茶番②
あの地下牢は王城の地下なのかと思っていたが、王都にある侯爵家の屋敷の地下にあった。そして、そこから歩いて王城に向かうと、まずはブラックドッグ家の旦那様とアビーと再会した。
「ポチ!」
部屋に入ると走ってきたアビーが抱きしめてくれたので、抱きしめ返すとアビーは泣いた。だから、その背中をなでる。
近くまで来た旦那様も「よかった」と言って泣いていた。
まったく、本当に人がよすぎるよ。主人がゴブリンなんかのために何度も泣くなんてさ。
俺はそう思ったが、視界がにじんだ。
アビーが落ち着いてから、再びアビーと俺とで従属契約が結ばれる。
「ふぅ、やっぱりこれがないと不便だね」
俺が首輪をさすりながらそう言うと、ステフが「そうだね」とうなずく。
「だけど、主人はアビーでよかったのか?」
「うん、私とアビーは親友になったからね」
「えっと、いつのまに」
俺がそう言うと、アビーが俺の顔をのぞき込む。
「ポチは私が主人じゃ嫌なの?」
「ばっ、馬鹿、嫌なわけあるか!」
俺がそう答えると、アビーは「よかった」と笑う。
「それで? どうなってんの?」
俺がジーンに向かってそう聞くと、ジーンは「それは陛下が話す」と言った。
「うぇ、できればもう会いたくないんだけど」
俺がそう言うと「つれないことを言うな」と入ってきた。
「仕方ないだろ? こっちはあんたのせいでひどい目にあったんだ」
「そうだな。すまない」
陛下は素直に頭を下げた。
「うん? 本当に同一人物? 偽物とかじゃなくて?」
俺が聞くと、陛下はケラケラと笑う。
「あぁ、同一人物だ」
「おいおい、マジかよ。また不敬とか言って斬られるのは嫌だよ」
「それについてもすまなかったな」
再び頭を下げるので、俺は「なに企んでんの?」と聞いた。
「企んでない。まぁ、企みに巻き込んだがな」
陛下がそう言うと、アルが入ってきた。
「ポチ、ごめんね」
「うん?」
「僕のためだったんだ」
「えっ?」
俺が戸惑うと、アルは頭をかいた。
「僕はずっと第3王妃派に命を狙われていてね。だから陛下はこの機を利用したんだ」
「利用?」
「うん、第3王妃派がポチに目をつけていたからね」
アルがうなずくと、陛下が「まぁ、座って話そう」と言うので、俺たちはみんな腰を下ろした。
「ポチ、本当にごめんね」
「いや、それはわかったけど、どうなってんの? 陛下は嫌なやつじゃないの? だってさ、男の人は首切られたし、アビーだって」
「あいつは第3王妃派の筆頭だったし、確たる証拠はなかったがなんどもアルの命を狙っていた。それに裏で他国と繋がっていたからな」
陛下はそう言ってポリポリと頭をかいた。
「アビゲイルについてはほかの派閥の手前、あのままってわけにもいかないから脅すだけのはずが……」
陛下がそう言い淀む。
「もしかして、俺がかばったから無駄に斬られただけってこと?」
俺が聞くと陛下が「そうだ」と答えて、ジーンが「レイが本気でアビゲイルを斬る気だったら、かばったお前は真っ二つだろ?」と言う。
「あぁ、そうだね。確かに」
Sランクに斬られてあの程度ってわけないか。
「それで、なんでこんな茶番が行われたわけ?」
「第3王妃派を潰すためだ」
「いやいやいや、それだけじゃないでしょ?」
俺が聞くと、陛下は「ほぉ」と笑う。
「あの人族を魔物に変える薬の件じゃないの?」
「そうだ」
「そうだよね。あの闘技場にはたくさんのウェアタイガーやウェアウルフがいた。あんなのどう考えても国として不味いよね」
俺が言うと、陛下はうなずく。
「まったくだ。あんなものに手を出すなんてどうかしている」
「それで? そいつらは一網打尽にしたの?」
「いや」
「えっ?」
俺が聞くと、ジーンがポリポリと頭をかいた。
「あの地下闘技場を仕切っていた侯爵家の裏に帝国がいる」
「えっと、それって薬を作っているのが、帝国ってこと?」
「そうだ」
「いやいやいや『そうだ』じゃないよね。ってことはさ、その帝国って、もう魔王か、悪魔に落とされているんじゃないの?」
俺が聞くと陛下はギュッと眉間にシワを寄せた。
「お前もそう思うのか?」
「うん、だってあんな理性を失うだけの代物、人族にも魔物にも害しかない。喜ぶのは魔王と悪魔ぐらいでしょ?」
再び俺が聞くと、陛下はうなずいてジーンが「俺もそう思うぜ」とまたポリポリと頭をかく。
おいおい、マジかよ。ってことは。
「侯爵を潰されたから、本格的に帝国が攻めて来る」
俺がそう呟くと、陛下は「そうなるだろうな」と言った。
「相手はウェアタイガーやウェアウルフ、それからオーガやアンデッドだと思う」
「帝国国民すべてと、冥府から呼び出したオーガをあわせたらとんでもない数だよ。防ぎ切れるの?」
「お前が協力してくれないと無理だな」
「はぁ?」
俺が首をかしげると、陛下が「ポチ、お前がゴブリンの王となって、王国の森に住む魔物たちの協力を得てほしい」と言った。
「いやいやいや、無理だよね? それは?」
俺がジーンを見る。
「無理じゃねぇ、各森には森の主がいる。そいつらをお前が説得しろ」
「主。だけどさ、今から森を回って『協力してくれ』って頼んで間に合うの?」
「間に合わないな。だから、お前がブラックドッグ領の森の主になって主会議でほかの森の主を説得するんだ」
「えっ?」
俺が主? いやいや、俺はゴブリンだよ。無理だろう、それは……。
「ステフに聞いたが、お前は自分とこの森のオークを倒すつもりだったのだろ?」
「まぁね」
「では問題ないじゃないか」
ジーンがそう言うので、俺はポリポリと頭をかく。
確かに、そうだけどさぁ。
すると、陛下とアルが「ポチ、協力してくれ」と頭を下げた。
うーん、どうするの? これ?




