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進化①

 レッチのかわい子ちゃんたちとケリュネイアの群れを分け合っておいしく頂いて、バーディー家の中庭にある小屋で休んだ翌日。


 早朝からあわてた様子のレッチが飛び込んできた。


 うん?


「私のかわい子ちゃんたちが……私の……えっ?」


 レッチは入り口で固まって、俺を見ながら「あんた誰?」と言った。


「いやいや、ポチですけど? 朝っぱらから人が寝ているところに飛び込んで来といて、その言い草はなんなの?」


「はぁ? だって、あんた金髪碧眼だし、肌も白いし……そんなもん、もはやゴブリンでもなんでもないじゃない!」


「えっ?」


「『えっ?』じゃないわよ。自分の姿見てみなさいよ!」


 そして、騒ぎを聞きつけた旦那様やアビーが来ると、旦那様が「おいおい」と笑う。


「ポチなんだよね? その姿はまるで……」


「勇者様みたい」


 アビーが無邪気にそう言って、俺の背中に何かがゾゾッと走る。


「あのさ……」


 レッチが言い淀むので、俺は「あはは」と笑った。


「いやいやいや、レッチ。なに真面目な顔してんのさ? 似合わないよ」


「だって、あんた……」


「うん?」


「『うん?』じゃないわよね。額の小さな角がなけりゃ、あんたの姿って、ちょっと背は小さいけど物語に出てくるまさにあれじゃない!」


 レッチがそう言うと、旦那様が「金髪碧眼だしね」と続いて、アビーが「耳も尖ってるよ」と言って、それからレッチがそっぽを向きながら「私のかわい子ちゃんたちの次ぐらいにはイケメンだしね」と言った。


 おいおい、誰が?


「ラーメン、つけ麺、僕」


「ちょ、ちょっと待ちなさいって、それはダメでしょ? あの人は優しそうだから怒らないと思うけど、周りの大人が黙ってないわよ。きっと」


「そう?」


「そうよ!」


「じゃあ、やめとく」


 俺が笑いながらうなずくと、レッチは「はぁ」とため息をついた。


「中身は変わってないのね」


「そりゃ、そうだよ。進化して中身まで変わったら、それはもう俺じゃないでしょ?」


「まぁ、そうね」


 レッチがうなずくので、俺は「それで?」と聞いた。


「かわい子ちゃんたちは?」


「あぁ、うん。おかげ様でみんなSランクの人型になって自我も芽生えたみたい。朝から私を取り合って大変だったけど『私を巡って争わないで!』と言って止めたわ」


 うん、ノリノリだったんだろうね。目に浮かぶよ。


 俺が呆れているとしたり顔のレッチが「ああいうの、一度やってみたかったのよね」とか言っているので、そこは華麗にスルーである。


 うんうん、そういうのは俺のいないところで勝手にやっていてもらおうね。


 だけど、俺の華麗なスルーを無視して、レッチがさらに「イケメンが私を取り合って喧嘩するなんて、最高だわ」と続ける。


 おい、よだれ、よだれが垂れてるって、せっかく見た目はきれいなのに台無しだよ。まったく。


 そのあともレッチの逆ハー話に付き合わされて、かわい子ちゃんたちと挨拶をかわした。うーむ、たしかにこいつらは無駄にイケメンだな。しかもレッチの趣味がモロに反映されている気がする。


 ◯本くんはくっきりした濃い顔のイケメンだし、相◯くんや二◯くんはどちらかというと醤油顔のイケメンだ……おいおい、そんなとこまでファンタジーかよ。


 そして、解体をしているオーティス商会のみんなを待っているあいだ、暇になったので、レッチたちのかわい子ちゃんたちに『魔力循環』を教えた。


 レッチには教えていたけど、やっぱりこれができるとできないでは雲泥の差がだからね。本当にリッチーに教わってよかった。これを覚えてなかったらあの地下闘技場で死んでたよ。マジで……。


 風の魔力をまとって飛んでいるかわい子ちゃんたちを、俺が満足げに見上げていたらレッチが「あのさ」と声をかけてきた。


「なに?」


「何度も言うけどさ、よかったの?」


「なにが?」


「いや、だって……」


 レッチが言い淀んで、ポリポリと頭をかいた。


「裏切るとか考えないの?」


「えっ? レッチ、もしかして……」


 俺が目を見開いてレッチを見ると、あわてたレッチが「いや、違うわよ!」と言った。


「あわてなくてもわかっているって」


「うん?」


「レッチたちは裏切ったりしないだろ?」


 俺がそう言うと、レッチは「なによ、それ……」とすねた。しかし、美人というのはずるいな。すねた姿まで様になっている。中身が残念腐女子なことが悔やまれてならない。


 俺はレッチを見てそう思ってから、再び縦横無尽に空を飛び回っている。レッチのかわい子ちゃんたちを見た。


「それにしても魔力の風をまとって自由に飛び回れるとか反則だな」


「いやいや、誰が教えたのよ」


「あぁ、俺か」


「そうよ、馬鹿なの?」


「そうだよ、知らなかったの?」


「知ってたわよ」


 レッチはあきれ顔したあとで「馬鹿……」と小さく呟いた。


 それからレッチのかわい子ちゃんたちと組み手したりとかして数日が経つと、解体を終えたオーティス商会の皆さんが追いついてきた。


 バーディ家に着いたときも、積荷を見ながら例のごとくホクホク顔である。


 やめなさいって露骨すぎるよ。


 そして、俺と対面したのだが、俺の見た目が変わったことは「そうですか、たしかに髪と肌の色がまた変わりましたね」とあっさりと受け入れて「ポチ様、ヘヘヘッ」と笑うのが怖い。


