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奥様の実家

 旦那様とアビーを乗せた馬車が来たので、アビーとレギナアピスの主従制約をした。


「レギナアピスだからレッチね」


 アビーがニッコリと笑ってレギナアピス改めレッチにそう言うと、レッチは「うん?」と首をかしげた。


「大丈夫なの? なんとなくギリギリだと思うんだけど?」


 そう言いながら俺を見るので、俺は「大丈夫じゃないか」と笑っておく。


 うん、うん、こういうのはサラリとながしてしまえばいいんだよ『気づいてませんよ』って、白々しい顔をしておいて、誰かに何かを言われたら『あぁ、言われてみれば確かに似てますね。気づかなかったなぁ』と笑っておけばいい。


 そうさ、僕らは……。


「うちはナンバーワンもオンリーワンも目指してないから」


「はぁ?」


「もともと特別なオンリーワンなのは選ばれし者たちだけだから」


「いやいや、なに言ってんの?」


「そもそも凡人はナンバーワンでもなけりゃ、オンリーワンでもないから凡人なワケで、花屋に並んでるやつらはそりゃあ色とりどりできれいかもしれないけど、並んでる時点で選ばれし者なワケで、富良◯は寒いワケで」


 俺が言うと、レッチは「あんたねぇ」と頭を抱えた。


「そういう話じゃないと思うわよ。あくまでも例えだから例え」


「だってさ『俺たちはもともと特別なオンリーワンだし、俺の種は勉強をしなくてもいい種だから大丈夫』ってサボってたら怒られるじゃん」


「まあ、そうね」


「勉強サボって『ビリじゃダメなんですか?』って言ったら怒られるじゃん」


「いやいや、そこイジるとあんたが怒られるわよ」


「えっ?」


「『えっ?』じゃないわよね?」


 レッチが俺に向かって苦笑いを浮かべると、アビーがレッチの顔をのぞき込む。


「嫌だった?」


「えっ、えっとぉ」


 レッチは焦ったあとで「あのね、私は嫌ってわけじゃないのよ」と言った。


「ただね『ミツバチ◯ッチ』って名作アニメがあるから大丈夫なんかなぁ、大人に怒られたりしないかなぁ、って心配になっただけよ」


「怒られる?」


「いや、大丈夫よ。たぶん」


 レッチはそう言ってから「それに怒られたら謝ればいいのよ。誰にでも間違いはあるわ」と呟いた。


 そうそう、怒られたら謝ればいいのだ。誠心誠意『俺のはリスペクトだから、マジ尊敬。マジ感謝』とひらき……ひら謝りすればいいのだ。


 だいたいのことはそんな感じでうやむやにできるわけだから、レッチだろうと、アッチだろうと、ソッチだろうとグレーゾーンで、リスペクトで、チェケラ、もしくはチェケラッチョだよね?


 まあ、よく見られるのも、もちろん細かくチェックされるのも困るワケだけど、そこはノリだから、チェケラッチョ、ハゲラッチョ的なやつだから。


 俺がそう思っていると、レッチは旦那様にも挨拶を済ませた。


 旦那様が「ビーのクイーンは、その、ずいぶんと綺麗なんだな」と笑っていたので奥様にきっちりと報告しておこう。


 その辺はグレーにしないほうがいいもんね?


