蠱毒①
我々の食事は毎日がフルコースだ。
コボルトの魔石から始まって、メインディシュはベアやタイガーの肉、そして、デザートはミノタウロスの魔石。
前菜は小ぶりなコボルトの魔石、実にバリバリとしている。メインディシュは肉汁が憎々しいお肉、実に野生的な味わいだ。
そして、デザートはこのバリバリとした食感が実に、良くない。だが、さっきまで生きていたのだから、鮮度はよい。
釣った魚をその場でさばいて食べるなんて、漁師的な感じかな? ってことはこれってば、フルコースっていうより漁師飯か?
「いやいや、この場合は猟師飯だろがい!」
だけどさ?
「見るからに赤い、この魔石は大丈夫なのか?」
俺はその魔石をつまんで、光にすかしてみる。
「この魔石を太陽に、すかして見ればぁ、真っ赤に、もやってるぅ、君のちしおぉぉぉ、って、ゆうてる場合か?! すかしてんの太陽やないし! それに、みんなみんな生きているけどさ、友達なんかじゃないよ。勘違いだから! そんなこと言ってたらこっちが食べられちゃうんだからね!」
えっと、どうしようか? これ?
これはウェアタイガーとウェアウルフとウェアボアの魔石なのだが、こいつらの見た目は、完全に二足歩行のタイガーとウルフとボア。
「なんというか、あからさまに怪しいな。いろいろと」
ウェアウルフはコボルトよりもウルフに近い感じで獣感がすごい。ウェアボアもオークよりもボアに近い。もちろんウェアタイガーは元フォレストのところの息子と同じでタイガーが立った感じだ。
タイガが立った。タイガが立った。
いやいや、感動しないよ。
「もしかしなくても、こいつらは薬で生み出された魔物ってことだよな? うん?」
俺はそこで首をかしげる。
「フォレストをそそのかしたあの方ってのは、もしかしてリッチーじゃないのか?」
おいおい、マジかよ。
「それともリッチーも誰かにそそのかされていたのか? フォレストをリッチーがそそのかして、リッチーを誰かがそそのかしていた……」
いやいやいや、複雑。しかもここで考えたとしても答えは出ないやつじゃん、それ!
うん、考えるのやめよっと。
「どちらにしても、ここにウェアタイガーがいるんだから薬は存在しているわけだな」
人族を魔物に変える薬が出回っているなんて、もう終わってんな、王国。
まぁ、それは、あの狂った王だから仕方ないか?
よし。
「こんなもの食えるかい!」
俺はそう言って赤い魔石を投げ捨てた。
翌日のディナーは……。
おいおい、やたらとウェアタイガーとウェアウルフが多いな。悪意すら感じるよ。
絶対にやばいし、絶対になにかあるな。これは。
その日ももちろん全て倒して、解体してからおいしくいただきました。えっと、この赤い魔石はあとでスタッフがおいしくいただきます。
ということにしてね。
いやいや、だってさ。言っとかないとさ。
ありがたいご意見が来ちゃうでしょ?
我々は命を奪って頂いているのだから、食べ物を粗末にしてはいけません。的なご意見がさ。
わかります。正しいです。俺もそう思います。テレビで食べ物とかで遊ばれるとイラッとします。
なんなら大食いも『ギャル◯根』」『もえ◯ず』みたいにきれいに食べてくれる人たちはいいけど、汚いやつを見るとムカッとします。はい。
でもさ、これはちょっと食べられないよね。
食べちゃダメだ。食べちゃダメだ。食べちゃダメだ。
ウォォォォォォ。デンデンデンデン、ドンドン。デンデンデンデン、ドンドン。
「僕は、僕はエ◯ァンゲリオン初号機パイロット、いか」
いやいや、ノリでも最後までなんて言わないよ?! あの人たちが吹けばあっさりと飛んじゃうからね、俺なんて。
次の日は、ウェアタイガーもウェアウルフも、ウェアボアもいなかったのだが……。
最後に残った子と対峙する。
「あのさ、お互いに食べられないんだし、争う意味ないよね?」
「グルル」
「だからさ、言葉わかんないのかな?」
「シャァー」
ゴブリンが両手を上げて威嚇しているが、小さいので何やらコアリクイの威嚇を見ているみたいだ。
いやいや、俺も小さいけどな。おいおい。
俺は「はぁ」とため息を吐いてから、飛びかかって来たその子を避けて、すれ違いざまに首を切った。
「完全に理性を失ってんな。これってば、人族の魔物落ちと一緒か?」
なにがしたいんだ? ここのやつらは?
人族が魔物落ちしたみたいに少し動きが良くなったところで、理性を失えば動きは単調になるし、言うことだってわからないなら、こんなの更生の道はないだろ?
そこで国王が言った『チャンピオンになったら解放してやろう』という言葉を思い出した。
あいつの言葉を信じれば、ここのやつらはなんらかの理由で奴隷になった魔物なんだろ?
考えないようにしてたけど、こいつらにも家族がいて、きっとみんな解放されるためにチャンピオンを目指しているんだよな?
うーん、ないな。
「解放するつもりなんてサラサラないってことか?」
ふざけんなよ、あの野郎。
俺は「はぁ」と息を吐いて、素早く倒したやつらを解体して、それから食べる。
うん?
「なんか今日のは塩気が効いているね、大将。味付けを変えたのかい?」
馬鹿やろう! こっちとらずーっと同じ味付けでぃ。
「そう? なんだか塩辛いから、なかなか食べられないや」
俺はひとりでそう呟いて、バリバリと魔石を咀嚼する。しばらくのあいだ、その音だけが地下の広場に響いていた。