「そんなに稼げたの?」


「はい、もうバッチリ!」


 ひとりがそう答えると、ほかの者たちも続く。


「俺、ブラックドッグ家まで旦那様たちを送ったら独立するんだ」


「僕はあの子にプロポーズする」


「私は両親のために家を買います」


 おいおい。男は夢見がちなのに、女の子はやっぱり現実的だな。だけどさ……。


「へんなフラグ立てないでくれる?」


「「フラグですか?」」


「うん。旅の途中とかで、そんな風に希望にあふれた未来の話をすると悪いことが起こるって決まりがあるんだよ」


「「えっ?」」


 オーティス商会の皆さんが驚くと、レッチが「やめなさいよ」と言った。


「ポチの戯言だから気にしなくていいわよ。希望に満ちた未来、素晴らしいじゃない」


 レッチがそう言うと、オーティス商会の皆さんは安心した顔をした。


 まあ、たしかに戯言である、戯言ではあるのだが、そんなに簡単に流されるとなんかさみしいね。


 もっとなんかあるじゃん、フラグが立ったとか、クラ◯が立ったとか、ハイ◯も立ったとかさ。ちょっとぐらいさ、わいわいしてくれてもいいよね?


 俺がすこしすねると、レッチは「あんた、意外とめんどくさいわね」と笑った。


 そして、オーティス商会の皆さんの護衛をしていたステフがバーディ男爵に挨拶をして、俺たちのところにきた。


 レッチと並んで待っていたら、ぴょんぴょん飛び跳ねながら近づいてきたステフが「えっ?」と固まる。


「護衛ありがとな、ステフ」


「うん……」


 すこし離れたところで立ち止まったステフがなにやらモジモジしながら上目遣いで俺を見るので、俺は「うん?」と首をかしげた。


「あなた、ポチなの?」


 ステフが小さく首をかしげたので、俺は「それ以外に見えるのか?」と聞く。


「うん」


「おい!」


 俺がつっこむとステフはケラケラと笑ってから、走ってくるなり俺に抱きついてきた。


「いきなりなにしてんだ?!」


「だって、ポチ……」


「うん?」


「人族になったんでしょ!」


「いやいやいや、なってないよ」


「だって……」


 ステフが俺の姿をまじまじと見ると、隣にいたレッチが「まあ、そう思うわよね」と言った。


「お前たち、ちゃんと見ろ! 角があるだろが、角が!」


「そんなコブ、あってないようなもんよ」


「そだね」


「おい!」


 俺がつっこむと、レッチが「なにを恐れてんの?」と聞いてきた。

 

「おっ、おまっ」


「なによ」


「だって、いろいろまずいだろ?」


「なにがよ」


「『なにが』って……」


 俺が言い淀んで、ステフを見るとステフはうれしそうに俺の顔をのぞきこんだ。


 近いよ……マジで……。


 すると「なにをやっているんすか?」という声が聞こえた。


「うーむ、タマに会いたすぎて空耳が聞こえる」


 俺がステフに抱きつかれたままでそう言って声がしたほうを見ると、タマが「なっ?!」と目を見開いた。


「そっ、そんなこと言っても騙されないっすよ!」


「あのさ、俺がこんな嘘つくと思ってんの?」


 そう言いながらステフに離れてもらうと、走ってきたタマが抱きついてきたので、抱きしめる。それがすごい勢いで胸をしたたかに打ったので、胸が痛いし、なんか涙が出た。


 フガフガと鼻を鳴らしたジローも近くに来たので、ジローも抱きしめる。


 それだけで安心できた。


 そして、ひとしきり抱き合ったあとで、タマが「アニキ」と俺を見た。


「浮気はダメっす」


「いやいや、浮気なんてしてないし」


「じゃあ、なんなんすか?」


 タマはそう言うとステフを見た。


「ステフ様も話しが違うっす。アニキとは種族が違うからって言ってたじゃないっすか!」


「うん、だけど、ポチは人族になったでしょ?」


「「なってない!」」


 俺とタマがシンクロすると、ステフが「でも……」と言い淀んで、レッチが「まあ、種族は障害にはならないわね」と笑う。


 おい、レッチ? お前はどっちの味方だ?


「だって、その子はフォックスなんでしょ?」


「いや、そうだけどね」


「だいたいさ、選ぶのはポチなんだから女同士の約束とか関係ないっしょ?」


「おいおい、マジか?」


 俺が苦笑いを浮かべると、レッチは「マジよ」と言って「所詮この世は弱肉強食、強ければ生き、弱ければ死ぬ。恋も一緒よ」と続けた。


 あはは、あんたはどこの人斬りですか?


 俺がそう思うとタマが「負けないっす」と俺に抱きついている前足に力を入れた。

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