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帰り道②

 俺たちはとりあえずブラックドッグ家に帰ることになった。


 正直言って『協力してほしい』なんて頭を下げられても、いきなり男の人の首を切り落としたりとか、アビーを脅したりとか、泣かせたりとか、俺をあんな闘技場に送ったりとか『子供のことを思ってやったことだからしょうがないよね?』なんて思えるわけない。


 もちろんコロシアムとあの地下闘技場は別物だったし、陛下も地下闘技場があんなひどい環境とは思ってなかったらしいけど、だからと言って『知らなかったなら仕方ないよね』なんて言うやつがいたら『どんだけお花畑なんだよ!』とツッコミを入れたい。


 協力? ふざけてんのか?


 元フォレスト領につくと人がいないから雑草が伸び放題伸びて、民家の庭も畑も荒れていた。


 というより自然な姿に戻ろうとしてるのか?


「少しのあいだ人がいないってだけで、こうなるのか」


「本当だな」


 俺の呟きに反応したジーンがそう言って笑う。


「あのさ、わざわざついてきてもらって悪いけど、そんなことされても協力するつもりはないよ。と言うより、各地の森の魔物たちの協力が必要ならさ、あんたが従属の首輪をつけて主たちを説得したらいいじゃないか」


「俺が行って魔物たちが話を聞いてくれると思うのか? 俺は勇者だぞ」


 ジーンがそう言うので、俺は「じゃあ、諦めて陛下と一緒に死ねば」と言った。


「なっ、お前はさ。ブラックドッグ家の人たちが死んでもいいのかよ」


「いや、殺させないよ。ブラックドッグ領には近づけさせるつもりはない。俺たちに手をだすつもりなら魔王だろうが悪魔だろうがぶっ殺す」


「お前、言ってることが無茶苦茶だろ?」


「どこが?」


 俺が首をかしげると、ジーンは眉間にシワを寄せた。


「陛下のやりかたがひどかったのは認めるが、王国に住む人たちには関係ないだろ? このまま魔王がくればみんなここみたいになるんだぞ」


 人族のいない土地。


 どこからか来た、ホーンラビットや鳥型の魔物たちが森に住み着いてそれらの鳴き声だけがきこえる。


「あのさ、思うんだけど、これが正しい形なんじゃないのかなぁ」


「はぁ?」


「人族は俺たちの前世の世界みたいに自然を破壊して切り開いて、自分たちが住みやすいように世界の形を変えてきた」


「なにが言いてぇんだ?」


 ジーンがにらむので、俺は頭をかいた。


「魔王もまたあの空の上から俺たちを見て楽しんでいるやつの駒の1つなんじゃないの?」


「そうだとして、じゃあ、黙って死ねと言うのか?」


「いや、争いなよ。魔物たちに頼ってないで自分たちの力で」


 俺がそう言うとジーンは「なっ!」と目を見開いた。


「そんなこと無理だろ? そもそも人族は魔石が食べられないんだぞ」


「わかってるよ。だけどさ、ほかの種族を食べて進化して強くなる仕組みは誰が作ったの?」


「そりゃあ、神だろ?」


「だったら神に争うためには、進化とは違うほかの方法で強くならないと無理じゃない?」


「ほかの方法……」


 ジーンが言い淀むので、俺は「ほら」と続ける。


「こういうときラノベや漫画ならどうする?」


「魔法道具か?」


「そうだよ。人族は道具とともに進化してきたんだ。力がないから道具で補って来たんだろ」


 俺がそう言うとジーンは「そうだな」とうなずく。


「まずは冥府の門を無効化するための結界だね」


「魔力を無効化する結界か?」


「そうだね。冥府の門を無効化するためには王国全体をあの牢屋とかで使われている魔力を無効化する結界でおおうのが一番でしょ?」


「なるほどな、だけど、オーガたちはどうするんだ? やつらはお前と一緒で魔法は使えないが体が強いし『鬼門開放』も使ってくるぞ」


「それなら魔力無効化の中でも使える武力を用意すればいいだろ」


 俺がそう言うと、ジーンは「おいおい」と目を見開いた。


「火薬の銃火器かよ!」


「うん、火薬でもいいとは思うけど、銃火器も機械も動力はたとえば動力部だけ別の結界で魔力を無効化されない仕組みで作れば魔石でもいけるんじゃない?」


「なんか複雑だな」


「まぁ、その辺は頭のいい人たちに任せなよ」


 俺がそう言うと、ジーンは「なんでそれを陛下に話してやらなかった」と聞く。


「そんなのむかついているからに決まってんじゃん」


「なっ?!」


「『なっ?!』じゃないよ。本当ならこんな話もしたくないけどジーンやステフ、それからアルが死ぬのは嫌だし、罪のない多くの国民がアンデッドにされるのも見たくないから話しているだけで、あの俺さま国王がどうなろうと俺の知ったことではないよ」


「あいつだって、親として国王として大変なんだよ」


「だからどうしたの? 大変だからなにをやってもいいの?」


 俺が聞くと、ジーンはギュッと顔をしかめた。


「あのな、人族なんだから間違えることだってあるだろ? それにな、リーダーには毅然とした態度が必要なんだよ」


「そうだね。だけどさ、俺にはあのやりかたが正しいとは思えない」


「はぁ?」


「敵対するやつらの首はあっさりと切り、従わないやつを脅し、マキャベリの言うところの『愛されるよりも恐れられろ』なのかもしれないけど、俺は『愛されるよりも愛したい、マジで』だね」


「はぁ?」


「現実的に割り切ってないで、上手くなんてできなくてもいいから理想を語れるリーダーのほうがずっといい。優しさではなくて、怖さでもなくて、人は憧れでその人についていくんだと思うから」


 俺がそう言うと、ジーンは「憧れ」と呟いた。


「今こそ、国王が強さを見せるときなんじゃないの? エルフの勇者を頼るのではなく、魔物のゴブリンを頼るのではなく、人族の王として国民の先頭に立ち、その背を見せることで国民から憧れられる人になるときだ」


 俺がそう言うとジーンは「そうかもしれないな」と言ったあとで「だけどな」と続ける。


「お前は真顔でそんなこと言って恥ずかしくないのか?」


「恥ずかしい」


「なっ?」


「『なっ?』じゃねぇ!」


 俺がツッコミを入れると、ジーンは「KinKi Ki◯s好きなのか?」と聞いて来た。


「うん、前世の俺が光◯君と誕生日近いし、血液型も一緒だから。人生はだいぶ違ったけどね」


「そうか、それは育って来た環境が違うからしょうがないだろ?」


「おいおい、まさかのSM◯P! いやぁ、異世界きてジャ◯ーズネタで盛り上がれるとは」


「ねっ」


「『ねっ』じゃねぇ!」


 俺はツッコミを入れて、それから「帰ったら国王に伝えてよ。作詞家、小説家、脚本家で有名な森◯美先生が『積み重ねているすべてのものを壊さなきゃ、新しい明日は来ない』って言ってたよってね」と言った。


 そして、馬車を飛び降りて走って戻って行くジーンを見送っていて「ポチ」と声をかけられて、ステフの存在を忘れていたことに気がついた。


「あっ」


「『あっ』じゃないよね? ポチも父さんみたいに前世の記憶があるの?」


「なっ、なんの話かな?」


「マキャベリって誰? KinKi K◯dsは? S◯APって? ジ◯ニーズってなに?」


「うぐぅ」


 ステフが素敵な笑顔で詰め寄ってくるので、俺は「あります」とうなだれた。

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