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地下闘技場②

 地下での生活も数日が経ったある日、俺が目覚めるとそれが来た。


 進化。


 いつもなら喜んで、すぐにでもタマと一緒に成長を確かめたりしたのだが、今はタマがいないのでそんな気も起きない。


 ベッドに横になったままで銀色になった前髪の毛を確かめて、それから「はぁ」とため息を吐いた。


「タマとジローがいてくれたらな」


 どこにいたとしても楽しいだろうね。


 こんなことを言えばきっと『なに言っているんすか?』とタマが言って、ジローが『フガフガ』と笑う。


「それだけでいいのに」


 俺はそう呟くと、また目を閉じた。


 その日はいつも通りのあの魔物たちとのバトルロイヤル的な食事のあとで、地下にある闘技場みたいなところに連れて来られた。


 円形の広場に、俺ともうひとりが入れられる。


 互いの前には鉄格子がまだあるのだが、向かえ側にいるやつはすこぶるやる気のようで、両手で鉄格子をつかんで鼻を鉄格子のあいだに突っ込みながら「フガフガ」と鳴らしている。


 なにがそんなに楽しみなのか? 謎だね。


「まずはゴブリンの王シーカリウス。新人ですが実力は本物。蠱毒で魔物たちを屠るスピードは目を見張るものがあります。対するは、新人潰しオークの王ディスヴィン。こちらは語らずとも皆さんご存知でしょう。数多の期待の新人を次々に潰してきたその力は本物です」


 周りの小さな穴から俺たちを見ているやつらが賭けをしているようだ。オークは俺を見ながらさらに「フンヌゥ」と鼻息が荒い。


 こいつも銀髪に銀目だからAランクなんだろうね。


 いやいやいや、ちょっと待て、いまディスヴィンって言ってなかったか? それってオークのAランクの名前だったはずだ。


「おいおい、つまりはこいつがオーク初めてのAランクってことか? いやいや、違うよね?」


 俺がそう言うと、オークはなにを勘違いしたのか「フガァァァァァァ」と両手を上げながら雄叫びをあげる。


「あはは、なにソレ?」


 俺が呆れながらオークを見ていたら、後ろの穴から次々に声がかかった。


「おい、シーカリウス。お前に俺の全財産かけた。絶対に勝てくれよ」


「そうだぜ、あんな豚野郎。軽くのしてやれ」


「てめぇ! 負けやがったら殺すからな!」


「シーちゃん、勝つのよ。私は信じてるわ」


 みんな好き勝手に言っているが、もちろん心から俺を応援してくれているわけじゃない。


 たぶんゴブリンで新人の俺は大穴なのだろうね。


 一発逆転を狙ったギャンブラーたちが『俺に賭けた』というだけの話だ。


 まったく、好き勝手言ってくれるよ。


 なので、俺は振り返っていい笑顔で「この豚どもが」と言った。


「けつ毛まで抜かれて鼻血も出ない状態で、どこぞでのたれ死ね」


 俺がそう続けても、やっぱりゴブリンの言葉はわからないみたいで、まだ「がんばれよ」とか言っている。


「お前らにいちいち言われなくても、がんばるに決まってんだろ? こっちは命かかってんだ。馬鹿やろう」


 俺が竹中◯人さんの笑いながら怒る人みたいに笑いながらそう言うと、賭けが打ち切られたのだろうか? カランカランとベルが鳴らされて、俺たちのまえの鉄格子がゆっくりと上がっていく。


 すると「オォォォォォォ」と地鳴りのような歓声が上がった。


「では本日の第一試合、ゴブリンの王シーカリウス対オークの王ディスヴィン、存分にお楽しみください!」


 司会がそう言うと、ディスヴィンがまた「フガァァァァァァ」と雄叫びをあげる。それから、体をかがめて突進してきた。


 ほぉ、完全になめているね。


 俺はダガーを引き抜くと、ディスヴィンの突進を避けて斬りつけた。


 うん? 斬りつけたが、ダガーが刺さらない。


 なるほど奴隷の足枷があっても『硬化』はできるのか? 面白いね。


 俺はダガーを腰に戻すと、全力で『鬼門開放』をした。


 俺の体に血管が浮き出て、少しムキムキとなると、再び観客たちが「オォォォォォォ」と地鳴りのような歓声をあげる。


 そして、再び突進してきたディスヴィンを避けながら足を取った。けつまずいてこけたディスヴィンが振り返って俺を睨んだけど、遅い。


 大きく跳び上がった俺が、天井を思いっきり蹴ってディスヴィンに向かって落下し、その勢いを利用してディスヴィンの顔面に蹴りを入れる。


「グゥ」


 声をもらしたディスヴィンが体制を崩して後ろに倒れ込み、頭と背中をドシーンと地面に打ちつけた。


 俺はクルッと空中で体制を整えてすぐに腰のダガーを引き抜くと、再び落下した勢いでディスヴィンの左目に突き刺す。


「フギァァァァァァ」


 悲鳴をあげたディスヴィンがグッタリとするので、俺はそのまま首を切り裂いた。


「「……」」


 しばらく闘技場の中が静まると、司会が「勝者」と言う。


「勝者シーカリウス!」


 司会がそう告げると「ウォォォォォォ」と雄叫びと共に観客たちが足を踏み鳴らすので、闘技場が全体が揺れた。


 俺がゆっくりと来たほうに戻ると、正面の穴からまた声をかけられる。


「シーカリウス、お前は最高だよ」


「よくやったシーカリウス!」


「ありがとう、ありがとう、首の皮一枚繋がったぜ」


「シーちゃん、いいわ、あなた。本当に」


 そんな風に声をかけられながら、俺は「うるさいわ、ボケ」と答える。


「次は俺に賭けるなよ。お前らはさっさと破産してしまえ」


 俺は笑いながらそう言ったが、もちろんわかってないから観客たちはまだ「ありがとう」と言っている。


「ふざけんなよ」


 俺はそう言いながら闘技場を出た。

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