近エリィの事をエリちゃんと呼ぶのにハマっている。


 そしてダンジョンの道中で思いもよらない強敵と遭遇し、俺は悔恨の念を抱くこととなった。


「主ら、妾の守護する聖域に何用だ」


 背後からの声に俺らは滑稽にも同時に振り向いた。彼女の足音、いや気配すら感じ取れなかった。それは未熟の俺だけではなく、イヴィアナやグレアム、エリィの驚嘆の目を見れば明瞭だった。


 壮麗で不気味な魔族だった。人間で言う耳の部分に(ひれ)がついていることから魚人魔族であることが推測される。

 魔族語が精通している魔王領では、人語を話す機会がほとんどない。その為、人語を話せる魔族は危険度が規格外だ。俺たちは今まで人語を話す魔族と何度も対峙したが、この魔族だけは"桁が違う"。

 震える手を誤魔化すために拳を強く握った。


「俺たちはただ…」

「魔王様の命において、主らの侵入を看過する訳にはいかぬ」


 次の瞬間、イヴィアナのいた足場が歪み崩壊した。まるで紙粘土のように歪曲していた。イヴィアナは咄嗟の反射神経で逃れる。


「無詠唱…!?どういう事…」

「魔杖も魔道具も持っていない状態で魔法を使っている。イヴィ、気をつけよう」


 イヴィアナは後方支援と言いつつグレアムとの連携攻撃で前線に出がちだ。でも二人が先制攻撃を仕掛けてくれることにより、俺たちの戦闘が始まる。


「魚人魔族…あんた、不可知のユーペス?あんたの魔法は不可知で、全く読めないし、理解できないって聞いてる」

「まさか、こんなところに魔王直下の魔族がいるのかい?」

「だって、意味のわからない攻撃をしてくるし…」


 "不可知のユーペス"…?そういえば俺は魔王領に入るのに大魔族の名を全く知らない。イヴィアナはなぜ説明してくれなかったのだろうか。


「妾たちには不可知ではない。この程度の魔法を不可知と言う人族は愚かだ」

「バカバカしい。別に不可知でも、攻撃できるから」

「ふむ…それならば妾も──」


火炎放射(フランメルン)


 イヴィアナは不可知のユーペスと会話をしながら、無頓着に魔法を放った。


「グレイ!いくよ──」


漆黒剣(ネアンヴェルト)


 イヴィアナとグレアムの先制攻撃を差し置いて暗黒を帯びた剣を持った女の子が、誰よりも先に攻撃した。

 あまりの邪悪さに別の強敵が闖入してきたのかと疑い背筋を凍らせたが、この魔法は──


「黒魔法…?」


 この不可知のユーペスも魔族の一員であり、彼女も俺が初めて会った魔族と同等に黒魔法使いに驚嘆し期待を抱いている。


 俺は今までの旅で世界を断片を知った。黒魔法は400年前に猛威を振るい、人族世界を滅亡寸前まで追い詰めた最凶の魔王の魔法なのだ。 

 魔王が操る黒魔法は万物を暗黒に呑み込み、消滅させたという。その魔王は400年前に"万能魔法"を使う大賢者と勇者によって討伐された。最凶の魔王以降黒魔法使いの魔族は現れず、魔王の後継者も親族では無いらしい。過去の栄光を求める魔族は多い。黒魔法使いと言うだけで魔族世界では祀り上げられ、人族世界では反逆者と晒しあげられるだろう。


 だからあの時、あの子は黒魔法使いということを隠匿するよう頼んだのだ。


「貴方と話すことはないわ」


 錐のような眼光に怯懦を感じたが、ふんわりした金髪を見紛うことはない。俺が探し続けていた黒魔法使いの女の子だ。


 黒魔道士の彼女と魚人魔族は凄まじい戦闘を魅せ、俺たちには戦闘で引き起こされる風圧に髪が揺らされるだけだった。


黒穴(ブランネルーホ)


「ふざけるな!魔王様の命は必ず…!」


 俺たちを悠然と見下していた魔族はもういない。未知の魔法が肉薄する恐怖に駆られている。


神罰ラスゴ


 三度背後から声がした。詠唱からの粋な登場劇だ。今度は見知らぬ真っ白な髪色をした女の子の魔道士が泰然自若と佇んでいた。前髪が右側だけ長く、右目を隠している。

 詠唱後、何かを浄化するかの如く煌々とした光が魔族を攻撃し、怯ませた。


「ホワステル様…!?何故ここに…」


 イヴィアナとグレアムが目を合わせて慌てふためいた様相を呈している。帝国魔道士と名誉騎士が"様"と敬称で呼ぶことは珍しい。高貴なお方なのだろうか。


「ホワステル」

「分かってるよ!」


 黒魔道士の女の子の短杖と白魔道士の女の子の長杖からそれぞれに強大な魔力が凝縮され始める。魔力の圧迫感に押しつぶされそうになる。今から何が起ころうとしているんだ。


『『混沌世界(ルモンドワール)』』


「魔王領のダンジョンに人族がいるなんて驚いたわ。もしかしてだけれど、貴方たちが勇者のパーティー…?」


 魔王直下の魔族、不可知のユーペスは一瞬で失墜し、跡形もなく消え去った。俺は狼狽しながら無言で頷く。

 先刻の合体魔法は壮大で戦慄する大魔法だった。ダンジョン自体が崩壊する心配までした程だ。


「それならよかった。やっと追いついたみたいね、ホワステル」

「そうだね、偶然だけどよかった」


 金髪の女の子は高飛車でありながら鷹揚な話し方で、白髪の女の子は控えめでシェリロルのような話し方だ。いやシェリロルは堅苦しすぎる。シェリロルを少し緩くした貞淑な話し方と言うべきだろう。


「あの、俺の事…覚えてますか…?」


 あぁ、また気色の悪い話し方になっている気がする。情けない。

 金髪の女の子は口を少し開けてから無邪気に笑った。


「もちろん。まさか助けた相手が未来の勇者様だとは思わなかったけれどね」


 金髪の美少女は俺の仲間を一瞥した。


「名前って…」


 やっと聞けた。あの時聞けなかった、俺の第一歩。


「私はシヴァージ王国の宮廷魔導師マルシユラフト」

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