 もちろんアビーの口から奥様に知れて『報告はどうしたの?』とにこやかに言われるのが怖いわけでは断じてない。


「それで解体は終わりそうかい?」


 旦那様に聞かれたので、俺は「いや、無理ですね」と答える。


「ちょっと数が多すぎて、さすがのオーティス商会の皆さんも『ヒィヒィ』言ってますよ」


「泊まりとなると……」


 旦那様がアビーを見ると、オーティス商会の従業員が来て「旦那様たちはバーディー男爵様のところに寄られてはいかがですか?」と言った。


「そうだね。今回はアビーもいるし、顔を出しておいたほうがいいかもね」


 旦那様は小さくため息をついたあとで「じゃあ、先に行っているよ」とオーティス商会の従業員に言って、俺たちを連れてバーディー男爵の屋敷に向かった。


 屋敷に着いてしばらくするとお爺さんが出てきて、ニッコリとほほ笑む、するとアビーが「お爺さま」とちょこちょことかけて行って抱きついた。


 なにソレ? 間違いなくかわいい。


 もちろんお爺さんはデレデレの顔でアビーを抱きしめる。


 まぁ、そうなるわな。


「アビー、元気だったかぁ、また大きくなったんじゃないか?」


 お爺さんがそう言うと、お爺さんに抱きついたままのアビーは「大きくなった?」と首をかしげる。


「先日会ったばかりではありませんか?」


 旦那様が呆れ顔で言うと、お爺さんは「子供の成長はそれだけ早いのじゃ」と笑う。


「寄ってくれてうれしいぞ、フレッド」


「お世話になります。お義父さん」


 旦那様がそう言うと、お爺さんは俺を見た。


「こやつが噂のポチか?」


「はい」


 旦那様がうなずくので、俺も「ポチです」と挨拶しておく。するとお爺さんは満足げに「そうか」と言ってから、レッチを見て固まった。


「おい、なぜここにいる?」


「うん?」


「ビーがなぜいるんじゃ?!」


 お爺さんが驚いて、俺たちが「「あぁ」」と言うとアビーが「友達になったんだよ」と答えた。


「友達? ビーと友達になったのか?」


 目がこぼれるのではないかというぐらいに目を見開いているお爺さんにアビーが「うん」と答えると、お爺さんは諦めたような顔で「そうか」とうなずく。


 うん?


「やはり儂の判断は間違いじゃなかったようだのぉ」


 お爺さまはそう言うと旦那様に「フレッド」と声をかけた。


「陛下から打診があってのぉ、領地替えを頼まれた」


「えっ? どういうことですか?」


「あぁ、ブラックドッグ家が伯爵に陞爵するにあたって、うちの領地ととなりの旧フォレスト領もブラックドッグ家の領地にするそうじゃ」


「なっ! それで、お義父さんたちはどちらに行かれるのですか?」


「うん、儂は爵位を返上してお主らに養ってもらうことにした」


「はぁ?」


 旦那様が口をぽぉかんと開けると、お爺さんは「ガハハ」と笑う。


「ブラックドッグはこれで辺境伯だ。マギーの夢が叶ったのぉ」


「そうですね。学生時代のマギーの口癖は『絶対にいつかは辺境伯に返り咲いてやる』でしたからね」


 旦那様が「クックッ」と笑うと、お爺さんが「そうじゃのぉ」とうなずいて「マギーが聞けば『いつの話をしているの?』というじゃろうがな」とうれしそうに笑った。


「フレッドのおかげじゃ、ありがとう」


「いえいえ、私はなにもしてませんよ。アビーとポチをほめてやってください」


 旦那様の言葉にお爺さんは「そうか」というとアビーをなでながら俺を見て「ポチ、ありがとな」と言う。それがなんだかくすぐったいから俺も笑った。


「家を潰したことをマギーが知ったら怒るだろうな」


「そうでしょうね。ところで家を潰してトマスたちは大丈夫なのですか?」


「あぁ、あいつらも『義兄さんたちに養ってもらう』と言っておるから大丈夫じゃ」


「そっ、そうですか」


 旦那様はそう言って少し頭を抱えると「マギーが『この穀潰しどもが!』と吠える様が目に浮かぶ」と呟いた。


 うん、間違いないね。俺も想像できたよ。


「それにしても陛下も人が悪いね」


 旦那様がそう言いながら俺を見るので、俺は「なんのことですか?」と聞く。


「辺境伯ってのは、王国の東西南北に四家だけでそれぞれの方角に対する国防の要として大きな領地と権限を与えられているんだ」


「それはなんとなくわかります」


「うちはこの度、東の辺境伯となった。そして、王国の北東には帝国がある」


「グゥ」


 俺が変な声を出すと、旦那様は優しく微笑んだ。


「ポチに断られたときの保険としてあらかじめバーディー家に話をしておいたんだね」


「否が応でも俺たちを帝国から来るであろうやつらにぶつけるために、ブラックドッグ家を辺境伯にしたんですね」


「そうだろうね」


 くそ、あのやろう。マジで最悪だ。

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