茶番①
食事のバトルロイヤルが元に戻されて数日が経った。
俺が独房の中で暇をしているとその人は来た。
金色の髪、尖った耳、整った顔。
「やっと見つけたぜ、ポチ」
「あんた、誰?」
「言葉わかんねぇよ」
「だげ?」
俺が首をかしげると、男はニヤニヤと笑った。
「お前がポチで間違いないな?」
「がい」
俺がうなずくと、男が腰に下げていた剣を2度振る。
えっと?!
すると鉄格子が斬れて倒れて、カランカランと音を立てる。そして、慌てて走ってきた兵士は、男が「邪魔すんな」と斬った。
おいおい、マジかよ、こいつ。
「ポチ、出ろ。勝負だ」
「はぁ?」
「早く出ろ、殺してやる」
男が目を血走らせながらそう言うので、俺は「嫌だよ」と笑う。
「だから、なに言ってるのかわかんねぇって言ってんだろ? さっさと出やがれ!」
「ふざけんな、殺すとか言われて出るわけねぇだろ? それに言葉がわからないなら勉強しろ! 馬鹿やろう!」
「このやろう! いま絶対に馬鹿にしたろ? 言葉がわからなくてもな、伝わんだ、そういうのは!」
「あぁ、馬鹿にしたよ。ばーか、ばーか!」
俺が言うと、男は「あぁ、このやろう。もうゆるさねぇからな!」と言いながら駆けつけて来た兵士たちを次々に斬り捨てていく。
すると、あの騎士みたいな男が来た。
「なんの騒ぎですか? ユージーンさん」
「おぉ、やっと来たか? 侯爵家の犬コロが」
「いくらあなたでも、これは許されませんよ」
「ほぉ」
男は顎をさすりながら「許さないならどうするんだ?」と笑う。
そして、騎士が柄に手をかけた瞬間に、騎士は男に斬られていた。
嘘だろ? こいつも化け物か? どんだけいるんだよ、Sランク。ふざけんな。
騎士が倒れると、ユージーンは俺を見る。
「早く出ろよ」
「だから嫌だって、死にたくないし」
俺が首を横に振ると、ユージーンは「はぁ」とため息を吐いた。
「殺さねぇから出ろ」
「そんなの信用できるか!」
俺が叫ぶと「お父さんはなに遊んでんの?」とその子が来た。
金髪の幼女が男を睨んで、それから俺を見た。
「ポチ!」
「ステフ?」
独房に入ってきたステフがギュッと抱きしめてくれたので、抱きしめ返した。
「さっさと離れろ、ポチ! 殺すぞ」
「知るか、ボケ! このチーレム野郎が!」
俺が答えると、ステフが「お父さん、うざい」と言う。
「えっ? ステフ?」
「ポチになにかしたら、もう一生話さないからね」
「えっと、ステフ……もしかして、反抗期か? でもそれはちょっと早いんじゃないかなぁ」
「私とお母さんをほったらかしにして、あちこち旅ばっかり行っているくせに」
ステフがそう言うと、ジーンは「ガッ」と言いながら崩れ落ちて地面に手をついた。
「そうだ、もっと言ってやれ、ステフ。どうせそいつはあちこちに現地妻がいるぞ。なにせ恵まれたチーレム野郎だからな」
俺はそう言ったが、ステフは「従属の首輪がないとなに言ってるのか、わからないね」と笑う。
「だろうな」
俺がうなずくと、ステフは「とりあえず」と言って俺の奴隷の足枷を外してくれた。
うん?
「陛下から鍵を預かってきた」
「陛下……あのゲスやろうか……」
「あとで陛下が説明するけど、ポチを使って悪いことをしている人たちをあぶり出したんだって」
「はぁ?」
俺はステフの言葉を聞いて眉間にシワを寄せたが、ステフは「帰ろう」と笑う。
「帰れるのか?」
俺はそう呟いて、視界がにじむ。ステフが「辛かったね」ともう一度抱きしめてくれて、それから俺の手を引いて一緒に独房を出る。
「お父さん、遊んでると置いてくよ」
「ステフ、そんなにそいつがいいのか? だけど、そいつはゴブリンなんだぞ」
「だからなに? ポチはポチだよ」
ステフはそう言ってから「お父さんが遊んでいるうちに私を助けてくれて、リッチーおじさんを止めてくれたのはポチだよ」と続ける。
すると、もちろんジーンは「グワッ」と、わざとらしくダメージを受けた。
なんなん? それは? おやじか?
俺が見下ろしながら首をかしげると、ステフは「ふん」と鼻を鳴らす。
「娘がピンチのときに、遊んでて帰ってこない父親なんて最低!」
おぉ、言ったね。言っちゃったね。
俺がステフを見ると、ステフも満足げに俺を見た。
うん、ステフ。よくやった。
ジーンが「ドワァァァァァァ」とテレビならスローになってエコーまでつきそうな雰囲気で倒れたので、俺とステフは冷ややかに見下ろしてから、歩き出す。
「本当に置いてくよ」
「いやいや、ちょっと待とうか? かわいそうじゃない? お父さん、かわいそうじゃないかな?」
「かわいそうじゃない!」
ステフがそう断言すると、ジーンは「そんな馬鹿な」とか言っている。そして「もういいから行くよ」とその茶番は終わりを迎えて俺たちは地下牢を出た。
日の光が眩しい。
俺は手でさえぎりながら目を細めて「ひさしぶりのシャバの空気はうまいぜ」と言った。
これ、一度は言ってみたいよねぇ? 普通に生活していたら言う機会なんてないし。それにしても誰が言い出したのかなぁ? やっぱり任侠映画といえば高◯健さんとかかなぁ。
俺がそんなふうに思っていると、ジーンが「おいおい」と笑う。
「お前、絶対に今『娑婆の空気はうまいぜ』とか言っただろ?」
ジーンが笑いながらツッコミを入れてきたので、俺は冷ややかな目をしておく。
「なっ、なんだよ。絶対に言ったよな?」
「言ってない」
「言ったんだろ? 言葉わからないけど」
「言ってない」
俺はそう言ってからステフを見る。
「お父さん、うざい」
「グハァ」
再びジーンが大袈裟にダメージを受けたので、俺たちは歩き出した。




